女騎士 決意をする
「どうか私を父の元へ連れていってくれないだろうか」
目覚めた「黒薔薇」ことダフネ・ミレネアは化粧を落としても、キリリとした目が涼やかな美女だった。
あーあの銀髪騎士の血縁だもんな。美形遺伝子が入ってるんだろうなぁ。
今の彼女を例えていうならば「ベルバラ」のオスカル様?髪は黒だけど。
「私の仕出かした事については、十分に自覚し、反省している。それについては聞かないでほしい」
まぁ普通の貴族令嬢は騎士になるのを反対されたからって、家出はしないよなぁ。いや?するのか?
「自分の後始末は自分でつける。私をコケにしてくれた奴らに一矢報いて死にたい」
いや、生きて?生きて頂戴?助けたかいがないから。
「迷惑をかけた父にせめての詫びに少しでも役に立ちたいのだ」
いやいや、相手は娘の意志を無視したスカポンタンですよ?本当に大好きなんですねお父様が。
例えそれが娘を思う親の気持ちから出た事だとしても、本人無視して子どもの人生を決めてしまうって、本当ゆるやかな虐待ですよね。虐待。
「助けて頂いた上にこのようなお願いをするのは大変忍びないのだが」
あーこのしゃべり方、これが素なんだろうな。かわいそうに性別ひっくり返して生まれてきたならば今頃はもっと自由に生きられたろうに。
職業選択の自由なんてこの時代、この国にはなかった!
「後発隊と共に父を追いかけたい。何やら連中がきなくさい事を言っているのを聞いたのだ」
こちらではヤミさんに頼んで「直接お届け」のつもりだったけれど、普通の移動を提案された。
たしかにヤミさんは便利だけれど、ルルはあまり能力をおおっぴらにしたくない風だったしなぁ。
私としては隠密の能力で先回りをしていろいろしかけたい事があったのだけれど。
「道中の案内に我が家の精鋭をおつけましょう。」
あージュニアったら、また安請け合いを。
この子、フィリップ殿下やマリエステル王女に忠誠を誓っただけではなくてダフネ様も助けちゃうつもり?
どんだけ人が良いの?
この子忠臣なの?忠臣なの?きっと忠臣なのね…。
私が連れて行く必要はなかった。普通、ただの飯屋の看板娘にこういう事は頼まないよね?
完全に、もう私がレオと二人でこのお嬢様を連れていく気でいたわ。
でも物語の強制力みたいなのがあったりしてこの人がまた浚われたりとかするのは避けたい。
男爵家の精鋭さん達を疑う訳じゃないけど…。
せっかく銀髪騎士の弱みとなる彼女を助けたんだから、死なせたくないなぁ。
そうね。それに私は…。
「ねぇ。その恰好で行くの?」
彼女の夢を少しだけでも応援してあげたいんだ。
「淑女の旅行にはいろいろ準備が必要でしょう?私いいお店知ってるの」
「あ、まてダフネ様のご用意は我が家で…」
ジュニアが止めてくれてるけど、私は聞かない。
「女の子の支度は女の子にまかせて!すぐに戻るから馬とか兵糧とかよろしくーー!!」
ダフネ様をレオが担いで私の後に続く。
最近レオとの間のあ・うんの呼吸が怖いくらい。
「待て!ウチにも侍女がい…」
ジュニアが喚いていたけど、もう聞こえなーい。
「馬と兵糧って早駆けでもするつもり…」
執事さん!ザッツライト!
ちんたらと馬車で追いかけていたら追いつかないよ。
「女の子の支度って聞いたような気がしたのだが」
目をキラキラさせてダフネ様が問いかける。
「ええ。特別な女の子の支度はここですね」
「特別?」
「ええ、ここのご主人は2年前の御前試合を見ておられたそうですよ」
ここはかつて私がお世話になった伝説のドワーフさんのお店。
「2年前、まるで少年のような少女が、剣一本でいかつい騎士達を翻弄するのを、感動して見ていたそうです」
体格差が倍もあるような大人の騎士達を相手に、剣一本で勝ち進んだ少女。
最後は負けてしまったけど、その姿が目に焼き付いたそう。
私がこのお店に来た時に、珍しく女物の甲冑がディスプレイされているのを見て、問いかけたら照れながらも理由を話してくれたのだ。
その試合を見て、もっと自分だったら、あの少女剣士の力を引き出すような装備を作れるのに、と思い詰めて、気がついたらその少女剣士用の甲冑を作ってしまっていたといって笑っていた。
着る人もないのにずっと飾っていたのは、その試合が目に焼き付いて離れなかったからだそう。
残念ながらその次の年には少女は出場しなかったから。
「あなたの、剣の腕に惚れ込んだ人がここにいたのですよ」
「わたしを認めて…」
ダフネ様の目は潤んでいた。きっとずっと認めてほしかったんでしょう。
自分の極めた剣の腕を、自分の道を。
「ありがたい。何よりもありがたい。あの試合は私の全てだった。あの試合に勝てたなら、私は私の道を突き進むと決意を持って挑んだ試合だった。私のもてる全力を持って挑んだ」
「わしはお嬢さんの事情は知らないが、わしだったらもっとあんたの力を引き出す装備を作れると思うと悔しかったんだ。さぁこの甲冑をあんたが着ずとして誰が着る?調整をするからさっさと試着してみろ」
店主のドワーフさんも最後の方は照れたのか、ちょっと素っ気なかったけど、その声はちょっと湿っていた。
なんとなくだけど、ダフネ様の事情がわかっていたのかもしれない。
ついでにレオ用の部分鎧と私用の装備を購入し男爵家へ戻る頃になるともう夕方になっていた。
男爵家の前にはすっかり用意を整えた馬と数人の男爵家の騎士達も待っている。
「今から出られるのか?明日にしたらどうだ?」
ジュニアが引き止めるけれど、買い物に時間をかけた分、多少の無理は仕方ない。
「男爵家の精鋭さん達も行くでしょ?大丈夫でしょ」
「なんでお前がそう言う」
私とジュニアが言い争っていると、ダフネ様は申し訳なさそうに言った。
「嫌な予感がするのだ。急ぎたい。私一人でも出かけるつもりだ」
ジュニアはため息をつくと送り出す事に決めたようだった。
「道中お気をつけて。お前達、ダフネ様を頼むぞ」
「はっ」
見れば、この前、ご一緒したばかりのマリエステル王女殿下救出部隊の皆さまではないですか。
私を見てニコニコと手を振っている人もいる。
今日は傲慢高飛車令嬢のコスプレしてないのに。むぅ。
「この礼は必ず。侯爵家の名にかけて」
ヒラリと馬に飛び乗り、兜の前を下すと、ダフネ様は駆けだした。
続いて男爵家の精鋭の騎士さん達も馬を駆る。
「お気をつけて。いってらっしゃい」
私も背伸びをして手を振って見送る。ダフネ様が後ろ手で手を振ってくれた。
私の声が聞こえたようだ。
鎧甲冑姿でもあって、もう立派な騎士さんにしか見えないよ。ダフネ様。
あなたはもう女騎士さんになったんだ。




