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一週間付き合った彼女に嘘告だったと笑われたので縁を切ったら、以前から俺を誘っていた美少女が「今度こそ私と遊んで」と言ってきた  作者: 柊ナツキ


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第15話 案内する方の砥上さん

「左って言うまで、曲がらないでね」


 りんごのパンを買った後、砥上が言った。

 木曜の休日。商店街の人を避けて脇へ寄り、俺は紙袋を持ち替えた。


「俺、今、まっすぐ立ってるだけだけど」

「地図、見たくなってるでしょ」


 出しかけた端末を戻した。

 砥上は満足したように先へ立つ。昨日の、任せて、という返事より、今日はずっと張り切っていた。


「覚えてきた?」

「うん。赤い屋根の建物まで行って、そこから曲がる。二軒先」

「近いな」

「近いよ。店の前に座れる所もあるから、パン、そこで食べよう」


 ようやく買えたりんごのパンが、袋の中で少し温かい。

 砥上の袋にも、本人が買った小さいパンがある。


「じゃあ、潰さないようについてく」

「うん。そっちをお願い」


 赤い屋根は、すぐ見つかった。

 入口の両側に花の鉢が置かれている。彼女はそこを見て、右へ入った。


「左って言わなかったけど」

「ここは右だった」

「危なかったな、俺が左へ行ってたら」

「曲がるなって言ったでしょ」


 言われた通りについていく。

 建物の向こうへ出れば、通りと並ぶ細い道があるんだろう。俺もそう思っていた。

 先に見えたのは、柵だった。


 砥上が止まる。

 俺も止まった。

 二軒先どころか、この先に一軒もない。


「……雑貨、置いてないな」

「ちょっと待って」


 彼女は柵の横を見た。小さい看板も、開いた門も見つからない。

 端末を出して地図を開くと、さっき曲がった方へ顔を戻した。


「逆だ」


 俺の方へ向き直る。


「ごめん。あの入口を前にして、右だと思っちゃった」


 地図の上と、実際の建物の正面が違っていたらしい。

 彼女はすぐ戻りだしかけ、俺がまだ横に立っているのを見た。


「榎並も、何か違うと思わなかった?」

「二軒目が、ずいぶん奥だなとは」

「そこ、言ってよ」

「砥上が、まっすぐ行けって」

「柵までは、言ってない」


 言い終えた彼女が、先に口元を押さえた。

 俺も笑ってしまい、紙袋を落とさないよう持ち直す。


「地図の得意な人、連れてきたつもりだったのに」

「今日は、頼りになる人に案内してもらうつもりだったから」

「どっちも、人のこと当てにしてたんだ」


 赤い屋根まで、二人で戻った。

 今度は彼女の開いた画面を一緒に見る。実際の入口が横を向いているのを確かめると、小さい矢印も見つかった。


「こっち。今度は左」

「了解」

「そこは、もう覚えた」

「俺も。柵の方は、かなり詳しくなった」


 砥上が肘を引くような動きをして、やめた。

 俺は一歩離れて、知らない顔で通りを見た。そんな顔で誤魔化せるくらいには、彼女もまだ笑っていた。


 店は本当に二軒先だった。

 ガラスの戸の向こうに、小さい器や木の飾りが並ぶ。

 砥上は入る前に一度だけ、俺を見た。


「ここへ、来たかったの」

「分かってる」

「さっきの所じゃなくて」

「それも、分かってる」


 彼女が戸を開けた。

 棚を見た途端に速くなる目を見て、俺も早く入りたくなった。


 砥上は木の小物を見つけ、俺へ指した。


「あれ、榎並も見る?」

「見る。砥上は、何が見たかった?」


 彼女の顔が入口へ戻る。

 ガラスの小さい家が、三つ並んでいた。


「……先、そっちでいい?」


 一番低い屋根の前へ、彼女がかがんだ。

 俺も横へ行く。丸い窓の向こうに、色のついた点が透けていた。


「これ、横から見ると、窓がもう一つある」


 言われた方へ回った。

 砥上が反対側から見ていて、ガラスの屋根越しに、目だけが少し大きく見えた。


「榎並、見えた?」

「うん」

「窓?」

「……窓も」


 彼女が顔を上げたので、俺は今度こそ小さい窓を指した。

 よく見れば、壁の線と重なっていた窓が、こっちからだけ開いて見える。


「これを見せたかったのか」

「うん。写真だと、正面しか載ってなかったから」


 砥上はしばらく比べて、低い屋根の家を選んだ。

 会計へ持っていく前に、もう一度だけ、横の窓を俺に見せた。


 店の前には、言った通りベンチがあった。

 袋から出したりんごのパンは、まだ少し温かい。

 彼女も自分の分を出し、買物の袋を足元へ置いた。


「パン、こっちで食べてよかったな」

「柵の前じゃなくて?」

「自分から戻さなくていいだろ」


 俺がかじる前に笑うと、砥上も紙を開けたまま笑った。

 ようやく一口食べた。思っていたより、りんごが厚い。


「どう?」

「うまい。次、砥上もこっち食べてみれば」

「うん。でも、わたしのもおいしいよ」


 見せられると、そっちも気になる。

 俺は彼女の袋を見てから、足元の小さい家へ目を戻した。


「道、間違えた所ばっかり覚えないでね」

「窓も、覚えてる」

「本当に、窓を見てた?」


 答えかけた。

 彼女の方を見ると、今度は砥上が、窓も、ね、と先に言った。

 俺はもう一口パンをかじった。彼女が自分の分を食べ始めるまで、しばらく味に集中するふりをしていた。


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