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18話 無骨な工房と、咲いた花



陽が傾きかけた午後。


街の空は、ゆるやかな金色に染まりつつあった。


ティアは、今朝と同じ場所──冒険者ギルドのすぐ外で、ひとり待っていた。

石畳に伸びる影を見つめながら、そっと吐いた息が、風にさらわれていく。


ギルドの扉が軋む音とともに、ニャエルの声が聞こえた。


「ティア、お待たせ」


黒い耳がぴこぴこと揺れて、手には小さな袋を下げている。


「はい、これ。ティアの取り分。銀貨二十枚ね」


差し出された袋を受け取ると、指先にひんやりとした重みが伝わった。

思わず、ぎゅっと握りしめる。


「……え、多くない?」


問いながらも、胸の奥に陽だまりのような熱がにじんでいた。

……胸の中に、ひとしずく、甘い熱が落ちた。


「ふふ。セラさんが、けっこう色つけてくれたからね。疲れてない?」


「うん、だいじょうぶ。……これから、どうしようか?」


その言葉の途中、ニャエルの手がふいに伸びてきた。

優しくティアの髪に触れ、指先がそっと撫でる。


「ふあ……」


思わず間の抜けた声がもれて、ふたりとも、はっとして目をそらす。


「てぃ、ティアって意外と体力あるよね。森でも、わりと軽やかだったし」


撫でられた頭にそっと手をやって、ティアは背筋をきゅっと伸ばす。


「や、山育ちですから!」


胸を張って両手を腰に当てたあと、少し恥ずかしそうに目を逸らす。


(……ちょっと、やりすぎたかも)


「ふふ、そうだったね」


ニャエルの笑顔が、午後の日差しにとけていく。

その光の中で、ティアの胸の奥にすうっと何かが満ちていく気がした。


「……じゃあ、そろそろ行こっか。鍛冶屋。ティアの剣を選びに」


「……うん!」


ぽつりと咲いた花のような返事。

ふたりは、並んで歩き出す。



◇⋆。・゜゜・ :゜・⋆。◇⋆。・゜゜・ :゜・⋆。



街の西側、工房が集まる一角。

金槌の音があちらこちらで鳴り響き、通りはまるで“働く音”で満たされている。


「わあ……すごい。みんな作ってる……」


ティアが目を輝かせて呟くと、ニャエルは思わず吹き出してしまう。


「ちょっと、なんで笑うの……?」


膨れっ面のティアが軽く抗議すると、ニャエルは笑いながら言葉を継いだ。


「ごめん、ティアって素直なんだなって。なんか……かわいくて」


照れたように笑うニャエルの腕を、ティアはそっと掴む。

その腕は、思ったより柔らかくて、温かかった。


「もしかして……バカにしてる?」


「してないってば。ほんとに」


ふにゃっとした笑みで首を振るニャエル。

けれどティアは、指先に伝わる感触が心地よくて、なかなか手を離せなかった。


「……で、どこで……か、買うの?」


(ニャエルの腕……やわらかいなぁ。あったかい……)


ふと見つめると、ニャエルが前方を指さす。


「あそこ。あの大きな建物。セラさんに聞いておいたんだ。すごく評判がいいって」


言いかけて、自分の腕がずっと揉まれていることに気づく。


ティアは無意識のまま、二の腕をきゅっと揉みしめていた。


「に、二の腕が好きなの?」


はっとして顔を上げるが、手はそのまま。


「……嫌だった?」


ぽつりとこぼれた声は、どこか怯えるように小さくて。

見上げるティアの瞳は、少しだけ潤んでいた。


ニャエルはうろたえながらも、耳をぴくぴく揺らし、慌てたように前を向いて応える。


「い、嫌じゃないよ。ボクの腕で良ければ……いくらでも、いいよ」


「……やったぁ♪」


嬉しそうに笑うティアの声に、ニャエルの頬がほんのり赤くなる。


──二の腕を握られたまま、鍛冶屋の重い扉を押し開ける。


中はひんやりとした空気。

微かに焦げた金属の匂いが漂い、壁には剣や斧、盾が整然と並んでいた。

奥からは、金床を打つ乾いた音が響いている。


無骨な空間の真ん中で。

ふたりだけの、小さな花が──そっと、咲いた。





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