オープニングの舞台へ
私達がいろいろな仕掛けを施して、じりじりとした思いで開戦を見守っているとは、誰も露ほども思っていないんだろうなぁ。
この世界のこの時代の戦いって、始めるまでもすごい時間がかかる。
今日送った手紙はこの街に来てから3通目。あろうことかすでに2週間たっているんですよ。
父からも返信がきて、「何しているんだ。早く帰れ」と強めの文句の文が届きました。
それに、「持病の癪が…」「遠征軍のせいで道が封鎖になっていて…」とか適当にお茶を濁して返信したのだけど、昨日届いた手紙は要約すると「ふざけんな」でした。
父の怒りが目に浮かぶようです。
あー胃が痛い。
そもそも遠征軍のせいでって、なんで、王都より離れた最北端の街にいるんだっていう話ですよね。
まだ始まらないのかなぁ。はぁ、でもたとえ帰れる状態であっても父の怒りが怖い。
怒られるんだろーな。
でもでも、女には意地を通す時がある。
この戦いがアステルガ王国存亡のきっかけになるといって過言ではないのだから。
理解してもらえなくてもやらねばならぬ。とシリアス決めてる横で…
「ご主人様、このあげたジャガイモというのは美味ですね!」
「このポテサラというのも、塩もみしたキュウリットの歯ごたえがアクセントでたまらぬ」
「ねーね。それボクのコナふきイモだからね」
「ビシソワーズ…♪」
……緊張感のない従者(人外)共。
そうそう、ここベローニウォールの特産はじゃがいもなのである。
このじゃがいも、ゴブリンやコボルト、オークなどが好むため、毎年少なくない被害があるのだが、今は魔物の活性する年まわりな訳で今年はまた被害が酷い。
このところの気候変動で小麦などの穀類や豆類が不作気味なところ、じゃがいもは庶民の味方な訳で、国としても、魔物に食わせる芋はないとばかりに討伐に国庫を開いた。うまくすれば、魔物の領域を後退させて農地を広げるつもりもあったろう。
だけど、この今年の討伐は、いつもと違った要素が絡み合う。
それというのもここ数年は何百年というスパンで考えると王種が誕生する年まわりで、さらに10年に一度の活性化の時期でもあるからである。
「まぁ、事態を読み間違えるのもわかるけどね…何百年に一度じゃ」
ある意味、何百年に一度、起こる事の知識をもつマリエステル王女の方が珍しい訳で。
でもまぁ王女が幾度となく、警告をしても大臣連中はとりあってくれなかったと言ってたし。
「たかが王女…女子どもの言う事と一蹴されたと言ってたわね…この国の大臣、つかえない…」
警鐘は鳴らされていたのに、それを聞く事を拒否したとか…阿呆すぎる。
じゃが芋泥棒を懲らしめようと討って出たところを、トロールが出てきて一ひねりされ、それが国の斜陽のはじまりだなんて、知りたくなかったような。
何事も現場でなければわからない事ってあるものね。
そしてじりじりした気持ちを「魔物狩り」にぶつけた結果。人外多めのパーティは早くもFラン(最低ランク)を脱してEランクにあがりました。
ベローニウォールの冒険者ギルドトップ10に入る速さだそうです。
(ちなみに私の薬師ギルドでのランクもあがっています)
Cから上の方のランクの冒険者達は討伐隊と組んでの前線行きなので、まぁEランクというのはまぁまぁよい位置取りでしょう。
現在、薬師ギルドに所属している者にはポーション類の強制提出が課せられていますので私も頑張って、仕掛けついでに緩衝帯へ出かけては薬草収集と帰ってからのポーション作りに勤しみました。
そして出来た渾身のスペシャルポーション(傷などを治し、体力と魔力気力を全てあげあげする効果あり)を、ダフネ・ミレニア様を通じて銀髪騎士のイザーク・ミレニア様に献上する事に成功しました。
ダフネ様は無事に父である将軍閣下と義弟であるイザーク様と合流できており、私の手造りのポーションは恐れ多くも、将軍閣下の手元にも渡ったのでした。
※ダフネ様は例の全身甲冑をお召しになっておられました。
閑話休題
ダフネ様、全身からオーラが立ち上がってます。
言葉にするなら「私はここに生きて立っている」「この場所こそ私のあるべき場所!」と全身で叫んでいるかのようだ。
前のドレス姿のどこかアンニュイな人物と同じ人間のようには見えない。
まぁ、全身甲冑なのでってのもあるのかもしれないけど。
まぁいいんだけど。これでダフネ様が隣国の人質になる事もないでしょうし。
私はため息をつくと、芋料理に舌鼓を打っている人外従者達をせかし、警戒のための歩哨用の塔の屋根の上に陣取ります。
ひゅぉぉぉぅ と風が耳元で唸ります。
気分はキ●ッツ●イの三姉妹、でもレオタードなんてものは着ておりませんよ。
その他大勢の冒険者に紛れるために、何の特徴もない、よく見かける冒険者装束です。
「風が臭います」
「やつら(魔物)の臭いがするね」
「ふふ。蹄が疼きます。アリオス様」
「当然だな」
人外達もやる気満々のようです。
「動きだした」
眼下には長く、壁に沿って展開された軍の兵達。
ところどころに揃っていないのは、冒険者達が投入されたところだろう。
「うーん薄い?」
軍隊とか軍について詳しい訳ではないから、はっきりしたことは言えないけれど、横に長く展開した分だけ厚みが薄い気がする。
「…壁を充てにしているのかな」
どこか突破されても、壁で止まると考えているのかもしれない。
「障壁は街側に下がったところか」
壁に沿って魔法的な障壁を張った方が良いような気がするが、壁が破られた後の時間稼ぎ用に街の外延が取り残されている形だ。
この部分には農地も多いので例の芋を魔物が食う事によって街への侵攻を遅らせる狙いなのだろうが、住んでいる人間が皆無という訳ではないので壁の内側に侵攻を許したくはない。
眼下の中でひときわ目立つ一団が隊を鼓舞している様子が見える。
あれが将軍閣下がいる隊だろうか。
職業が兵士だったりする者もいるだろうが、多くは徴用された平民達や冒険者達である。
その割に長く横に広がった列は多少のでこぼこはあるが、綺麗に横ならびだ。
もっとも突出して出て、魔物の総攻撃を受けたくないからかもしれない。
その兵士達の進む先、緩衝帯の向こうは魔の森で、魔物達が跋扈している。
その中にもっと人族が全盛だった頃の魔の森との境界線の崩れかけた壁の残骸がちらちらと見える。
国のお偉いさんたちはそこまで人の領域を押し戻す気でいるのだろうか。
「そこまで国力があがっているのかしら?」
甚だ疑問なのだが。
一瞬、もしくは短い期間ならば、人間の領域を広げられるかもしれない。しかし維持には大変な労力が必要となる。
魔物が活性化、また王種が誕生する年回りにそれを狙うのは得策でないような気がするが。
「とはいえ、ただ既存域のみを死守することを考えていたのでは先細りするとでも考えたのかもしれないしなぁ」
その辺は私なんかよりもよっぽど政に通じた人達が考えて出した結論だろうし、うーん。
でも、大臣さん達、マリエステル王女の警告は切って捨てたんだったよなぁ。
討伐隊は危なげなく進んでいく。
緩衝エリア内では、時折、戦闘が起きているようだが、相手はゴブリンやオーク、角付兎やもっと小さな魔物だったりするから数で押しているようだ。
まだまだ時間がかかる気がする。
私達も交代で休憩をとることにして、見張りの者以外は身体を休める事にする。
実は私達のいる屋根の下には、ちゃんと歩哨さんがいるんだけど、カンスト気味の隠密スキルさんがすっごくいい仕事をしていており、誰も気が付きません。
「ちょっとトイレ…」
「ついでに小腹を満たしてきましょうよ。ご主人様」
「君達、さっきも食べてたよね?」
やっぱりこいつら全然緊張感ない。
でもこれから長丁場だろうから これくらいでいいのかもしれない。




