秘密
えーっとどうしよう?
レオもびっくりしている。
「この依頼おれらがうけたい!譲ってくれ!」
いやー元気な子だなぁ。でもおねーさんちょっと困っちゃったなー。
「え、いやこの依頼は僕達の」
レオも困ってしまって私の顔をちらちらと見る。
「おれとお兄さん同時だったぜ?おれにも権利がある。受付にいって白黒つけようぜ」
それは困る。
指名依頼ならともかく、依頼側と受ける側があらかじめ合意があったというのが大っぴらになるのは困る。ペナルティにはならないだろうけど注意はされそうだ。
「わかった。ちょっとお話しようか?」
私はこちらを不審そうな目で伺う受付ギルド嬢の目を避けて、その少年を死角に引き込んだ。
「ひょっとして、あなたも『壁の外』に出たいの?」
「おねぇさん。ぶっちゃけちゃったね。正直に言えばそうだね。そのためにここ数日、朝からずっとここで張ってたんだ。」
注意深く、少年とその仲間を観察する。
年の頃は15、6歳。
少年の職業は斥候役らしい。
人数はこの少年を入れて他に女剣士と女魔法使いの3人。
3人とも成人して間もない感じだ。
装備は駆け出しの冒険者のもの。という事は初心者に気が生えた程度という事かな。
たしかにその人数と初心者程度のレベルでは「壁の外」に出るには力不足だろう。
出入り口で止められるのがオチだ。
「…『壁の外』は危ないわよ?何故出たいの?」
私は視線を少年に合わせて聞く。
身長はこぶしひとつ高いけど、そんなに変わらないみたい。
髪は紺色というか青みがかった灰色というか、なにか形容しがたい色だ。
瞳の色は紫でとても綺麗で北の人らしく日に焼けているのに色が白い。
健康状態はよさそうだ。栄養状態もよし。
「な、なんだよ…そんなに見るなよ。」
じーーー。
「…ど・う・し・て?」
圧を込めて笑顔で言えば、少年は目をそらす。
「おれらも壁の外に用事があるんだ」
「り・ゆ・う」
「くっ」
我ながらちょっと大人気ないと思うけど、スキルの威圧を使う。
やがて観念したかのように彼は言った。
「…どうしても確かめたい事があるんだよ。」
少年、ティルダという名前らしいが、ひと月前にあった奇妙な出来事について語った。
「おれたちのために、姉貴分たちが受けた壁の向こう側での仕事、それがそもそもの始まりだった。」
ティルダと仲間達を面倒を見てくれていた姉貴分、つまりここベローニウォールの冒険者ギルドではチューター制度があるそうでその指導者側の事なのだが、そのさなかに彼らを置いて忽然と消えたのそうだ。
「壁の向こう側に何かある」
他にも何人か行方不明者がいるそうで、ティルダの知る冒険者の行方がしれないそうだ。
「もう少ししたら討伐隊がくる。そうしたらおれたちには何もできない」
「君たちは初心者だよね。そういうのはギルドの偉い人に任せるべきじゃないの?」
おそらく討伐隊とこちらのランクの上の冒険者は共闘することになるだろう。初心者みたいなランクの低い冒険者達だって物資の運搬とか伝令とかで借り出される。前線には強い人が出るだろうから、その人達にまかせるべきだ。
「あっちの兄ちゃんだって、まだ初心者だろ。」
うん、まぁ昨日今日の登録者だけど、経験は一応積んでいるんだけどね。人外としてだけど。
「それにおれは見たんだ。遠征隊が通るからって通行止めになっていたはずの街道で火の玉が降り注ぎ、森に炎があがる様を。関連があるかもしれない」
お願い、その件は秘密にしておいてください。絶対にその行方不明者の件とは別件です。
後追いの遠征隊が待ち伏せされたのは、ベローニウォールに続く街道の難所で、両側を森がせまり、そのさらに両側には崖があって、大勢が通るには狭く、逃げ道のない場所だった。
一般市民の通りがかりの旅行者がいないのが不思議だったけど、あの辺り、あの時は通行の規制がされていたのか。
結局根負けして、私は彼の口を塞ぐために(抹殺するという意味ではなく)レオ達と一緒に私の依頼を受けてもらうようにした。
「何、童たちの見張りなら造作もないことよ」
…アリオスがそう請け負ってくれたので。
「何故か兜を取ると人族の雌は、我を無視できなくなるようでな。童の連れの二人はこれで抑えられるだろう」
「あ、そう。そうだったね」
ティルダの仲間の女剣士と女魔法使いだけでなく、ギルドにいた女性と、一部の男性がフルフェイスをはずしたアリオスに腰砕けになったのを見て、私は何かをあきらめた。
「さすがです。アリオス様」
にこやかに拍手をしているエリオール。
君達、そういう戦闘と間違えてない?相手を腰砕けにしたら勝利とかそんな勝負ないよ?
ほら、残った大多数の男性冒険者からの圧がすごいから、空気、気にしてちょうだい?
「「この依頼、2パーティ合同で受けます」」
その間にレオとティルダが、受付の男性職員に依頼受注の手続きをしにいった。
「一人当たりの依頼料が減りますけど、協力し合うのはたしかによい考えですね」
行方不明者が出ているなかで、低レベルの冒険者が壁の向こうに行くことはさすがにギルドとして推奨できない事らしい。
がティルダ達が加わったために7人の大所帯になった。
安全度ははねあがっただろう。
「回復の人がいれば、もっといい構成だと思うのですが」
斥候二人、盾役一人、剣士二人、魔法使い二人。それに私。
「問題ありません。薬師の私がついていきますから」
「それなら安心ですね。でも昨今の情勢もありますから、緩衝エリアの奥までいかないようにしてくださいね」
ギルドの人はそう言って手続きをしてくれた。
「ほら、行くってば、アリオス、兜」
ニュイが馬の人外二人を引っ張る。
アリオスが再び兜を装着すると、ティルダの連れの少女二人も、急に正気付いた。
「どうした?ラナもキャロルも。」
ティルダが赤い顔をしている連れの少女二人に声をかける。鈍感系か!
壁の門のところで、ギルドからの許可証を門兵に見せる。
「魔物が活性化している時期でもあり、行方不明者も続出している。緩衝エリア内から奥に絶対に出ないように。それを守れるなら通ってよし」
壁の向こう側には緩衝エリアがいくつか層のように広がっていて、その向こうは完全なるモンスター達の巣窟だ。
壁に比較的近い場所の緩衝エリアは比較的安全で魔素の多さから珍しい薬草がけっこう生えている。
壁の上から兵達が巡回をしているのもあり、この辺りまでだったら依頼があれば低レベル冒険者の活動が赦されているようだけど、実際はゆるゆるなのだと言う。
緩衝帯には魔物がいやがる臭いのしかけが等間隔にならんでいたりする。
だが、今は魔物の活動が活発になる時期に入っており、低レベル冒険者はあの門を依頼なしでは出入りすることができない。
「ちゃんと依頼は依頼でちゃんと仕事はする。その代り、残った時間はおれたちの好きにさせてくれ」
ティルダは他の二人と凄い勢いで薬草を集めはじめた。
「われが残るので、主たちは、首尾の方を」
アリオスがティルダ達を見張っていてくれるようだ。
「では、アリオス様。主のことはわたくしにおまかせください」
エリオールは私たちと行動をする。
「ティルダ、わたしたちは、むこうで採集をしている。日暮れ前には門の前に集合だからね。こちら側の事には不干渉でお願いね。」
「われと一緒でかまわないだろうか?」
打ち合わせどうりに、アリオスが兜を脱いで微笑めば、女の子二人は笑顔で頷いた。
「「ええ、喜んで!」」
「ラナもキャロルも何だかおかしいぞ…」
ティルダだけが不本意そうだったけど、彼らのパーティには盾役がいないので守りが不安だったようだ。
結局は受け入れたのだった。
「奥にいくと、そんなにいい、高価な薬草があるのかな…。早くもっとランクをあげたいな」
まぁ、そうつぶやいていたのを聞いたから、そんな風に勘違いしてくれるならありがたい。




