死霊狼②
人化したアリオスは神々しすぎて目立つのでエリオールに人化してもらい、同じく人化したレオと共に冒険者ギルドへ報告してもらう。
報告はレオにまかせ、エリオールはただ黙って立っているだけでよいと言い含めて。
私?無関係な旅人としてヘルドレス領の最初の町を観光してましたよ。
でもこの町、なんか変なのよね。
足元がふわふわするというか、べとべとするというかぞわぞわするというか。
空気もうすら寒いというか何というか。
「おぉぅ」
今悪寒が走った。ぶるってきた。
「うわーぁ。鳥肌ぁ」
ご丁寧にさぶいぼも立ってきちゃったよ。
あの現場のような場所は他にも見つかっているようで、ヘルドレス領の人々はすごく気味悪がっている。 同情を禁じ得ない。
私もあの現場にはドン引きだった。
サイコにも程があるだろう。
犯人が何をしたかったのか疑問だけど。
前世で耳にした「快楽ナントカ」とか言われる人間なのだろうか。
町での領主の息子の噂は概ね芳しくはない。
昼行燈。薄ら馬鹿。狩り狂い。
まぁそんなに言ってやるなよと、あの所業を知らなければ一言位言っていたかもしれない。
さっき見てきたあの残虐な現場。
おそらく、あれはそいつの仕業だろう。
何の願いを叶えたかったのかわからないけど、あんなでたらめなんかじゃどうしようもない。
だいたい殺しすぎだ。邪神に供える生贄でもあるまいし、あんなに無作為に無差別に殺しやがって。
一寸の虫にも五分の魂っていって、どんな物にも魂があるんだぞ。この世界においては魔素というエネルギーを蓄えた存在だ。
だからその点について、ノミの髭の先ほども共感できない。
どうして他者をあそこまで出来るんだろう。自分に置き換えてみろっての。
ああ、悪寒が止まらない。
「風邪でもひいたかなぁ。宿とって静かにしてよう」
今夜はヘルドレス領に宿をとる事にした。
「我も宿の食事を食べてみたいのに」
「隣の馬の鼻息が五月蠅いです。ご主人様」
「…いや、宿って結構高いんだよ?」
「ご主人様、アリオス様は厩じゃ、泥棒に狙われます。」
「何、我の蹄で一撃で倒してくれる。牧場でもそうしていたしな。」
「…過剰防衛で訴えられない範囲でお願いします」
「オレがいるんだしさ。レオはそこのウマ見張ってた方がいいと思うよ」
「ぐぬぬ。ご主人様の警護は俺の仕事なのに」
人外どもが好き勝手に言うので、レオのチョーカーをもうひとつコピーする事にした。
それにしても馬の姿でも人化しても目立ちすぎるって…アリオス、どんだけぇ~。
エリオールが言うには、その美しい馬体を狙ってちょくちょく馬泥棒が牧場に忍び込んできたそう。
「む。ここの飼葉は配合がいまいちだな」
「水も汲みたてじゃないですねぇ。日がたっている臭いがしますよ」
「ご主人さまと同じものが食べたいです。きゅぅぅん。きゅんきゅん。」
「…わかったよ。今夜は無理だけど、次は人化した状態で宿に泊まれるようにするから」
人外達はけっこうグルメのようでいろいろうるさい。
私はもう、いろいろと諦めた。
「じゃ、おやすみー」
今日はニュイだけが私と同じ部屋で私の影に潜む。
私は少しだけ夜なべをしてチョーカーに、自動で服を装着する機能を付け加えていた。
あの馬共、人化する度に隠しもしないから、もうなんていうか目に毒なんだよね。
元が馬だからか、美しい筋肉がしっかりとついていて、まるで彫刻か何かのようなのはいいけれど、
変態だからね?人前でそんなにどうどうと素っ裸とか変態だからね?
その度に服を着せかけていた私、えらい!
見た目は立派な大人なのに、「はい両手あげてー」とか「パンツもズボンも片足ずつこうやってこの穴に…」とか教えていて、心が折れたからね。途中でレオが見かねて代わってくれたけど!
レオのチョーカーにも服を自動で装着する術式をつける。
レオだけ毎回地道に着替えさせるのもね…。
はぁ。今日はたくさんやる事あったなー。
観光スポットは廻れなかったけど、ヘルドレス領独特の野菜とかハーブが買えたし。
家を出てから一番建設的な事が出来たかもしれない。
…普通にしてたら、そろそろ家の近くまで進んでいる頃合いだ。
王都まで行って帰ってきて、一番早くついて半月だから、今のペースだと当然無理だ。
遅くなるってどこかで連絡いれなきゃ。
私は作業していたままのレオのチョーカーを手にしたまま寝落ちしてしまった。
誰かがベッドへ倒れるように寝ている私を見下ろしているような視線を感じる。
ああ夢かぁと思う自分がいて、それを客観的に見ている自分がいる。
ニュイかレオかなと思いつつ、レオは今夜は馬の番で厩だったと思い出す。
「ん…」
誰?と聞きたいのに目は覚めなくて。
夢うつつの意識だけがふわふわと彷徨っている感じがする。
ーー頼んだよ。--
誰かが私に話しかけてきている感じがする。
--魔王の事も、ウチの子の事もーー
--ごめんねーー
半覚せい状態で薄目が開く。
ふわふわした髪のレオにどことなく似た優しげな面差しの青年が私を覗きこんでいる。
ーー手伝ってあげられなくて、ごめんねーー
「ん…うぅぅん…誰?」
目を開けようと眉間に力を込める。
ーー来るよ。気をつけてーー
やっと、瞬きする事に成功して、瞬間的に目が覚めた。
月の光がとじ忘れた鎧戸の間から部屋の中に静かに差し込んでいた。
さっきまで居たように思っていた青年の姿はもうない。
来るよって?何だっけ?
いやいや、それよりも不用心すぎる!私! 戸締りをちゃんとしない内に眠ってしまうだなんて…。さっきのはもしかして不審者???
やばい!不審者に忍び込まれた???
「ん?ご主人サマ??夜更かしはお肌に悪いよ?」
ニュイが影から姿を現す。眠る必要のない彼だけど、人間風を愛する彼はご丁寧にパジャマを着て枕をもっている。
そうだ。誰かが忍び込んだなら、ニュイが気がつくはず。
窓の鎧戸を閉めかけて、思いとどまって、今度は開けてみる。
逃げてく人とか見えたら怖いけど、確かめずにはいられなかった。
今宵の月は明るくて、宿の2階の客室から通りを見下ろせば、しんと静まり返っていて人ひとり歩いていない。
ほっとして胸をなでおろしているとニュイの顔つきが急に緊張したものになったのに気が付く。
「…来てるみたい」
ニュイはコテンと首を傾けた。
「でも、大丈夫。やるって」
「やる?」
その瞬間、ドッカーンと何かがはじけ飛んだ音がした。
「え?」
嫌な予感がして、音のした方を窓から乗り出して首を出して見る。
「出番のようだな。エリオール」
「ひひぃぃん」
(この蹄の露と化してしまいましょう!アリオス様!)
ウチの人外が立っていました。
「わふわふわふ!」
(ご主人さまー 殺ってきますからほめてくださいねー)
「え?」
意味がわからず目をパチパチさせていると、人外達はあっという間に走り去り、豆粒のように。
「ええ??」
「いかないのー?ご主人サマ。見逃すよ。てかあいつら野に放たれた馬と犬になっちゃうよ?」
「ええ?」
「古来から狼ってあいつらの敵だよね?」
「え」
「運ぶ?」
「…ハイ」
「じゃ、その首輪持って」
よくわからないけど頷いちゃった私を、ニュイが抱っこする。
「え?」
ニュイってちっこいのに以外と力持ち…。
なんて思っているうちに現場に…。
「死霊狼?」
金髪の美丈夫(ただし中身は馬)と栗色の毛並の馬(中身も馬)とボーダーコリー(中身は魔法生物)と対峙するのは黒くて瘴気をまき散らす巨大な姿。
それは怨念などの負のエネルギーが野生動物の姿を借りたモンスターだった。
「無知ほど怖いものはない。負債稼ぎまくりでとうとうモンスターまで生み出したか」
領主の息子のでたらめは負の淀みを作るのには成功したらしい。




