なにかしってる
中央の広場からは離れた位置のやや外側に近い場所で集まっている。
わたしたち三人と、あとは大勢の竜だ。
竜たちに、神父さまとでかけた先であったことを説明しようと、こちらに来たのだけど、反対に竜たちにこの街で遭ったことの話しを聞くことになった。
ライラリックュスがやや怯え気味なのは仕方ないため、ハッシュリシアスとわたしで竜たちと向き合う。
ライラリックュスはわたしの後ろにぴったりと隠れている。
「誰から話し聞けばいいんだ」
「事情説明できるのいるの?」
わたしの竜ヒロスターニャが周りをみるも、どれも詳しくはわからないでいるらしい。
よく竜たちはここに集まれたと思う。
けれど、こういうとき危険を察知できる能力に長けているのも竜だ。
「状況が変わっていくのはみたわよ」
そう話してきたのは、ハッシュリシアスの竜だ。
「どういうのですか」
「どういうのっていうか、外からの竜が増えてきた辺りかな。また封鎖するのかもと観ていたの。でも、それより街中の様子が変だった」
「街中?」
「慌てていた人がいたかと思ったら、教会に人を集めていたわ。それでみていたら、今度はだんだんと、人がいなくなっていたわ。そのうちみんな扉も窓も閉めてしまうし」
「教会に人ってことは、倒れている人ってこと」
「そうだな。慌ててるのは、かなりな数いたぞ」
「そうよ。かなりの人を教会に集めていたわ」
竜たちが次つぎと意見をしてくれる。
そのうち、ヒロスターニャが話しをまとめていた。
わたしの竜もまともにみえてくる。
「教会以外のヒトたちって」
「そうかもな。みんな室内に閉じこもっているな」
それなりに集まっていた街なはずだけど、ここまで状況が悪くなっているらしい。
「神父さまとわたしたちで薬持ってきたの。材料よ。でも、調合するのに数が足りないかもしれない」
「それは平気だろ」
「なぜ?」
「一度薬をつくり材料と効果がわかれば、これから集められる」
「そっか」
「それじゃ……」
「神父はいまどこにいるんだ?」
「教会よ」
「それなら安心だ」
「教会でも、倒れている人はいるんでしょ」
「平気だ。忘れているな。教会には神父たちが力を注いで結界をつくっている。物理的な強度は知らんが、無事だろう」
そっかと、わかったことがある。
神父さまの元に倒れた人たちを連れていっていたのは、病気かの判断を待っているだけでなく、あの内部に入れば安全だからという意識もあったらしい。
けれど、街中すべてのヒトが入れるわけはなく、それで部屋に閉じこもることになったのかもしれない。
「竜たちはどうするの?」
「心配するな。よほど危険になったら、空にでも逃げる」
「街の外の集団は?」
「あぁ……」
「それもあったな。なんとかするとしよう」
「わかった。任せる」
竜の背中にかかる鎖に、カバンからだしたポーチを引っ掛ける。
三人で来た道を引き返す。
途中ヒロスターニャが、なにか大きく鳴いている。
なんて言ったかはわからないけれど、おそらく外の竜に知らせたのだろう。
「教会は無事だといいな」
ハッシュリシアスが心配するのは、わかる。
症状のある人たちを運んでいたのだ。
神父さまもそこに向かったのだから、外の影響は受けなくても、中にいる人たちはどうかわからない。
「これどうなってるか、わかりますか」
ライラリックュスがたずねてくるも、まだはっきりとはしない。
「ひとつわかったこともあるけど、神父さまと合流しましょう」
「そうですね」
教会はそんなに遠くではないため、すぐに着く。
「周り静かだな」
「一応慎重にいきましょう」
そう言うとライラリックュスが後ろになり、わたしの肩を掴まえている。
「一人ずついきますか」
「それじゃわたし」
「ハッシュリシアスいって」
「そうだな」
ライラリックュスはハッシュリシアスを先に行ってほしかったらしい。
ゆっくり扉を開けていく。
鍵はかかっていなかった。
「神父さま、いらっしゃいますか」
先に入っていくハッシュリシアスをみていると、途中から手でおいでとする。
いいらしい。
「いくよ」
入るときに少しだけなにかを触る感じがした。
ここに張られている魔力の感覚らしい。
「神父さま」
「みなさま、よく来られましたね!」
中を見渡すと、けっこうな人数が集まっている。
左の壁際に棚や椅子を並べている。
「材料持ってきましたよ」
「よかった。みなさまにお渡ししたものがないと出来ませんから、誰か使いを出そうか迷っていました」
「それで、こちらのなかは」
「無事です。シスターたちがよくやってくれていました」
「街の様子みました。街の人たちは」
「多くの方たちが街にいても倒れていくため、安全に部屋に閉じこもっているようです。教会には、いま集まっている方たちで、なんとか薬をつくれないか準備してくれています」
「ほかのかたは」
「いまいる方たちだけです。ほかの方は、みんな倒れてしまったとのこと」
「街ごと」
「急ぎましょう」
あれほど静かだったのは、室内に閉じこもった人たち以外は、全て倒れて運ばれたあとの状況だったらしい。
わたしたちの荷物にも入れてある材料たちを寄せてある机に載せていく。
量は少ないけれど、神父さまが確認すると調合しましょうとノートをみせてくれる。
「わたしがしますね」
ライラリックュスは、多少知識があるみたいだ。
その合間も神父さまの指示もあって教会のなかの人で水を汲んでくれたり、布を集めたりしてくれる。
「量が難しいな」
「秤とかは、ないでしょうか」
そのたびに、みんな協力してくれる。
この教会には通路も伸びているため、走ってなにかを取ってきてくれる。
「これ使えますか」
「いいですね」
「あと足りないのある」
わたしは知識不足だ。
とにかくノートや資料で間違いがないか確認する。
これと、と並べつつ聞いてくる。
「そういえばさっきのなんですか」
「なに?」
「ここに来る前に」
「あぁそのことね」
話してもいいのだけど、それよりも忙しそうだ。
迷う合間にまずは、少量の薬ができたらしい。
「これ、間違いないですか?」
「ええ。だけど量が」
「ある程度までは増やせますが、それ以上だと効果も出るかわかりません。ほかに同様のがあるか、あとはまた集めてみるしか」
「時間がかかりそうですよね」
いま作った薬を丁寧にビンや布に包むも、ここの街全体に渡すには、あまりに足りないだろう。
「それなら平気ですよ」
「心あたりですか?」
「いえ竜たちが……」
「竜?」
また一声、鳴き声が聴こえる。
わたしの竜の声だろう。
「きっとすぐに届けてくれます」
「どういうことですか」
ここに来てくれるかはわからないため、どこかで待つ必要があるかもしれない。
「どこか外の様子がわかるところは、ありますか。竜たちが協力してくれるというのです」
「こちらです」
神父さまの側にいたシスターが、入ってきたのとは別の扉に向かう。
振り向くとライラリックュスと眼があう。
任せていいらしい。
淡く手元が光っているのがみえる。
ライラリックュスが魔力を込めて、調合したばかりの薬に効果を足している。
ハッシュリシアスは、ついてきている。
扉の先は通路だ。
「竜たちと打ち合わせでも、したのか」
「ううん。でも、平気」
通路を歩くと階段があった。
教会の上部の点検整備用なのかもしれない。
急なもので、シスター、わたしとハッシュリシアスと順番に上がる。
シスターがなにか上部にある鍵を開けると、そのまま外に出ていく。
わたしも手をかけると、上から引き上げてくれる。
「ありがとうございます」
「こちらでなにか見えますか?」
上がると、教会の上部分だ。
天井に近いけれど柵があり、二、三人でいっぱいだ。
柵の上に軽くロープがかかる。
何かの作業に使う場所だ。
けれど、高い場所に出られてよかった。
「よかった」
「どこの景色みてるんだ」
「ほら、街壁の外よ」
わたしは遠くを指す。
ヒロスターニャが上手くやってくれたらしい。
ハッシュリシアスが発見したようだ。
「街の外の竜たち?」
「そう。わたしの竜と一緒に探しにいってくれるって」
「そんなことできるのか。材料の内容は」
「さっきわたしの竜に渡したわ」
材料が足りなくなるかもとは、採取するときに思った。
あのときには街全体の量までは考えなくてもよかった。
けれど、ここまで拡がってしまったからには、竜たちにも協力してもらうのがいいだろう。
「わたしたちは、どうすればよろしいですか」
「シスターは、誰か一人ここに着けてもらって。わたしのヒロスターニャが合図を出してくれるから、そしたら、それを受け取ってね」
「わたしが残ります」
「そうね。わかった」
ハッシュリシアスと今度は、上った階段を下りていく。
ハッシュリシアスが下にいるため、慎重に降りていく。
「なぁ……」
「なに?」
「聞いていいのかわからないが、聞いてみるな。なんでそんなに慣れているんだ」
「慣れてって、どういうの?」
「竜もだけど、きみもそんなに危ない橋ばかりなのか」
「どういう意味か、よくわからないのだけど」
「呪いじゃないのはわかったんだ。だけど、未知の病気だか、もしかしたら魔法での現象かもしれない。それなのに、よく平気だよな」
そういうことか。
「冷静でしょ?」
下りの途中で止まるため、軽く背中にぶつかる。
「冷静っていうか」
「ちょっと止まらないで」
ぶつかったのに、気にしないでこちらをみる。
けっこう距離は近いけれど、それも気にしないみたいだ。
「慣れてるんじゃないなら、なにか知ってるのか」
眼をみつめると、なにか聞きたいことがありそうな眼だ。
だけど、こんなところで話すような内容でもないだろう。
「知ってるかもしれないわね。でも、竜たちがこれからたくさん材料を集めてくるわ。ライラリックュスにもっと準備してもらわないと、薬はまったく足りないわ」
はぁ……となにか気に入らないような態度だ。
「話してはくれないんだな」
ここで喧嘩するほどではないだろう。
でも、ハッシュリシアスこそ、なにも話してはいない。
呪いにずいぶんと執念を燃やしている。
なにかあったのは確実だ。
けれど、お姫さまと関係があるのか、それともそれが旅をしているなにかなのか聞いてはいない。
あまりハッシュリシアスは、訊ねて欲しくない気がするのだ。
「薬を用意しましょう。ここの街全体でそうなってからでは、神父さまひとり残されてしまうわ」
「神父さまは無事なのか?」
「そっか。あなたはまだ知らないのね」
ようやく話せる通路まできた。
階段では、あまりに狭い。
「神父さまたちには、一部誓約があるのよ」
「誓約」
「尊敬としてのそれをしている間は天使たちの加護があるの。天使って神さまとは違うけれど、ちゃんとそれを利用できるのよ」
「天使とかあれだろ。神聖書真闇編にでてくるやつだろ。あれは」
読んでいるけれど、読んでいないらしい。
「あなたって、神聖書読むの苦手なの?」
「一応ずっと以前から、読んではいるさ」
「そっか」
「でも、神父さまたちが祈るのは神さまだろ?」
「やっぱり読んでない……」
神聖書に書かれている内容は、かなり複雑だ。
長編だし、話しが逸脱することも多数ある。
何度か改訂されているけれども、それが原因なのか曲がっているところもある。
ハッシュリシアスが読んでいないだろうなというのは、わかってきた。
あとできちんと読むよう言うか、お話ししないといけない気がする。
「そんなにか」
「お姫さまに、なにか言われなかったの?」
「なぜそこでお姫さまがでてくるんだ」
かなり時間をかけないといけないらしい。
神聖書はたしかに読み応えがあり過ぎるけれど、読んだほうがいい。
「わかった」
ちょうどよく戻ってきた。
ライラリックュスと出るときと同じように眼があう。
めっちゃ疲れている。
これは、声をかけないほうがいいのかもしれない。
とりあえず、目立つことなく壁際を歩く。
「あの!」
見つかっていた。
「おそくなったわね」
「いま逃げてましたよね」
「逃げてない。ちょっと壁にある材料でもと」
「はい。それ」
「はい」
「あとそれ」
「はい」
わたしとハッシュリシアスは、入るなり雑用だ。
けれど、それもそうだ。
わたしたちが出ていくときにも慌てて準備していたけれど、それよりも慌ただしい。
もう教会のシスターも含めて、走り回っている。
「竜どうなりますか?」
「平気。時間は少しかかるけれど、持ってきてくれるわ」
「わたしたちの手順書は役に立ちそうですね」
「ライラリックュスは、なんで慣れてるの?」
「え……あ、今度」
「そうよね。いまは無理よね」
「じっ……っくりと!」
そんなにたっぷりあるのね。




