アリオス
「…あちらにもおすすめの馬がいますよ」
そう言ってハリスンさんが、私を違う馬のところまで案内しようとするけれど、もう私の心は一択だった。
私の心がエリオールとアリオスに傾いていると知ったハリスンさんは、やや呆れた様子で私を説得してきた。ちゃんと説明しないと私が引き下がらないと感じたらしい。
「一緒に買ってくれる人というのはつまり牧場主を想定してまして。第一どうやって連れていくんです?」
何回もヒールをかけるのだけれど、暫くするとまた怪我した前足を気にするようになるそうで、もう完治は無理だと判断しているとのこと。
ヒールを頼むのにもお金がいるので、もう本当に道楽でお金をかけてよいと思っている人がこないかと半ば祈るような心持ちでいる事を話してくれた。
仲のよいエリオールと同じ牧場で、ヒールをかけてもらいながら延命をし、心穏やかに過ごさせたい。
そうハリスンさんは考えているそう。
「だからエリオールをと言われるお客様にはアリオスの事もお願いしているんです。…重ね重ね言いますが、旅だなんて無理ですよ」
どうやら平凡な見た目ながらエリオールはなかなかとおすすめ馬らしい。
実際、目の肥えた牧場主からの結構な引きもあるんだとか。
「わたしが決めたのには理由があります。ひとつ、私はヒールが使えます。なのでアリオスに頻繁にヒールをかける事が出来ます。さらにもうひとつ、私は薬師のスキルも持っていますので治療用ポーションを原価価格で使用できます」
いや、薬師スキルは今取っている最中だけれども。
持ってれば便利だし。よし取った。くそぉ。またいざと言う時用のポイントが…。
「この子達をください。絶対幸せにしますから」
あれ?この言い方って結婚を許してもらうために嫁さんの実家へをいく時に言う言葉じゃない?
あれ?セリフ間違えた?
私お馬さん買いにきただけなのに。
二足歩行する魔法生物(人化したお馬さん)もどきを作るまでは引き下がれない気がしてきたよ。
「そう言われてもな」
困惑極まって聞き分けのない我儘娘を見るような目をしてハリスンさんが私を見ている。
「私、治癒魔法、得意なんですよ。」
他にもいろいろ使えますケド。
「やってみましょうか?」
アリオスの足元に驚かせないようにしゃがみこむ。
調教のスキルとっておこう。お馬さんとうまく付き合えるように。
よしとった。
ミノタウルスもどきを倒した時のポイントを使う。はぁ、無駄づかいとは思わないけど、またポイントをためないとなぁ。
「動かないで。いい子ね。怪我した足を見せて」
言葉に安心させる旋律をのせる。音の高低、リズムで安心させる波長を出す。
へぇ。今まで知らなかったけど、調教スキルのある人ってこんな事してたんだ。
鑑定スキルと調教スキルと治癒スキルとの合わせ技が発動。
それに錬金スキルが加わって。
血管と血管の間。大事な筋に食い込む形で小さな金属のかけらが埋まっている。
それを溶かして血管に忍ませ、汗腺から体外へ。
そして再び形成。
「ん?この黒い靄って?」
かけらには黒い煙のようなものが湧き上がっている。
「カース?呪い?」
ゲーム中では呪いといわれる状態異常があった。それと似ているような。
ああ、もう。
ミノタウルスの時の最後のポイントを使う。ううぅ。銀行預金の残高が減っていく時の気分だよー。
でも、魔物の中にはアンデット類もいるから、もしエンカウントしたら必要なスキルだ。
ちょっと遠い未来に必要になりそうなスキルであったはずなんだけど。
浄化スキルゲット。
はぁ。予想より、予定外スキルの習得ペースが早い。
ちっとも計画通りにいかない。
計画通りにいかないってのは地味に辛い。
焦りもあるし、不安だ。
スキルの貯金もうまくいかないし。
浄化を意識すれば、言葉なくともスキルは発動し呪いは浄化される。
ゲームのシステムはいろいろ不便も設定されているけれど基本はプレイヤーに都合よく設定されたチートだ。
この世界に生きているものと違って、何でもできる多分この世界の理以外の…力。
何でも、出来るんだよね。ゲームで出来る事は。
かけらによって生み出されていた呪いは消滅し傷ついた筋はゆるやかに回復していく。
こんな力、少しもあっちじゃ現実的じゃない。
でも、この力はこっちでは辺りに満ちていて。
「さぁてと、こんなものがあるって事は死霊系の何かがあるって事ね」
そいつが、この牧場を3年後あんな風にしてしまうのか。
「……すげぇな。お前さん」
「もう、足は大丈夫なようでござるな」
歩くのにもどこかこわごわしていたアリオスだけど、今はエリオールと、はしゃぐように走り回っていた。
あれれ?二足歩行計画はもういらない?
「それでも、時々はヒールをかけて様子を見てやってほしい。」
「…よかったでござるな。売ってもらえるようでござるよ」
「あ」
二足歩行計画のためにいろいろなスキルを取ったり強化をしたりしたんだけど。
「む、無駄になったでござる…」
私はがっくりと膝をついた。
ぽふん。レオが慰めるように尻尾をぶつけてきてくれた。
「またでござるよ。」
「うっうううっ。アリオス、エリオール幸せにしてもらうんだぞ」
ハリスンさん、それではまんま嫁を出す男親そのままですよ。
バランとハリスンさんに見送られて、結局はアリオスとエリオールと二頭の馬を連れて牧場を出る事に。
「ニュイ、ここでも根をおろしとこうか」
ーーOK。魔力の多いところ探して欲しいなーー
「一頭でよかったのに…」
レオが人化してない今、一人旅で二頭連れてたら目立つかなぁ。
「適当に指をさしてしまったのが悪いのかな」
ぶるるる?
え?適当だったの?みたいなタイミングでエリオールが鳴いた。
ぶるるる?
何とかという首輪は使わないのですか?
と言いたげにアリオスが鳴く。
わふわふわふ。
「お前たちご主人の事をちゃんと守るのだぞ」
ははは、馬ってけっこう人間の言葉、わかってるんだなぁ。




