俺の幼馴染② ※グレイブ視点
「帰ってない?」
「ごめんねぇ。私の用事で出かけてまだ帰ってないのよぉ」
護衛の仕事を終え、宿場町まで帰った俺は、カモメ亭に顔を出していた。
王都でリリアンナと思われる姿を見かけたからだ。
カモメ亭には彼女のお姉さんがいて、リリアンナの事を教えてくれた。
正直リリアンナの親父さんには聞きにくかったので助かった。
「それでぇ、どうしちゃったの?あなた達」
リリアンナのお姉さんのアデレィドさんに問い詰められ、半年前の俺と彼女のいきさつについて吐かされた。
「おかしいわねぇ。あの子らしくないわねぇ」
たしかに喧嘩がこんなに長引いたのは両想いになってからは初めてだ。
いろいろすれ違ったり、喧嘩もしたが、いつもどちらからともなくなし崩しになった。
今回のことだって、最初のうちは「ごめんね。心配だったの」って彼女が言ってくれて、それで終わりになると俺は思っていたのだが。
「あの子が帰ったら、ちゃんと二人で話合いなさい」
なんかその言葉だけは何時もと違って、語尾が伸びていなかった。
「だよなぁ。いつまでもダラダラこんな状態ってのは良くないよな」
俺もわかってる。何よりも俺がつらい。俺の中のリリアンナ成分が減って辛い。
とぼとぼと数軒先の実家に帰る。
「おかえり」
お袋が店から顔を出して俺を出迎える。
「あんたが居ないうちに、あの娘がきたよ。」
「あの娘って、ああ セリカか。また何か買いにきたのか?」
俺の実家は食料品店だ。裏の作業所でちょっとした物の小分けとか、調味料なんかの調合も行っている。
リリアンナとは近所だという事もあるけど、そういう関係もあって親しくなった。
まぁ俺が先に惚れてしまったんだけど。
「作業を手伝ってくれたよ。リリアンナちゃんほど手際は良くなかったけど」
リリアンナの手際と比べたら可哀そうだ。アイツの器用さは半端ないから。
しゃべるのと見切るのと詰めるのを同時にやってたからな。
セリカは俺のパーティでの斥候役だ。臨時に組んでからずっと俺達と行動を共にしているからもうメンバーにしてもいい位なんだが、ちょっと気を使うタイプなのが気になるところだ。
オフの日とかは、よほど暇だとみえる。買い物がてらかどうか知らないがちょくちょく店にも寄る。
もちろん俺が彼女の予備の装備を預かっているからってのもあるだろうが。
「お前からも言ってあげてよ。またあんな薄着で来てさ」
「斥候役は肌でも気配を探るんだ。あの位普通だよ」
って聞きかじりだけど。
「冒険者のことはよく分からないけど、身体によくないんじゃない?」
「まぁ。たしかに仕事じゃない時も薄着は俺もどうかと思うけど」
とはいえ、普段から感覚を鈍らせないようにしているのかもしれない。
俺にはどうでもいいけどお袋のお節介は止めてもらわないと。
「大事な時期じゃないの。本人はちゃんと自覚してるの?」
お袋の顔、なんだか渋い物を食べたような表情だ。
それになんだか機嫌も悪そうだ。
「あんたも居候を辞めてどっかに家を借りるか持つかしないとね」
えーと、成人を機に家を出ようとしたのを止めたのはお袋の方だったんだけど?俺邪魔?兄貴の邪魔してる?
「お袋、こいつわかってない」
そうこう言ってると兄貴まで店から出てきた。
俺には兄が二人いるがこの兄は一番上で、実家を継いでいる。早死にした父の代わりに母と店を切り盛りしてくれている。
「お前、結婚するなら相手の家にも挨拶にいったり、こっちにもいろいろ段取りがあるんだぞ」
俺はびっくりして声をあげてしまう。
「は?結婚?誰が?」
「お前とあの娘だ」
「…リリアンナ?てか喧嘩中だって兄貴知ってるだろ?今、そういう風な空気じゃないんだよなぁ」
「お前、そんな不実なことを…」
たしかに町民学校の卒業式で、一人前になったら結婚しようってぶちかましたのは俺だけど。
なのに冒険者として一人前になってすぐ、喧嘩になったんだよなぁ。
あの頃メンバーの中でゴタゴタしてて、ついリリアンナの事が蔑ろになって居た事が悔やまれる。
「セリカさん、妊娠してるんだろ?男として、どうなんだそれは」
兄貴は俺を憐れむような目で見てきた。
「は?セリカが??や、俺関係ないし、てか同じパーティとはいえ、そういうのは自己責任…。」
「「は?」」
兄貴とお袋、綺麗にはもった「は?」だった。
セリカが妊娠?そんな気配、ひとつも…。
「男ばかりのパーティだからそういうの疎いんだよなぁ。わかった。セリカに聞くよ。妊娠している人に無理はさせられないもんなぁ」
兄貴とお袋はびっくりした顔をして俺を見ている。
「本当に妊娠してるって?そういうのはメンバーに先に相談しそうなもんだけど」
ぜんぜん不調な様子とかなかったぞ。今回の仕事だって率先して走り回っていたくらいだ。
「こないだ、家にきたとき、吐き気があったみたいで、悪阻なのかと。あんたの部屋にもよく出入りしてたし」
「…腹でもこわしてたんじゃねぇの?今回の仕事でも普通に飛び跳ねてたし、妊婦って感じはしなかったなぁ。それに俺の部屋にあいつとかメンバーの予備の装備を置いてあるのを知ってるだろ?特にセリカは地元がこっちじゃないんで置き場所に困って俺のところで預かるって話をしたよな?」
冒険者活動をしている間に荷物を宿屋に置いておくとお金がかかる。
俺達みたいに駆け出しには痛い出費だ。
稼げる奴らはパーティハウスとか借り切ったり、購入したりして対応しているだろうけど。
まぁ俺達のパーティは地元の奴らが多いから、いずれは独立するつもりだが、経費削減のためにそれぞれの実家から仕事に出かけている。
この宿場町なら、実家の手伝いはいくらでもある。
冒険者活動が休みの時は、それぞれ家業の手伝いをする事で実家住まいを認めてもらっているという訳だ。
だけどセリカは余所の出身で宿暮らしなので、俺の部屋に予備の装備を置いている。
「…俺だってセリカが装備を取りに来た時は部屋から出たりして配慮してたと思うけど?」
俺の部屋は今は王都で働いている次兄と共同部屋だったので、そこそこ広い。
だから、空いている所にパーティメンバーの荷物を置いてある。そこにセリカの分が足されただけなのだが。
「あんたたち付き合ってたんじゃ?それでリリアンナちゃんと上手くいかなくなったんじゃ?」
「へ?俺とセリカ?ないないない」
何馬鹿馬鹿しい事を言って来るんだろう。
「だってなぁ。あの娘の話ってあんたの事ばかりだし、それにあんな風に「うぅっ」とか口を押えたりされたらなぁ…」
「勘違いするよね。その後、『グレイブから、そのうち話があると思う』とか言われちゃうと」
なんだなんだ?お袋達、早とちりかよ。
セリカの奴も、紛らわしい事、何してんだよ。
俺が脱力しているとお袋が「あ。」と声を漏らして真っ青になった。
「リリアンナちゃんに言っちゃったよ…グレイブがあの娘と結婚するみたいだって、…子どもが出来たから…」
「なんだって?」
その時の俺は、どんな顔をしていたのだろう。




