死霊狼①
マップをタップする。
牧場をひとつ隔てた向こうの領地はヘルドレス伯爵領だ。
当然マップに道や町の表示はない。
行ったところじゃないから。
でもゲームでは行った。ここではミニゲームが待っている。
ヘルドレス領主息子のバルハルト様はいわゆる貴族のぼんぼんで狩りが大好き。
狩りが好きすぎて、やりすぎちゃうんですよね。
鹿や兎を狩ってるうちに物足りなくなり、より強い者を求めて、狼や熊などを手当たり次第に狩るという暴挙に出る。
そして生体バランスが崩れて、増えすぎた草食動物が農園を荒らすようになるんですよね。
で、勇者一行はギルドに指名依頼を受けて狩りにいくんですよー。
でもね。スライムとかゴブリンならともかく可愛い兎や鹿を狩るゲームって不人気でね。
討伐されるのは「魔物」って変更されたんですよね。
ゲーム制作会社はウエスタン調の射撃ミニゲームを考えていたみたいだけど、射撃を使えるのは第二エリアで役に立たないとパーティメンバーから外される件の高慢高飛車令嬢なわけで、要は第三エリア以降、その令嬢を使う時のレベル格差是正用のミニゲームなわけで。
何しろその令嬢、第二エリアにあるダンジョンではまるで使えませんから。
殆どのプレイヤーが第二エリアでパーティメンバーである高慢高飛車令嬢をチェンジする中で、初期キャラにこだわる一定層へのサービスゲームというか何というか。
というか言わせてもらえれば、国全体が魔物の脅威と戦っているときにその領主息子は何やってんじゃって話ですよね。
そんなに血の気が余ってるならば、討伐軍に入れってなものよ。
話がそれたけど、まあそういうわけで出てくる獲物を「魔物」に変更したことによって、この辺りに魔力スポットが設定されているはず。
ニュイに根を下ろさせる事と、牧場を襲ったと思われる死霊系のカース持ちを間引いておくことと発生源を浄化すること。
今回は一石三鳥を狙っちゃう。
死霊系とかは古戦場や「死」によって生まれた負のエネルギーなどによく湧くので、今回はミニゲームと絡めてヘルドレス伯爵息子のバルハルト様の「狩り」が引き金になってるんじゃないかなと思う。
「今度は我の番だ。エリオールよ」
「待ってくださいアリオス様。このパン食べてから」
人になって、人間の食べ物を食べてみたい!と交互にレオのチョーカーをコピーしたものを奪い合ってます。
最初こそなれぬ二足歩行にフラフラしていたのに。
「わふわふわふ」
お前達、ご主人様を乗せるという高貴なる任務がおろそかになっているがいい加減にしろ
と、レオが諌めるのも何のその。
「よくやるわー」
ニュイが私の影からちょこっと顔を出してやれやれといった風に肩をすくめる。
なんでも馬は馬でもこの「バトルホース」というのは精霊種に近いらしく中でもアリオスは群れの中でもリーダーとなる王種と言われるものだったらしい。
「食べ物の事だけが理由ではなく、怪我をしてから素手や素足で戦う事に疑問を抱いていたのだ。我の蹄が決して弱いというわけではないが、剣などを使えていたならと人間を見ていて、そう思ってな」
まぁアリオスは足を痛めたわけだから、そういう事を考えたくなる気持ちもわかるけど。
あなた達、馬なのよ?
馬が馬に乗っている事態をおかしいと思わないのかな?
「なるほど人間の重心とはこうなっておるのだな。…ふむ。次は荷物をこうしてみて」
「アリオス様は熱心ですねぇ。」
「人の姿はいろいろ食べられてよいが足が遅いのが、不満だな」
「ですよねー」
こいつら本当に本性が馬なのか。馬なんだろうな。うん馬だ。
「アリオス様、この人参サイコーにうまいですよ」
「人の姿だと火を通した時の方が美味だな」
人化したアリオスはまさにどこのプリンスだと言わんばかりに神々しくも美しく、目がつぶれそう。
だけどこいつ馬なのよね。
エリオールの方は栗色の髪の目つきの悪い軍人さんみたいな感じでこれまた一定層のファンを獲得しそうな容姿だけど、こいつ馬なのよね。
私の旅の友は、馬二頭、イヌ科の魔法生物、植物系の魔法生物とただの人間の小娘である看板娘の人外メンバー多めの構成だ。
毎回馬から人になるたんびに全裸とか、目に毒な姿を晒しやがって、衣装係もいい加減に疲れたので人化した時には勝手に衣服が装着される使用にチョーカーを改ざんしといた。
レオはちゃんと自分で着替えてたんだぞ。
「さ、休憩は終わりだ、ご主人様のためにきっちり働け」
レオがきりきりと追い立てる。
レオの姿は前世の幼少期に飼っていた牧羊犬であるボーダーコリーに似ている。
食いしん坊な馬2頭もキリキリと追い立ててくれるので助かる。
「まかせておけ。低位のモンスターぐらい造作もない」
「この蹄でぶっ飛ばしてやりますよ!ご主人様」
馬2頭、1頭は人化して神々しいまでに美しい鎧姿の青年、1頭は目つきの悪い栗毛の堂々たる体躯の馬。こいつら馬なのよね。バトルホースっていう戦闘馬。
魔力だまりは比較的早くに見つかった。本来は依頼を受けて来る場所だ。
ゲーム中では何もない森の中に設定されていて、見つけるのに手間取ったものだ。
「交互にそれぞれの姿で試してみよう」
そこに馬2頭(1頭は人化中)で突っ込んでいく。
ニュイは魔力だまりに根を下ろしたあと、2頭によって蹴散らせられた魔物の魔石を暇そうに蔓で回収している。
「どこかに死によって穢れた場所があるはずなのよね。死霊系が沸くってことは」
わふわふわふ!
「こっちが臭います!ご主人様」
レオが先導してくれたので迷わず進める。
「これは…ひどい」
そこは狼が巣穴にしていたと思しき洞穴だった。
そこには大人から子どもまでの狼の死体が無残にもその姿を晒していた。
それは狩りとは言い難くただの虐殺現場だった。
死肉を漁る鳥や獣や虫たちに荒らされ、殆どが白骨化しているけれどどす黒く地面が変色している所を見ると何ともいえない気持ちになる。
「ぼんぼんめ。やりすぎだっての」
ゲームで見たぼんぼんは気の弱そうな覇気のない感じのキャラクターデザインだったけど、武器を持つと人が変わるタイプなんだろうか。
アンデットが生まれるほどのところに思えないけどと首を傾ける。
「ご主人様!」
レオが私を呼ぶのでさらに奥にすすむ。
「…本命はこっちですか」
気分が悪くなった私はこみあげてくる吐き気を無理やり抑え込んだ。
一言でいえば「臭う」
タンパク質的な物が腐る臭い。
それが風にのってあたりに充満している。
そこには壊れかけた檻がいくつも転がっていた。
そしてオブジェのような奇妙な物がその辺一面に飾り付けられている。
「黒魔術でもしようとしたのかな」
兎や鳥など、いくつものの生き物の残骸が変な魔法陣ぽいものにまるで供え物のような感じで置かれている。
「やばいなコレ」
どうやら作成者はかなり、イカれた考えの持ち主らしい。
こういうやり方をしても魔術は発動しないだろう。ちゃんと学べばわかる事だけど魔術にはきちんとした原則に元づく方法があり作法があり、こんな思いつきとどこかで見た知識をこねくりまわして作ったいかがわしい方法じゃ発動しない。
「狩りはカムフラージュかよ。サイコパスめ」
何を願ったのか知らないけど、これでは負のエネルギーが貯まるだけだろう。
前世的に言えば、死者の恨みつらみが凝り固まった状態と言うか。
付近を調べると狼の足跡がいくつもあった。
「ああ、『作業場』を狼に荒らされて、で、あの結果ってわけか」
狼にしたら自分の縄張りに食い放題のレストランが出来たようなものだ、このイカレた現場の作業者の意図などおかまいなしに食べちらかすだろうし。
背筋を悪寒が走る。
「…浄化してヘルドレス伯爵家に、…。やめとこう口封じされそうだし。冒険者ギルドにでも報告しておこう」
私はそのおかしな現場一帯を炎で焼き、浄化をかけた。




