晴天の霹靂
『ダンデライオン』の皆さんがすっかり旅行支度をして迎えにきてくれたけど、私は理由を話して今日の出発が伸びた事を詫びざるを得なかった。
「それは災難でしたねぇ」
リーダーのバーンと副リーダーのアイリーンが慰めてくれる。
「それなら今夜は孤児院で泊まりなよ。隣に教会があって、教会騎士も控えているから安心だよ」
「マザーに言って部屋を用意してもらいましょう」
あれよあれよと言う間に、ダンデライオンの皆さまに連れられて孤児院へ。
騎士さん達も『孤児院なら安心だね』と太鼓判を押すので連絡先をここと決める。
「着替えを教会で借りるといいよ。修道服なら貸してもらえるよ」
昨日から来ている服は汗でドロドロだし、アイリーンさんは私が犯人に触られたであろう衣類の類を洗いたいだろうと気をつかってくれた。さすが同性。わかってるぅ。
お言葉に甘えて荷車を含めた荷物を預けた後、教会まで服を借りにいく。
ダンデライオンの皆さまは今日は王都近郊で採集と狩りをして過ごすとの事でここでお別れになった。
教会では私の理由を聞くと身体をふくお湯まで用意してくれた。
単に貸した修道服を汗が乾いただけの汚い身体で着て欲しくないのかもしれないけど。
「あーーさっぱりしたぁ」
いい気分になって歩いているとぐぅぅぅとお腹がなる。
「よろしければ、朝食を食べていきませんか?遅番のものがまだ食べておりますので」
服を貸してくれたシスターさんが笑いながら提案してくる。
私はそっと懐から小銭を出し、神様の像の前にお供えした。
「貴女の信仰はきっと神の身元へと届くでしょう。あなたに幸あらんことを…。さぁ行きましょう!私もこれからだったの!」
シスターさんは私と同年齢くらいのそばかすが可愛い子で、人懐こく、ぐいぐいと私を食堂まで引っ張っていった。
パンとスープのみというメニューだったけど、パンはみっちりとしていて大変美味しくいただけた。
食後のさ湯を飲んでいると、食堂に通じる通路がにわかに騒がしくなった。
「だれか?魔法の使える者はいないか??貴族の方が怪我をされたとの事だ!!」
周囲を見ると誰も手をあげていない。
私はおそるおそる手をあげた。
「あのぉー水とかお湯とかなら出せますけど」
「いいわ!あなた来て頂戴!」
怪我とか水で洗いながす場合、汲み置きの水だと衛生面に不安がある事は昔から知られており、そういう場合、魔法や魔術で出した水を使用している。記憶が戻った今となっては湯冷ましでもいい事を教えてあげたいけど、そもそもお湯を冷ましている時間もないのかもしれない。
「あ、はい」
私はすごい剣幕のシスターに手をとられて迎えの馬車に押し込められた。
そっかー貴族は教会に出向くんじゃなく教会側に来させる事ができるんだー。
などと寝不足の頭でぼーっとしたまま馬車に揺られていると見覚えのあるお屋敷の中へ。
どうやら怪我人というのは男爵家の人みたいだ。
私の手を握ったシスターに引っ張られるように馬車から降りてずんずんとお屋敷の中に入っていくと
青い顔をして泣きそうな男爵ジュニアが顔を出した。
「こっちの部屋だ。早くしてくれ」
部屋の中を見ると、中庭に面した部屋の床に、血まみれで横たわっている人が一人。
あのビジネスライクな仕事ぶりの執事さんだった。
服はすでに脱がせられ、止血のために傷口に抑えられた布が血液で真っ赤になっていた。
「お屋敷の中で魔法を使える人を全員読んで頂戴。あなた魔力譲渡は経験ある?」
水出し要員かと思ってついていったら、何と魔力充電器扱いだったようだ。
「いえ、ありません」
「じゃ、あなたからは無理矢理もらうから気分が悪くなったら言って頂戴」
バタバタと屋敷中から魔法が使える人が呼び集められ、と言っても、男爵ジュニアともう一人だったけど、わたし達はシスターの身体に両手をつけてスタンバイする。
「神よ穢れなきあなたの子らを導き、癒したまえ」
シスターの詠唱が終わるとその手から何かふわんとした物が流れていく。
同時に私の中を清涼な何が通り過ぎる感覚がする。
効果は絶大だった。
苦しそうにゆがめられていた執事さんの呼吸は整い、傷口は見る間にふさがっていく。
それとともに、私の中からはぐんぐんと急速に何かが失われていき、最期にスポンと何かが抜けたような感覚がした後、かくんと私は膝をついていた。
「あれ?スポンって???」
「あなた!大丈夫???」
「あれぇ ぐるぐるまわってる~」
不肖リリアンナ。はじめての魔力譲渡でどうやら眩暈を起こしたようです。
忙しいシスター(後で神官さんだと判明)は、諸手続きを終えた後、さっさと帰っていき。私は昨夜
もうコネェヨ バーカバアーカと内心であかんべーをして去ったはずの男爵家のゲストルームに寝かされています。
「セバスを助けるのに強力してくれた事は、お、お礼を言う」
シスターコスの少女が私だと気がついて、男爵ジュニアがいかにも心外だと言わんばかりに言う。
そうか、ビジネスライク執事さんの名前はセバスというのか、フルネームはセバス・チャンだったりするのだろうか。
「夕べ、セバスチャンさんが私の泊まっている宿に封書を届けにきたみたいなんです」
「…何故、セバス・チャンのフルネームを…。ア、アデレィドさんに聞いていたのか?」
「いいえ当てずっぽうです」
何故姉の名前を出すだけで顔を赤らめるのか。そうか年上のおねえさんが好きか!
眩暈も落ち着いたので身体を起こす。
「あ、大丈夫か?起きなくていい。そのままで。不敬だとか言わないから。
はじめて魔法を使ったのだろう?横になっていた方が…」
「いえ?単に寝不足なだけですよ。夜中に泊まっていた宿に泥棒が入ったので」
それを聞くと男爵ジュニアの表情はとたんにキリリと引き締まる。
「それを見せてみろ。なんだまだ読んでないのか?」
「え?開けていいものなの?おねぇちゃん宛てかと思って」
えー緊急クエストというアナウンスのせいで、封書はジュニアに渡せばいいもんだと思っていたので開けるだなんて思ってもいなかったよ。でも考えてみればそうだよなぁ。ジュニアにただ手紙を読ませたいだけだったら執事さんが直接渡せばいいだけだよなぁ。別に私経由しなくても。
「開けるぞ」
控えていた侍女さんがガーターから取り出したナイフを受け取ると(マジで??とガンミしてしまった)ピッと蜜蝋部分を開けて中の手紙を広げ読み始めた。
一連の所作がスマートで様になっている事。
私は別の侍女さんが用意してくれた果実水を一気飲みした。ほどほどに冷えてて喉越しさっぱり。
あーうまうま。お貴族様のおうちはお水までうまいなぁ。
もう一杯おかわりくれませんかねぇ。あ、ありがとうございます。
私が2杯目を飲んでいると、手紙を目の前に突き出された。
「読んでみろ」
「えーでは失礼します?」
そして読んだ手紙の中には驚愕の事実が…。
「うっ!!!!!」
うっそーーと叫びだしかけた私の口を男爵ジュニアが片手で塞ぐ。
「静かにしろ。けして騒ぐな」
手紙の中には、想像できないような事が書いてありました。




