ここは現実だ
ーーーこの泥棒猫!飼い犬に手を噛まれたとはこのことだ!
猫なのか犬なのかはっきりして欲しい所だけど、そんな風に詰られる事もなく、男爵家では執事さんがビジネスライクに対応してくれて、どうやら姉の荷物は受け取る事が出来そうなので総量をざっくり見繕って貸し馬車を手配する事を決めた。
下手したら土下座からの罵詈雑言浴び、さらに鞭打ちとか恐れていたので拍子抜け。
モゴモゴとお亡くなりになった男爵様へのお悔やみを言い、荷物を今日中に引き取りに来ることを伝えてその場を辞した。
男爵夫人は不在のようで、まぁ領地に用事があって戻っているようだけれど。
留守中に姉の物とはいえ荷物の運びだしでお邪魔する訳でお持たせも用意しなければなるまい。
多分怒りのあまりに捨てられてしまうだろうから、後に残らないものでチョイスしよう。
高級果物あたりがよいかもしれない。
もし男爵夫人が受け取らなくても使用人さん達でおいしく頂いてもらえるに違いない。
こういうのは「贈った」という実績があればよいのだ。
手ぶらで来て!などと怒りを募らせられてもね。
それと共に荷運びと道中の護衛を冒険者にお願いするべく、冒険者ギルドへ依頼を出しにいく。
冒険者ギルドでは、こういった依頼で信用できるパーティを教えてもらい指名依頼にする。
こういうのにお金を渋ったりすると録な事にならないので、行きの交通費が浮いた分をいくらか上乗せする事にした。
受付のお姉さんが胸をたたいてくれたのでおまかせすることにして高給果物を買いにいく。
梨に似たナスィにするかリンゴに似たアプルにするかで迷う。よし半々にしよう。
メロンは…この世界になかった。
当然のごとくこの世界品種改良とか進んでいないから買ったナスィもアプルの糖度もお察しだけど、庶民には十分高級なものなのだ。後で取りに来ることにして梱包をお願いする。
はぁ美味しそうだったなぁ。
果物や野菜を売る青果店を出て、冒険者ギルドへと戻る途中に何だか見覚えのある家の前を通った。
青い屋根のお家で門の前に犬がいぬ。じゃなくて犬がいる。
そしてその傍らに不自然に置かれた壺。
きょろきょろと周囲を窺い誰も見ていな事を確認してから、さも犬を撫でるかのように自然体を装って壺に近づく。
そーっと壺の中を覗いてみる。
なにもなかった。
ほっとしてため息をついて、さて犬を撫でてから去ろうと立ちあがりかけると、犬が私のスカートの裾を咥えてひっぱった。
きゅーーん
つぶらな瞳にハートを打ち抜かれて、わしわしと犬の頭を撫でていると、犬の足元にきらりと光るものが。
きゅーーん
ぇ?お金?
きゅーん
見れば壺の下が軽く掘られ、そこにも何枚かのコインが。
きゅーん
犬は私の顔を見ながら足先で器用にコインを私の方に押し出す。
ぇ?
きゅーん
『緊急クエスト。ポチリンヌの首輪を取り返してあげよう』
わふ!わふ!
ぇ?? 今の声って何???
急に頭の中で誰かに話しかけられてびっくりしていると犬は嬉しそうに尻尾をふりながら誘うように頭を低くして、鼻先で方向を示す。
「…あなた、ポチリンヌ?」
わふ!わふ!
犬は、そうだといわんばかりにそう吠えた。
「…このコインをあげるから首輪を取り返せって事?」
わふっ!わふっ!
…言葉通じてますわいなぁ。
「…誰から?」
わふ!わふっ!
ポチリンヌは通りを挟んだ向こう側のお店の方を見て吠えた。
「…あの店にあるって事?」
半信半疑ながらお店に行ってみる。
「…あったよ」
乱雑につまれたワゴンの中にその首輪はあった。
黒い何かの鱗がついたけっこうオシャレな感じの首輪だ。
お金を払って首輪を受け取ってポチリンヌに見せる。
わふっ!わふっ!わふっ!
それは盛大に喜んでくれた。
「もう失くしちゃだめだよ。」
首輪をつけてあげると大喜びしてどこかに走っていってしまった。
「ふぅ」
さっきの声も気になるけれど、あの壺の下のお金ってそういう事ねと合点がいく。
ゲームでは召喚された勇者が町や森でアイテムやお金を拾ったりしたんだけど、さっきの壺の所もそういったスポットだった。
3年後に勇者があの壺を叩き割ってお金を手にするのだ。
たしかゲームではポチリンヌは壺のところにいなかったから、3年の間に諦めてどこかに行っていたのかもしれない。
あれはポチリンヌが首輪を取り返すために、誰かが来たらコインを見せて依頼する為に隠して溜めていたお金だったんだなぁ。
こうして、見るとあの家の2階の引き出しだとか、一本向こうの宿屋のクロゼットだとかにそういうスポットがあったなぁと思い出す。
でもリアルで不法侵入とか出来る訳もないので、私は引き出しの中にアイテムがあるお家を見上げてから頭を下げるのであった。
「ゲームでは大変失礼いたしました」
3年後、召喚された勇者は果たして不法侵入するのだろうか。
しないで欲しいなと思う。
普通に捕まると思うし。




