セーフ!アウト?
三角帽子の彼女はルルという名前らしい。
「一宿一飯の恩義」
と言って、今は明日のスープに入れる鞘豆の仕込みを手伝ってくれている。
一飯の方はきちんとお代をいただいているんだけど。
「むぅ。うん。なかなか難しい」
彼女はお料理とかしたことがないらしく、鞘豆の筋を取るのに悪戦苦闘している。
そう、あれから私はルルを家に連れて帰って我が家に泊める事にした。
お金を持っている事を知って付け回すような連中に追い回されて危ないと思ったからだ。
「それで?凍らせる他に何ができるの?」
何故か私の魔法に興味津々のようでさっきっから質問攻めだ。
「あたためも出来るよ?」
調理場には魔導具のコンロがあるのでやった事がないけど点火も出来ると思う。
本当に、飯屋にはありがたい力じゃないかなぁと思う。
「乾燥も得意かな」
そうそう洗濯物なんかの乾燥もお手のものだ。
私って家事力半端ないと思う。
グレイブめ。いつか後悔したって遅いから!
こない未来を想像してむなしくなった。グレイブはきっと冒険者で成功するだろう。
奥さんに家事力なんかなくてもお手伝いさんを雇えばいいんだろうし。
出来る冒険者ってのはちょっとしたお金もちだから。
…くそぅ。
よし気分を変えよう!次の野菜に手をのばす。
「ルルは魔法使いなの?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言える」
「へぇ」
私にはそう答える事しか出来ない。
だって庶民に魔法や魔術を使える人ってあまりいない。そして庶民でそれらが使えれば、特にそれらの内攻撃が使えれば冒険者になる事を選ぶ。
だってその方が稼ぎがいいから。
「魔法と魔術って違うものなの?」
起きている現象は同じように見える。でもグレイブのパーティにいた人は魔術師と名乗り、魔法使いとは名乗らなかった。
「魔法は内なるオドを使用しマナに干渉して事象を起こし、魔術は触媒や陣でマナに干渉して事象を引き起こすものと理解しているが、地方によっては違う解釈もあるようだ」
うーんよくわからない。私にとっては「便利な力」っていうだけなんだけど。
「魔法使いのおばあさんが、トカゲの黒焼きとか薬草を不思議なお鍋でコトコト煮たりして怪しいお薬をつくったりするのは?」
「それはまた別系統の話」
「精霊にお願いして力を貸してもらうのは?」
「それもまた別系統の話」
「へー。何だか難しいねー」
世間は広い。私が実家の飯屋を繁盛させようといろいろしている間にも、難しい謎を解き明かそうと奮闘している人達はいるのだろう。ルルはそんな人のひとりのようだ。
あの時読んでいた本を見せてもらったけどちんぷんかんぷんだったもの。
「お風呂があいたわよ」
私の「あたため」で浴槽に湯をはったので、リナリーと姉は先に旅の埃を落としていた。
ほかほかになったリナリーの着替えを父にまかせ、姉は私達に声をかける。
「それからお願いがあるんだけど…」
なんだろう、お湯が温かったかな?それとも着替えを持ってこなかったとか?
「王都の男爵家にまだ荷物が預けてあるの。取りに行ってもらえないかしら?だめ?」
いやいやいや、そういうの自分で取りにいきなさいよ。という言葉が出かかったけど、姉が下腹のあたりを撫でている。なんだろう?お腹がいたい?
「えへへ。実はぁ」
そういえば心なしか下腹がふっくらしているような。おねぇちゃん、やつれちゃったけどお腹だけ中年太り?まだ若いのに?なんて思ってたんだけど。
「ここに男爵様のお子が…」
私は頭からテーブルに突っ伏した。
そりゃ、追い出されるわ。
姉の不誠実な恋人は下々に名前を明かせないほどの高位貴族で、私たち家族も実は顔は知っているけど本当の名前を知らないくらい。
それゆえの男爵家預かりだったはずなんだけど。
「おねぇちゃん、それ恩を仇で…」
いいや、最後まで言うまい。姉的に第なんちゃら夫人を諦めた結果の帰結かもしれないと思うと頭が痛い。
いやいや姉ばかりが悪いわけじゃない。子どもは一人では作れない!
預かっている娘に手を出しちゃう男爵様も悪い!
「…他に言ってないこととか家族に隠していることとかないよね?」
姉はこてんと首を傾げた。
「これはぁ、秘密って言われたけどぉ」
首からロケットがついた首飾りをはずしてパカっと開ける。
中には何やらありがたそうなそれなりの地位貴族家の紋章。
ひぃぃぃ!それは見せたらだめな奴!
それ見せてリナリーがあのくそったれ貴族の子どもって周囲にバレちゃったらお家騒動とか暗殺者とか来ちゃう奴だから!
「いいいいいいいい!それは見せなくてもいい!」
バッとルルを振り返る。
「今の見なかったよね???」
「?」
ルルは手元の鞘豆に集中して見ていなかったらしい。
セーフ!
「早速、明日にでもお願い。ごめんね。リリアンナ」
父はお店の仕事があるし、私が行くより他あるまい…。
「冒険者の人…そうねグレイブに手があいているようだったら頼んでくれないかしら?」
えーと、おねぇちゃん、私とグレイブが別れたのは知らないのか。
仕方がない、冒険者ギルドに明日行って荷運びの依頼を出しますか。
私も行った方がいいよね…。男爵家に顔を出す出さないは別にして。
「じゃぁ。明日ギルドに依頼に行くから、何を持ち出すのかリストを作って渡してね?」
すると豆鞘の筋をすべてとり終わったルルが提案してきた。
「私の行先も王都だが、一緒にどうかな?明日には下僕が迎えに来るはず」
えーとルルちゃん。
下僕って…
あなた、何者?




