やくわりはひつよう
花畑にきた。
わたしも含めて、この綺麗な景色は見入ってしまう。
そんなに種類は多くないのか、似たような花が並ぶ。
少し花を避けつつ歩いていくと、赤い花や桃色の花はたくさんある。
「どれでしょうか」
「ここの辺りのはみんなですね」
「どれくらい」
「そうですね。三つずつほどいただきましょう」
ライラリックュスとわたしで、赤いのと桃色のを三つ摘む。
ふと風があるため振り向く。
そちらの方向には誰もいないけれど、なにか声を聴いた気もする。
「ときどきあるのよね」
ライラリックュスとわたしが花を持ちつつハッシュリシアスに近づくと、なにか不思議そうな表情だ。
「どうしたんですか」
「いや二人花似合うなって」
「そんなほめることですか」
「それじゃ」
「嬉しいです」
「わたしも、それは嬉しいわ」
「そ、そうか」
神父さまがくすりと笑う。
「男性はほめることに慣れてないですから」
「あぁそれでね。照れてるんだ」
「いやそんなことは」
「ありがとう」
花畑の端まで出てから、ライラリックュスの持ってきた布にくるむ。
こちらはわたしが持っていこう。
しばらくここにいたい気分にもなるけれど、ゆっくりするわけにもいかない。
「名残りおしいですね」
「また来られるといいわね」
鮮やかな風景をもう一度みておきたいと、歩きつつ振り返る。
ハッシュリシアスもライラリックュスも同じらしい。
「花もっと持ってくれば、よかったかしら」
「また来られるさ」
「これ材料ですから、飾れないですよね」
丁寧にしまってあるわたしのバックの中身のことだ。
「今度、また来たいな」
さきほどまでいた湖に戻ってきた。
湖の側に少し起伏があり、そこに一度荷物を置く。
神父さまは疲れたらしく、座ってから荷物をまとめる。
わたしもカバンを降ろす。
丁寧にしまってあるけれど、どうしようか。
「それって最後は使いますよね」
「そうですね」
「持っていくまで水があるほうがいいかも」
「飾るわけじゃないだろ」
「でも、長く保たせたいし」
わたしが荷物を探すと、ハッシュリシアスが気づいて自身の荷物を開けている。
手渡されるのは、簡単な筒のようになっているものだ。
「これ使えるぞ」
「水筒よね? 飲むものを入れるものには使えないわ」
「違う。試験用っていうのかな、とにかく飲みもの用じゃない」
「そうなの。わかった」
受け取りそこに湖の水を汲む。
花を差し込んだあと蓋はできないため、軽く布で押さえておく。
またカバンにしまう。
ライラリックュスは神父さまの荷物を一緒にまとめている。
「神父さまは、帰り道また歩きますけど平気ですか」
「平気です。早めにいきましょう」
「途中のあの場所でまた、休憩にしましょうか」
荷物を持ち上げると、神父さまのほうもできたようだ。
今度はわたしとライラリックュスが先頭に歩く。
荷物が軽いライラリックュスは、まだ平気らしい。
「疲れましたか」
「少し。けれど、みつかってよかった」
「どうやって調合するんですか」
「それは、挑戦になります。けれど、以前に書かれたこの文章によると、さほど手間ではないみたいです」
「材料は、ずいぶんとめずらしいものばかりでしたね」
「あの湖周辺で暮らしたことのある者なのかもしれないですね」
「ずいぶんと前のことですね」
けっこう古そうな資料だ。
それに、ここ数年は魔力回復陣やアイテムが普及し、事細かく準備する手間がかからないことも多い。
上をみる。
また竜の影がみえる。
街のほうに向かっている。
休憩室のある場所にたどり着いて、同様の二階で休む。
けれど、神父さまは落ち着かないらしい。
荷物をたしかめたり、資料を再度読んでいる。
ハッシュリシアスが近づいてくる。
「休めたの?」
「帰りのほうが楽だ。だけど、あれじゃな」
神父さまをちらりと見る。
街の様子が心配なのだろう。
ライラリックュスは窓の外をみている。
ウラナイの出番はさほどなかったけれど、ライラリックュスの見立て通り、荷物はもっと軽くてよかった。
それに予想よりもライラリックュスは、苦労が多いみたいだ。
街に戻ってからでも、もう少しちゃんと話しを聞こう。
神父さまの焦りもあるため、行きのときよりも短い時間でまた移動することにした。
歩きながらハッシュリシアスは、神父さまを気づかう。
「ライラリックュスは、薬とか回復の知識もあるの?」
「まぁ少しはあります」
「そっか。わたしも覚えるほうがいいのかも」
「グループの役割」
「え」
「攻撃役は攻撃で防御は防御」
「それじゃあなたは回復?」
「わたしに攻撃して欲しいですか」
「みてみたいわ」
「やれるっちゃやれるけど」
ライラリックュスは、あまり弱いと思わないほうがいいらしい。
「そっか」
「今度」
「手合わせしません」
えぇ! となにか文句を言っている。
わたしだってそれなりに護身や剣、短剣などは習っている。
けれど、ここまで自信ありそうなのだから、痛い目に遭いたくはない。
ライラリックュスは、ウラナイじゃなかったのか。
「それじゃ今度訓練で」
「訓練なら、まぁいいけど」
ハッシュリシアスがこちらを向く。
「護身と大剣なら得意だぞ」
「いつも持ち歩いてるのは、短いのじゃ」
「短剣や鞭、杖はあんまりだな」
「短剣今度教えるわよ」
「あぁ頼むよ」
神父さまとまた話しはじめる。
ライラリックュスが近づいてきて、こそっと言う。
「お姫さまのためですかね」
「なんでもやるのね」
護身では大剣より、短いほうが役に立つかもしれない。
大剣はたしかに力強さがあるけれど、だれかを守りながら使うのだと、速さがなくなってしまう。
ほかにもたくさん訓練は積んでいるのだろうけれど、わたしでも役に立てるなら協力しよう。
短い時間で移動したためか、行き道よりも早く着くだろう。
前を歩く二人とも早足だ。
神父さまは話しはしているものの、ほかにも気になることがありそうだ。
「街に着いたら、どうしますか」
「様子がわからないけど、竜たちに話しにいきましょう。心配はしてないと思うけど」
「そうなんですか」
「緊急の場合には、召喚するって言ってあるからね」
「わたしの竜は、どうかな。怒られるかも」
「そんなことないわよ」
「なんか最近すぐ怒るんですよ」
ライラリックュスが愚痴っぽくなったときくらいには、街が遠くにみえてきた。
けれど、様子はおかしい。
街の外に竜や人が集まっているのは、わたしたちが来たときと同じだ。
けれど、見張りがいるわけではないのに、中に入ろうとしない。
返って集まった竜たちは遠くにいる感じだ。
何組かは、竜の側でじっとしている。
「なにかしら」
「とにかく行こう」
ハッシュリシアスが走って、先に手前にいる竜とその竜乗りに声をかけている。
「どうしたの?」
「出ていった時よりも、状況は悪そうだぞ」
「なんでしょうか」
神父さまも慌てて、ハッシュリシアスと近くのヒトから事情を聞いている。
「近くにいる街の人たちは、みんな倒れているんだ」
「恐くて入れないから、ここで待機していようって」
「誰か街には」
「入ってすぐに、引き返したやつがいるよ」
神父さまをみると、眼があう。
「いきましょう」
「街に入らないほうが」
「ここの神父なのです。いかなくては」
「教会はまだ無事そうだったと誰か」
「わかりました」
すぐ側にいる竜をみる。
いけと言っている気がする。
ここにいる竜たちもなにか感じるようだ。
「いきましょう。神父さま」
街の入口に集まる人たちをかき分けるようにして、中に進む。
今度は人がいなくなる。
「静かね」
「静か過ぎます」
それほどに大きな街ではないといっても、歩けばヒトくらいはいるはず。
けれど、静まり返っている。
「わたしたちは、竜の場所に」
「わかりました」
「神父さまは」
「街の教会にいきます」
三人で竜の待機場所に向かう。
ときどき人影をみかける気もするのだけど、全て住宅の中らしい。
広場は街の中心だけど、こう静かだと、そこではないかもしれない。
「外にある食事場所のかも」
「そうかもな。急ごう」
中心部には向かわないで、近道になりそうな路地をいきつつ、ここから離れる前に竜たちが居た場所に着く。
「いたわ」
竜たちも気づいたようだ。
けっこうな数がこちらに集まっている。
「少しだけ止まれ」
「え、なに?」
「いいから止まれ」
三人で竜たちから離れた位置で立ち止まる。
「あなたたちは無事なのね?」
「こっちの連中はな。それよりお前たちは、どうだ。一度倒れたり、なにか意識が薄れたりは」
「ないわ」
「……そうか。いいぞ」
なにかあったらしい。
ゆっくり近づく。
三人で驚いてしまう。
離れていたからわからないでいたけれど、竜たちのほとんどがこちらにいたらしい。
そしてその竜たちが、こちらをみている。
恐怖感もあるけれど、とにかく様子をたずねてみるしかないみたいだ。
「ねぇなにがあったか聞かせて」
「なにがじゃないな」
「どういう意味なの」
「なにもなかったのに、あぁなってるからな。匂いだか、微かに魔力もあったらしい。けれど、本当になにがあったわけじゃないな」
三人で近くまでいくと、竜乗りのヒトはほとんどいない。
ここにいるのは竜たちと、あとはわたしたちだけだ。




