くすりをひたすらつくる
この教会のなかではライラリックュスが中心となって作業をしていた。
入っていった瞬間に捕まったため、それからは作業に没頭する。
わたしたち三人で持ってきた素材はそんなに多くなかったのに、神父さまのと合わせつつ煮込んだり混ぜたりすると、それだけで少しは増しな量になった。
「これどれくらい作るのかしら」
「教会にいる人数分と、それから地下室で倒れているかたたちと、それから……」
「いいわ」
「そうですよね。数えても意味ない」
「この次は」
「はいこれ」
ハッシュリシアスは、なにかたんたんと楽しそうにしている。
「なにか楽しそうじゃない?」
「え、そうか」
「こういう作業」
「特に好きじゃないぞ」
「それにしては、なのよね」
分量を確かめたり、水を足したりしているため、渡されたレシピを見て何度か確認する。
ハッシュリシアスは間違いないようにしている割には、表情はそんなにではない。
「大変だよな」
「そうね」
やっぱりなにか表情は違う。
地道な作業も意外と、楽しめるらしい。
神父さまは、調合した薬をさらに小分けにしている。
教会内の前にも、複数名倒れたあとに寝かされている人がいる。
薬をゆっくりと飲ませる。
「この方の様子をしばらく診ていてください」
「薬は追加しますか」
「まだわかりません」
シスターが幕のようなものを閉める。
簡易なテントのように囲われている。
「できたのは、どこに」
「ここです」
シスターが手を挙げるため、いましていたハッシュリシアスとの分を手渡しにいく。
また戻って作業にする。
戻るときにライラリックュスを見ると、あっちで次はこっちでと指示を飛ばしている。
「あの子って、けっこう器用なのね」
「不器用だよ」
「え、なんで」
「器用なら、ここの指揮なんて引き受けないだろ」
「そっか。ハッシュリシアスは、お城でもこういうことあるの?」
「本当に年に一度か、数年に一度か」
おそらくライラリックュスも、なにか巻き込まれたことがあるみたいだ。
だから、ここまで的確に動いているのだろう。
シスターがときどき悲鳴のように声をあげるのは、たぶんなにか間違えたのだろう。
しばらく二人で作業をしては、担当のシスターに渡し、また続きをする。
そのうちに、わたしを呼んでいることに気づいた。
「呼ばれてる?」
「いってきな」
教会の入口部分かと思ったら、そこではなくて祭壇側だ。
「きました!」
「もう来たの」
「上で合図出してます。どうしますか?」
「教会の入口を開けて。それからすぐに外の入口に人がいるなら避けてもらって!」
ハッシュリシアスが走ってくる。
「入口だな」
「上じゃつけられないわ」
「わかった」
入口を開けるときに、神父さまがこちらに来る。
「平気ですか」
「開けてもらうしかない。わたしたちだけよ」
「倒れるのを見ていた人の話しでは、毒を飲んだり、なにかに刺されたわけじゃないとか」
「とにかく教会のなかに入れて。原因はだいぶわかってきたけれど、対処しないと」
「わかりました」
開けるぞとハッシュリシアスが叫ぶと、扉が大きく開く。
すぐに竜たちが正面に降りていく。
何機くらいいるのかわからない。
「いまは?」
「五つで行動してる」
「ほかは」
「上空にたくさんいるぞ。みるか?」
「いいえ。材料は」
「たくさん採れてるぞ。どこにおけば」
「シスターを呼ぶわ」
もうシスターたちが後ろから集まってきている。
わたしの竜が一番先に着いたみたいだ。
後ろにヒトは載せていない。
「どれくらいになりそうなんだ」
「まだ、わからない」
シスターが後ろから来て、少し驚きつつ受け取る。
ほか四機の材料の荷物も受け取ると、少しだけ下がってまた行こうとする。
「またな」
「待って」
「なんだ。早いほうが」
「これ持って」
さっき神父さまが作っていたばかりの薬の一部だ。
まだ完成ではないみたいなのだけど、効き目が少しでもあるといい。
「首にでも、繋いでおけ」
「自分で飲めるの?」
「任せろ」
また少し下がると、ふわりと浮く。
ほか四機の材料も受け取ったらしく、ヒロスターニャに続いていく。
すぐにそのいた場所に、次の竜が降りてくる。
シスターに受け渡しを任せようかと思うと、シスターは怯え気味に引いてしまう。
「シスターのかた」
「材料は受け取りますので、お願いします」
「わかりました」
さっきハッシュリシアスと話していた内容を思い出してしまう。
ライラリックュスがここの指揮をとるのは、不器用だという。
たしかにシスターたちは竜たちの相手に慣れていないのだろう。
ほかに代わるヒトも見当たらないため、ここで竜たちを誘導していく。
「ここでいいんだよね」
「はい。材料は」
「これ」
背中から腕を伸ばしてくれている。
わたしが受け取ると、もう上にいこうとしている。
「待って」
「なに」
「竜の乗り手たちは平気そうなの?」
「さぁ。けれど、必要なんでしょ」
「先頭で飛び出したヒロスターニャに渡してあるものがあるの。なにかあったら」
「心配性なのね。教会お願いね」
すぐに後ろに下がると向きを変えて飛んでいく。
「材料とほかの道具も持ってきたよ」
「はい。道具?」
「中にある物がそろそろ足りないかもでしょう」
「わかりました」
「後ろのもなにか持ってきたって」
ちゃんと上を眺めればよかった。
いつの間にか教会の上で待機している数が増えてきた。
声をかけてくれた竜と乗り手が飛ぶと、また次が降りてくる。
シスターはわたしが渡すものを受け取るので忙しいし、教会の中はライラリックュスだし、どうしようか。
「手伝うぞ。捌くの無理だろ」
「助かる」
ハッシュリシアスが来てくれた。
「それで、どうすれば」
「竜たちと乗り手が、材料や道具やなにか必要なのとにかく持ってきてくれる」
「なんで、そんなことに」
「たぶんわたしの竜とあなたの竜よ」
ほら、と上を見るように言う。
ハッシュリシアスの竜が上でぐるりと周りながら、合図している。
ハッシュリシアスが手を挙げると、わかったようだ。
「それじゃライラリックュスのもだな」
「そうね。誘導して下ろしてくれてるのかも」
わたしが指示を出すこともない内に、あの三竜が連絡しあって竜の団体をここに運びいれてくれているらしい。
かなり仲良くなったのはいいのだけど、地上のここは二人でもまだ足りないくらいだ。
「シスターこれも」
「あのシスター来ないかな」
「誰のことだ」
「教会の窓から案内してくれて……あ、いた」
「あとはどれを?」
「はい。あなたもここでお願い」
「えぇ……」
「教会中よりは、たぶんマシ」
「そうでしょうか」
「はい。こうして誘導したあと受け取るの」
また下りてきていた竜からの材料を受け取り、後ろのシスターに渡す。
それらの手順をいま隣に来たシスターに説明する。
「わかりました」
「中はどうなってるの?」
「あなたからの紹介の竜乗りさんがひたすら作っています」
「薬は?」
「神父さまがお渡しになった一人は、回復傾向です。まだしゃべれないのですが、目を開けたとか」
「よかった」
「ただ」
「なに?」
竜たちがあいさつして、また飛んでいく。
次のが下りてくる。
「数がまだ足りていないため、こちらからの竜たちの材料でも、どの程度か」
「それは安心できるわ」
「え、なぜですか」
ほら、と顔を上げさせる。
ハッシュリシアスと三人になっても、余裕などないけれど、上の様子はわかるだろう。
「まだ来るわ」
「怖い……」
「なに怖がってるの。どんどんやるよ」
「わかりました。怖いけど」
三人で次つぎと下りてくる竜と乗り手から材料を受け取り、それを別のシスターに渡すのを何度もおこなう。
乗り手たちがときどきリーダー頑張れよと言うため、手だけで返す。
「すっかりリーダーだな」
「いったいなぜそんなことに……」
「リーダーってあなたですか?」
「気にしないで」
シスターたちにまで竜のリーダーとか言われたくはない。
一時間ほどは経過した辺りで、後ろからライラリックュスに声をかけられる。
「なに」
「一度交代できませんか」
「竜たちの相手は」
「わたしがします。中は神父さまにあとはお任せできます」
「ほかの街のヒトたちは?」
「はじめに薬を飲まれたかたから、回復してきています」
「よかった!」
「ハッシュリシアスも休んでください」
「わかった」
竜たちの材料運びも、少しゆっくりになってきた。
教会に材料がたくさん集まってきたことを伝える。
「あなたは?」
「わたしはここの竜たちに様子など伝えたあと、出来た薬も順番に渡すんで」
「わかったわ」
外はあとはライラリックュスの判断でいいらしい。
教会の中に入ると、かなりごちゃごちゃだけど、神父さまがシスターたちに薬を渡している。
少し休ませてもらおうと、端の席にハッシュリシアスと座る。
「薬の数なんとかなるかしら」
「まだわからないな。けれど、あれだけ竜たちが運んでいるんだ」
「そうね」
「神父さまはあれじゃ休めないな」
座る席からは見えていないけれど、シスターたちと薬の作業と受け渡しをひたすら続けている。
「あのかたたちは?」
「竜の乗り手の何名かが、手伝いをしたいとかけあっていたぞ」
竜たちからの何度も材料を受け取っていたため、降りて手伝ってくれていたヒトがいたとは気づかなかった。
「竜のグループって、もっと冷たいかとずっと思ってたわ」
前にいた集団もその前でも、元仲間ではあるけれど、わたしとしては、そこまで仲間意識は起きなかった。
いろんなトラブルが遭ったからだ。
「リーダーがいるからだろ。きみに意識が向いているのさ」
「まさか。そんな力ないわ」
シスターが走ってきた。
三人分の薬だという。
ライラリックュスはまだ飲んでもいなかったらしい。
おそらくもう飲む必要はないはずだ。




