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ヒロイン  作者: 十矢


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30/30

たおれないということ

 外の竜たちには、あとは時間を空けつつ、ときどき材料をまとまって集めてくれるように交渉したみたいだ。

 ライラリックュスがウラナイをした結果でもあるらしいけれど、ここの街にひとつ教会と竜たちとの仕事が出来上がりつつある。

 そろそろライラリックュスが死にそうなため、お疲れさまと隣に座ってもらう。

 なぜかわたしの膝に頭を載せて寝転ぶ。

 でも、この子がいなければ、これ程の短時間では薬は捌くことは出来なかった。


 いまは甘やかそう。

 少し頭をなでてあげると「うぅぅ」とうなる。

 獣か。

 かなり疲れている。


「やばいです。わたし働き過ぎで死にませんか」

「そういうこともある。いまは休んでね」

「はっ、薬渡しましたか?」

「平気よ。シスターが届けてくれた」

「ほわぁよかったです」


 あまりに多忙で、ライラリックュスは自身で薬も飲んでいなかったみたいだ。

 でも、平気そうだ。

 倒れるなら、もっとずっと前にだろう。


「まだまだバタバタしてるな」


 ハッシュリシアスは少し眠たそうだ。

 こちらも疲れている。


「そのうち神父さまが倒れるわね」

「なんでなんだ?」

「なに」

「薬は資料があったし、ライラリックュスは知識もあった。けど、なんだ。自信あっただろ」

「自信はなかったわ」

「違うだろ。なにか知っていたろ」


 ハッシュリシアスはやはりお姫さまの使いだ。

 いろんな方面に知識があり、その上、直感もある。

 それに疑り深くしっかりとヒトも観ている。


「お姫さまもなかなか大変そうね」

「こっちの事情はそれはあるが、なぜ隠すんだ」

「二人とも頭の上でうるさいです」

「ほら、怒られるわよ」

「ライラリックュスは気にならないのか?」

「わたしは……いまだめ。ウラナイする頭すらない」

「いまウラナイで視ようとしたの? 無理しないで」

「えへへ」

「リックュスは、休んで」

「え、いまリックュス……」

「ライルのほうがいい?」

「ううん。ライル懐かしいけど、リックュスでお願いね」

「うん」

「なんだ。呼び名変えるのか?」


 ハッシュリシアスは、なにがいいだろうか。


「あなたは、なんて呼ばれているの」

「普段か。いや好きに呼べばいいさ」

「リシアスでいいかしら?」

「そうだな」

「へぇわたしもそれ呼ぼう」

「それじゃリシアスね」

「きみはどうなんだ」

「え、わたしはいいや」

「じゃ勝手にリアって呼ぶね」

「そうだな」

「ま、いいわ。少し懐かしい」


 リックュスが一度起き上がると、わたしの手を取る。

 眼の色が移る。

 ウラナイをしているみたいだ。


「いま少しだけ変わったかも」

「いつの?」

「ううん。わたしの」

「あなたの先のことね」

「こっちのはどうなんだ」

「もう無理。力ないです」

「また次のときに」

「順番待ちか」


 薬はだいぶ出来たみたいだ。

 神父さまは、シスターたちを励ましている。

 もう少しここでと思っていたら、竜の鳴き声が聴こえる。

 わたしの竜が呼ぶ。

 先に伝えてあるけれど、あの様子なら竜は無事なようだ。

 それでもとりあえず外に出ることにする。


「いってくる」

「え、なんですか」

「竜が呼んでるわ」

「そんな聞こえないです」


 リックュスの頭をなでてから、外に向かう。

 扉を開ける。

 上で回転していたけれど、見つけたのだろう降りてくる。

 教会のすぐ前だ。

 もうほかの竜は、それほど集まっていないらしい。


「首にかけた薬ないわね」

「あぁほかのやつが先に欲しがっていたから、あげちまったぞ」

「それでいいわ」

「そっちは?」

「うん。まだ作業しているけれど、リックュスがもう身体動かないって。わたしたちも休み」

「名前変わったのか」

「呼びかたよ」


 降りてきた身体をなでてあげる。

 なんともいえない音で喜んでいる。


「教会は無事でよかったな。でなければ、全員倒れていた」

「リックュスが頑張っていたわ」

「そうか」


 この竜も頑張ってくれた。

 いまはなでるだけにしておこう。


「もし、わたしが倒れていたらどうする?」

「冗談だな。倒れないだろう」

「どうしてわかるの?」

「この状況でも、倒れないとわかっていたはずだ」

「そう……そうね」


 きっと、そうなのだろう。

 やっぱりわたしは、これで倒れることはなかった。



 リックュスもリシアスもよく頑張っていた。

 竜たちも神父さまもそうだ。

 リックュスが率先して薬を調合していて、いまはそれを少しずつ増やして溜め込んでいる。

 ここの町全体に渡らせるには、まだ時間はかかるものの、教会に先に運びこまれていたヒトたちから順番に薬を渡していき、その順番で回復してきている。

 はじめに飲まされたヒトは、もうしゃべれるようにもなってきた。

 神父さまが、その方におおまかなこれまでの経緯をたずねる。


「あなたが倒れていたのは、どの辺りでしたか」

「町から出て、少し遠いけど森がありますよね」

「湖の方向?」

「いいえ。そちらではなくて」

「無理せず」

「いえこれくらい。反対側です」

「そちらですか」


 少し口が回りにくそうに話す。

 けれど、伝えてくれる内容を聞き取ろうと、神父さまも懸命だ。

 反対というのは、わたしたちがいった湖とは別方向なのだろう。


「森からの異様さはわかっていたのですが、近くにいく頃には倒れていたのだと思います」

「ほかのかたは?」

「同行がいましたが、おそらく意識は飛んだのだと」

「そうですか」


 ほかにはと、神父さまがシスターやわたしたちになにかあるかとたずねる。

 けれど、あまり無理させてはいけない。

 ここで休憩にしてもらおう。

 もう危険はないだろうと、教会の扉は開け放してある。

 返って竜や外の様子がわかるため、そのほうが助かる。

 いまは外で一体休んでいる様子がわかる。

 たしかリックュスの竜だ。

 羽休みだとは思うけれど、こちらを見ていた。

 いまはこちらが事情を聞いている最中だから、あとでたずねてみよう。

 神父さまとそれに前に竜たちを案内したシスターが、いまの話しを書き留めている。


「神父さま。休んでもらいましょう。ほかのかたも少しずつではありますが、回復傾向にあります」

「よかった。話し聞けたら教えてください」

「わかりました」


 ほかのシスターが肩を貸して、奥にある療養室のほうに歩いていく。


「どうですか?」


 わたしの方を向いて声をかけてくる。


「ほかに聞けそうなことは、範囲がどれくらいかということですね」

「範囲というと、森のですか」

「おそらく森全体がそうなっているのだと思います」

「森がですか」

「それが原因ってこと?」


 リックュスがたずねてくる。


「そうだと思う」

「調査にいきたいのですが、どう対処すれば」

「もう数日すれば、収まる……はずです」

「どういったことなんだ」


 少し周りをみてしまう。

 リックュスの竜が、またこちらをみていた。

 なんだ、そういうことか。

 ここで話してもいいらしい。 


「森に留まってしまった毒素のせいなのだと思います」

「毒素っていうと、ここに来るときにみたやつか?」

「種類は違うけど。でも、同じ現象というべきかもね」

「それは、対処は」

「森をしばらくの間、閉鎖してください。それから倒れてしまったかたたちがそこから持ち帰ったものは、できるだけ廃棄するか、洗浄をしてください」

「わかりました」

「竜たちは?」

「あの竜たちは平気よ」

「なぜそうわかるんだ?」

「あなたもみてきたでしょう? わたしたちの竜は、あの毒素のある霧のなかを飛び回ったのよ。おそらく耐性がもうあるのよ」

「だけど、人……ぼくたちは倒れるだろ」

「わたしたちは耐えきれなくて、それで倒れるのよ。でも、身体は洗浄しておいてね。それから、リックュスは知ってるんでしょ」

「ふぇ! わたしですか」

「薬をつくれたのなら、それに似た知識があるんでしょう」

「……そっか。任せてくれたのはそういうことなんですね」

「神父さま。あの森には地下から吹き出す入口のようなものができたはず。もし城の兵士や大きな旅団が近くにきたら、手伝ってもらってね」

「入口はまた塞げますか?」

「森全体から、この町にまできてしまったら、対処できないかも。でも、いまはまだ平気よ」

「わかりました」


 隣で書き留めていたシスターが、いま言ったことを神父さまに渡している。

 リックュスの竜は、まだみていた。

 やっぱりそうだ。

 あのわたしたちの乗る竜たちは、なにかを察知しているのだとわかる。

 リシアスが少し怪しんでいそうだ。

 神父さまがほかのシスターに報せにいっているなか、まだ残るもう一人のシスターがたずねてくる。


「少しおたずねしていいですか」

「なんでしょうか」

「そういったことは、どうされたんですか」

「そういうの?」

「竜の知識や薬」

「薬はリックュスだから。でも、竜たちと生活していくと、経験はたくさんできるわよ」

「あの……わたし、あなたたちと一緒にいきたい」

「え、ぼくたちと?」

「そうです。だめですか」

「いや、いいけれど急だな」

「リックュスは?」

「わたしはいいですよ。でも、ちゃんと考えてからのほうが。神父さまにはこのこと」

「まだです」

「そう」

「神父さまに、ちゃんと話してからでいいのよ。まだこの街にはいるから」


 シスターが頷くと、離れていく。

 神父さまは、まだ忙しそうだから、自身の用だろう。

 リシアスが驚いたまま、こちらを見てくる。


「いつの間に仲良くなったんだ」

「あれ、気づかなかった? リシアスと誘導してたじゃない」

「あれか」


 かなり慌ただしいなかの出来事であったため、気づいていなかったようだ。

 わたしは教会の階段のときから話し込んでいたため、リシアスもわかったかと思っていた。

 リックュスがわたしに近づくと、腕を引っ張るため、少しよろける。


「なに?」

「シスターといつの間に仲良しになったんですか」

「竜を誘導するのに、手伝ってくれたの」

「ちゃんとリーダーしてる!」

「なにそれ」

「いえ。成長を実感しました」

「それはよかったわね」

「パーティーメンバーが増えたら、役割が必要ですね?」

「まだわかんないわよ」


 リックュスがなにか頷きつつ、考えている。

 もしかしたら後輩ができるというのが嬉しいのかもしれない。

 後輩メンバーといってもまだリックュスだって、そこまで長くないのだけど、それでも、う〜んと悩んでいる。

 リーダーと呼ばれるため、今度はリシアスから声をかけられる。


「なに?」

「それでさっきの話しなんだが」

「さっきの?」

「神父さまと話したろ。薬はわかる。竜たちもなんとなくだけど」

「それなら」

「そこだよ。なぜぼくたちは無事だと思ったんだ」

「そんなに詳しくは」

「そうですよ。リーダーなんですか」


 話しを途切れさせたのが、いけなかったのか。

 いや話しをするのにも、複雑だ。


「わたしもそんなに話せるのは、ないわよ」

「それでも」

「そうね……毒の話しより、竜たちの話しのほうが近いかもしれない」

「竜がどうしたんだ?」


 ちらっと入口をみる。

 まだリックュスの竜がこちらを見ていた。


「あ、わたしの竜ね」


 上から、もう二竜降りてきた。


「ぼくのも降りてきたな」


 ヒロスターニャが降りてくると、口になにかをかじっている。

 わたしが首にかけておいた薬の鎖だけのものかもしれない。

 薬の容器は見当たらない。

 誰かに渡したと言っていたから、鎖だけ残ったのだろうと思う。

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