かこのしっぱいをうけとって
「しっかりと荷物抱えておくんだぞ」
「いま縛りつけたわ」
「足りないものは?」
「まぁ、なんとかなるでしょ」
「向こうの二人は平気か」
「なんか揉めてるけど、いいわ」
「先に飛ぶぞ」
「上空で」
「ああ、わかってる」
ヒロスターニャの背中につけたロープをもう一度確認して、振り返る。
この街に滞在したのは、ほぼ半日くらいか。
なんだか忙しないけれど、朝の沈んだ気分はどこかに消えていた。
ヒロスターニャは、話し上手なのかもしれない。
相当数悪口も言うのだけど大抵は、こちらが笑ってしまう。
言い方なのか、竜のユーモアセンスなのかわからない。
さきほどまでたくさんいた竜たちは、まだ話している者もいたり低空で移動していたりする。
なんとなく集会所で大きく音がしたことを聞きそびれているけれど、物は壊していないというのだから、まぁいいだろう。
ササッと背中に乗り確かめると、すぐにヒロスターニャは羽を拡げる。
ふわりと浮遊感があると、もう少しだけ地面から離れている。
羽の勢いで、ある程度の高さまでくる。
あとはそのままの高さで、旋回している。
「しばらく来ないかしら」
「さぁな」
「少し待ってていい?」
「そのつもりだ」
ヒロスターニャの機嫌がいいのはいいけれど、さきほどの二人との会話を思い出す。
竜と特別な関係になろうとして、接してきたわけではない。
元から特別なのだ。
だから、思いっきり機嫌とりをしたこともなく、わざと嫌われるような事もしていない。
それが良いのか、ヒロスターニャはよく会話をするけれど、もう少し言い方は気をつけたほうがいいのだろうか。
ヒトからすれば、竜は怖い存在であるのはその通りだ。
でも、ヒトと竜が行き交うこの世界で、あまりに崇めるのは、わたしの好みではない。
かつて書物で見た神様と同格の竜たちは、その存在のために世界を支配し、そして争いがあった。
遥かに長い時間のあと、いまのヒトとの過ごしかたを決めたのだろう。
それなら遥かに短いヒトの運命のなかで、ともにいる竜たちから、できるだけあらゆることを吸収したい。
契約の刻を瞬間想いだした。
「そうだわ。依頼増やしちゃった」
「……はははっ! それは忙しいな」
「軽く引き受けて、とか思ってるでしょ」
「いいや。笑うことは笑うが、いいじゃないか」
「そうかしら」
「どんな依頼なんだ」
「長くなるわよ」
「まだ来そうにないな」
「そうね……アオイハナでしょ、絵を探してほしいって、それからお姫さまのつき人を助けるだったかな」
「アオイハナの手がかりはあったのか?」
「いいえ、ちっとも」
「絵はどんなのだ」
「それが、作者名わからないのよ」
「助けるやつは、なにが困ってるんだ」
「……見捨ててほしいみたいだわ」
説明をしながら、飽きれてしまった。
ゼッタイ飽きれられたわ。
わたしだって、曖昧過ぎて笑ってしまうくらいだもの。
「それはいいな。助けるが一番簡単そうだな」
「でも、なにを助けてほしいか、なにも聴いてなかったわ」
「なにも聴かないのが、お前の取り柄だな」
「それ嫌味ね。わかりやすく」
すると、ヒロスターニャは珍しく真面目な顔をして言う。
「いいという意味だ。そこは素直にとっておくんだな」
「え……うん。ありがとう」
「助けるか。依頼としてはいいが、しっかりと聴いておくんだな。期間や条件をしないと、ずっと護衛することになる」
「そうね。たぶんお姫さまとの関係することなんだと想う」
「姫か。そういえば昔知りあいでいたかもな」
「そうなの。お姫さまのつき竜だったのね」
「そういうのとは違ったかもな」
「契約しなかったの」
「したが向こうが、まだなにもないときだな」
なにもないとは、どういう状況だろう。
契約はあったのに、なにもしなかったのか、契約というカタチじゃなかったのか。
「ねぇ、それどういうの」
「説明するのにはメンドウだな」
いつものことではあるけど、昔のことだと思い出せないのか、時間が過ぎていて億劫なのか、説明をちゃんとしないことがある。
こういう場合は、問い詰めてみても大して返事がこないのだ。
空を旋回しながら、ヒロスターニャは下の様子を眺めている。
昨晩あった崖の毒素のある霧は、こちらまでは来ていないようだ。
空はよく晴れていて、朝のニュースの端にあった天気予報では、一部地域だけ雲がかかるようだ。
「ここからだと、昨日の場所はどれくらいなの」
「昨日は速く飛んだからな。フツーなくらいで飛べば、霧はこちらまで来ない距離だな」
「霧も驚いたけれど、なんでリーダーなのよ」
「ずいぶんとリーダーは嫌なんだな」
「わかってるでしょ」
過去のシッパイの経験は、何度か話してある。
「……過去失敗したからとはいえ、いまはわからないぞ」
少し驚いてしまう。
ヒロスターニャは話しは聴いてくれるけれど、割りとそうだな、とかの返事ばかりなのだ。
「どうしたの? 普段そんなこと言わないじゃない」
「ほう竜に普段があると想うか。気分が上がったり下がったりは、気候やその時の思考で随分違うぞ」
「ふ〜ん? けど、わたしが観てる普段はそうでしょ。わたしからとあなたからの視点が違うのは、それこそフツーのことよ」
「それを受け止めるのは自由だが、過去の失敗から受け取るのと過去からなにも進まないのは、どちらかな」
わたしは考えこんでしまう。
軽く混乱してくる。
ヒロスターニャは、過去から進まないのを嫌味で言ってくるのではなくて、過去の失敗から受け取ってリーダーを選べると言っているのだろうか。
わたしに、そんなこと務まるとは思えないでいる。
ハッシュリシアスもライラリックュスも次の目的地までのリーダーを決めただけで、わたしたちにグループができたわけではない。
昨日からの出来事は、ただ巻き込まれただけだし。
「昨日のは、アナタたちで決めたことなのよね?誰もリーダーのこと知らなかったわよ」
「さぁな」
「聴いていいのかわかんないけど、昨日集会所でなにがあったの?」
「話した通りなんだが」
「話しっていっても、儲け話しみたいなのを聴いて集団つくったら、あれでしょ」
「そうだな」
「なによ、おかしいわ」
「そうか……そうかもな」
「ねぇ、なにがあるの?」
「なにがある……のではないんだろうさ」
意味がよく取れない。
どういう状況なのだろうか。
それとも、ヒロスターニャはなにも知らないのか。
「できれば説明して欲しいんだけど」
「……時間がくればわかるだろう」
あまり話したくない内容なのだろうか。
妙に深刻な表情で心配になってくる。
ようやく二人が空に上がってくる。
「お待たせしました」
「待たせたな」
「おそい」
「ごめんなさい」
「おう」
「ハッシュリシアスやり直し」
「空でもか」
「一回降りたら?」
「怪我するって」
「じゃ、一周」
「わ、わかったよ」
竜がヒロスターニャの周りをぐるりとまわる。
「おそい」
「ごめんなさい」
「そうね」
「反省はしてるぞ」
「どうだかね」
ハッシュリシアスが、頭を下げてくる。
反省してるのは本当みたいだ。
「おいおい。ずいぶんと態度がリーダーだな」
「なによ。おそいくらい言わせてよ」
「こちらにももっと言ってもいいぞ」
「ヒロスターニャは、怒られたいの?」
「ふははっ、竜に怒るのが竜だけとは限らないな」
「じゃ怒るわね」
「まだなにもしてないがな」
ハッシュリシアスが呼んでいるため、聴いてみる。
「なによ」
「そろそろ進まないか」
「それもそうね」
ハッシュリシアスとライラリックュスの乗る竜が、左右に展開する。
結果わたしの竜が真ん中の先頭にいる。
「真ん中じゃん」
「リーダーだから」
「リーダーですね」
なぜこんなにも二人は、リーダーを決めることにすんなり納得しているのだろう。
とりあえずヒロスターニャが羽を動かして、そのまま空をいく。
目的地は、また知らない。
なにかのリーダーになるって、大変な作業じゃなかったかしら。
リーダーって、わたしの考えているものとは、違ったのかもしれない。
「ねぇ、なにかリーダーの使いかた間違ってない?」
「ないない」
「そんなことないですね」
「そこの先頭とか、目印みたいな用途で使ってない?」
「ないない」
「そんなことないですね」
左右についてくる二人の乗る竜は、速度を合わせてくれている。
「じゃ、試しに真ん中きてよ」
「いいです」
「遠慮しますね」
「……なぜに」
「まぁそんなに固くならないで」
「落ち着きましょうね」
「緊張もしてないし、落ち着いてるわ」
「それはよかった」
「そうですね」
「ハッシュリシアス頼りになるわ。ね、交代したりとか」
「ないない」
「ライラリックュス占いすごいわ。ね、交代したり」
「ないですね」
「なぜ!」
ヒロスターニャが、笑っているのがわかる。
わたしなにか、変なこと言ってる。
言ってないわ。
「リーダー落ち着いて」
「リーダー、しっかりですね」
「ゼッタイ笑ってる」
「「そんなことない」」
はぁ、もう。
以前のことは、またべつにしても、この二人は妙なところで息があっている。
知り合ったばかりだと言っていたけれど、本当のことか疑わしくなる。
この際、わたしがリーダーということは忘れていよう。
真ん中位置にきただけと考えよう。
わたしはバックからゴーグルを取り出し、帽子もつける。
髪はそのままでいいだろう。
「それで、次の先まではどれくらいかかるの?」
「そんなにではないが、何体か竜に遭うかもしれん」
「それは」
「昨日の騒ぎには、なにかあるんだろうさ」
空をいくと、昨日の崖が遠くに観える。
いまは、その地帯を避けて通る。
ヒロスターニャの言っている通りに、遠く崖の付近に竜がいたりする。
「毒はもう平気なのかしら」
「昨日よりは柔らいでいるけど、まだありそうだな」
「それって平気!?」
「あの連中は、金儲けしか目がないのさ」
ハッシュリシアスが、そう言ってあきれている。
お金。
そういえば、すっかり忘れていたけれど、昨日拾い上げた欠片たちは、いったいどれくらいの価値なのだろうか。
しゃがみこんだときに、両手に持てる分だけ拾い、バックに散らかしたから寝る前に包みにしたのだけど、まだバックのなかに転がってるかも。
「ハッシュリシアスは、そんなに資金に困ってないのよね。昨日もよく参加したわね」
「運営するには、資金はあって困らない」
「さっきと言ってること違うわよ」
この様子だとヒト助けをしつつも、けっこう集めていたのかもしれない。
「ライラリックュスは、資金集めとかどうしてるの?」
「おカネあり過ぎると、いいことばかりじゃないです。よくない連中ばかりに絡まれるし、なんでもおカネあるといいわよね、って言われてしまいます」
「そうなのね! じゃ資金は充分なのね」
「おカネおカネって、なにが楽しいんでしょうかね。それで充分なくらいあれば、あとはあっても散財したりとかになるし」
なんだろう。
なにか変な話題をしてしまっただろうか。
「わたしもそうだと想うわ。でも、服装やアクセサリーはともかくとして、泊まるところやその日の食事にまで困るときもあるもの」
「きみは、もっと気にしたほうがいい」
「……えと?」
「もっと身だしなみやスタイルにあったものとか」
「ハッシュリシアスの好みの話しかしら?」
そんなに変な格好をしているだろうか。
「いや、もっと気をつければいいのになっていうことなんだけど」
「なんだかはっきりしないわね」
「……ふふ。あなたが身だしなみに気をつければ、もっと可愛らしいって話しよね?」
「可愛い? って、わたしのこと?」
「そうよね」
「あ、いやそうは言ってないだろ」
「じゃ可愛いっていま言ってあげてもいいですよ」
「楽しんでるな」
「ほら!」
「いや言えるか」
「なんだ。じゃ、可愛いですよ!」
「え……うん。ありがとう」
「なにその反応」
「いやぁ、可愛いとかあんまり言われることないし」
なぜか、ライラリックュスがすごく驚いている。
わたしは風のなか、ライラリックュスをじっと観てしまう。
「どうして」
「ていうか、ライラリックュスのほうが可愛いよ」
「ありがとう」
「ほら、態度も素直」
なぜか今度は、ハッシュリシアスがあきれている。
「お姫さまが聴いたらあきれるな」
「なに、どういうこと」
「ファッションとメイクと精神は、切れない関係性らしいよ」
「ファッション……」
「メイク……」
「どんなお姫さまなのよ」
「わたし、すっかりお任せコーデのかたなのかと」
「それも聴いたら驚くな。我を通して魅力を引き立てるのが仕事だから、ヒトにお任せしてたらなにもできないらしいな」
「お姫さまって、なんか想像してるのと違うような」
「やっぱりウラナイはしたいな」
「占いは、聴いてみる」
「お願いします」
ライラリックュスは営業上手だけど、あまり商売になっていないのだろうか。
けれど、自身のスキルには、相当自信があるみたいだ。
「ウラナイいつからしてるの?」
「経歴ですか」
「そうね」
「十年していて、それより前に少し別の占いもしていました」
「別のって気になるわね」
「え〜ナイショです!」
「気になるな。もしやヤバい商売じゃないよな」
「え、ヤバいの?」
「ヤバくないです!」
ヒロスターニャが、ふっとこちらを向く。
うるさかっただろうか。
「依頼だって、少しヤバいからかなりヤバいまであるだろう」
「それは依頼に失礼よ」
「どういうんだ」
「かなりヤバいと、ものすごくヤバいしかないじゃない」
「はははっ」
「ヤバいの段階しかないのか」
「ええ、まぁ特殊みたいな?」
「お姫さまが好きそうだな」
「えっ! お姫さまヤバいの?」
「なんだか、こちらが危機迫るときのほうが、機嫌がいいんだよな」
「ピンチが好きなのね」
「ハッシュリシアスの慌てぶりが楽しいのかもです」
「不幸こそ栄養みたいに言うなよ」
「あぁでもいますよね!ヒトの不幸こそ悦になるみたいなヒト」
「悦のお姫さまなのね」
「どんなイメージなんだよ。今度会わせるかもなんだから」
なんだかハッシュリシアスの様子から、お姫さまの使いっぷりが聴いていて楽しくなる。
たぶんライラリックュスも、占い以外でも興味はでてきたんだと想う。
「お姫さまに嫌われないように、いまから清楚な女を目指さなくちゃ」
「わたしも嫌われないように、ピンチの話しをもっとためておきますね」
昨晩からの暗い話題はどこってくらい、いまは気分が明るい。
もしかしたら、ハッシュリシアスがそういう場面をつくってくれているのかもしれない。
これは、はじめのイメージの通りにモテるやつなのかもしれない。
まぁモテるヒトとモテてますよアピールのヒトはだいぶ違うけれど。
ライラリックュスもずいぶんと、軽く話せるようになったらしい。
ハッシュリシアスが、モテるやつなら
ライラリックュスは、変わり者だけど、きっとできるヒトだ。
ウラナイの自信もそうだけど、それでずっと活動続けられるのも、それで過ごしていけるのもなかなかの才能だ。
才能のあるヒトってすごいわ。
「ライラリックュスは、ピンチになってるときはどうするの?」
「逃げます」
「そ、そうね。それがいいわ」
「ハッシュリシアスは戦うのよね?」
「え、おう」
なんだろう、微妙な返事だ。
「本当は逃げるんですよね」
「そんなことないだろ」
「お姫さまがいるときには」
「逃げるな」
「逃げないでください」
「まずは安全大事だろ」
「安全は、いいけど本当に大事なときには、戦ってくれないと困るのではないかしら」
「そこは、なんとかするさ」
「ふ〜ん」
「じゃわたしのために、戦ってくださいって言ったら」
「やっぱり逃げるな」
「逃げないでください」
「身を護るには、防御も大事だろ」
「仕方ないわね。わたしが盾になるわ」
「え、おう。盾任せる」
「頼りないなぁ」
「一応武器の扱いには慣れてるぞ」
「はいはい」
「今度、一戦しないか」
「いいけど、わたし強いわよ?」
「わぁ護ってほしいです」
「ライラリックュスは、ピンチのときにはもういないんでしょ」
「そう……じゃなくて、頼りになるひとには、やっぱり護ってもらうのがいいじゃないですか」
わたしは、ジーッとライラリックュスを観たあと、一応ではあるけど言っておく。
「ライラリックュス貴女、けっこう腕に自信あるんでしょ?」
「え〜! そんなぁ、わたしそんなに、強い女にみえますか?」
「みえるわね」
「嘘! ショック」
「前には、けっこう格闘してたんでしょ」
「嘘! うそです」
「別に? わたしは気にしないわ」
「わたし、そう観えてることが気にします!」




