死霊狼③
人や動物が何かを食らうのは、そこに含まれるエネルギーや栄養素を摂取するためであり、それは植物や微生物ですら同じだ。
成長や身体の維持、繁殖、活動、それらにそういうものが必要だから。
魔術に置き換えて見れば、さまざまな魔法素材に含まれる性質やマナは魔術といった体を作るための栄養素に似たものかもしれない。
ニワトコの枝、フェニックスの羽、ユニコーンの角、そういった物が魔術や魔法に必要なのはそれらがもつ性質がオドを導いたりマナの性質を整えたりするからである。
一見何もないところから炎を出したり水を出したりする魔術や魔法は、無から有を生み出しているようでいて実は違う。
精密なマナの操作や適格な触媒の選択、正しい呪文や魔法陣がなければ魔法や魔術は発動しない。
魔術も魔法も理のあるもで因果の法則からは外れないもの。
因がなければ果は得られず。
だから領主の息子が、いくら小動物の死体を自作の魔法陣もどきに飾り付けたところで何も生まない。
せいぜいが負のエネルギーが溜めこまれ死霊といわれるアンデットが沸くくらいだ。
人は己に力を欲する時に魔術や魔法、未知なるものの力に縋りがちだ。
けれども、それらもきちんとした知識で定められた性質に沿って扱わなければ発動しないしそれらを知るためには自分で学ばなければならない。
結局は自分で努力しなければ何も変わらない。
スキルをポイントで習得してズルをしている私が言う事ではないけど。
今回の事は猟奇的事件として気味悪がられているだけで、何ら領主息子の評価にプラスにリターンしてないよね。
人の道を踏み外す=人としての限界を超えたなんて中二的悦に浸っているとしか思えない所業にイラつく。
どうせならちゃんと魔術を勉強したり、師事したりして炎の魔術でフェニックスとかを産み出して見せればよいのに。
そうすれば尊敬を集めたかもしれないのにさ。
なんちゃってフェニックスでもみんな大喜びだよ。評価はまちがいなくあがると思うね。
「ぶるるるる」(ここは通さぬ)
「侵入者め。これより先へ進むは命なきものと思え」
いや、アンデットだからね、元から命がないと思うんだけど。
黄金に輝く髪と白銀の鎧の戦士風若者(ただし馬)が栗毛の堂々とした馬(まごう事なき馬)に跨り、お供のフェンリル(魔法生物ボーダーコリー風)を従え、外門につづく通りで吠える。
レオの方は自分が馬たちを従えている気でいるみたいだけど。
騒ぎに、通りに面した家々に灯りがともり、鎧戸があちこちで開く音がする。
ウチの子達が騒がしくてすみません。
門番の兵達の悲鳴があがる。
現れたのは数十頭の狼のアンデット、死霊狼だった。
数匹が閉まりかけた門の間をすり抜けて町の中に入り込むが、エリオールの蹄で文字通り蹴散らせられる。
その間に門番達が門を締め切ったので、死霊狼達はドン、ドドンと体当たりの音を響かせ、門を力づくで壊して町へ侵入しようとする。
「ニュイ!」
私はニュイを呼び、影の道を通って町の外へ出た。
狼の群れの後ろ側へ、「ようこそヘルドレス領へ!」と書かれた道標の影から再び姿を現す。
「浄化!汚物はしょうめつーぅ!」
私は取っておいたスキルで浄化魔法を発動する。
現時点で魔王配下の四天王と一騎打ちでなら単独で闘っても数値の上では勝てるので心配はしていなかったけれど、一気に浄化できた。
背後からの一気の浄化。うーん卑怯?でもあんな怖い顔した魔物の正面に立ちたくありません。
門の外の死霊狼を一気に倒したので再びスキルポイントがたまる。
「ん、レベルもおいしい」
何くわない顔をして、またニュイと影の道を通って、人外達を回収して宿のお部屋へ。
「寝ようよ、もう」
何事もなかったように、今度はちゃんと戸締りをして寝た。
「おはようございます。……飛び出してしまいすみません。」
「狼のにおい、しかも腐ったアレを嗅いだら身体の制御ができず」
「……」
アリオス達には人型をとらせ、私の目の届くところ…宿屋の一室に一緒にいさせた為、若干部屋が狭苦しい。
レオは目を合わせないように視線を逸らせている。
今回は馬たちの勢いについ引っ張られてしまったのね。
これらはある意味仕方がない事だ。
私のスキルの調教レベルがアリオス達を従わせるには低かったのだ。
夕べ、死霊狼でゲットしたスキルポイントをさっそく割り振ったけれども。
またポイントの無駄遣いをしてしまった。
「……。」
まぁ仕方ない。アリオス達とはまだ短い付き合いだ。信頼関係が成り立ってる居るとは言い難い。
そそくさと宿を立つ。
わたし、この領へ何しにきたんだっけ?
ああ、そうかアリオスの足に呪いの傷を残したカース持ちを殺るためだった。
ふと思いついて、懐から巾着袋を取り出す。
魔石、けっこうたまったなぁ。
本来、あの事件はここの領の人達が対応するべき事だった。
私が横入りしたせいでもらってしまった経験値やポイントは今更返せないが、魔石くらいは還元しておこう。
私は、この町の冒険者ギルドへ向かった。
依頼内容
悪戯でかかれたなんちゃって魔法陣の除去と付近の浄化。
達成条件
ギルド職員の立ち合いの元、現場確認と共に除去と浄化を確認すること。
達成報酬
物件1つにつき発見報告は死霊狼の魔石1個。除去と浄化に成功した場合は死霊狼の魔石2個~3個
依頼主
郷土愛あふれる匿名者。
死霊狼の魔石は1個がだいたい5000リルから8000リル
庶民の味方の黒パンが一個あたり100リル。エール一杯500リルだから
ちょっと割のいいアルバイト位になる金額だ。
それに、今まで、ここの領民たちは気味悪がるだけで何も対策をとってこなかったから、これを機にこういった物にたいする処理をするという意識が芽生えてくれるとありがたい。
もちろんあの依頼内容では自作自演する者も出るだろうけど。
それでもいくつかはちゃんと処理されるだろう。
どうせ、レベルあげのために馬鹿みたいに流通に乗せる事のできない魔石をいっぱい持っているんだ。
少しは放出しよう。
出所をごまかしきれないものね。
ヘルドレス領の冒険者ギルドではフェンリルを従えた美丈夫騎士が、町に入り込んだ死霊狼を蹴散らした事になっていました。
アリオスは馬、エリオールは目つきの悪い軍人風な出で立ち、レオも商人風の姿の私達はちょっと裕福そうな一般市民とその護衛と道案内と判断されて気づかれる事もなく。
ただ、用意した報酬が例の死霊狼の魔石なので、ギルドの人に疑いの目で見られたけど、無事に依頼を出せた。
本来はこういうのは領主の仕事なんだろうけどね。
息子さんが犯人じゃなぁ。
ゲームの中での3年後には、死霊狼のしの字も出てこなかったから、この事件はこの領の人達が本来は自分で解決したのだろう。3年後、これたら来てみよう。この町に。
そしてミニゲームをしてみてもいいかもしれない。
「さて、いくよー。ここの魔力スポットもいい塩梅だったなぁ」
私達は人気のないところまで来るとニュィの影渡りで、エレの町の郊外の魔力スポットに戻った。
ここからは町に寄らないで魔物討伐隊の先まわりをする。
そのためにアリオスとエリオールを手にいれたのだから。
「たまには人化もいいだろうか?」
「風のように走りますから、ご褒美に人用の食事も食べさせてもらえますよね?」
すっかり人化に味をしめた二頭がそう言っているが仕方ない。
私には彼らのほかに二人の人外がいて、彼らは人のフリをしているのだから。
今さらただの馬に戻れというのも酷だろう。
「ちゃんと働いたらご褒美がありますよー」
調教スキルを発動しつつ、二頭を宥める。
帰ったら、馬小屋と馬の運動場を手にいれるか、良心的な厩屋を見つけねば。
この二頭、今更普通の牧場とかに戻れないだろうし。




