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一週間付き合った彼女に嘘告だったと笑われたので縁を切ったら、以前から俺を誘っていた美少女が「今度こそ私と遊んで」と言ってきた  作者: 柊ナツキ


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第4話 格好いいところだけ、見せる予定だった

「次、これにしない?」


 砥上が棚から箱を持ってきた。

 さっきまでの札より厚い。蓋には、色の違う形の駒がぎっしり詰まった盤が描かれていた。


「配置の方か」

「約束してたでしょ」

「俺がもう一回って言った途中だったけど」

「再戦の約束は、今できた。こっちは昨日」


 順番の話になると強い。

 俺は点数用紙を折り、テーブルの端へ置いた。


 箱を開けると、問題のカードと小さい盤が二人分入っている。

 同じ問題を選び、決まった所へ最初の駒を置く。残りを全部、枠の中へ収めればいい。


 砥上が問題をめくりながら俺を見る。


「こういうの、得意?」

「残った所から消していけば、何とかなるだろ」

「何とかなる」

「その言い方、覚えなくていいから」


 さっき一局は取れた。

 何もできずに終わるわけではない、と思った分だけ、口が軽くなっていた。

 俺は駒を並べる。砥上はまだ置かず、盤と駒を順番に見た。


「じゃあ、始めよう」


 置くと決めてからの彼女は早かった。

 俺が真ん中の形を揃えている間に、向かいで一つ、小さい音がする。端にぴったりはまった駒へ、次の駒が続いた。


「埋める方からやってる?」

「うん」

「端を先に決めた方が──」


 言いかけて、自分の盤へ戻る。

 砥上へ説明している場合ではなかった。

 手元には、真っ直ぐな三升の棒が一枚。

 盤にも三升、空いている。


 右上に一つ。下の離れた所に二つ。


 棒を縦にした。

 横にした。

 砥上がこちらを見た。


「それ、曲がらないよ」

「分かってる」

「今、曲がるかなって持ち方してた」

「してない」


 棒の端を持ち直す。

 俺が考えるより先に、砥上の最後の駒が盤へ収まった。


「できた」


 声が静かだったので、余計に間に合わなかった感じがした。

 砥上は両手を盤から離す。隙間も、重なっている場所もない。


「……早いな」

「榎並のは?」

「あと一枚」

「見れば分かる」


 彼女の指が、俺の盤の離れた空きを辿った。

 そこへ棒を置く方法は、どう持ってもなかった。


「一回、途中から戻して考える」

「問題を解く方は続けていいよ。勝負はわたしの一勝ね」

「それは消さない」


 さっきの点数用紙が、俺の肘の近くに見えている。

 砥上は満足したように、自分の駒を外した。


 俺は二枚目の形を動かす。

 真ん中で揃えた時は、うまくいくと思った。手元の棒ではなく、空きの方を見ていなかった。

 一枚動かすと、今度は別の駒を置けなくなる。


「言おうか?」

「まだいい」

「一箇所だけでも?」

「自分で考える」


 砥上が、あ、と小さい声を出した。

 顔を上げたら笑っていた。


「さっき、わたしも言った」

「俺のは札じゃないから」

「そこは違うんだ」


 ようやく棒が入った時、俺は思わず盤を彼女へ向けた。

 砥上は自分の駒を箱へ戻さずに待っていた。


「やっと入った」

「最初に棒の場所を残せば、もう少し早いよ」

「最初から、最後のを?」


 彼女は完成した盤の棒だけを抜いた。

 細い空きが、一列に残る。


「これ、入る所が少ないから」

「なるほど」

「手加減して説明した方がいい?」

「そこは、分かると思ってくれていい」


 砥上は棒を戻して、俺の盤と見比べた。


「じゃあ、次は間違えないね」

「今ので全部は覚えられないだろ」

「覚えてなくても、分かったんでしょ」


 さっきの自分の言葉が、こっちへ戻ってくる。

 完成した所を確かめてもらってから、俺は新しい問題を机の中央へ出した。


「次は、こっち」

「今度こそ分かった」

「置く前から?」

「前の間違いは分かった」


 俺が言い直すと、砥上は頷いた。

 新しい配置の最初の駒を置き、残りを持ち上げる。

 俺の手も動きだしたところで、向かいの駒が一枚、盤の縁を跳ねた。


「あ」


 次の一枚まで巻き込んで、テーブルの下へ落ちた。

 砥上の両手が、まだ駒をつかんでいる形で止まった。


「……今の、置こうとした所は合ってた」


 俺は笑うのを我慢した。

 砥上が机の下を見て、口元を押さえた。


「駒の方が先に行った」

「速さでは勝ってたな」


 彼女が笑ったので、俺も笑った。

 椅子を引いて立つと、砥上も反対側へ回る。


「そっちの足元、一枚ない?」

「赤いのなら、ある」

「もう一枚は青」


 赤を拾って机へ戻す。青は隣の卓の手前で止まっていた。声をかけて取らせてもらい、戻ると、砥上が元の問題を並べ直していた。


「手は遅いのか」

「遅くはない。急ぐと落とす」

「急がない方が、結果的に速いかも」

「次に完成させてから言って」


 俺も椅子へ戻った。

 砥上は青い駒をつまみ、一度はめる位置の上で止めた。指の角度を変え、今度は音を立てずに置く。

 全部分かっているような顔をしていた人が、自分の指を確かめている。


 見ていたら、目が合った。


「榎並の方、止まってる」

「……今、考えてた」

「こっちの盤を?」


 俺は手元へ戻った。

 新しい問題でも、砥上の方が早かった。

 点数用紙を開く役は、自分から引き受けた。

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