↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一週間付き合った彼女に嘘告だったと笑われたので縁を切ったら、以前から俺を誘っていた美少女が「今度こそ私と遊んで」と言ってきた  作者: 柊ナツキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/27

第20話 今度は、俺から好きだと言う

 自転車を押して戻ると、砥上は広場の端で待っていた。

 通り道から外れた所へ止め、ハンドルの向きを確かめる。


「今日は、邪魔にならない?」

「うん。そこなら」


 彼女は、俺が手を離すのを待った。

 昨日から残してもらっていた時間だった。

 まだ台紙の角が袋から出ている。景品の話も、さっき買った物の話もできた。でも、今から始めたら、いつまでも続きを探してしまう。


「砥上のことが、好きだ」


 彼女の指が、袋の口で止まった。

 俺もその手元を見そうになり、顔へ戻す。


「一緒に遊ぶのも好きだけど、それだけじゃなくて」


 短く言おうとすると、いちばん言いたい所が落ちそうだった。

 砥上は口を挟まず、続きを待っていた。


「最初に、サンド食べに行っただろ。砥上がきのこの方を買って、コロッケは次って言った時」

「うん」

「俺のりんごのパンは、別の日にすればいいって。二回会えばいいって、すぐ言ったから」


 あの時は、画面に次の土曜を出した。

 砥上はまだサンドを食べていて、俺の端末へは触らず、言葉で待ち合わせを選んだ。

 あんなふうに、二回目まで取っておいてもらえると思っていなかった。


「嬉しかった。俺も、また会いたかったから。次だけじゃなくて、その次も決まるのが」


 彼女の唇が少し動いた。

 声は、まだ出なかった。


「木曜に、俺のパンも食べられただろ。なのに、食べ終わるのが惜しくなった。……パンがなくなる方も、あるけど」


 砥上の口元が緩んだ。

 それを見て、俺も少しだけ息をつけた。


「帰るのが、惜しかった。次に何食べるか決まってなくても、砥上に会いたい」


 今は、彼女が次と言ってくれるのを待つだけでは嫌だった。


「勝負しない日も、俺から誘いたい。砥上の彼氏になって、会いに行きたい」


 最後の所で、声が少し固くなった。

 でも、言い直さなかった。


「俺と、付き合ってほしい」


 砥上が一度、息を吐いた。

 持っていた袋を脇へ寄せる。それから顔を上げ、俺をまっすぐ見た。


「……先に、言われた」


 小さい声だった。


「わたしも、今日言うつもりだった」


 俺はすぐには、意味をつなげられなかった。

 昨日の帰りも、今日、何度か目が合った時も。自分が言う言葉ばかり考えていた。

 彼女も、俺へ言おうとしていた。


「何て?」


 聞いてから、聞き返す所じゃなかったと思った。

 砥上は困ったように口を開き、でも、ちゃんと答えてくれた。


「好きだから、付き合ってほしいって」


 俺は動けなくなった。

 砥上も続きを急がず、俺の顔を確かめていた。


「榎並のことが好き。わたしも、付き合いたい」


 もう一度、今度は少しゆっくり言われた。

 聞こえた、と思ったのに、まだ何も返せていない。


「……うん」


 ようやく出た声に、彼女の眉が少し下がる。


「そこは、もう少し喜んでくれていいんだけど」

「喜んでる」

「見えない」

「今、顔をどうすればいいか分かんない」


 言ったら、砥上が先に笑った。

 笑いながら一度口を押さえ、すぐ離す。俺を見る方をやめなかった。


「分かった。今のは、すごく分かった」


 俺も笑ってしまった。

 さっきまで肩の辺りに残っていた力が、一度に抜けた。


「嬉しい。俺、今、すごく嬉しい」

「……うん。わたしも」


 彼女は袋を持ち直した。

 うつむいて隠すのではなく、口元だけが、どうしても元へ戻らないようだった。


「先に言うつもりだったのにね」

「ごめん」

「謝らないで。言ってもらいたくも、あったから」


 最後は俺を見て言った。

 そんなことを言われると、返事をもらった後なのに、また何か伝えたくなる。


「好きだよ」


 口から出た。

 砥上は一瞬止まり、それから、今は聞ける、と言った。


「昨日、聞かないで待った分も、今聞く」

「もう一回?」

「言えるなら」


 俺は笑って、もう一度伝えた。

 砥上が、うん、と受け取った。その一言を聞くためだけに、また言いたくなった。


 しばらく二人とも動かなかった。

 広場の向こうで、バスが一台出ていく。


「次の誘いは、わたしからする」


 砥上が言った。

 俺はポケットの端末へ手をかける。


「来週なら──」

「今日」


 彼女が広場の先を指した。

 川へ出る、一つ先の角だった。


「今から、もう少し歩こう。二人で」


 さっきも一緒に歩いていた、と言いかけた。

 言わなくても、彼女が今取りたがっている時間は分かった。


「行きたい」

「よかった。これなら、次は取れた」

「そこ、数えるんだ」

「告白は先に言われたから。こっちは、わたしが誘いたかった」


 帰る時刻を確かめた。

 二人とも、まだ少しなら歩ける。俺は端末をしまい、自転車のスタンドを戻した。

 砥上が横へ来た。ハンドルを持つ手に、また少し力が入る。


「榎並、歩くの速い」

「ごめん」

「まだ、言う前みたいに歩いてる」


 彼女の歩幅まで、速度を落とした。

 砥上はわざと遅くするでもなく、同じ所を歩いた。


「次、何か食べたい物、もうある?」


 俺が聞くと、彼女が考える。


「ある。でも、決めるのは後でいい」

「何で?」

「今は、榎並と歩きたいだけだから」


 俺も、今は彼女と歩いていたかった。

 行先を増やさず、川の見える角まで歩いた。


 帰る前に、砥上が自分の端末を確かめる。


「明日、学校で会おうね」

「会いに行っていい?」


 彼女が顔を上げた。


「うん。わたしも、行く」


 別れた後、自転車へまたがるまでに、同じ返事を何度も思い出した。

 明日は月曜だった。早く学校へ行きたいと思いながら、俺は家へ帰る道を選んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。