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14話 陽だまりのテーブル



東門へ向かう足を止め、ふたりはにぎやかな市場へと足を向けた。


色とりどりの野菜や果物、干し肉が並ぶ屋台が通りにぎっしり。

昼が近いせいか、人の波は絶えず、喧騒と匂いがあちこちで交ざり合っている。


焼き立てパンの香りに、子どもの笑い声、店主の呼び声。

すべてが入り混じり、渦のように市場を満たしている。


ティアにはそのすべてが遠く感じられた。


「ふあぁ……人がいっぱい」


思わず漏れた声に、後ろからニャエルが近寄ってくる。


「ティアって、もしかしてお嬢様?」


からかうような声色に、ティアは思わず笑った。


「まさか。エリチェ村っていう、小さな村の出身だよ。村人全員集めても、ここの人よりずっと少ないと思う」


そう言いながら、ティアは山のように積まれた赤い果実に目を奪われ、思わず足を止めた。

そのすぐ背後から、ニャエルの声が静かに届く。


「へえ、いいね。村でどんな暮らしをしてるのか、見てみたいな」


柔らかな声に、ティアは頭の上で何かが触れたような感覚を覚え、くすぐったい気持ちになる。

ふと振り向くと、金色の瞳がわざとらしく視線を逸らすのが見えた。


「村、見たことないの? ……ニャエルこそ、お嬢様だったりして」


ちょっと意地悪な口調で言ってみると、ニャエルと目が合った。

深みのある黒い虹彩が、ふいにきゅっと大きくなって──


「どうかなあ。でも、私にドレスは似合わないよ」


そう言って、ニャエルは照れくさそうに笑い、そっと視線を落とした。


「……せっかくだし、食堂で食べない?」


「うん、いいね。でも……食堂って、高いかな」


ティアが少し不安げに言うと、ニャエルは答えず、その手をそっと取った。


「こっち」


雑踏のなか、軽やかに手を引かれる。

ティアは何も言わず、ただそのまま、あとをついていった。


(……引っ張られるって、なんか、いいな……)



◇⋆。・゜゜・ :゜・⋆。◇⋆。・゜゜・ :゜・⋆。



やがてニャエルが立ち止まる。


「よし、ここにしよう」


そこには、大衆向けながらどこか品のある食堂があった。

石造りの外観に、窓には花の鉢。扉の上には、小さな鐘。


思わずティアは声を漏らす。


「うわぁ……た、高そう……」


「こういうのは、経験だよ」


ニャエルは軽く笑いながら──また手を引いて中へと入っていく。


外の喧騒が遠のき、店内にはにぎやかでありながら、落ち着いた空気が流れていた。


「……わあ、いい雰囲気」


ティアが見渡している間に、ニャエルは窓際の丸テーブルに歩み寄り、椅子を引いて手招きする。


「どうぞ、お嬢様」


「ふふっ、ありがとう」


ティアは笑って席につく。


(こういうの……なんだか、楽しいかも)


ふたりが座ると、ちょうど良いタイミングでウェイターがやってきた。


「いらっしゃい。ご注文は?」


ニャエルはさらりと銀貨を二枚出して言う。


「いい水と、いいパン。それと──干してない肉はある?」


「もちろんでございます。焼きでよろしいですか?」


ウェイターは銀貨を受け取ると、口調が目に見えて丁寧になる。


「うん。ボクはそれで。ティアは?」


「あっ……じゃ、じゃあ、鶏肉がいいな……?」


ちょっと緊張しながら言うと、ウェイターはやわらかく微笑んでうなずく。


「今日はとても良い物が入っております。お任せを。」


優雅に一礼して去っていくその姿に、ティアはそっと息をついた。


「……ニャエル、絶対お嬢様でしょ」


小声で言うと、ニャエルは肩をすくめて笑う。


「ふふ、どうだろうね」


窓の向こうでは、市場の喧騒と陽の光がまだきらきらと動いている。


テーブルを挟む空気が、どこか、陽だまりのように感じられた。



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