表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/65

11話 剣としっぽの出会い



一歩、ギルドの扉をくぐった瞬間、ひんやりとした空気と、ざわめきが耳を包んだ。


けれど今は、そのざわめきがどこか遠い景色のように感じられた。


ふいに、目の前で誰かの影が立ち止まる。


(……わたしより、背が高い)


その人の頭の上で、黒い耳がぴくりと動いた。

それだけで、胸がふいに跳ねた。


(……ネコ?)


そんな言葉が、とっさに胸に浮かぶ。

首を振ろうとしたのに、耳と髪のやわらかな質感に、どうしてか目が離せなかった。


「……いい?」


静かな声が耳に届く。


振り返ることなく発せられたそのひとことに、ティアの胸が跳ねた。

慌てて横へ一歩動き、受付の前を空ける。


「ど、どうぞ……」


その人は何も言わず、静かに前へ進んでいった。


「いらっしゃいませ。ご用件は?」


受付のセラが、落ち着いた声で応じる。


ティアはふと、その人の横顔に視線を向けた。

長くしなやかな尻尾が、自然と目に入る。


ゆるやかに揺れるその様子が、どこか楽しげに思えた。

ふわりと揺れたその動きに、胸の奥が、すうっとゆるんでいく。


「冒険者登録、お願い」


その声を聞いた瞬間、胸の内がふっと高鳴った。

セラと目が合い──彼女がわずかに頷いたような気がした。


(……この人、光ってる)


ティアにしか見えない淡い光が、彼女のまわりにふんわりと差していた。


(……なに、この感じ)


言葉にはならない感覚が、胸の奥で静かに広がっていく。

パーティを組みたい。でも、どう声をかければいいのか──

思い浮かんだ想いは、すぐに形になる前に霧のように消えてしまった。


登録を終えた彼女が、くるりと振り向く。


「早速、依頼を受けたいけど……」


「すみません。当ギルドでは、単独での依頼受注はできません。必ずパーティを組んでいただく必要があって……」


セラが、柔らかく説明する。


「え? そうなの? 困ったな……」


彼女が眉を寄せた瞬間、ティアの緊張は一気に高まった。


セラが静かに微笑む。


「そこで、ご提案があります。ティアさん、こちらへどうぞ」


名を呼ばれ、足がすくみそうになる。

けれど、勇気を振り絞って一歩踏み出す。


視線が、ふたたび交差した。


金色の瞳が、ほんのわずかに大きく見開かれる。


彼女──ニャエルは、すっと近づいてくると、ティアの剣と腕に視線を落とした。


「君、その細い腕でその剣、振れるの?」


胸が跳ね、顔に熱が昇る。


「ふ、振れますよっ……! 魔物と戦ったことも、ありますっ!」


ニャエルは「ふーん……」と小さく呟く。

少しのあいだティアを見つめていたかと思うと──突然、顔を近づけてきた。


(え……?)


鼻先が、そっとティアの額に触れる。


(……猫、みたい)


昔飼っていた猫のことを思い出す。

よく、こんなふうに匂いを嗅いでいた。


やがて離れたニャエルが、真顔のまま口を半開きにして見つめてきた。 その真剣な表情に、ティアは思わず吹き出しそうになる。


あたたかくて、懐かしくて、肩の力がふっと抜けた。


ニャエルは慌てて口元を押さえ、視線を逸らす。


「こ、これはクセなんだ……」


その声には、照れたような響きがあった。


(この子となら……)


迷いながらも、ティアは口を開いた。


「わたしも、さっき登録したばかりなんです。良かったら、パーティ、組みませんか?」


ニャエルはほんの少し目を細めて、それから静かに、手を差し出してきた。


「ニャエルだ。……うん、君となら、きっと楽しいと思う。よろしく」


顔がぱっと明るくなるのを、ティアは自覚していた。

その手を、両手でそっと包むように握りしめる。


「ありがとう! よろしくねっ!」


セラが席を立ち、拍手を送ってくれた。


「パーティ成立、おめでとうございます」


ギルド内のあちこちから、温かな拍手が湧き上がる。


ティアの手の中で、ニャエルの手がじんわりとあたたかくなっていくのを感じた。


ちらりと横目をやると、彼女の黒い耳が、ほんの少しだけ、ぴくりと動いたように見えた。


そのざわめきの中、ティアは胸の奥で、そっと確かめていた。


──この子となら、知らない景色の先へも、迷わず歩ける気がした。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ