↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一週間付き合った彼女に嘘告だったと笑われたので縁を切ったら、以前から俺を誘っていた美少女が「今度こそ私と遊んで」と言ってきた  作者: 柊ナツキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/32

第28話 友達を呼んだら、説明役に戻りかけた

 仁科が、自分の駒を動かす前に俺を見た。


「これ、もう行っていいの?」

「その前に、旗が近い所を見て。川沿いの道なら次に──」

「行っていいか、だけ聞いた」


 俺は地図の上で指を止めた。

 日曜の午後一時。ひとますの卓には、四人分の駒が置かれていた。

 昨日の夜に連絡を確かめ、予定の空いていた仁科と大庭も遊びに来た。

 それぞれ二時間分の九百円を払い、今は最初の一局を始めたところだった。


 自分の駒を隣の升へ一つ進めるか、その場所の旗を一つ取る。

 三本集めて出発点へ戻れば勝ち。

 説明したつもりだったのに、俺は仁科の一手先まで話していた。


「そこ、行ける。ごめん」

「じゃあ、こっち」


 仁科は俺の指していない方へ進んだ。

 川から離れた道にある、一本の旗へ向かっている。


「そっちだと、戻るのが」

「自分で、行ってみたいから」


 駒から手が離れた。

 俺も手を引いた。隣の伊都は自分の番を待ちながら、旗がまだ二本残る場所を見ている。


「伊都は、そっち?」

「今、言うと、先に取るでしょ」

「その手は、俺の番より後だろ」

「岳の番、もう来てるよ」


 大庭が一手動かし終わっていた。

 俺は仁科の盤面ばかり見て、自分の駒を出発点へ残したままだった。


「……俺も参加してたな」

「だから、呼んだんだけど」


 伊都が笑った。

 俺も駒を一つ進める。説明していた川沿いの旗には、大庭の駒が先に近づいていた。


「そこ、もう取れない?」

「私の方が、次に取れる」


 大庭は自分の駒へ目を戻した。


「旗、三本ともそこで取るつもり?」

「あれば。移動する回数、少ないから」


 大庭は次の番に一本取り、同じ場所へ駒を残した。

 俺はようやく別の道を探し始めた。遠くても、まだ誰もいない方へ進む。

 その先へ、伊都の駒が向きを変えた。


「そっち、来るの?」

「岳が行く前なら、まだ取れる」


 先に片方を取られた。

 空いているように見えた場所が、誰のものでもないだけだったと分かる。

 仁科は遠回りに見えた道で旗を集め、大庭は同じ所から動かない。伊都だけは、俺が行きたい方へ先に来る。


「説明してた時の方が、いい手を知ってたんじゃない?」


 伊都に聞かれ、俺は残りの道を指した。


「知ってても、今は取らせてもらえないだろ」

「うん。そこは、教えてもらったから」


 仁科が笑った。

 俺が使おうとした橋の先へ、彼の駒が先に戻ってくる。

 取るつもりでいた旗を、もう三本揃えていた。


「戻れたら、俺の勝ち?」

「そう。まだ俺が先に戻れば──」


 言いかけて、自分にはまだ旗が一本足りないのに気づいた。

 それを取って戻る頃には、もう間に合わない。

 仁科は一つずつ、出発点へ戻っていく。


「今日は、こっちでよかった」


 最初に自分で選んだ道を、彼が指した。

 俺は負けた駒を戻し、もう一局なら勝てる気がしたけれど、机の時計は二時の少し前を指していた。


 片づけている所へ、羽鳥さんが紙を一枚持ってきた。


「来月、二人組で出る小さい遊戯会をやるの。興味があれば見てね」


 十一月七日、日曜。午後一時から四時頃まで。

 八組のトーナメントで、勝ち進むと次の種目へ移る。三回勝てば優勝。

 参加費は一人千二百円、飲物付きと書いてあった。


 伊都が、俺より先に顔を上げた。


「岳と出たい」


 紙の種目をまだ読み終わっていなかった。

 伊都は見本の絵ではなく、俺の返事を待っている。


「二人で?」

「二人組って、今聞いたでしょ」


「どのゲームか、まだ見てないけど」

「わたしも。岳は、見たら別の人がよくなる?」


 隣の二人へ目を動かす前に、違う、と返した。

 伊都の口元が緩む。俺はようやく、日付を見る方へ戻った。


 仁科が自分の予定を開いた。


「その日、記録会。俺、こっちは出られないな」

「私も、家で出かける日が先に決まってる」


 大庭は紙の日付を確かめて戻した。


「こっちも、前より縮めたいし」


 仁科は記録会の時刻を予定に入れた。大庭も、自分の家の外出先を確かめている。


「岳は?」


 伊都に聞かれ、俺も予定を開いた。

 七日の欄は空いていた。


「出たい。家の方も、聞いてみる」


「伊都と」


 付け足すと、彼女が椅子を少し寄せた。


「うん。そこは、さっきから空けてた」


 紙には、まだ名前を一つも書いていない。

 俺は二人分の欄を指で押さえた。勝てそうな種目を探す前に、そこへ書きたい相手が決まっていた。


「じゃあ、まず、二人でやる方を試そうよ」

「今から?」

「まだ時間ある。ほら、二時間の途中」


 俺も卓の時計を見た。

 四人のゲームをしても、残りの枠で短い問題なら試せそうだった。

 羽鳥さんが、協力して遊ぶ箱のある棚を教えてくれる。


「ルールを見てから選んでね。申込みは、二人とも予定が大丈夫だと分かってからでいいから」


 伊都が立ち、俺も棚へ行った。

 四人の卓へ戻ると、仁科は、この後、商店街で頼まれた買物をする、と鞄を出していた。

 大庭も、帰る前に古本の店を見たいらしい。


「二人は、まだここ?」

「うん。この箱、一回やってみる」


 大庭へ答えると、彼女は、じゃあまた学校で、と言った。

 仁科も自分の駒を箱へ戻し、俺へ片手を上げる。


「次のそれは、俺の分まで決めないでやれよ」

「さっきも、決めてないだろ」

「決める前に説明が始まった」


 返す言葉が遅れると、伊都が横で笑った。

 二人を見送り、俺は新しい箱を開ける。

 向かい合っていた時より、隣の伊都となら、選ぶのは簡単そうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。