たおれないということ
外の竜たちには、あとは時間を空けつつ、ときどき材料をまとまって集めてくれるように交渉したみたいだ。
ライラリックュスがウラナイをした結果でもあるらしいけれど、ここの街にひとつ教会と竜たちとの仕事が出来上がりつつある。
そろそろライラリックュスが死にそうなため、お疲れさまと隣に座ってもらう。
なぜかわたしの膝に頭を載せて寝転ぶ。
でも、この子がいなければ、これ程の短時間では薬は捌くことは出来なかった。
いまは甘やかそう。
少し頭をなでてあげると「うぅぅ」とうなる。
獣か。
かなり疲れている。
「やばいです。わたし働き過ぎで死にませんか」
「そういうこともある。いまは休んでね」
「はっ、薬渡しましたか?」
「平気よ。シスターが届けてくれた」
「ほわぁよかったです」
あまりに多忙で、ライラリックュスは自身で薬も飲んでいなかったみたいだ。
でも、平気そうだ。
倒れるなら、もっとずっと前にだろう。
「まだまだバタバタしてるな」
ハッシュリシアスは少し眠たそうだ。
こちらも疲れている。
「そのうち神父さまが倒れるわね」
「なんでなんだ?」
「なに」
「薬は資料があったし、ライラリックュスは知識もあった。けど、なんだ。自信あっただろ」
「自信はなかったわ」
「違うだろ。なにか知っていたろ」
ハッシュリシアスはやはりお姫さまの使いだ。
いろんな方面に知識があり、その上、直感もある。
それに疑り深くしっかりとヒトも観ている。
「お姫さまもなかなか大変そうね」
「こっちの事情はそれはあるが、なぜ隠すんだ」
「二人とも頭の上でうるさいです」
「ほら、怒られるわよ」
「ライラリックュスは気にならないのか?」
「わたしは……いまだめ。ウラナイする頭すらない」
「いまウラナイで視ようとしたの? 無理しないで」
「えへへ」
「リックュスは、休んで」
「え、いまリックュス……」
「ライルのほうがいい?」
「ううん。ライル懐かしいけど、リックュスでお願いね」
「うん」
「なんだ。呼び名変えるのか?」
ハッシュリシアスは、なにがいいだろうか。
「あなたは、なんて呼ばれているの」
「普段か。いや好きに呼べばいいさ」
「リシアスでいいかしら?」
「そうだな」
「へぇわたしもそれ呼ぼう」
「それじゃリシアスね」
「きみはどうなんだ」
「え、わたしはいいや」
「じゃ勝手にリアって呼ぶね」
「そうだな」
「ま、いいわ。少し懐かしい」
リックュスが一度起き上がると、わたしの手を取る。
眼の色が移る。
ウラナイをしているみたいだ。
「いま少しだけ変わったかも」
「いつの?」
「ううん。わたしの」
「あなたの先のことね」
「こっちのはどうなんだ」
「もう無理。力ないです」
「また次のときに」
「順番待ちか」
薬はだいぶ出来たみたいだ。
神父さまは、シスターたちを励ましている。
もう少しここでと思っていたら、竜の鳴き声が聴こえる。
わたしの竜が呼ぶ。
先に伝えてあるけれど、あの様子なら竜は無事なようだ。
それでもとりあえず外に出ることにする。
「いってくる」
「え、なんですか」
「竜が呼んでるわ」
「そんな聞こえないです」
リックュスの頭をなでてから、外に向かう。
扉を開ける。
上で回転していたけれど、見つけたのだろう降りてくる。
教会のすぐ前だ。
もうほかの竜は、それほど集まっていないらしい。
「首にかけた薬ないわね」
「あぁほかのやつが先に欲しがっていたから、あげちまったぞ」
「それでいいわ」
「そっちは?」
「うん。まだ作業しているけれど、リックュスがもう身体動かないって。わたしたちも休み」
「名前変わったのか」
「呼びかたよ」
降りてきた身体をなでてあげる。
なんともいえない音で喜んでいる。
「教会は無事でよかったな。でなければ、全員倒れていた」
「リックュスが頑張っていたわ」
「そうか」
この竜も頑張ってくれた。
いまはなでるだけにしておこう。
「もし、わたしが倒れていたらどうする?」
「冗談だな。倒れないだろう」
「どうしてわかるの?」
「この状況でも、倒れないとわかっていたはずだ」
「そう……そうね」
きっと、そうなのだろう。
やっぱりわたしは、これで倒れることはなかった。
リックュスもリシアスもよく頑張っていた。
竜たちも神父さまもそうだ。
リックュスが率先して薬を調合していて、いまはそれを少しずつ増やして溜め込んでいる。
ここの町全体に渡らせるには、まだ時間はかかるものの、教会に先に運びこまれていたヒトたちから順番に薬を渡していき、その順番で回復してきている。
はじめに飲まされたヒトは、もうしゃべれるようにもなってきた。
神父さまが、その方におおまかなこれまでの経緯をたずねる。
「あなたが倒れていたのは、どの辺りでしたか」
「町から出て、少し遠いけど森がありますよね」
「湖の方向?」
「いいえ。そちらではなくて」
「無理せず」
「いえこれくらい。反対側です」
「そちらですか」
少し口が回りにくそうに話す。
けれど、伝えてくれる内容を聞き取ろうと、神父さまも懸命だ。
反対というのは、わたしたちがいった湖とは別方向なのだろう。
「森からの異様さはわかっていたのですが、近くにいく頃には倒れていたのだと思います」
「ほかのかたは?」
「同行がいましたが、おそらく意識は飛んだのだと」
「そうですか」
ほかにはと、神父さまがシスターやわたしたちになにかあるかとたずねる。
けれど、あまり無理させてはいけない。
ここで休憩にしてもらおう。
もう危険はないだろうと、教会の扉は開け放してある。
返って竜や外の様子がわかるため、そのほうが助かる。
いまは外で一体休んでいる様子がわかる。
たしかリックュスの竜だ。
羽休みだとは思うけれど、こちらを見ていた。
いまはこちらが事情を聞いている最中だから、あとでたずねてみよう。
神父さまとそれに前に竜たちを案内したシスターが、いまの話しを書き留めている。
「神父さま。休んでもらいましょう。ほかのかたも少しずつではありますが、回復傾向にあります」
「よかった。話し聞けたら教えてください」
「わかりました」
ほかのシスターが肩を貸して、奥にある療養室のほうに歩いていく。
「どうですか?」
わたしの方を向いて声をかけてくる。
「ほかに聞けそうなことは、範囲がどれくらいかということですね」
「範囲というと、森のですか」
「おそらく森全体がそうなっているのだと思います」
「森がですか」
「それが原因ってこと?」
リックュスがたずねてくる。
「そうだと思う」
「調査にいきたいのですが、どう対処すれば」
「もう数日すれば、収まる……はずです」
「どういったことなんだ」
少し周りをみてしまう。
リックュスの竜が、またこちらをみていた。
なんだ、そういうことか。
ここで話してもいいらしい。
「森に留まってしまった毒素のせいなのだと思います」
「毒素っていうと、ここに来るときにみたやつか?」
「種類は違うけど。でも、同じ現象というべきかもね」
「それは、対処は」
「森をしばらくの間、閉鎖してください。それから倒れてしまったかたたちがそこから持ち帰ったものは、できるだけ廃棄するか、洗浄をしてください」
「わかりました」
「竜たちは?」
「あの竜たちは平気よ」
「なぜそうわかるんだ?」
「あなたもみてきたでしょう? わたしたちの竜は、あの毒素のある霧のなかを飛び回ったのよ。おそらく耐性がもうあるのよ」
「だけど、人……ぼくたちは倒れるだろ」
「わたしたちは耐えきれなくて、それで倒れるのよ。でも、身体は洗浄しておいてね。それから、リックュスは知ってるんでしょ」
「ふぇ! わたしですか」
「薬をつくれたのなら、それに似た知識があるんでしょう」
「……そっか。任せてくれたのはそういうことなんですね」
「神父さま。あの森には地下から吹き出す入口のようなものができたはず。もし城の兵士や大きな旅団が近くにきたら、手伝ってもらってね」
「入口はまた塞げますか?」
「森全体から、この町にまできてしまったら、対処できないかも。でも、いまはまだ平気よ」
「わかりました」
隣で書き留めていたシスターが、いま言ったことを神父さまに渡している。
リックュスの竜は、まだみていた。
やっぱりそうだ。
あのわたしたちの乗る竜たちは、なにかを察知しているのだとわかる。
リシアスが少し怪しんでいそうだ。
神父さまがほかのシスターに報せにいっているなか、まだ残るもう一人のシスターがたずねてくる。
「少しおたずねしていいですか」
「なんでしょうか」
「そういったことは、どうされたんですか」
「そういうの?」
「竜の知識や薬」
「薬はリックュスだから。でも、竜たちと生活していくと、経験はたくさんできるわよ」
「あの……わたし、あなたたちと一緒にいきたい」
「え、ぼくたちと?」
「そうです。だめですか」
「いや、いいけれど急だな」
「リックュスは?」
「わたしはいいですよ。でも、ちゃんと考えてからのほうが。神父さまにはこのこと」
「まだです」
「そう」
「神父さまに、ちゃんと話してからでいいのよ。まだこの街にはいるから」
シスターが頷くと、離れていく。
神父さまは、まだ忙しそうだから、自身の用だろう。
リシアスが驚いたまま、こちらを見てくる。
「いつの間に仲良くなったんだ」
「あれ、気づかなかった? リシアスと誘導してたじゃない」
「あれか」
かなり慌ただしいなかの出来事であったため、気づいていなかったようだ。
わたしは教会の階段のときから話し込んでいたため、リシアスもわかったかと思っていた。
リックュスがわたしに近づくと、腕を引っ張るため、少しよろける。
「なに?」
「シスターといつの間に仲良しになったんですか」
「竜を誘導するのに、手伝ってくれたの」
「ちゃんとリーダーしてる!」
「なにそれ」
「いえ。成長を実感しました」
「それはよかったわね」
「パーティーメンバーが増えたら、役割が必要ですね?」
「まだわかんないわよ」
リックュスがなにか頷きつつ、考えている。
もしかしたら後輩ができるというのが嬉しいのかもしれない。
後輩メンバーといってもまだリックュスだって、そこまで長くないのだけど、それでも、う〜んと悩んでいる。
リーダーと呼ばれるため、今度はリシアスから声をかけられる。
「なに?」
「それでさっきの話しなんだが」
「さっきの?」
「神父さまと話したろ。薬はわかる。竜たちもなんとなくだけど」
「それなら」
「そこだよ。なぜぼくたちは無事だと思ったんだ」
「そんなに詳しくは」
「そうですよ。リーダーなんですか」
話しを途切れさせたのが、いけなかったのか。
いや話しをするのにも、複雑だ。
「わたしもそんなに話せるのは、ないわよ」
「それでも」
「そうね……毒の話しより、竜たちの話しのほうが近いかもしれない」
「竜がどうしたんだ?」
ちらっと入口をみる。
まだリックュスの竜がこちらを見ていた。
「あ、わたしの竜ね」
上から、もう二竜降りてきた。
「ぼくのも降りてきたな」
ヒロスターニャが降りてくると、口になにかをかじっている。
わたしが首にかけておいた薬の鎖だけのものかもしれない。
薬の容器は見当たらない。
誰かに渡したと言っていたから、鎖だけ残ったのだろうと思う。




