冒険者を雇う
冒険者ギルドで紹介されたパーティ『ダンデライオン』の面々と顔合わせをする。
「こんにちは、はじめまして」
「よろしくね」
女の人が多くて、帰りの道中は気がねしなくてもよさそう。
8人という大所帯だけど7日間という日数を野宿を含め夜も警戒にあたらなければならないため、それだけの人数は欲しいとのこと。
そうだよね。ブラックな状態の雇用は避けなくちゃ。
実力はギルドのおねぇさんの折り紙つきなので安心できそうだ。
むしろ予算に対して不相応なレベルのパーティだそう。
「私達が護衛を請け負ったのには条件がある。孤児院の子供達に積み込みの仕事をさせて欲しいんだ」
メンバーの内の何人かが孤児院の出だそうで、そこの子どもに仕事を分けてあげて欲しいそうだ。
「もちろん私達の依頼料から引いてくれてかまわない。」
冒険者になるにも準備がいる。孤児院の後輩たちに仕事を回してその分をこんど独立する子どもたちの餞別にしたいそう。
自分達の稼ぎから寄付するのは簡単だけど、孤児院の後輩の子ども達に仕事を経験させてあげたいそうだ。
ええ話じゃないか。
私はその条件を快諾し『ダンデライオン』の皆さんと何人かの孤児院の子どもと共に男爵家に向かった。
「ふん。ぞろぞろと何の騒ぎかと思えば」
ところが昼に対応してくれた執事さんの他にその時はいなかった男爵様のご長男様がご在宅しており、ここに来ての痛恨の塩対応。
看板娘でも笑顔がひきつります。
「もうしわけございません。お父上の訃報をお聞きいたしまして大変心を痛めております。ご愁傷様でした。あ、これ皆さんで是非」
「受け取ると思うか」
デスヨネー
綺麗に梱包された高級果物に目もくれやがりませんが、すでに夕刻であり、ぐずぐずしていると夜になってしまうのでそこはスルーして、まいていきます。
「ご近所の皆さまに不審に思われないようちゃっちゃとやってしまいますので悪しからず」
執事さんに「ではこれは使用人様の皆さまで是非」と早口で高級果物の包みを押し付けると、昼に様子を見てあるので、どんどんと上がり込みます。
「お邪魔します」
「しますー」
「ふん。さすが姉妹そろってずうずうしい」
とはいえ、私が再び訪れるまでに姉の荷物は全て梱包済であるところを見ると男爵家の皆様、もしかしなくても人がよろしい?単に早く姉の荷物を出してやっかい払いしたいのかも知れないけど。
姉にもらった目録と梱包済の荷物をつき合わせながら確認していく。
うん。おねぇちゃんたら、こんだけの荷物、カモメ亭のどこにしまうつもりなんだろう。
これ、王都で売ってお金にしちゃった方がよくない?
そして私の存在が気に食わないのは当たり前なのだけれど、男爵家の息子さんは荷運びを指示する私にべったりくっ付いて、ずーっと嫌味を言い続けている。
神妙な顔をしつつ、グレイブによって鍛えられたスルースキルを発動する。
あらやだスキルが発動せず胃がしくしくしてきちゃった。
胃のあたりをなでながら、対応していると再びあの声が頭の中に響いてきた。
『緊急クエスト発生!亡き男爵の遺言の手紙を子どもに渡そう!』
ハテ。男爵様の子どもって私の背後の嫌味魔人か。
で、その手紙ってどこ?
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結局人様の家を家探しできるはずもなく、胃のあたりを撫でながら、男爵家を辞した。
ダンデライオンの皆さまは気の毒そうにそんな私を見ている。
「…お疲れでしたー」
手伝ってくれた孤児院の子ども達にお小遣いという名の日当を支払い、ダンデライオンの皆さまに今夜のお宿まで送ってもらう。
結局手紙とやらは見つけられないし、梱包されていた荷物の中にでも紛れこんでいるのかも。
今さら荷解きをして探す気も起きなかったので宿のベットに突っ伏す。
積み込み作業も梱包も自分でしたわけではないけど精神的に疲れた。
お腹も減っているけれどもう何もしたくはない。
すーっと意識が沈んでいき、次にはドンドンと部屋が激しくノックされる音と「お客さん!お客さん!」と宿の人が私を起こしにきた声音で強制的に目覚めさせられた。
目をこすりながら起き上る。
街着のまま寝ちゃってたから服がしわしわ。
まだ夜明け前のようだ。
朝食の時間には早いようだけど、と思いつつ泊まっている部屋の鍵を開け廊下を覗く。
「な…に?」
「泥棒だ!泥棒が入った!」
「え?」
ふと見ると、同じ階にご宿泊の皆さまの扉が開いていて、迷惑そうな顔でこちらを見ている。
ワタクシハナニモシテナインデスケドー
あはー と笑って皆さまへお騒がせした事を詫びていると、お宿の従業員に手を引かれて厩の横の倉庫に連れていかれる。
あ、こっちに泥棒が入ったのかー。
こっちの倉庫には男爵家から引き揚げてきた姉の荷物が荷車ごと預けてあった。
鍵をかけて宿が管理するシステムになっていてその分の料金もお支払してあったのだけど。
「ありゃーりゃー」
思わず間抜けな声しか出なかった。
姉の荷物はすっかりと荒らされていた。
警邏の騎士も来ていて、あちこち検分していてけっこうな大事そう。
「えーーーー。今朝には出発したかったのに…勘弁してよ…」
他の人の荷物も荒らされていて、次々と持ち主がやって来る。中には従業員に食ってかかっている人もいるようだ。
「申し訳ございません。盗られた物を確認してください」
従業員の男の子は青い顔をしながらも健気に対応している。
私はそれを横目に目録を一度部屋まで取りに行った。
部屋の扉に手をかけると、かすかな違和感。
あれ?私鍵かけたはずだけどなー。
首をひねりながら室内に入ると目が点になってしまった。
ヤラレター
私の旅行用の鞄から荷物が引っ張り出され、下着やら着替えなどが散乱している。
クローゼットの扉も開け放たれ、ベットから掛布もシーツも剥ぎ取られている。
やめてよー私が何したっていうのよー
頭を抱えこみ座り込んでしまいたくなる自分を叱咤して盗られた物を確認する。
幸い無くなっているものはなかった。
というか、昨日は着の身着のままベッドへ倒れるように寝てしまったので貴重品類や目録の入った袋は首から下げたり身に着けたままだった。
荷物の積み込みの時に紛れてしまわないように自分でそうしていた事すら忘れていたけど、そんな自分をほめたくなった。
「騎士さぁぁん。やられましたぁ」
私は半泣きで検分にきていた騎士に泣きついたのだった。
結局、泥棒は小さくて金目のものに焦点を絞っていたらしく、生活雑貨が殆どである姉の荷物は実害がなかったようで何よりだったけど。
私は騒ぎの元となった泥棒に悪態をつきながら再び荷物を梱包せざるを得なかった。
私の部屋はまだ騎士が検分していて戻れない。
まだ眠いのにぃぃ。
朝日が昇ってきて目に染みる。
ああ眠い。
燃え尽きて荷物の上に寝転がってうとうとしていると騎士さんが私の部屋から荷物を引き上げてきてくれた。
…下着とかもあったんだけど、というか犯人が触ったのが気持ち悪くて高価でない物は捨てようと思っていたので半笑いで引き取る。
中身を確認するように言われたので中身を騎士さんと見ながら確認することになった。
それ何て羞恥プレイ。
騎士さんも居心地悪そうにしているから乙女の下着なんぞに興味ないのだろう。
「あー話を聞く事があるかもしれないので今日は王都から出ないように」
死んだ目でひとつひとつ確認していると咳払いをしながらそんな事をおっしゃる。
ええええ!それ大真面目に言ってます?
チェックアウトをしに宿屋の受付に行くと、あの商人たちに詰め寄られていた少年が対応してくれた。
「あ、お客様にお手紙が届いているんですよー。ゆうべ男の人が持ってきました」
すっかり忘れていたことを謝ってくれたけど、このお宿大丈夫?もしかしたら渡し忘れたままだったかもしれないよね???
「あ、御代は結構とのことです。ご迷惑をおかけしました」
そうして謝られちゃうと怒るに怒れないよねぇ。
でも、私結局ここで夕飯も食べなかったし、数時間眠っただけなんだけど…。はぁ何だろうね。ついてない。
お腹へったあ
それにしても何の手紙だろう、ご丁寧に封筒の中にもうひとつ封筒が入っている。
中の方の封筒の蜜蝋の印を見ると、うん、これ男爵家のですね。
『男爵の遺言の手紙を手に入れた』
この声は…。
というとこれはあの『緊急クエスト』の奴なのかー。
はいはい届ければいいんでしょ??




