裏切られ、騙されて ※銀髪騎士の義姉ダフネ・ミレニア視点
「一体どういう事だ!くそっ、ここにはもういられない!」
カエル頭とは短くはない付き合いだけれど、こんなに声を荒げているのを見るのは初めてかもしれない。
でも、私だって声を荒げて問い詰めたい。
「父からの特別な指示だと言ったじゃない!どういう事なの?私に一体何をさせたの!!?」
「ダフネ様。スパイごっこは終わりのようですな」
「ごっこ?」
カエル頭は父の部下の中では、ちょっと異質な存在だった。
本人が言うには父の部隊の諜報活動を担っているとの話だった。
騎士団の中でも後方支援活動を行う部隊に所属している地味な文官。
でも、それは世を忍ぶ仮の姿で、本当は父直属の諜報員だと、私にはそう言って接触してきた。
その頃、私は興味のない社交界に出なければならなくなっていて鬱々としていた。
父にパーティに出たくないと言えば「義務だから仕方ない。お前なら出来るだろう?」と説き伏せられ
「貴族間の力のバランスや相手を知る事も立派な戦略のひとつだ」などと逃げ道を塞がれた。
強くて偉大な父に少しでも近づきたくて、作りたくもない笑顔を振りまけば、皆私の外面だけを見る人ばかり。
男性貴族は私のうわべだけを見て勝手に「黒薔薇」だの「麗しの乙女」だのレッテルを張りつける。
貴族女性は女性で、好いた惚れただの、どちらが女として各上だの外見を飾り立て見栄を張る輩ばかり。
私が男ならもっと政治の話や他国の話を話題にしてくれたろうか?
ここにいる青年貴族の殆どより私の方が強いと知ったらどんな顔をするだろうか?
貴族としての仮面と私の真実の顔とはどんどん隔離して行き、疲れていた。
そんな時、彼は私にこんな甘言を囁いたのだ。
「閣下はお嬢様の事を頼りにしております。今回の事も、すべてお嬢様の能力をあてにしての事。
剣を振るだけが戦いではありません。情報を知るものこそ見えざる剣を持つ者です」
味方をも欺くため、決してこの関係を口にしてはいけないとの条件をつけられ、私は父の秘密の命だという王家や貴族の情報を男に流した。
すべて父からの指示だという言葉を信じて。
「蜜集め」「カエル頭」
お互いを秘密のコードで呼び合い、私は父の役に立っているものだと、父がそれを望んでいるのだと信じて仕事をし続けた。
それは私の本来の性分とはかけ離れていて苦しく、負担の多い仕事だったがすべては父のため。
私は父に試されているのだとさえ思っていた。
それなのに。
「どういう事なの?何故いつもの連絡係が消えたの?噂では王家への反逆の疑いがかかっているというじゃない!!!」
カエル頭が私に「協力者」だといって紹介した連絡係りが忽然と消えた。
王子殿下に探りをいれれば、反逆の疑いがあるとの嫌疑がかけられているという。
私は一体何をさせられていたのか。
「カエル頭」は本当に父の部下なのか。
「ごっこ?ごっこだったと言うの?」
「大した情報も拾えずに使えませんでしたからね。あなたは」
何を言うの?私は父に期待されこの役目を負わされたのではなかったの?
剣を振る事では決して父に認められなかった。
父は養子に迎えたイザークに、私には決して見せた事の顔を見せる。後継者を見る目をして。
父の娘は私なのに!
どんなに頑張っても、慣れない事までして頑張っても、私が娘だからこそ認めてもらえない。
私は、私は父に認められたかっただけなのに!
「カエル頭」に闘いを挑むが、文官のはずの彼は私より強く、ドレスの私は簡単に打倒され、四肢を拘束されてしまった。
この男はこんなに強かったのだろうか。
私の目は節穴だったのだろう。
悔しくて睨みつけているうちに猿轡をされ、上から何かの薬品と思われる液体を垂らされる。
「まぁでも、今回の遠征についての情報は多少は役にたちましたが。もういいでしょう?あなたの価値は将軍閣下に対する枷といったところですか。娘は娘らしく甘んじて最新のドレスがどうとかそういう事を囀る方が可愛がられますよ?」
悔しい、悔しい、悔しい。
こんな男に遅れをとるだなんて。剣さえあれば、ドレスでさえなければ!
父の足を引っ張る存在にだけはなりたくない。
油断を誘い、逃げるか、それが無理だったら自害を選ぼう。
私が死んだら、父は哀しんでくれるだろうか?
期待できないような娘に父は…
自分の馬鹿さ加減にあきれ、父の名誉を汚した事への後悔とでぐちゃぐちゃになって…
私は意識を失った。




