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断章 ここにいるべき人へ
――それは、いつかの記憶。
ふと目を開けると、見覚えのない天井がありました。
いつも見ているカーテン付きのロイヤルベッドではなく、床に毛布(彼女は布団という言葉を知らない)を敷いて寝ていたようです。
ここはいったいどこなのでしょう。上体を起こしてあたりを見回します。すると、となりからやさしげな声が聞こえました。
「朱莉、どうかしたの?」
見たこともないない女の人です。
朱莉……聞いたこともない名前です。でも、とってもいい名前だと思いました。いつも私が呼ばれているようなものではなく、しっかりと自分を形作ってくれるような……そんな不思議な感じがします。
首をかしげる私を、女の人は優しく寝かせてくれました。
「怖い夢を見たのね。もう、大丈夫よ」
その声は、妙に心にしみわたりました。
女の人は私の手をにぎって子守唄を歌ってくれました。
とっても、やさしい、心にしみわたってくる。
私のことを心から思ってくれている。そう確信できる素敵な歌。
でも、その私は、“私”じゃない。本来、ここにいるべき人に対するものだということも分かりました。
アレは夢だったのでしょうか?
でも、そこには私の望んでいるものがあったのです。




