第19話 彼女のふりをしたのは、私です
榎並くんの分まで、四人。
小椋の画面に残っているその数字を、私はしばらく見ていた。
商店街の休憩所には、三人で座っている。
隣の女子が飲物の蓋を閉め、帰る時刻を調べ始めたところだった。
「金曜、まだ四人で頼んでるの?」
私が聞くと、小椋は端末を手前へ引いた。
「前から言ってあった分。榎並が戻るなら、そのまま使えるし」
「戻るって、言われた?」
返事はすぐには来なかった。
私は自分のスマホを出した。
金曜の教室で聞いた、榎並くんの声を思い出す。
知らなかった。
本当に付き合っていると思って、嬉しかった。
本人にそう言わせた時、私は何も返さなかった。
水曜には謝った。私の話は本当だったとも伝えた。その時、彼に分かってもらえなかったことばかり、帰りに考えていた。
ほかの人へ何と説明するかは、後に回していた。
「榎並くんも知ってたって話、誰にした?」
小椋が私を見る。
「そんなに、色んなやつには言ってない」
「誰かは、教えて」
名前を聞いた。
私も連絡先を持っている相手だった。金曜に教室で聞いていた二人だけではない。
そのうち一人には、私が曖昧に笑って、そういう感じ、と返した覚えもあった。
画面を開いて、文字を打った。
『小椋から聞いた話のことで、訂正したいです』
そこから先へ、指が進まなかった。
私から言わなくても、金曜に榎並くんが答えている。もう分かっている人もいるだろう。
そう思って、また閉じたくなった。
隣の女子が、私の手元を見る。
「私も、聞かれたら言う。知ってて黙ってたの、こっちもだし」
私は頷いた。
でも、その返事に任せて端末をしまうことはしなかった。
『榎並くんは、罰ゲームだと知りませんでした。私が一週間、恋人のふりをしていました』
送信の手前で、自分の書いた文を読み直した。
ふり、という言葉が残った。
彼には、今からそんなふりをして、と頼んだことは一度もない。本当に付き合いたいと、こちらから言った。
『ほかの女子との先約を断ってほしいと頼んだのも、私です。本人も了解して遊んでいたという説明は、違います』
相談は本当でした、と続けかけて、消した。
入力欄へ残った文は、私が何をしたかだけになった。
私は送信を押した。
通話の記録や、榎並くんからの私信は添えなかった。
一人分を送ってから、もう一人へも連絡した。
返事が来るまで画面を開き続ける代わりに、端末を机へ置く。
「私、榎並くんには謝ったのに、人に聞かれた時はちゃんと言ってなかった」
小椋は自分の画面を見ていた。
「俺だって、あいつを困らせたかったわけじゃないし」
「困ってるって言われても、戻ると思ってたでしょ」
言った後で、私も同じだったと思った。
夜に話すだけなら。恋人でなくても。少しなら。
「四人用ができなくなるのは、分かる。でも、その一人にまた榎並くんを入れないで」
小椋が、店とのやり取りを開いた。
「これ、三人じゃできないんだよ」
「違うのにするしかないんじゃない」
隣の女子は、誰か誘えるかと探し始めはしなかった。帰りの時刻を確かめていた画面を閉じ、小椋の返事を待っていた。
「せっかく入ったやつなのにな」
小椋は端末を持ち、休憩所の端へ寄った。
店へ電話をかける声が、少し離れて聞こえた。
「金曜に四人って言ってた分、三人に変えたいんですけど」
別の種目でもいいかと聞かれたらしく、間が空いた。
小椋は一度こちらを見た。
「……はい。三人でできる方で」
電話が終わると、彼は自分の端末で別の連絡先を開いた。
「俺が言ったやつにも、今言っとく」
文面を見せて、これでいいか、と私に聞こうとした。
私は彼の端末を受け取らなかった。
「自分が言ったことを、直して」
小椋はしばらく打ち直し、送った。
私の画面にも一つ、返事が来ていた。
『分かった。本人も知ってたんだと思ってた』
その先に、大丈夫だよ、とは書かれていなかった。
私は、読んでくれてありがとう、と返した。
榎並くんへ、訂正したよ、と連絡する文は作らなかった。
彼がここへ来て、もういい、と返す場面を考えてしまってから、私は鞄へ手を戻した。
小椋の予約の画面は、三人になっていた。
別の種目の候補が二つ、下へ送られてきている。
「今度は、短い方がいい」
隣の女子が言った。
小椋は長い方の説明をまだ読んでいたが、私が同じ方を指すと、そちらを開いた。
「……これなら、三人で終わるか」
私のスマホにも、三人分の次の予定が届いた。
榎並くんへ見せるための文は作らず、私はそれを自分の予定へ入れた。




