表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/65

24話 シャリっと真実の一端をかじる



陽が高くなった昼下がり

ティアはベッドの上でぐでんと溶けていた。


「ふにゃぁ〜……食べたぁ……」


朝食どころか、昼食までしっかり平らげたふたり。

満腹のまま部屋に戻ると、やわらかなシーツと昼の光に包まれて、静かな気配だけが漂っていた。


ティアがうつ伏せで眠りそうになっているその腰あたりを、ニャエルがじっと見つめている。

しばらく迷ったあと、そっと手を伸ばし、尾てい骨のあたりをつまんでみた。


「ひゃっ──!」


ティアがビクンと跳ね、枕に顔を埋める。

赤くなった耳がぴくぴく揺れ、背中が波打つように揺れていた。


「尻尾、生えてきたんじゃない?」


ニマニマと笑うニャエルの声が、悪戯っぽく響く。

ティアは枕から目だけを出し、恥ずかしさと怒りが混じった表情でにらんだ。


「ふ、不意打ちはだめ……」


そんな抗議をよそに、ニャエルは背を向け、ガントレットを手に取って装着し始める。

カチリ、と金属の音が控えめに鳴る。


「不意打ちはボクの得意技にゃ」


「……それ、付けるの?」


指先までしっかりと装着しながら、ニャエルは振り返る。


「うん。この街は平和だけど……今日はティア、剣持ってないでしょ?」


「ふふ、私の護衛だね」


ティアはくすぐったそうに身をよじらせながら、枕に頬を埋めた。


ニャエルはくすっと笑い、隣に腰を下ろす。


「お守りしますよ、お嬢様」


そう冗談めかして言いながら、ティアの頭をやさしく撫でる。

撫でられるたびに、ティアは枕の中でもじもじと足を動かしてしまう。


「……だから不意打ちは卑怯なんだってば……」


「ほら、準備しないと。お出かけ日和だよ」


ティアはしばらく、撫でられては潜り込み、また撫でられては顔を出す。

そんなやりとりを何度か繰り返して、まるでバターになりそうなくらい、とろけていった。



支度を終え、ふたりは宿を出る。

通りにはやわらかな陽光が降り注ぎ、遠くで教会の鐘が澄んだ音を響かせていた。


「さて、どこに参りましょうか」


「……教会に行こう!」


ティアが答えると、ニャエルはすっと手を差し出した。

だが、ティアはおもむろに二の腕を掴んでしまう。


「また腕なの……ふわふわ好きだね」


「だって、気持ちいいんだもん♪」


揉まれ、揉みながら、ふたりは笑い合って歩き出した。

昼の光に照らされた石畳の道を、肩を並べて進んでいく。

通り過ぎる人々の中で、ふたりの歩幅だけが、静かに絡みあっていく。


「精霊に会いたいの?」


「んー……会えるなら、会いたいかな」


「近くにいないって感じる?」


その問いに、ティアは少し考え込む。


「うん……村にいたときより、“いない”って感じかも」


「やっぱり感じるんだ。……すごいな、ティアって」


角を曲がると、教会の建物が姿を現す。

白い外壁に、金と青の装飾が施され、陽に照らされて尖塔がきらめいていた。


静かな空気のなか、信者らしき人々が門前に集っている。

どこか重たく、凛とした気配が辺りに漂っていた。


「ねぇ、ニャエル。“結界”って知ってる?」


「おお……ティアの口からそんな言葉が出てくるなんて」


わざとらしく驚いてみせるニャエルに、ティアはむくれて頬をふくらませる。


「茶化さないで……田舎者なのは分かってるけどさ……」


そのまま、ぐいっと二の腕を揉む。


「村には出ないんだね。街では”いない”かも知れないけど“出る”ことがあるよ」


「“出る”? 何が?モグラ?」


「モグラが出るのは村だにゃ……」


ニャエルは吹き出しそうになりながらも、真面目に続ける。


「栄えた街が廃れて、墓場が放置されると──ゾンビ、グール、レイスっていう順に、出てくるんだよ。最後は魔界と“繋げるもの”リッチが出る」


ティアはふと、妖精のイフとシルが言っていたことを思い出す。


「……妖精がレイス、精霊がリッチになるってこと?」


ニャエルはぎょっとしたように目を見開き、周囲を見回してから声を潜める。


「えっ……わかんないけど、なんかソレ妙に説得力あるね……。とにかく、ゾンビが出ないようにするのが“結界”ってわけ」


ティアは眉をひそめ、何かを探るように呟く。


「……でもほんとにそうかな。結界ってゾンビを抑える感じじゃないような……」


「ちょ、ちょっと!教会の前でその話はストップ!」


気づけば、ふたりの周囲には信者たちの気配がちらほら。

中には鋭い視線を投げかけてくる者もいた。



足早に教会を離れたふたりは、通りの露店で落ち着いた。


ニャエルは赤くつややかな果実を二つ買い、ひとつをティアに手渡す。

ひんやりとした皮から、ほんのり甘い香りが漂ってくる。


「……なんか、ごめんね。ありがと」


「ううん、いいよ。興味深い話だったから」


ティアは果実をくるくる回しながら眺め、そっとかじりついた。


シャリ──という軽やかな音とともに、冷たい果汁が弾け、口元からこぼれ落ちる。


「むぐっ!?」


「ふふっ、初めて食べると、そうなるんだよね。はい」


ニャエルが懐から白い布を取り出し、ティアの口元を優しく拭ってくれる。

アゴや首元まで果汁がついてしまい、丁寧に拭かれるたび、くすぐったそうにティアが笑う。


「ほひほほに?」


「……飲みこんでから喋ろうね」


ティアはごくりと喉を鳴らし、指さした先を見上げる。


門の外、遠くの山の中腹に、白い建物が小さく見えた。

屋根は円錐型で、どこか教会を思わせる佇まい。


ニャエルが不思議そうに眉を寄せる。


「アレはなに?」


露店のおじさんが陽気に答える。


「ああ、あれか。ジオ教会だよ。あんなとこに建てたって、誰も行かねぇのにな」


「北の教会……聖ジオ・クラシー、か」


ティアは目を細めてその建物を見つめた。


「……あそこなら、風の声がよく聞こえるね。」


ふたりが見上げたその先から、ちいさな風が──ほんのかすかに、こちらへ吹いてきた気がした。





シャリ……


「甘い……」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ