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女神大戦 ‐The Splendid Venus‐  作者: 灰原康弘
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第六章 あの日を遠く離れて

 西園寺が床に倒れ伏した瞬間、『君主』ははじかれたように走りだした。


「ごめんなさい西園寺……! 私がおろかでした……許してください……」

 駆けよると、手を握って呼びかける。

「謝る必要はありません」

『君主』の目から流れ出る涙を、指でやさしくぬぐうと、なだめるように言う。

「謝罪しなければならないのは、私のほうです。申しわけありません。私はもう、満足に動く力も残っていない。われわれの負けです……」

「いえ、もういいのです……ありがとうございます、西園寺。そして、本当にごめんなさい」

「謝らなくてもいいと申しましたよね? 『君主』、私は怒ってなどいませんよ」

 困ったように笑ってハンカチを差し出すと、『君主』はようやく謝るのをやめ、ハンカチで涙をふいた。


「落ち着きましたか?」

 無言でコクリとうなづく『君主』を見て、西園寺は安心したように笑う。

「大丈夫ですか、西園寺さんっ!?」

 朱莉が心配そうに小走りでやってきた。

「ご心配には及びません。しばらく動けそうにはありませんが……」

 横たわったまま苦笑する西園寺を見て、朱莉はすこし怒ったように尊を見る。

「柊くんっ! すこしやりすぎなんじゃない?」

「自分が言った言葉を思い出すがいい。まったく、なんて女だ」

 尊の呆れ声という世にも珍しいものを聞き、なんだかおかしくて朱莉は笑ってしまった。


「ごめんね。でも、ありがとう柊くん」

 純粋な、心からの謝辞に、しかし尊はつまらなそうに目をそらす。

「お二人とも……今回は、本当に申しわけありません」

 ぺこりと腰をおって謝罪する『君主』に、朱莉はひどくまじめな声で言う。

「歯を食いしばってください」

『君主』は言われたとおりに歯を食いしばって目をつむる。

 つぎの瞬間、朱莉は『君主』の頬を両手でぺちっと挟んだ。

 驚いたように朱莉を見る『君主』に、静かに、震える声で言う。


「……もう、二度とこんなことしないでください。私の代わりにあなたが死ぬなんて、そんなこと絶対許さない! だから、もう二度と無茶はしないって約束してください」

「はい……ごめんなさい……」

『君主』の頬を、涙が流れ落ちる。そんな“妹”が妙に愛しくて、朱莉は優しく抱きしめた。

「分かってくれればいいんです。私たちはなんとも思っていませんから。だから、もう泣かないでください」

「その“私たち”には俺も入っているのか?」

「申しわけありません……」

 さらにちいさくなってしまう『君主』。

「柊くん!」


 今度は冗談ではなく、本当に怒った朱莉ははやく弁解して、とでも言いたげな目で尊を見る。

「……もういい。顔をあげろ。繰りかえした分だけ言葉の重みは減る。謝罪の気持ちがあるのなら、これからは言動を顧みるんだな」

 特大のブーメランを放っておきながら、尊はこれで文句ないだろうというようにふんぞりかえる。

「……はいっ!」

 無邪気に返事をする『君主』がとてもまぶしい。

 しかし、あまりおだてると調子にのるからあまり持ち上げないでほしいという複雑な気持ちと板挟みになっている朱莉である。


 どうしたものか、と考える朱莉だったが、

「美神朱莉さん」

 と西園寺に名前を呼ばれてわれにかえった。

「柊尊さん」

 最後に、自分がいままで仕えてきた少女に目をやり、

「そして……『君主』。あなたがたに、話さなければならないことがあります」

 西園寺はひどく神妙な顔と声で言った。


「フン、今度はなんだ。手短に済ませてもらいたいものだな。こう見えても忙しいんでね」

 偉そうにうそぶく尊を無視して、西園寺は端的に言う。

「美神さん、そして『君主』。あなたがたの出生にまつわる話です」

「なら俺には関係のない話だろう」

「いえ、あなたにも聞いていただきます」

 西園寺は有無を言わせぬ口調で言った。

「あなたがたは『女神』について、どこまで知っていますか?」

『女神』――新興宗教『アドラスティア』が偶像崇拝するもの。

『女神』が『女神』たる条件――「十八歳以下の処女であること」、「信仰心を持っていないこと」、「邪念を持っていないこと」、「慈悲深い心を持っていること」、「自己犠牲精神を持っていること」、その五つは瀬戸から聞いていること。

 あとはさっき西園寺が言っていたことしか知らないと答える。

「……では、一つずつご説明しましょう」




 十七年前、警察庁警備局からもたらされた、“『女神』が『女神』たる五つの条件”。

 相手は同局が“テロを企てかねない危険な集団”として、一貫してマークしている組織だった。なにをするか分かったものではない。

 そこで、彼らへの交渉材料として発案されたのが“『女神』の条件を満たす少女を一から創りあげる”というものだった。


 当時、総理秘書官として官邸に出向していた西園寺も、その計画に参加する一人だった。


 そこで出会ったのが、一人の女性――朱莉と『君主』の代理母となる人物である。

 彼女の世話をするのが、西園寺のここでの仕事の一つだった。医師免許を持つ彼は、この計画における現場責任者でもあったのだ。


「そんなにかしこまらないでください」

 着任初日、お手本のようにきれいな挨拶をした西園寺に対し、彼女は困ったように言った。

「これから長い付き合いになるんですから、お互いもっと気楽にしましょう?」

 そうして笑う姿は、無垢な少女のようにも見える。

 予想外の歓迎をうけ、内心動揺している西園寺に、彼女は笑顔で手を差しだす。

「ミカミです。こちらこそ、よろしくお願いします、西園寺克比古さん。とてもいいお名前ですね」

「そうでしょうか」

「はい。あなたにピッタリの、素敵なお名前です」

 名前をほめられたのは初めての経験であり、予想外の言葉でもあったので、すこし返答が遅れてしまう。

「……名前など、われわれにとっては記号のようなものです。ただの飾りに過ぎません」

「あら、そんなことありませんよ」

 美神はふわりとした微笑み浮かべて言う。

「“名前”というのは、その人を形作ってくれる、とても大切なものです。いまあなたがこうしているのも、その“名前”あってのことだと思います」


 公安部に在籍していたさい、西園寺は何度か“スパイ活動”をしてきた。

 任務のたび、その“名前”は付け替えられ、任務遂行に適した“仮面”が与えられた。

 あそこでは、“名前”など単なる記号に過ぎないし、公安の人間は全員がそう思っていることだろう。

 だが、ミカミのいまの言葉には、有無を言わせぬ妙な説得力があった。

「……はい」

 努めて平坦な声で事務的な返答をする西園寺を見て、ミカミはくすくすと笑い声をこぼす。

「なにか?」

 怪訝そうに首をかしげる。

「すみません。なんかあなたって、コンピュータみたいな人ですね」

 笑いをこらえながら言われ、西園寺はどういっていいものか分からずに、彼女の笑いが収まるまで待つことにする。

「ご、ごめんなさい……こんなに笑うつもりはなかったんですけど……あ、バカにしてるわけではないですからね?」


 申しわけなさそうにしていると思ったら、今度は一転して慌てた様子で否定する。

「構いません。お気になさらずに」

 無表情で肩をすくめる西園寺を、美神は不満そうな目で見る。

「……うーん、なんだかつまらないですね」

「は……?」

 あまりに予想の斜め上を行く発言に、思わず間抜けな声を出してしまったのは、いま考えると失敗だったのかもしれない。

「ようやく表情を変えましたね。やっぱり人間そうじゃないと」

「この顔のことでしたらお気になさらないでください。職業病のようなものです」


 西園寺の本籍は警察庁警備局。警備畑一筋の警察官僚だ。

 あそこは、とくに警視庁公安部に所属していたさいはなによりも、“ポーカーフェイス”というものが求められた。

 その点に限って言えば、西園寺は極めて優秀な捜査官だったと言える。いかなる任務でも顔色一つ変えずにそつなくこなす。頼まれれば、必ず期待以上の結果をだして見せた。そうして警察庁に呼び戻され、“キャリアの恒例人事”として官邸に出向が決まったのだ。

 もっとも、それは表向きの理由だ。その実は、『女神』計画のため、優秀な人材が集められているのだった。

 西園寺にとって、そんなことは関係ない。どんな理由であろうと、任務であるならこなすのみ。今回の“お守り”にしても、おなじことだ。

 単なる仕事の一環にすぎない。そのはずだったのだが……。


「職業病……ひょっとして、あなた警察官ですか?」

 とても軽い調子で言い当てられ、西園寺はほんの一瞬目を見張った。

 それでもミカミが気づくには十分すぎたらしい。彼女は、やっぱり、と笑う。

「よく、お分かりになりましたね」

「偶然ですよ」

 そう言って謙遜していたが、彼女のまえでウソをつくことはできない。どんな隠しごとも、たちどころに言い当てられてしまう。そんな奇妙な確信を覚えた。


 ミカミと出会い、この計画は西園寺にとって“単なる仕事の一環”ではなくなった。

 平たく言えば、彼はミカミに興味を持ったのだ。

 美神はいったい何者なのか?

 しかし、西園寺の素朴な疑問はたちまち分厚い壁によって跳ねかえされた。

 彼女の素性については、その一切が“極秘事項”として扱われたのだ。

 ミカミという名前が本名なのかどうか、それすら知る由もない。

 警備局長である瀬戸にそれとなく聞いてみても、彼はニヤリと笑ってはぐらかすばかりだった。

 あるいは、瀬戸自身も詳しい事情は知らないのではないか、そうも考えた。

 ならばと自分で調べようとするも、やはりあらゆる方面で見えない壁が立ちふさがり、ため息まじりに断念せざるをえなかった。


「瀬戸さんから聞いたんですけれど」

 ある日、ミカミが唐突に切りだした。

「私のことを調べていたらしいですね。もう、知りたいなら直接聞いてくださればいいのに」

 クスクスと、面白そうに笑うミカミに、西園寺はならばと訊いてみる。


「お名前は?」

「ミカミです」

「ここに来るまえはなにをされていました?」

「秘密です」

「この計画には、なぜあなたが選ばれたのです?」

「秘密です」

「出身地は?」

「それも秘密です」

「年齢は?」

「じつは、まだ千年は生きていないんです」

 からかうように言われて、西園寺はすこしムッとしたように言う。


「好きな食べ物は?」

「秘密です」

「嫌いなものは?」

「秘密です」

「……」

 西園寺と目が合うと、ミカミは楽しそうにニコリと笑う。

「……もう結構です」

 疲れたように肩をすくめ、ため息をつく。

「ふふっ。ごめんなさい。答えられないんです。だから、調べるのはもうおやめになったほうがいいですよ」

「ご心配なく。もうあきらめました」

「あら、そうだったんですか」

「しかし、答えられないなら、なぜわざわざあんなことを?」

「調べてもムダですよってことが言いたかったんです」

「ずいぶんと回りくどいですね」

「普段のあなたを真似してみました」

 ふたたびからかうように言われ、西園寺は内心白旗をあげた。彼女にはかないそうもない。

 そんな心の内を知ってか知らずか、ミカミはニコニコと笑っている。

 しかし、これも悪くはない。

 西園寺はミカミに会うのがだんだん楽しみになってきた。




「……ずいぶん大きくなったな」

 妊娠十ヶ月目。大きく膨れ上がったミカミの腹部を見て、西園寺が言った。

「ええ。あともうすこしで、この子たちに会えるわ」

 ミカミが腹をやさしくなでる。

 いま彼女には、人工授精によって二人の子供が宿っていた。

「ねえ、克比古さん。お願いがあるの」

「なんだ。急にあらたまって……」

「私になにかあったら、この子たちをお願いね」

 いつものからかうような口調ではない。西園寺がいままで聞いたこともないような、まじめな声だった。


「どうしたんだ? 縁起でもない」

 ミカミは答えずに、すがるかのように西園寺を見る。

「……分かった。この子たちのことは私がなんとかしよう。約束する」

「ありがとう。克比古さん」

 朱莉と『君主』が生まれたのは、その一か月後だった。

 あの事故が起きたのはその直後。

 彼女は、アレを予見していたというのか? いまとなってはそんな気さえする。

 そして、ウイルス蔓延に浮足立つ政府をしり目に、彼女は姿を消した。まるで、”ミカミ”という女など、最初からいなかったかのように。


 追い打ちをかけるように、ミカミの危惧は現実となる。朱莉が死の危機に瀕し、西園寺は彼女との約束を守るために、断腸の思いで朱莉を『危険区域』の孤児院で育てさせることにした。

 朱莉の“教育係”となったのは、防衛省の新人職員だった。保育士の資格を持っているからというなんとも適当な選抜基準だったが、朱莉に対する処置は、一種の“緊急避難措置”なのだから、贅沢も言っていられない。とにかく、生活できるだけの環境を整え、警備を厳重にさせ(『シュトラーフェ』にやらせるのは若干の抵抗があったが)、自分もできる限りのサポートをした。

 孤児院の経営者である星野祥子には、毎年、朱莉の誕生日に写真を送るように言っておいた。そうして、朱莉と『君主』を、十五年間見守ってきたのだった。




「あなたがたの成長を見れるだけで、私はとても幸せでした。それを見ることが、私にとって、唯一の生きがいだったのです」

「西園寺……」

 ゆっくり手を伸ばすと、『君主』の頬を愛おしげになでる。

「『君主』、そして……朱莉さん。よく、ここまで育ってくれました。きっと彼女も、とても喜んでいる。しかし、あなたがたには、つらい思いをさせてしまったことでしょう。申しわけありません」

「そんな……謝らないでください……」

 朱莉はその場にしゃがみこむと、西園寺の手を包みこむようにやさしくにぎる。

「私は自分が不幸だなんて思ったことはありません。孤児院で過ごした時間は、私にとって大切な宝物です。だから、謝らないでください。

 それに、そっか……あのとき、私とお母さんを『フレイアX』から守ってくれたのは、西園寺さんだったんですね……」


 西園寺を初めて見たときから感じていたなつかしさ。接するたびに感じていた安心感。

 それは以前、命を救ってくれたことから感じていたものだったのだ。

「そうですよ、西園寺。私たちのことを想ってやってくれたことなのですから、謝っちゃダメです。大丈夫です。私は怒っていません」

 ふわりと微笑む二人を見て、西園寺の頬を一筋の涙がつたう。

「ど、どうしたのですか西園寺!?」

「まさか、柊くんにやられた傷が痛むんじゃ……」

「おい」

 と背後から短い抗議の言葉が飛んできたが、朱莉たちは聞こえないふりをした。


「大丈夫ですよ。しかし、さきほど柊さんが言ったとおりですね……」

 当の本人はなんのことか分からずに不思議そうにしている。

(――「自分が“守ろう”と思っている者ほど、たやすく障害を乗り越えて見せるものだ」――)

 ずっと見守るべき存在だと思っていたが、知らないうちに目を見張るほどの成長をしていたのだ。

「? 柊くんが……?」

 いつも傍若無人な尊を見ている身としては、いったい彼のなにに同意しているのか、朱莉にはまるで分らない。後ろから不機嫌な雰囲気が漂ってきたのは、やはり気づかないふりをする。

 逆に、思い至ったらしい『君主』に、西園寺はゆっくりと切りだした。


「『君主』、あなたにどうしても言わなければならないことがあります……」

「え……? なんですか?」

「あなたの、お名前についてです」

 よほど想定外の言葉だったのだろう。『君主』は不意をつかれたような顔になる。

「私の、名前……」

「はい。彼女はよく言っていました。人々から尊敬される人間になってほしいと。

 人々の道しるべとなるような人間になるように。そう願いをこめて、彼女はあなたにこう名前をつけました。

 ――詩織しおりと」


「詩織……」

 なぞるように、ゆっくりと、その名前を口にした。

「それが、あなたの名前です」

「詩織」

『君主』――詩織は、もう一度その名を口にした。

 物心ついたときから、周りの人間は、西園寺でさえも、自分のことをそう呼んでいた。

 じつを言うと、詩織は『君主』という呼び名が好きではなかった。

 最高主権者と呼ばれておきながら、そのじつ、『元老院』の傀儡に過ぎない虚飾の王。

『君主』と呼ばれるたびに、おまえはただの人形に過ぎない。そう言われているような気がして、息が詰まりそうだった。


「詩織……それが、私の名前……」

 それだけに、自分にも名前があったことがとてもうれしい。

『君主』という記号などではない。詩織。それが自分だけの、唯一無二の名前なのだ。

「詩織」

 と、そう名前を呼んだのは朱莉だった。

「そう呼んでもいいよね?」

「は、はい!」

 すこし裏返った返事をした詩織に、朱莉は唇のまえに人差し指を当てて見せる。

「もう敬語は禁止。私たち、姉妹なんだからさ」

 ね? と笑って見せると、

「う、うんっ! お姉ちゃん!」

 詩織は笑顔でうなづいた。

 いままで触れ合うことができなかった姉妹は、その埋め合わせをするかのように笑いあった。


 そのほほえましい光景を見守っていた西園寺だが、

「で、俺をここに残した理由はなんだ?」

 一瞬で現実に引き戻された。

「“俺にも聞いてほしい”、貴様そう言っていたな。だが、俺がここに残らなければならない理由が見当たらないんだが」

「『君主』から今回の話を頼まれたとき、彼女との約束と板挟みになり、どうすればいいのか分からなくなっていました……。ですので、これだけは申しあげておきます。

 柊尊さん。ありがとう」

 率直な礼の言葉にも、尊はつまらなそうに鼻を鳴らすだけだ。

「俺にはなんの関係もない話だ。そんなくだらんようで俺を呼び止めたのか?」

 こうまで言われては、せっかく礼を言ったというのになんだか損した気分になる。その尊の対応も、悪くないと思えてしまうほどに感覚が狂ってしまった。


「あなたに言伝を預かっています」

 西園寺は努めて事務的な口調で言った。

「あなたの推理は一つだけ間違っている。『君主』は秘密を聞いてしまったんじゃない。われわれに、秘密を教えてくれた人物がいたのです」

「……それがなんだ」

「その人物はこう名乗っていました」

 西園寺は一泊置くと、尊に目を合わせる。

「“最上(もがみ)みこと”」

「‼」

 その名を聞いた瞬間、尊の顔色が変わった。


「なん……だと……?」

 いままでどんなことがあっても、決して冷静さを失うことのなかった尊が、目に見えて動揺している。

「お知合いですか?」

 あまりの変わりようが気になって尋ねてみるも、返答はない。

 もともと期待していたわけでもない。西園寺はそのまま続ける。

「彼女はこう言っていました。“近いうちに会いに行くから、待っていなさい”と。たしかに伝えましたよ」


 しかし、尊はもう西園寺の言葉など聞いている様子はなかった。

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