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看板娘、頑張る  作者: 相川イナホ
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エリオール


 「エリオール」「エリコ」「オリオ」「チェリオ」「リオ」「イシロ」……


 「この辺は調教も済んで、すぐ乗れますよ」


 ハリスンさんが売り馬を紹介してくれる。


 「バトルホースって言ってね、冒険者に人気の種類だね。こっちのは騎士さんに人気の馬だ。恐れを知らないし走らせるとまるで翼でもあるかのような速さだ。そちらのは主に荷車なんかを引かせたらいい奴だ。 あっちの厩のは農耕馬だね」


 このお馬さん達、3年後にはいないんだよねぇ。


 何があったのかゲームの中では語られなかったから、わからないんだけど。

 ゲーム開始時の3年後には、荒れた牧場があるだけで、生き残った馬をそれは大切に牧場主さん達は大事にしていて。

 でも、世界を救うためだからってハヤテを貸出ししてくれるんだ。


 この世界、貸出っていっても、モンスターや野盗が蔓延っているんだから実質はただで渡したのと一緒だ。


 自分の育てている馬について熱く語っているハリスンさんを見ていると、よけいに思う。

 誰かが書いたシナリオで、自分の人生をゆがめられちゃうってどうなんだろう。

 もし、ハリスンさんが自分がゲームの中の作られたキャラで、誰かが勝手に決めたシナリオの通りに自分が生きているって知ったら、どう思うだろう。


 ただ物語のスパイス的に、自分の誇りである仕事場を傷つけられ、精魂こめて育てた馬を失い、それでも物語の主人公を無償で助けて。

 どこまでが本当のハリスンさんで、どこまでがシナリオのハリスンさんなんだろう。


 この世界で生きていること、それってどういう事なのだろう。

 私はゲームのパッケージの中にある単なるデータなのだろうか。

 この頬にあたる風も、この風の中に含まれる草や花や生き物の臭いも、私には現実のものだし。

 レオやニュイも、男爵ジュニアや女騎士さんももちろんあの銀髪騎士のイザーク・ミレニアも。

 ちゃんとこの世界に生きているっていうのに。


 させない。


 させたくない。


 シナリオ通りなんてさせたくない。


 だから、私はもっと強くならなくちゃ。


 ……


 ってあれ?


 私の目的すり替わってません?


 

 「…そうでござるか。ではこの馬が良いのであるな。うーむそうすると手持ちが少し…うーむ」


 

 そうでもないのか、私は守りたいんだ。

 姪を姉を、父を家族を。

 私達家族のカモメ亭を。

 カモメ亭のあるこの国を。

 そしてついでに推しを。


 ………。


 「アール殿は決められたでござるか?」


 「あ、うん。そうねあの馬あたりいいかも?」


 考えごとの最中に急に声をかけられ、私はつい適当な馬を指さしてしまった。


 そこには何も変哲もない栗色の毛並のちょっと目つきの悪い馬が草を食んでいて私に指を指されて「ん?」

といった風にこちらを見た。


 「おお~エリオールかぁ。見た目で損してるがいい奴なんだよ」


 カポカポカポと足音をさせて近づいてきたその馬は、鼻づらをハリスンさんの手に擦り付ける。

 

 「エリオールには仲のいい馬がいるが足が悪くてなぁ。出来れば一緒に買ってくれる人がいいんだけど。そんな奴いないよなぁ。それで売れ残ってるんだ。」


 ハリスンさん、いい人だなぁ。


 そんな風に馬の人間関係(?)にまで気を使って。


 「ほらあいつがエリオールと仲のよい馬ですよ。アリオス!」


 呼ばれて、一頭の馬がやってきた。


 それは白い馬だった。たてがみは金で馬ながらイケメンな、そう例えるなら馬世界の王子?様のような馬だった。


 「こいつはこの牧場を守って怪我をしたのだよ。勇敢だった。俺としては…」


 あとの言葉は言わなくてもわかる。足を怪我した馬っていうのは牧場には負担だろう。

 そしてそれは本人(本馬?)にも。馬の身体に対してその足は細すぎるから、その負担は残った3本の足にかかる。軽めの怪我なら負担が歪みになる前に治るだろうが…。

 長引けばそれは馬のような動物には致命傷になりかねない。


 怪我をしたばかりの父の事を思い出す。

 私達にはなんでもないように装っていたけど、焦っていたのだろう。

 一人で家を抜け出して思い通りにならない身体に苛立って、悔しさに拳を握り込んでいたのを見ている。

 今だって、怪我した所を庇って歩いているので、肩や腰がバリバリに凝っている。

 よく自分の身体をもみほぐそうとして肩や首を回している姿を見かけた。

 

 

 エリオールは歩いてきたアリオスを見ると労わるように傍に寄り添った。

 本当に仲がいいんだなぁ。


 「撫でても?」

 「どうぞ」


 

 身体を撫でると甘えるように鼻ずらで優しく押してくる。

 気性も穏やかそうで扱いやすそうだ。


 ここに置いておくと3年後には…だよね。

 エリオールはわからないけど、アリオスはその足では何かあっても逃げるのにも苦労するだろう。


 移動手段に足がいるって思って、軽く考えていたけど。

 よく考えればちゃんと面倒も見なくちゃいけないよね。


 そんな風にぐるぐる考えている私に悪魔が囁いた。


  二足歩行ならいけるんじゃない?


 あ、だめだ。そう思ったらもうそうするしかないように思えてきた。

 レオの首輪。

 あれを解析してコピーすれば…。

 アリオスは二足歩行が可能では?

 というか姿替えの術なんだけど。

 錬金術と魔法使いのポイントをもっと取っていけば、出来るかもしれない。いや出来る。出来ちゃうよ。


 ……。


 金色の鬣を風になびかせているイケ馬のアリオスを見る。

 君、人間の姿になる気ありますか?と心の中で問いかけつつ。


 

 いや、レオは魔法生物だから人型をとっても人間風にふるまえるんだけどお馬さんは…

 どうなんでしょうか?


 と自分で自分につっこみをいれつつ。

 


 


 

  

 






 

 

 

 

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