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一週間付き合った彼女に嘘告だったと笑われたので縁を切ったら、以前から俺を誘っていた美少女が「今度こそ私と遊んで」と言ってきた  作者: 柊ナツキ


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第17話 明日の帰りは、わたしに残して

 最後の一手を取った砥上が、箱を閉めた。

 短い利用枠で一局だけ。俺にはまだ、違う手を出せた気がしている。


「もう終わり?」

「時間、終わりだよ」

「分かってる」

「明日なら、勝負しないから負けないよ」


 慰めになっていなかった。

 階段を下りると、彼女が俺の少し前で足を止める。


「昨日、何かあった?」


 自転車の鍵を開けながら、俺は顔を上げた。


「予定は変わらないって、わざわざ送ってきたから」


 二組で聞かれたことを、押して歩きながら話した。

 最初から冗談だと知っていたのかと聞かれ、違うと答えたこと。小椋がそう説明していたらしいこと。


「本当に信じてたって、自分で言った」

「うん」

「言う方も、結構恥ずかしかった」


 砥上は少し歩いてから、聞いた。


「今日、来てよかった?」

「よかった。負けたけど」

「それは別でしょ」

「分かってる。俺、今日も勝ちたかったし」


 返すと、彼女の口元が緩んだ。

 俺はまだ少し、最後に取られた手を考えた。でも、別の話も聞きたくなった。


「あの鳥、どう置いた?」

「あ、見せる」


 出てきた画面には、白い箱があった。

 仕切りの中に木の鳥が一羽。上がった翼が、ちゃんと手前にある。


「俺が見てた向きだ」

「そう。こっちから撮ったから」


 二枚を送ってもらうと、広く写した方では、青い鳥も隣にいた。

 棚の青と、箱の白。あの日、店の外でようやく想像できたものが、彼女の部屋に収まっている。


「翼、隠れなかった?」

「置いてみたら、少し隠れた」

「そっちに決めたのに?」

「だから、箱の中でもうちょっと回した」


 写真を指で広げて見せられる。

 言われないと分からないくらい、首がこっちへ向いていた。


「榎並なら、そこ聞くと思った」


 送られてきた写真は二枚とも小物だけなのに、俺はなぜか、すぐには画面を閉じられなかった。

 砥上が俺へ見せるために、鳥の前で端末を持ち直しているところを想像した。


 角まで来ると、彼女が聞いた。


「明日、四人で一時。入口の時計の前でいいよね」

「うん」

「帰りは?」

「自転車、あそこに置くから。イベントが終わってから──」

「乗って帰る前」


 彼女が俺の方へ向き直った。


「終わってから、少し二人で話したい」


 俺は足を止めた。

 自転車の車輪が少し横へ向く。


「回り方の、続き?」

「終わってから、どこへ回るの」

「……そうだな」


 砥上は笑わなかった。

 俺も、地図の話へは戻せなくなった。


「榎並に聞いてほしいことがあるから。帰りの時間、わたしに残して」


 どこを見て返せばいいか迷った。

 彼女は返事を聞くつもりで俺を見ている。鞄のどこにも、次の遊びの箱は出ていなかった。


「夕飯までには帰るけど、その前なら」

「うん。わたしも、一本早いバスに乗ろうとして急がない」


 すぐそこにバス停がある。

 時刻表へ目をやった彼女が、また俺を見た。その横顔へ、何かを言いたくなった。

 今日も来てよかった、では足りない。明日も楽しいだろうな、とだけ返して終わりたくなかった。


「俺も、明日の帰りに話したいことがある」


 声が出ると、砥上の唇が少し開いた。


「榎並も?」

「うん。大事なこと。自分から言いたい」


 彼女は端末をしまいかけたまま止まった。

 俺は自転車のスタンドを立て、彼女へ向き直る。


「聞いてくれる?」

「聞く。……今、ちょっと聞きたくなったけど」


 俺まで、今言ってしまいそうになった。

 それを待つように砥上が動かなくなったので、余計に言葉が喉へ来る。


「明日、ちゃんと話す」

「うん。じゃあ、明日」


 砥上は手を鞄へ戻した。

 すぐには歩きださず、俺を見ていた。


「榎並も、その顔で明日までいるの?」

「どんな顔?」

「聞いたら、今言っちゃいそうな顔」


 俺は自転車の方を見た。

 車輪の先が、通る人の邪魔になりかけていた。


「……ここ、端へ寄せる」

「うん。それは、今日して」


 二人で脇へ寄った。

 彼女が家へ、明日はイベントの後に少し話してから帰る、と連絡する。俺も帰宅の目安を送った。

 入力する指が、何度か同じ所を打ち損ねた。


「昼は四人だからね」


 端末をしまった砥上が言う。


「仁科の串と、大庭の展示。忘れてない」

「わたしの景品も」

「そこも」


 彼女がやっと笑った。

 俺も顔が緩みかける。明日はまだ、二人の帰りだけではない。


 バスが来ると、砥上は乗る便を確かめた。

 乗り口へ行きかけて、俺へ戻る。


「先に一人で帰らないでよ」

「話すって、今言っただろ」

「うん。もう一回聞いただけ」


 返す前に、彼女はバスへ向かった。

 乗り込んでから一度こちらを見る。俺が手を上げると、すぐに顔が緩んだのが分かった。


 俺は自転車へ戻った。

 端末を出し、さっきの二枚をもう一度見る。

 片翼の上がった鳥が、こっちへ急いでいる。


 砥上が好きだ。


 明日、四人でちゃんと遊んで、その後に俺から言う。

 保存した写真を閉じたら、今度は彼女の顔を見たくなった。


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