なかよしのめんばー
ヒロスターニャと、もう二機の竜が笑っているのがわかる。
空の上でハシャイでいるのが、二人の乗る竜には珍しいのか、ときどきこちらを観察している。
ハッシュリシアスとライラリックュスが竜に遠慮していままで話しをしていなかったのが、よくわかる。
ヒロスターニャは、はじめからなにか話してと催促されたから、もしかしたら、こちらのほうが珍しいのだろうか。
相変わらずライラリックュスが、さきほどまでの話しの続きで、なんでわたしが格闘やスポーツに熱心だと想うのか、とハッシュリシアスにも聴いている。
わたしは、ライラリックュスと対戦することがあるなら、負けるかもとは想う。
「なぜ、こんなにか弱いわたしが強く見えるのか、そこが知りたいです」
「違う。スポーツとかやりそうだよって言ってるだけ」
「なぜなのかなぁ。できればわたし、助けてもらいたい方なんです」
「か弱い人は、まず自分からか弱いって言わないと思うぞ」
「わたしから、言ったっていいじゃないですか。それに、そういう決めつけはなんか損してます」
「損と得で考えるなら、まずは言わないことだよ」
「くっ! ぬぬ。なんかハッシュリシアス、わたしにだけそういう態度じゃないですか」
「お姫さまの前にいても、だいたいこうだよ」
「ふ〜ん? じゃ、お姫さまに会えたら、こういうこと平気で言う人って返事しますね」
「おいおい。そう喧嘩こしになるなよ。そっちからもなにか言ってあげてくれよ」
ハッシュリシアスが、だんだんと焦りはじめている。
意外と打たれ弱いのかもしれない。
覚えておこう。
「ハッシュリシアスがやんちゃしてるなんて、きっともうご存知なんじゃない」
「フォローしてない!」
「そう? 知ってると知ってないの違いはあると想うの」
「そうですよね」
「やんちゃなんて、これまで一度もないぞ」
「そうかしら」
「怪しいですね」
「それは見た目か! 見た目の話しか! たしかに遊んでる風ではあるが、態度は真面目だ」
「そんなに胸を張られてもね」
「自身で言うもんじゃないですね」
「ライラリックュス、それさっきこっちから言ったセリフだぞ」
「べーっ! 弱いと真面目を一緒にしないでくださいね」
「そこじゃないわ」
「え、違いましたか」
「この場合、言ったことが自身に返ってくると言うのよ」
「それフォローしてないです!」
「あら、二人とも一緒ね」
「「一緒にしないで」」
ようやくリーダーらしい仕事ができたかしら。
でもリーダーってこういうのだっけ。
まだ二人が言い合いをしているなか、ヒロスターニャが呼ぶため、返事をする。
「どうしたの」
「低空になるが、もう少し先だ」
「わかったわ」
「なんだかにぎやかになったな」
「あなたのおかげじゃないかしら」
「感謝するのは、もっとあとでいい」
「いまじゃないの?」
「何年生きるかわからないからな」
「それもそうね」
三機の竜が姿勢を低くして降下するため、ハッシュリシアスとライラリックュスは、ふらついている。
でも、話しは続いているみたいだ。
「仲良し」
少しだけ胸が傷む。
これまで仲のいいメンバーは、何度かいた。
けれど、時間が経っていくと争いが増えて何年か経つとそれは嘘のようになる。
いまもわたしは、過去のシッパイのなかにいる。
ヒロスターニャは、いまを進めばいいという。
わたしは、いまを生きるのは得意じゃないのかもしれない。
けれど、ヒロスターニャがそう薦めるなら、それは信じるのがいいのだろうか。
「二人とも、平気?」
「あっぶな」
「落とさないでね」
竜が、上でバタバタしている二人を眺めている。
どこか楽しそうな様子だ。
「安全帯はつけてるのよね?」
「ベルトはしてるよ」
「三回確認しました」
それなら、安心だ。
いや、それでも竜が高速で飛ぶときには、なにがあるかわからないという。
だいぶ視界に入る景色が、都会になってきた。
もう少しすると、着地場所を探すのだろう。
「ここなの?」
「ま、そうだな」
「けっこう広い街ね」
それなりに栄えた街だというのは、遠目からでもわかる。
高い建物、教会のような建築、広い敷地にある豪邸、お庭が広くとられた図書館のようなところなど、便利でそれでいて、上手くまとまっている場所は、やはり降りたときにも栄えていることがよくある。
「山はもう越えたのね」
「この先は、平坦だな」
空は晴れているため、天候は無事みたいだ。
低空になったためスピード感はあるものの、そんなに飛ばしてきたわけではないだろう。
「あの高い建物、キレイね」
「少し変わってるな」
「教会も寄れるかしら」
「時間があけば、好きにしたらいい」
「そうね」
アオイハナの話しをどこかで聞かなければ、いけない。
図書館か集会所か、あとは教会の修道女たちなら、神話や逸話に詳しいだろうか。
以前神父さまに、別の依頼で話したときのことを思い出してしまう。
生臭神父さまであったために、話しはサクサク進んだけれど、何度も口説かれて、はた迷惑だった。
ヒトを口説くほど時間があるなら神父さまじゃなくて、戦士にでもなればいいのに、と思う。
そういえば以前には図書館でも声をかけられたことがあった。
書籍を探しているときだって、油断すらできない。
「好きこそ飛行高度が上がるらしいぞ」
「みんな好きに生きたらいいけれど、好き勝手は困るのよね」
「まぁな」
わたしが言えたことでもないか。
というのは、わかっている。
「わたしだって、もう好きに生きるし」
「なんだ、まだ左右されているのか」
「……仕方ないじゃない。ヒトは変わるけど、時間はものすごくかかるのよ」
すると、ヒロスターニャがいつものようにあきれてしまった。
「ヒトの時間は短いだろう。余分にかけすぎるな」
正しい答えではあるけれど、長命の竜があきれるほどには、わたしは左右されているのかもしれない。
「いいのよ、わたしはそうなの」
ヒロスターニャが、また笑うだろうか。
けれど、あきれてはいても笑わなかった。
わたしは少しずつではあるけれど、この "ヒロスターニャ" のことを理解するようになっていく。
はじめの契約のときは、あんなにわたしは、やけっぱちのようになっていたのに。
いや、賭けにのったのだ。
この竜がなかなかに聡明なことを言うものだから、賭けだった。
「着地場所、あの広くとられた公園にするか」
「公園びっくりしないかな」
「公園自体は、びっくりしないぞ」
「もう! ヒトがいたらびっくりするでしょ」
「竜が降りてくるなんて、しょっちゅうだからな」
ハッシュリシアスが、珍しく普通の意見だ。
「平気ですよ。墜落してこない限り、けっこうみなさん上手く避けていますよね」
ライラリックュスは、公園にいることがおおいのだろうか。
でも、墜落って。
あまり怖いこと言わないでほしい。
「墜落なんて、しないわよ」
「わたし三回くらい……」
「えっ?」
「忘れました」
怖い。
三回くらいとは、一体なにがあったのだろうか。
そのまま、空中を少しずつ降下していき、左にくるりと周りこみながら、無事に三機とも着陸する。
時間がズレているのか、公園にはあまりヒトはいなく、端のベンチで座る子どもが、少し驚いたくらいだ。
竜から着けていたベルトを外して、三人とも降りると、ヒロスターニャは身ぶるいした。
少し疲れたのだろうか。
「ここが目的地なのね」
「まぁな」
公園の地面で身体を解して、ゴーグルを外していると、さきほどの子どもが近寄ってくる。
「うわぁ、竜だぁ! お姉ちゃんたち、竜乗りなんだぁ」
「え、うんそうよ」
「うわぁ! 触っていいのかなぁ」
ちらりとヒロスターニャをみると、こちらは知らんぷりをしている。
「う〜ん。あまり触ってケガするといけないから」
「竜って、どんな感触」
「う〜ん。鱗はあるけれど、そんなにパリパリしてないわね」
「ふぇ! いいなぁ」
「ふふ」
ライラリックュスが子どもに近づくと、頭をポンポンたたく。
「いい子ね。ウラナイしてみよっか?」
手をどけつつ子どもが話す。
「え、いいです」
「いいから、してみない」
「いいです」
ライラリックュスは、このときも商売らしい。
ま、子どもからなにか取ろうとはしないはずだから、可愛らしいからかもしれない。
「そ、そんなぁ」
子どもは竜に夢中らしい。
ハッシュリシアスは、自身の竜をなでてあげている。
気持ちよさそうだ。
わたしもときには、なでてみようかしら。
「公園でのんびりするのもいいけれど、ここでなにがあるの?」
見たところ都会ではあるけれど、ヒロスターニャが急いでいるわけではないらしい。
ほかの二竜もとくに何も言わない。
「集会所にはいくが、少し絵の手がかりでも探してみるといいぞ」
「え? 絵は、探してみるけど、図書館かしら」
「あとは、この街は絵描きもおおいらしいな」
「あ、わかったわ」
「その二人はどうなんだ?」
「一緒に探しますわ」
「少し野暮用してからいくな」
「そうらしいな」
それじゃと子どもに手を振ってから、公園をでようとすると、呼びとめられる。
「集合場所はどうするんだ」
「あ、そうね! え〜と」
「中央にあった高いビルの庭でそれじゃいいな」
「あ、はい!」
ハッシュリシアスとライラリックュスを連れて、公園をでるときには、三竜がまた飛びはじめ、子どもが見上げている。
「ここは竜来ないのかしら」
「でも、珍しくはないだろう」
「はぁウラナイ師って子どもに人気ないかしら」
どこにいくの、と聴かれてボーッとしていると、肩を軽く叩かれた。
「あ、うん。とりあえず商店がありそうな場所まで」
「ハッシュリシアスは、またお城の用?」
「……各場所で、聴かなきゃいけない用があるんだよ」
「へぇ、そうなの」
「こっちくるか?」
「いいや」
「わかった。あとで探すな」
「目印は」
「そうだな……」
ハッシュリシアスが考えこんでいると、ライラリックュスが返事をした。
「教会の前にしましょうよ」
「あの大きめのところか」
「セイントクロスがあわさってる」
「わかった」
ハッシュリシアスは、竜から降ろした荷物を抱えていってしまう。
「わたしたちもいきましょ」
「はい」
ライラリックュスは、特にこちらでなにか揃えたりしないのだろうか。
「あなたは、買うものとかなにかあるの」
「少しあります。でも経ってからでいいですね」
「わかったわ」
そのまま、前の街から持ってきた重たい荷物を持ちながら、商店のある場所まで進む。
上から見た限りだと、公園と商店の並ぶ場所は、そんなに離れていなかった。
けれど、空からの景色と歩くのでは、印象が違う。
竜の駐機場所と、買いものの場所がすごく離れていて、それだけで不便な街というのもよくあるのだ。
ライラリックュスが世間話をするため、それに返事をしていると、少しずつ街並みの変化をみてとれる。
自分だけで歩いているときには、周りの景色などあまり観ていないのかもしれない。
「それでこの街は、どういうのが栄えてるんでしょうか」
「う〜ん、わたしが思うのは、服装品や建築とか」
「おお、楽しそうですね」
街中を通り過ぎていくヒトたちは、華やかな衣装が多く、また建物も色が鮮やかで、変わっているものがおおい。
文化発展している地域であることは、間違いないだろう。
「ライラリックュスは、寄りたいところない?」
「え、目移りしますよね」
そう言って、辺りを見回すもすぐに入るわけではなさそうだ。
わたしも少し準備をしたいけれど、まずは向かう先を急ぐことにする。
「じゃ、名前とかどんなお店とかチェックしてね」
「はぁい」
ライラリックュスは、竜から降りたばかりなのに、元気そうだ。
竜酔いとか、飛行目眩とかないみたいでよかった。
「前に聴いたことあるのだけど、子どもとか乗ると目眩とかあるみたいね」
「あぁ飛行速度、出し過ぎるときもありますよね」
「そちらは、割りとゆっくり飛ぶの?」
「いいえ。けっこう派手に飛ぶの好きみたいですよ」
「そ、そうなんだ」
じゃ今回のはヒロスターニャに、合わせて飛んでくれているのだろう。
「わたしのは、機嫌わるいときがときどきあるのよね」
「へぇ、怖いですね」
「怖いっていうか、いっぱい話さないといけないから、つかれちゃう」
「ふぇ! いいなぁ。わたしは、そういうとき話せなくなります」
「そうなの?」
「見失って墜落……」
「え?」
「つい、ラクに話すと反対に怒られるかなって……」
「怒らないわよ、たぶん」
「そうですよね。もっと話そうかな」
なんだか、苦労していることはわかった。
もしかして、仲が悪いのではなくて、飛んでる間にトラブルが多いのかもしれない。
ヒロスターニャはどちらかというと、集会所にいってからのほうが機嫌が悪いため、そのあとをなだめるのが、最近のわたしの日課になりつつある。
というか機嫌悪くかえってくるなら、顔ださなければいいのに、それでも、仲間内の会には参加しなくてはいけないらしい。
竜苦労というものだ。
だいぶ歩いただろうか。
少し街並みが変わってみえる。
お店も多くなり、ヒト出も盛んだ。
「なんだか、いろんなところ寄りたくなるわ」
「そうですよね」
お店の感じがいいところを発見すると、なんだか損している気がする。
でも、あまり寄り道していると、ハッシュリシアスの合流に後れてしまうだろう。
「ここかしら」
「ここですか」
立ち止まったのは、少し広めの入口で、横にちょこんとミニサイズの竜の像がある場所だ。
看板には、ヒトの字と竜の文字が描いてある。
入口をいくと、すぐ前に受付カウンターがあり、右にベンチがいくつか、左には書籍類の本棚と、資料コーナー、いくつかの写真が飾られている。
写真は竜の写真が多いけれど、ヒトやどこかの異世界の街並みのような写真もある。
いらっしゃいませのひと言もないのは、いつものことだ。
とりあえずカウンターの前にいき、二人で並んで声をかけてみる。
「いますか」
「だれですか」
「竜契約の書類の確認と業務報告と、要請補助と、契約通行パスの有効化の確認と……それから……」
「はい。あなたは」
出されたのは諸々の申請書類と、認証端末と待ち番号だ。
「わたしは竜契約と業務報告と、契約通行パスの有効化と、補助申請はどれを……」
「はい」
ライラリックュスに出されたのは、諸々の申請書類と、認証端末と待ち番号、それに別の認証カードだ。
離れて並べられている席に座りつつ、話す。
「なんで、紙ばかりなのよ」
「それに、態度がいつも不満気な」
「悪いことしたかな」
認証端末で利用する認証はデータ化されたものの、いまだに申請や要請補助に紙で提出しなければいけない。
いつになったら、大方の業務に必要な手続きが、データ化されるのだろうか。
「だれか探してるんですか?」
「通常業務で、よくしてくれるスタッフがいるのよね」
「そうなんですか」
「あなたはウラナイの担当のヒトとかいないの?」
「ウラナイってどこまでいってもヒトリなんですよね」
「……そんな寂しい」
「ですよね」
「だれかついてくれればいいのに」
「紹介してください」
「ええ! いいわよ」
「やった」
「その代わり」
「え、はい」
「けっこうビシビシくるヒトよ」
「わ、わかりました!」
受付カウンターから、交代だろうか別のスタッフが降りてくるところだ。
「あ!」
厚底の靴に団子ヘアで、少し丈の短いスカート姿のスタッフが、こちらを見るなり笑顔で手を振ってきた。




