宿屋で…
夜になる前にお宿を取ろうと暮れなずむ王都をぶらつく。
ジュニアが
「と、泊まっていってもいいんだぞ」
みたいな事を回りくどく言ってきたけど、貴族女性はだめで平民女性はよいとかどういう事?と思ったので辞退させて頂いた。
姉妹そろって妾認定はちょっとねー。
私だって、まだ嫁入り前のはしくれ、まだまだグレイブ以外にももらってくれる人がいるかもしれないし。そっち方面はつつかれても困らない方向で身ぎれいでいたい。
「一人部屋を二つでお願いします。」
レオが不承気味だったけど、ワンコ姿じゃ泊めてもらえないだろうし、ワンコ連れでエレの町にいるのは別人設定だから仕方ない。
ようやく見つけた宿は、商人の人達が利用するというややお高めの宿。
いやー、実はここゲームでもお世話になったお宿なんですよねぇ。
運よく狙っていた部屋が空いていたため、チェックインを済ませた後はお部屋の中のクローゼットをがさごそと漁る。
ありました。ありました。
ゲーム中で 入手できるアイテム 体力回復ポーション×3
これってもらっていいのかなぁ?
「あのぉ。これお部屋のクローゼットにあったんですけど」
部屋の前の廊下を通りかかった宿屋の従業員の人に聞いてみる。
「あ、すみません。そこの点検を担当者が忘れていたみたいで。…それ、よろしければお客様の方で処分して頂いてもいいでしょうか?」
それってどういう事?
「廃棄期限が近いものなんですけど、置いていっちゃうんですよねー。お客様の前のご宿泊の方だと思うのですけど。荷物になるし。王都で新しいものを購入済だし、で。そこの工房はポーション瓶の回収もしてないんで。置いていく方は善意のつもりのようですけどねぇ。次の方がアメニティとして活用してくれれば、私共も手間がはぶけるものですから。あはは…。あ、ほらちゃんと封印もしっかりしているし、今まで飲まれた方から特にクレームもないですし。」
いやいや宿屋の姿勢でそれはどうなの?と思うけど、ゲームでもこのポーションは取っても取っても暫くすると復活してたし、つまり故意的に置いて(捨てて)いってる人がいるという訳かぁ。しかも定期的に。
まぁ廃棄期限間近のものなんだものねぇ。そりゃ惜しくはないわねぇ。
苦笑いをしつつ、まぁもらったとしても問題がないという事が判明してほっと胸をなでおろした。
まぁ、私のストレージにいれれば時間経過が止まるんですけどね。
スキルポイントを使って「鑑定」の能力をとって中身を鑑定してみたけれど問題がなく、(異物混入とか劣化による変質が怖いので)普通の体力回復ポーションでした。
窃盗になるんじゃないかとドキドキして無駄でした。
しかしゲームでは賞味期限切れに近いものを掴まされていたのか…なんか複雑。
なるほどなぁとゲームと現実のうまいこと融合を見ていると感無量。
夕飯をレオと一緒に併設されてる食堂でとって、お湯ももらって着替えてお休みなさい…となったところで、
「おまたー」
部屋に置いたランプの作り出す私の影からヤミが出てきた。
そして驚く私の腕を掴むと影の中へずずずっと引きずり込んだ。
室内の中にいたのに、風のふく屋外にいつの間にか出ていてびっくりしてキョロキョロしていると、ヤミが「こっちこっち」と手招きをする。
辺りは闇に囲まれてよく見えないけど、ヤミの手招きしている傍らには内側から光る何か花のつぼみのような物をつけた、人の背丈くらいの植物がある。
「もうすぐ生まれるよ」
声をかけられて、見るとその植物の生えている地面にしゃがみこんでつぼみを見上げているルルがいた。
「ほら開く」
声に促されてつぼみを見ると、その花びらが開いていって、中からポロンと何かが零れ出てきた。
その零れ落ちたものは見る間に大きくなっていってカゲとよく似た黒髪の少年の姿になった。
「あ~これは、ちょっと大変そう。初心者では手を焼きそうですね」
ヤミが口を両手で押さえて言う。何だかうれしそうだ。
「む。恩人にそれは困る」
ルルはそう言うと、懐から何かを取り出すと私に見せた。
「これは私の気持ち」
そう言うと少年の片足にその何かを装着する。
「必要なくなったら取り外しして。…手を」
ルルに促されるまま、その何かに手を添えると、それは金属の輪っかだった。
それは少年の左足の腿の部分にぴたりと嵌っていて動かない。
「登録した。主以外ははずせない」
まったくルルが言う事は言葉足らずで意味がよくわからない。
「えっと?この子は何?え?どうしたら」
「目覚めたら名前をつけて」
「えっとルル?意味がよくわからない!」
叫んだところで目が覚めた。
「変な夢を見たなぁ」
水でも飲もうとベットから起き上る。 いつの間にか寝ていたようだ。
「うぅぅん」
ところが、自分じゃない声が傍らからして驚く。
「だっ誰???」
そう言ってしまったけど、仕方ないよね。
「誰って、オレだよ俺」
オレオレ詐欺かっ!
「名前つけてよご主人様。」
これは、夢うつつで見た、例のつぼみから生まれた奴かっ!
奴はベットの上に身を起こすとあぐらをかいた。
「ご主人様はオレの能力が欲しくて種をまいたんでしょ?」
あくびをしつつ大きくのびをする。どことなく日本人顔なのは私のせいなのだろうか?
「まぁ、種は別の女が手にいれたモノみたいだけどさ」
私の頭の中にルルの言葉がフィードバックする。
「「生まれたら名前をつけてやればよい。よい主人でいる限り、彼らはちゃんと従う。」」
「 「目覚めたら名前をつけて」」
「「行きたい場所、根を下ろさせる。基本行ったところしか移動できない」」
「「成長すると『カゲ』のように人格のような物を持つようになる。どのような姿になるのかは宿主のセンス次第」」
…この生意気そうな小僧が私のセンスだって??
納得いかん。
首を捻りつつも名前を考える。
レオの時も名前をつけたから、こういう存在には名付けが重要らしい。
「ニュイ」
「宜しく頼むぜ。ご主人様」
ニュイはニヤっと笑って言った。




