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一週間付き合った彼女に嘘告だったと笑われたので縁を切ったら、以前から俺を誘っていた美少女が「今度こそ私と遊んで」と言ってきた  作者: 柊ナツキ


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第14話 本当の相談なら、戻ってくれると思ってた

「榎並くん、今、少しいい?」


 帰りの支度をしていると、真壁に呼ばれた。

 机の上には鞄がある。小椋は先に教室を出ていて、残った何人かも、それぞれの用事へ動いていた。


「何?」

「この前のこと」


 俺は閉めかけたファスナーから手を離した。

 真壁は自分の椅子を持ってこなかった。机の横に立ち、鞄の持ち手を両手で握っている。


「ごめん。ちゃんと言ってなかったと思って」


 俺は返事をせずに待った。


「告白して、付き合ってるみたいにして。あれは、本当に悪かった」


 声は小さかった。

 教室で聞き返したくなるほどではなく、ただ前みたいに、隣の小椋へ振り向ける言い方でもなかった。


「……うん」

「でも、電話で話したことは、嘘じゃない」


 真壁がようやく顔を上げた。


「友達のこととか、委員会の話とか。聞いてほしかったのは、本当だった」


 机の端に置いていた自分のスマホを見た。

 あの夜の声は、覚えている。

 教室で言いそびれたことを、家へ帰ってから聞いた。途中で笑いもしたし、俺の方のくだらない話もした。


「あの話まで、全部作ったとは思ってない」


 俺が言うと、真壁の肩が少し下がった。


「そういうのも、笑うために話したって思われたら、嫌で」

「それは、分からない所もあるけど」


 真壁の顔が止まる。


「俺は一週間、嘘だって知らなかったから。今、何がどこまで本当だったか、自分で確かめ直せない」


 あの夜、俺が話の途中で笑った所へ、今から線を引くことはできなかった。

 真壁も、次の言葉を探している。


「相談は、本当にしたかった」


 もう一度言われ、俺は頷いた。


「分かった。それは、聞いた」

「じゃあ、前みたいには、話せない?」


 真壁の手が、鞄から片方だけ離れた。

 いつも、机を寄せる時に空けていた側へ出かけ、途中で戻る。


「付き合ってなくても。夜、ちょっと連絡するくらいなら」


 言ってから、真壁は俺の机のノートへ目を落とした。


「あの時、間違えたって言ってた問題、もう分かった?」


 通話で、俺からした話だった。

 小テストの同じ所を二回間違え、自分でも少し笑ってしまった。真壁も電話の向こうで笑った。


「……分かったよ」

「そっか」


 彼女は少し笑いかけた。

 俺が返さないのを見て、そのまま口元を戻す。

 今日も、似た所を間違えかけていた。

 それを話しかけて、やめた。真壁はまだ、ノートを見ていた。


 俺は、自分の机の中を確かめた。

 今日は忘れ物はない。出ていこうと思えば、そのまま帰れた。

 でも、ここで曖昧にして明日また同じ返事をするのも、嫌だった。


「俺が砥上との約束を断ったの、覚えてる?」

「うん」

「真壁に嫌な思いをさせたくないと思って、断った。真壁は、それが嘘だって知ってた」


 持ち手が、彼女の手の中で少しねじれた。


「……ごめん」

「相談が本当でも、そこは変わらない」


 真壁は目を伏せた。

 怒鳴りたいわけではなかった。彼女の言う、夜に少し話すだけ、が、俺にとっては少しだけで済まなかった。


「電話、嫌だった?」


 聞かれて、俺も下を見た。

 鞄のファスナーが半分だけ開いていた。


「嫌だったら、毎晩あんなに待ってないよ」


 そこまで聞いた真壁が、ようやく俺を見た。

 嬉しかった方まで消してからなら、もっと楽に帰れたかもしれない。


「話せて、嬉しかった。だから、今はもう、その相手には戻れない」


 俺はファスナーを最後まで閉めた。

 真壁は何か言いかけ、息を止めるように口を閉じた。


「……砥上さんとは、まだ遊んでるんだね」


 俺の中で、返事の形がいくつか浮かんだ。

 彼女とは、ただの対戦相手だから。まだ何でもないから。そう言って真壁を安心させる必要はなかった。


「その話は、今しない」

「そっか」


 俺は鞄を肩へかけた。


「謝ってくれたのは、分かった。夜の連絡は、もうしない」


 彼女は、今度は聞き返さなかった。

 ただ、俺が通れる分だけ、足を横へ動かした。

 前ならそこへ、彼女の椅子を一つ入れていた。


 教室を出ると、廊下で別のクラスの生徒が掲示を見ていた。

 俺はその横を通り、自転車置場へ下りた。

 鍵を開ける手が少しもたついて、鞄を籠へ入れ直す。


 スマホに、砥上からメッセージが来ていた。


『明日の店、地図見ておいた。パンの後、わたしが案内する』


 俺は画面を見てから、家へ帰る方の道を見た。

 今あったことを全部送って、返事を待ちたいとは思わなかった。


『分かった。楽しみにしてる』


 そう返すと、すぐに短い返事が来た。


『任せて』


 端末を鞄へ入れ、俺は自転車を出した。


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