47話 王子、日替わり定食を食べる
魔王軍との戦闘開始から4日目。
戦闘は小康状態を保っており、待機しているヤマモトたちの出番がなく午前が終わる。
そこへヤマモトたちのテントに伝令が訪れ、ミハエルが目覚めたので本部に来てほしいと告げられる。
当然行かなければならない。ファブレは沙汰を待つ罪人のような気分だった。
もしミハエルが激怒してヤマモトを処刑するなどと言い出したら・・
そこまで行かなくともミハエルとヤマモトの関係が悪くなったら、今後の作戦にも影響が出るだろう。
ファブレの視線にヤマモトが口を尖らす。
「なんだその恨みがましい目は。あの頑固王子が悪いのだ。私が正しい!」
「そうですよ! あのまま無理を続けて、こここ子供が作れなくなったりしたら大変ですからね!」
ミリアレフの心配は別次元だった。
本部のテントを訪れると、顔色のよくなったミハエルが3人を迎える。
「やあ、ヤマモトさんの笑顔に包まれた穏やかな眠りで、すっかり気分がよくなったよ」
ミハエルもさすがに少しトゲのある言い方だが、ヤマモトは平常運転だ。
「元気になって何よりだ。今日からはちゃんと睡眠をとるんだな」
「丸一日寝てたからお腹がペコペコだ」
ミハエルが腹を押さえて苦笑する。
「ちょうどいい。私たちも昼食の時間だ。一緒に食べに行こうか」
「それは嬉しいなあ」
ミハエルと護衛も含めて皆で本部を出る。ファブレは何事も起きずに胸を撫でおろす。
自分たちのテントで食べるのだろう。リクエストはあるか、お任せならどういう料理がいいか・・。
ファブレが考えながら陣地を歩くも、ヤマモトは自分たちのテントを素通りしてしまった。
「今日は食堂で食べようか」
「えっ?」
ミハエルもヤマモトたちのテントで食べると思っていたようで、驚きの声を上げる。
ヤマモトが歩きながら話を続ける。
「君の不安は分かっている。自分の指令のせいで犠牲者が出て、兵士から恨まれているかも知れない、と思っているんじゃないか?」
「うっ」
ミハエルは図星を突かれて苦しそうな声を上げる。
「だが君は私が驚くほど良くやっている。初日の奇襲以外は、防衛線は順調に維持できていると言っていい。戦争である以上犠牲が出るのは仕方がない。兵士も覚悟して参加しているのだ。君だってそうだろう?」
「それはそうだけど、僕には責任が・・」
「君は本部にこもりっぱなしで視野が狭くなっている。自分がこうだと思うことよりも、実際にどうなのかを知ったほうがいい。ほら、着いたぞ」
皆が食堂入口に現れると、兵士たちはすぐに誰が来たのかに気づく。料理人や配膳係も目を丸くして見ている。
「し、司令官! それに勇者様と聖女様だ!」
「おいお前ら立て! メシ食ってる場合じゃないぞ!」
「起立! 敬礼!」
食事中の兵士たちがドタバタと立ち上がってヤマモトたちに敬礼する。
ヤマモトが両手をパタパタ降ろして兵士に座るよう促す。
「皆の貴重な休憩時間の邪魔をしてすまない。座って食事を続けてくれ。ここの食堂の料理は最高だと聞いて我慢できなくて来てしまった。私たちもご相伴にあずかっていいかな?」
「もちろんです!」
「一緒に食べましょう!」
「やあ幸運だな。司令官と勇者様と聖女様と一緒にメシが食えるなんて。同室の奴に自慢してやろう」
4人掛けのテーブルに案内してもらう。ミリアレフはちゃっかりミハエルの隣に座っている。
ミハエルは緊張してそれどころではないようだが。
「君はここで手伝いしてたんだろう? 何がオススメかな」
ヤマモトがファブレに聞く。
「日替わりメニューがいいと思います。今日は鶏肉とナスの炒め物です」
「うまそうだな。じゃあそれ4つで」
「か、畏まりました!」
メニューを取った係がギクシャクとした動きで去っていく。
やがて4人分の料理が運ばれる。運んできたのはファブレが手伝ったときに調理場で怒声を上げていた料理長だ。
ファブレがペコリと頭を下げると、調理場にいたことを思い出したようで驚きの表情になる。
「ではいただこう」
ヤマモトが手を合わせて愛用のハシで食べ始め、ミリアレフとファブレも食べ始める。
周りの客も料理長も固唾を飲んで見守っている。
「うむ、美味い!」
「うわぁ、美味しいです!」
「鶏肉は少し揚げたようになっていますね。ナスの色も落ちてませんし、丁寧な仕事です」
ミハエルも恐る恐るナイフとフォークを取って鶏肉を口に運ぶ。
「・・美味い」
周りはワッと歓声を上げる。緊張していた料理長も笑顔になり、一礼して厨房に戻っていく。
「ここの料理は王子でも美味いと思うのか・・」
「おい見ろ、王子は凄い勢いで食べてるぞ」
「勇者様は本当に二本の棒で食べるのね。勇者話の通りだわ」
「あの子は厨房で手伝いしてたな。勇者様の従者だったのか」
「お前がメシを食えるのも聖女様の癒しのおかげだぞ」
ミハエルも段々とリラックスしてきたようで、空腹のおかげもありお代わりまで食べた。
周りは大騒ぎだった。
4人が食べ終わってお茶を飲んでいるところに料理長がやってくる。
「いかがでしたか?」
ヤマモトたちは満足を伝える。
「ああ。最高だったぞ」
「とっても美味しかったです!」
「おいしかったよ。お腹いっぱいだ。これでまた頑張れそうだ」
「さすが料理長の料理でしたね。明日からまたよろしくお願いします!」
料理長が頭を下げる。
ヤマモトがミハエルを見て、クイと顎を上げる。ミハエルは笑って立ち上がり、周りに手を振る。
「司令官! あんたについてくぜ!」
「魔王軍なんて目じゃないぞ!」
「ミハエル様ー!」
「ミハエル様、街を守っていただきありがとうございます!」
「またいつでも食べに来てくださいね!」
歓声の中、皆で食堂を去って軍本部まで戻る。
「フフ、大人気だったじゃないか」
ヤマモトの声にミハエルが素直に頷く。
「正直、驚いたな。恨み言をぶつけられるとばかり思っていた」
「誰だって軍の司令官が凄い重圧に晒されているのは分かっているさ。司令官の力になりたい、支えたいと思っている兵士は多い。その気持ちを引き出してやるのは司令官の重要な役目だ。一体となった軍はとてつもなく強くなるからな」
「そうか・・なるほど」
「君なら笑って手を振ってるだけでいいくらいだ。あとは優秀な部下に任せて頷いてればいい」
「言わんとすることは分かったよ。今日からはちゃんと休憩を取るさ」
「そうしてくれ。でないと新しい技を考えなきゃならん」
ヤマモトの言葉にミハエルは笑う。
皆が軍本部に戻ると、スパークが待っていた。
「おう、敵の司令官が分かったぞ」




