第18話 全員分の正解が、地図にない
仁科が、台紙より先に屋台の案内を取った。
「最初、どこ?」
「受付」
「いや、その後」
俺が指すと、仁科は紙を裏返した。食べ物の方しか載っていない。
砥上が自分の地図を広げ、四つの丸を見せた。
日曜の一時。入口の時計の前に、四人が揃った。
月曜に部活の予定を確認した仁科からも行けると返事が来ていて、今日は午後を空けてある。
俺は自転車を入口の駐輪場所へ置き、参加の案内を聞いた。それぞれ参加費を払い、台紙を受け取る。
商店街の四地点で印をもらえば、小さい達成景品と交換できる。
全部は回らなくても、途中の催しを見るのは自由だった。
「順番は、こっちからでいい?」
俺は地図へ線を引いてきていた。
四箇所を回り、受付へ戻る。交差する道を減らせば、急がなくても全部埋まる。
大庭が線の途中へ指を置いた。
「ここ、資料室。二時から説明があるんだって」
「その時間だと、二つ目の後くらいだな」
「中、少し長く見たい」
仁科も自分の紙を並べた。
「焼きたての串、その時間からなんだよな」
同じ二時の数字が、別の場所へ印刷されていた。
俺は線の横へ、二つの時刻を書いた。
「仁科が二時に串へ行って、大庭が資料室なら──」
「串だけ持って合流、は嫌だよ。焼ける所も見たい」
まだ何も頼んでいないのに、仁科が紙を引き寄せた。
大庭も時刻を確かめている。砥上が俺の地図を覗いた。
「榎並が二人になれたらね」
「俺が二人いても、資料室へ行く方が二人になるだけだろ」
「じゃあ、足りないね」
向かい合って笑いかけ、昨日の帰りを思い出した。
砥上と話す時、どこへ自転車を止めようか。
地図の余白へ丸を描きかけ、俺はペンを止めた。
「先に説明を聞いて、終わってから並ぶなら」
「その分、最後が遅くなるね」
砥上が四つ目の地点を見た。
そこだけ商店街の端から離れ、坂の向こうにある。
「景品、何だっけ」
彼女が受付の見本を見に行く。
小さい金属の駒の形をしたものだった。もらえると決まったものは取りたいらしく、戻ってきた顔は少し考え込んでいた。
「まず、行こう。二つ目までは同じ道だし」
四人で最初の丸へ向かった。
店先で渡された短い問題を解き、台紙へ印を押してもらう。仁科は並んでいる間、隣の店で売る飲物を見ていた。
大庭は、問題の下に載った昔の写真を見ている。
「ここ、今は駐車場なんだ」
「写真だと、何がある?」
「小さい映画館」
俺も覗いた。
ただ印をもらって進めば、読み飛ばす所だった。
二つ目を終えた時、資料室の前で人が集まり始めていた。
大庭の歩く方が、少しそちらへ向く。
俺は時計を見た。
「入ろう。説明、最初から聞きたいだろ」
「うん」
中へ入ると、大庭は写真だけでなく、その下の古い地図まで熱心に見た。
仁科も、今の串の店が昔は別の食べ物を売っていたと聞き、そこだけ前へ出てくる。
「場所は、ずっとここなんだ」
写真と自分の案内を見比べていた。大庭が、前の庇も同じ形だよ、と指すと、仁科もそちらを見た。
砥上は展示の丸い看板を指して、あれ、今もあるよね、と俺へ聞いた。
道を歩く時の目印が、彼女にも増えていた。
外へ出ると、串の店には列ができていた。
仁科がその先を見てから、俺たちを振り返る。
「……待ってもいい?」
最初から当然のように並ぶわけではなかった。
砥上が台紙を見た。俺も、受付の終わる時刻を確かめる。
「待つと、坂の上の方、きついかも」
「やっぱり?」
仁科が列をもう一度見る。
大庭は見たい説明を最後まで聞けている。俺はここで、もういいだろ、と先を急がせそうになった。
俺の線を全部通ると、誰かが見たかった物を急いで通り過ぎる。
「俺も、寄りたい所がある」
三人の顔がこちらへ向く。
「三つ目、川沿いの方だろ。あそこで座って食べたい。砥上も、前にあの通り、気になるって言ってたし」
砥上が地図を開き直した。
川へ続く道の先には、小さい店が何軒かある。
「うん。行きたい」
「全部回ってからだと、通り過ぎるだけになると思う」
それは、俺の希望でもあった。
砥上と同じ物を見て、何が気になるのか聞きたかった。景品へ間に合わせるために、彼女が店の前で止まるたび時計を見るのは嫌だった。
「じゃあ、三つ?」
大庭が台紙を指した。
「うん。今日は三つと、見たい物と、串」
仁科が少し笑う。
砥上はすぐに頷かず、景品の写真をもう一度見た。
「欲しくは、ある」
俺たちは待った。
彼女は写真から地図へ戻り、自分の指で川の方を辿った。
「でも、そっちも見たい。今日は、三つにする」
俺も、もう一度地図の坂を見た。
「四つ目は、また来た時でもいいか」
砥上は台紙の白い所を軽く押さえ、顔を上げた。
「景品は今日だけだけどね。そっちの店、ゆっくり見るよ」
「うん。俺も見たい」
ようやく地図を畳んだ。仁科は先に、買う物の写真を確かめていた。
仁科は三本を自分の分として買った。
見ていたら俺も食べたくなり、同じ物を頼んだ。砥上はその隣で小さい揚げ菓子を見つけ、大庭は飲物だけを選ぶ。
四人の持つ物が、それぞれ違った。
川沿いの三つ目で印をもらい、少し離れたベンチへ座った。
台紙の一つだけ、白い欄が残っている。
砥上はそれを鞄へ入れ、揚げ菓子の袋を俺の方へ少し傾けた。
「こういう形なんだって」
俺は覗き込んだ。
丸いと思っていた端が、妙に長く伸びていた。
「これも、急いでる鳥?」
「鳥にするのは、食べる前にやめて」
砥上は一度笑ってから、端を小さくかじった。
俺は自分の串へ戻る。隣で仁科は、三本を並べて焼き加減を見比べていた。
「ここ、来てよかったな」
言うと、砥上が俺を見た。
「うん。榎並が来たかった方で、よかった」
仁科は最後の一本を、ゆっくり食べていた。
大庭が隣で、さっき見た写真の話をする。
俺はその続きも聞いてから、砥上へ気になった店の方を指した。
彼女が袋を持って立つ。俺は、自分が帰りに何を言うつもりか、また意識した。
今度はそれを理由に急がず、彼女が気になった棚の前で一緒に止まった。
夕方に受付へ戻る頃には、それぞれの袋が増えていた。
達成景品とは交換せず、台紙は持ち帰る。
仁科は帰りに家の買物を頼まれていて、大庭は迎えに来る家の人へ連絡を入れた。
道の分かれる所で、二人にまた学校で、と言った。
俺は自転車の鍵を出した。
横で砥上が、一度だけ時計を確かめる。
「この後の時間、まだある?」
昨日の約束だった。
俺は頷き、自転車を取りにいった。




