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17話 水の中のやさしい光




「もう討伐してきたんですか!?」


冒険者ギルドの中に、セラの驚いた声が響き渡る。


一瞬でまわりの冒険者たちの視線が集まり、セラは咳払いして、気まずそうに頭を下げた。


「……失礼しました。では、魔石の提出をお願いします」


「ほい。全部で十四個あるよ」


ニャエルは麻袋をドチャッとカウンターに置いた。

──水気を含んだ何かが潰れるような、鈍い音がする。


セラはその音に眉をひそめ、恐る恐る袋の口を開いた。


ふわりと立ちのぼる、鉄のようなの匂い。


「うっ……」


すぐに袋を閉じ、顔をしかめる。


「……ニャエルさん、魔石は“洗って”持ってきてください。もう、どろどろじゃないですか!」


ニャエルは腕を組み、むっとした顔で言い返す。


「『洗ってこい』なんて、言われてないよ?」


セラの眉がぴくっと動いた。


「そういうのは、常識なんですよっ」


あわててティアが間に割って入る。


「あ、あの……ニャエルなりに匂いがわかるようにって、気を利かせたんだと思います……」


「はいはい、分かったよ。洗えばいいんでしょ? 洗い場、ある?」


ニャエルはやや乱暴に袋を抱え直す。


セラはため息をつき、やや拗ねたような口調で返す。


「案内します。……ついてきてください」


ぷいっと背を向けるセラに、肩をすくめながらニャエルがついていく。


(な、仲良くしてほしいな……)


ティアは小さく苦笑し、ふたりの後ろに続いた。



裏手に出ると、ざわめきは遠のき、静かな水場が広がっていた。

木漏れ日が水面にちらちらと反射し、大きな桶や樽がいくつも並んでいる。


その時、ティアの足元に洗濯桶が転がってきて、思わず「ひゃ」と声をあげる。


「そこにある樽の水を使ってください」


セラはさらっと言うが、ニャエルがすぐに抗議する。


「投げなくてもいいだろ」


「手が……滑ったんですっ!」


口を尖らせるセラに、ニャエルはあきれ顔でぼそり。


「子供かよ……」


ティアは桶で水を汲みながら、苦笑いを浮かべた。


セラも袖をまくってしゃがみ込む。


「さ、私も手伝いますから。魔石を入れてください」


その瞬間、ニャエルの口元にイタズラっぽい笑みが浮かぶ。


(……あ、やな予感)


ティアは本能的に半歩後ろへ下がった。


バシャッ。


麻袋の中身を勢いよく桶へぶちまけると、あたり一面に水しぶきが跳ねた。

セラの体がしっとりと濡れ、ぴたりと動きを止める。


満足げに笑うニャエル。


しばしの沈黙のあと、セラは静かに小さな桶で水をすくい──笑顔のまま、ニャエルに向かってばしゃりとかけ返した。


「これで“おあいこ”ですね」


ニャエルは濡れた前髪を手でかき上げ、くすりと笑う。


「ふふっ、気持ちよかったよ」


セラはため息をひとつつき、ティアに視線を向ける。


「ニャエル、身体拭いてこないと風邪ひいちゃうよ。セラさんも」


ティアはふたりを宥めるように言う。


「ボクは平気。すぐ乾くから」


ニャエルはそう言って、猫みたいに身体をぶるぶるっと震わせた。


その勢いで飛んだ水しぶきがティアに降りかかり、「わ、わっ」と慌てて身を引く。


「……私もそこまで濡れていませんから。さあ、洗ってしまいましょう」


三人で桶に手を入れ、魔石を水の中でゆっくりと転がす。

水面には陽の光がゆらめき、洗い立ての魔石と水滴が、きらきらと輝いていた。


「……でも本当に早かったですね。フォレストウルフは警戒心が強いですし、探すだけでも一苦労なのに。何か秘訣でも?」


セラの問いに、ニャエルがちらりとティアを見やる。


ティアは少し戸惑いながら、そっと答える。


「……風が教えてくれたんです」


「風……ですか?」


首を傾げるセラに、ニャエルが微笑む。


「たぶんティアは風の精霊の加護を受けてるんだと思う。そういう昔話を読んだことがあるよ。」


そう言って、ひとつの魔石を手に取り、陽にかざす。

もう血はすっかり落ちていて、歪な石が小さく光る。


「へぇ……すごいですね、ティアさん」


「そ、そんな……私は何も……」


セラもひとつ魔石を拾い、光に透かして見る。


「……うん、これで十分綺麗です。残りはこちらでやっておきますね。あと、残り四個分の精算も。中でお待ちください」


「え、でも……もう報酬はもらったような……?」


首をかしげるティアに、セラは丁寧に説明する。


「あれは前金で、十個分です。あと四個分──銀貨二十枚、お支払いしますね」


「新人が初日で討伐完了だよ? サービス、ないのかニャ?」


ニャエルがちゃっかり口を挟むと、セラは少し考え、ふっと微笑んだ。


「……では、私の権限で。少しだけ色をつけておきます。期待はほどほどに、ですけどね♪」


濡れた服のまま、魔石を両手に抱えて笑うセラ。


水面にゆらめく光と、ふたりのやりとりを見つめながら──

ふたりの笑顔と水のきらめきが、静かに胸に残った


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