りーだーってとくするの
なんでそんなに機嫌が悪そうなんだろう。
やっぱりケンカだろうか。
物壊してないといいけど。
「ヒロスターニャ!」
騒がしくて聴こえていないかもしれない。
でも、後からでてくるときに、こちらを向いたから、わかったようだ。
出口近くにいると踏まれそうなため、三人で少し避けて荷物も寄せておく。
しばらくは、こちらに来ないかもしれない。
「来ないですね」
「よくあるのよ」
「そうなんだ」
「機嫌悪いみたい」
「それってわかりますか?」
「うん、表情みればね」
「え〜、わたし怒ってるのって聴いて違うときとか、ふざけたのって聴いて違うときとかあります」
「表情もだけど、眼とかはっきりしてるわ」
「そうなのか。よく怖い顔してるから、そのときは話しかけないけどな」
「ヒロスターニャが変わっているのか、わからないけれど、ヒトのふざけた話しけっこういいって言ってた気がする」
「そ、そうなのか! 睨まれてるのかと想ってた」
「わたしも!」
ヒト同士の誤解もよくあるけれど、ヒト対竜の誤解もかなりあるらしい。
「もしかしたら、わたしたちも勘違いされてるのかしらね」
「ヒトの勘違いはよくあるだろ」
「ヒト対ヒトってムズカシイですよね」
この二人は、過去になにがあったのだろうか。
わたしもさまざまに酷い目にあったけれど、この二人はなんだか、よく落ち込んでいる。
聴いていいのかもわからない。
竜に対して、というのであれば、わたしはよく話してるほうなのかもしれない。
「ひとまずこの流れが途切れたら、話しかけてみるわね」
「こっちのは見つからないな」
「う〜ん、わたしもまだいなさそう」
この街の酒場兼集会所は、そこまで規模は大きくなかったけれど、それでも竜たちの群れとなると、姿を探すのも大変だ。
低空で移動する竜もいるなか、ヒロスターニャは、少しずついろんな者にぶつかりながら歩いてくる。
こちらに向かってくるため、わかったようだ。
もう一度呼びかけてみる。
「ヒロスターニャ」
「少し待ってな」
「物壊してない?」
「あぁ壊してないぞ」
待つらしい。
隣をみると、ハッシュリシアスがびっくりしている。
「そんな事いっていいのか?」
「そんなって?」
「壊すとか」
「ええ、いつもよ」
「そんな話しとか、したことないな」
ハッシュリシアスの竜は、物とか壊さないのだろうか。
「よく物壊したり、故障させたりするの」
「そうだけど、文句とか言わないぞ」
「言わないの? 言っていいと想うわよ」
「す、すごいな」
「すごいですね」
ライラリックュスが少し引いている。
竜だって壊すのは仕方ないにしても、わたしだって文句くらいは言うのだけど。
「なによ。あまり機嫌悪いときには、乱雑にするのよ。力加減はできなくても、タイセツくらいは覚えてほしいわ」
「なんだか、すごいな」
「え、ええ」
「二人とも何も言わないの?」
「いや知らないのか? 竜が街ひとつ廃墟にしたとか暴れて山が削れたとか」
「なによ。例えそれがホントの話しでも、一回いっかいしっかりと言えば、大抵はわかってくれてるわよ」
「いや……そうなのか」
「なんだか、そういうのよく言えますね」
「言わないと、理解してくれようとしないもの」
「竜とも意思疎通が、こちらもよりも遥かに立派だな」
「わたしも、そんなにはよく言えてないですね」
どうやら、二人とも竜に対して強く言ったり注意したりしないらしい。
それで、ときどき不思議に驚くのかもしれない。
「そりゃ、わたしも何度か睨まれたり、蹴飛ばされたりはしそうになったわ」
「よく死なないな」
「戦闘の前に、家のケンカでもう大怪我しそう」
「死なないわよ。向こうだって本気で壊したくてやってるんじゃないもの。でも、気をつけてほしいじゃない」
「ぼくも気をつけよう。そうか、よく睨まれるのは、そういうなんだ」
「わたし睨まれたら、泣きそうかも」
二人とも竜との接しかたはまだ試行錯誤してるらしい。
たしかに、なにがどこまでという範囲は、わたしたちヒトよりは広そうでも、いきなり怒りだされたら恐怖かもしれない。
けれど、とも想う。
「わたしたち近いヒトが言わなくちゃ。直してくれないわよ」
「竜に注意か」
「わたし泣くかも」
なんだか先にこの二人にさまざまに、教えてみたほうがいいのかもしれない。
少し遠くで呼ばれた気がして振り向く。
ヒロスターニャが、さきほどよりは機嫌よく、こちらを呼んでいる。
どうやら移動したほうがいいらしい。
「わかった」
遠くだけど返事をしてから二人に話して、出口付近から空いていそうな場所まで移動する。
途中何度か邪魔にされてしまい、だいぶ出口から離れた位置まできた。
この街のオブジェのあるところで立ち止まると、そこはあまり集まっていないため、なんとかスペースがある。
「ヒロスターニャ」
「なんだ」
「きゃぁ!」
けっこう近くに来ていたらしい。
急に近くで声がしてびびってしまった。
「悲鳴あげるな。やかましい」
「いついたの。びっくりするわ」
「いま来た」
「いまか」
二人が距離をとるため、二人もびっくりしていたらしい。
「あ、もう平気よ」
「平気じゃなかったら、なんなんだ」
「……もう一回叫ぶとか」
「叫ぶな、やかましい」
「すぐ側にいるときは驚くでしょ」
「眼はいいからな」
「視力いくつだっけ」
「十三、十五。いやもっとか」
「計測するのも大変ね」
「なに。すぐに忘れる」
「忘れないでよ」
「なにか役に立つならな」
「あぁそれで、この二人は……」
「昨日もいたな。空だけどな」
「あ、覚えてくれてるんだ」
「嬉しいです」
「名前までは知らんな」
「せっかくだから覚えて」
「ライラリックュスとハッシュリシアス」
「そうか」
「ノートにも描いてね」
「描いて覚えるのはヒトくらいだな」
「あなただって、過去の見返すでしょ」
「決まりのノートは覚えるためというより、描いておくほうがいいと判断するからだ」
「ま、いいわ」
「あの、それで」
「そうそう! この娘が話してくれたんだけど、ウラナイのスキルなんだけど、竜たちの間でなにかあったの」
「用意がいいな」
「あ、荷物のこと?」
「また飛ぶことになるな」
「いつごろ」
「さぁ。だがさっきもケンカになってたから、早くにいくことになりそうだな」
「そうなんだ」
「お前たちのはどこにいるんだ」
二人の竜のことらしい。
「いま探してるんです」
「なかにいるのかな」
二人が離れてしまった集会所のほうを見ると、まだ竜たちは出口付近に大勢いて、姿がわからないみたいだ。
「喚ばないのか」
「いや、怒られないかな」
「そうですよ」
「契約はあるんだろう。喚んだからと怒るやつは、相当短気だぞ」
「そうなんですか」
「いえ、でもなんか睨まれるとか」
「ヒトはなぜそんなに、自信を持たないんだ。畏怖を抱くのかもしれないが、寂しいんじゃないか」
「え、ヒロスターニャ寂しいの? なんだ言ってよ」
「おれの事じゃないな」
「え、じゃ寂しくないんだね」
「そうは言っていないな」
「……どういうことなの?」
「そういうことだ」
「だから、どういう意味かわからないったら」
「察しがわるいのもヒトなのか」
「竜って寂しいんだね」
「そうは言っていないな」
「もう! なんか意地悪じゃない?」
「それで、いそうか」
「あの真ん中辺りだな」
「わたしのは、まだです」
ヒロスターニャが、オブジェの横に座ってしまう。
少しここにいるようだ。
二人の竜が合流するまで待つのだろう。
「あの、聴いてもいいですか」
「なんだ」
「さっき怒ってましたよね」
「でてきたときか」
「そうです」
「そうかもな」
「でも、いまは機嫌いいほうですよね。そういうの聴いてもいいのかなって」
「気分を聴かれて、おかしくなるやつなんていないだろうな」
「わたし、よく睨まれるんです」
「こちらは眼つき悪いからな」
「いいえ、そんな」
「特になにかしたわけじゃなければ、睨んじゃいないだろうな」
「よく音もおおきい時あるし」
「こちらは、図体があるからな」
「いいえ、そんな」
「音量がヒトより違うんだろう。聴くのも話すのも」
「や、優しい」
「ヒロスターニャ、そんなにじゃないわ」
「いいえ! 竜の優しさに触れました」
「どれだけ怖がられてるんだ」
「あ、傷ついた?」
「余計だな」
「余計にしゃべるのは、ヒトの領分よ」
「毎度よくしゃべることだ」
ヒロスターニャが少し飽きれて話すけれど、言うほどではないらしい。
ライラリックュスとハッシュリシアスは、また驚いている。
「優しい」
「優しいやついるんだな」
二人は、これで優しいらしい。
普段どれだけ竜に怖い思いをしているのか。
それか仕草が怖いだけで、普段は違うのだろうか。
「普段そんなに怖がってたら、話しできないよね」
「そうなんだよ」
「そうです」
「話ししてみたらいいのに。ヒロスターニャはおしゃべりだけど、ほかのだって、話しするのはいいと想うわ」
「そうなのか」
「が、がんばってみます」
「おしゃべりとはな……まぁ話しくらいは聴くさ」
ヒロスターニャが首を伸ばしなにかを観ている。
そして、また元に戻る。
「気づいたかな」
「そろそろ来るんじゃないか」
ハッシュリシアスの竜が、なにか発見してこちらに近づく。
姿がわかったのだろう。
近くに来ると、横から他の竜も近よってくる。
軽く当たっている。
「あれ、わたしのです」
「そうなのか」
ヒロスターニャは、あまり興味なさそうにしている。
「見つけたです。よかった」
「どこにいったのかと思った」
「合流できてよかった」
「えぇ、集会長引いた」
ライラリックュスとハッシュリシアスは、同時にあいさつしている。
「それで、こちらのかたは?」
「それで、こちらは」
「「リーダーです」」
二人して揃えて言う。
「ちょっと! 違うからって言ったでしょ」
「いやリーダーで決まりでしょ」
「ですね」
「えぇぇ! なにそれ」
「いいな。またリーダーやってみな」
「ヒロスターニャ無責任じゃん」
「ま、ときにはな」
「そんな、リーダーになったからってなにもいいことないじゃない」
「そんなことない」
「いいことたくさんありますよ」
「二人してもう。じゃいいことなによ」
「そうですね……真ん中にいます」
「そうだね……呼びかけがひとつ増えるとか」
「もう! リーダーってなんなの」
「そう嘆くな」
「なんか理不尽なのよね」
そう言ってみるものの、もう二人はこれで決定みたいな顔をしている。
「頑張るんだな」
「それでヒロスターニャは、なにか決まったの」
「ああ、また飛ぶな」
「わかった」
「泊まってたところはどうした?」
「さっき話して、すませてきたわ」
「素早いが、なにかあったのか」
「ライラリックュスが、そうしたほうがいいって」
「そうですね」
「ほう」
「どちらになりますか?」
「また厄介だな。ついてくるか」
「そうします」
「ああ!」
「ハッシュリシアスはいいの?」
「いいさ。また情報収集だな」
「いいえ、それもだけど、わたしとヒロスターニャは依頼場所ばかりよ。あなたたちは、それでいいの」
「一緒にいきます」
「いいさ。もしかしたらそのうち見つかれば、離れるかもな」
「いまでもいいんだけど」
「なに。そんなに心配するなよ」
「いや、なんでこうなったのかな」
「気にするな。飽きるだろう」
「ははっそうかもな」
「そういえば、ヒロスターニャはなんで機嫌いいのよ」
「お前の話しがおもしろいからな」
「なにもおもしろくないわ!」
「竜の接しかただろう」
「あぁ聴いていたのね」
「いいか。あまり気にしすぎないことだな」
「ヒロスターニャが、もっと気にしたほうがいいのかもよ」




