ざいりょうをもとめて
神父さまの隠れ家のようになっている建物の外でハッシュリシアスと話す。
さきほどいた絵描きの女の子は、もうアトリエに戻ったのだろう。
ライラリックュスもハッシュリシアスも、以前からなにかを探し回っている。
わたしは依頼されたものを探していたけれど、それとはまったく違うのだと感じていた。
それに、ハッシュリシアスは故郷のお城の任務のようでもある。
お姫さまの護衛だと言っていたのに、離れて探索しているのは、理由があるはずだ。
そのひとつは呪いについてだと、ここのおかしな現象を調べていくうちに気づいた。
「あまり聞かないほうがいい?」
壁に背を預けて、上をみているハッシュリシアスは、どこか悩んでいる。
「いや、そんなことはないけど、ただ詳しく聴かないほうが、そちらにはいい気もするんだよな」
「どういうことよ」
「聴かないでいたほうが、気持ちが穏やかなのかもっていう話しさ。ここのが片付きそうなら、そのあとで言う」
「そっか……でも、協力できることは、ちゃんとするからね」
ハッシュリシアスは、どこかノリ気はしなさそうに頷いた。
「どうしましたか」
ライラリックュスが中から呼ぶため返事をする。
「ライラリックュスには、このことは」
「まだだな」
「そう。ちゃんと話してね」
「あぁ」
「いまいくわ!」
先に中に戻る。
神父さまとライラリックュスは、いくつかの資料を並べ替えている。
さっきより片付いているみたいだ。
「片付けたの?」
「資料が乱雑なんですよ」
「申しわけない」
神父さまは、慌てている。
ライラリックュスのほうが、なにかしら発言が強いようだ。
「この辺りのは」
「そうそう! 聞いてください」
ライラリックュスがまだ片付けてはいないほうの資料を手にとる。
見ていたのは、ある地方でも似た事件があったものだ。
でも、それとは違うみたいだ。
「さっきのと違う」
「いまの症状の回復の参考になっているのか、まだわからないですが、以前治療したものは回復薬による効果があったという記述があるんです」
「本当に?」
回復薬の材料を集めた資料らしい。
いくつかの材料を集めたのち、それを数滴飲ましたところ、数日で目を覚ましたとある。
あまり飲ませ過ぎてはいけないらしい。
「ところどころ読めてないですが、信じてみますか」
「えぇ、神父さまここ」
「わかりました」
「案内してもらうのでいいんですか」
「一度教会で伝えたあと、調べにいきましょう。シスターが一緒に探しにきては、街が心配ですから」
「わかりました」
神父さまがみつけた資料以外は、片付けをはじめるため手伝う。
ここの資料は旧いけれど、貴重なものも多い。
また調べたいと思う。
いくつか気になる文章をみた。
「さ、いきましょう」
外に出ると、さきほどのアトリエはもう閉まっている。
通路を案内されつつ戻ると、途中で絵描きに会う。
「おでかけですか」
「教会にいきますが、あなたはどうしますか?」
「わたしは続きを」
「わかりました」
「お気をつけてください」
それぞれ絵の前を通り過ぎる。
まだ絵は完成には、遠いみたいだ。
来た道とはまた違う道を通りでると、教会の近くにいた。
「少しお待ちください。なかで話してきます」
神父さまが一度離れる。
教会のなかでは、神父さまだ、どうでしょうか、と声をかけられているのが聞こえる。
「どうかな」
「まだ、なにもだよ。話しているだけだ」
「また運ばれてきたんですね」
ライラリックュスがそーっとのぞいているけれど、また増えてしまったらしい。
少しだけ待っていると、シスターたちがこちらに来た。
「みなさまですね。神父が少し待たせてしまうなら、別の場所に案内してくださいと言うのですが」
「いいえ、平気です」
「長引きそうなら、またお話しください」
「わかりました」
シスターは灰色っぽい修道服をパタつかせながら、また中に戻っていく。
「ここの服装は、灰色ですね」
「地域によって違うのよ」
「教会で統一されてるんじゃないのか」
「ええ、そうみたい」
また少し待つと、神父さまがでてきた。
なんとか話しをできたらしい。
「あとはシスターに任せてきました。お待たせしました」
「いきましょうか」
中では、まだざわざわしているため、これからでかけるというだけの話しをしてきたのかもしれない。
上着を抱えていて、それを羽織る。
ほかにカバンも抱えている。
「場所は、わかるのですか」
「さきほどの資料によると、多少遠くになりそうです」
「遠くですか」
「竜に乗りますか」
「それは、とても嬉しいお誘いですが、現在規制をかけていて、ときどき待機することになるんです」
「あぁさっきの!」
「シスターと街のかたにお任せして、歩いていきます」
ライラリックュスと見合わせる。
買いものした装備品は、役に立つかもしれない。
街の住民から隠れるように、外に出ていく。
竜たちは気づいたらしいが、特にこちらにくることはなかった。
門から出て向かう先は、山の方角ではなかった。
どちらかとなにもなさそうな向きに歩いている。
「ライラリックュスは、荷物それでよかったの」
「竜に乗るのではなかったため、上で使いそうなのは置いていきました」
神父さまが泊まるのに使っていたあの部屋に、荷物をいくつか置いてきていた。
ハッシュリシアスとわたしは、そのままだ。
山に向かうわけでもなく、かといって、もっと整備された道をいくわけでもない。
遠くみれば、ほかの高い山や右には森っぽいのもあるけれど、そんなに険しい高い山まではいくのでは、ないだろう。
「これどこいくの」
「地図はないですけど」
「そうですよね。行き先言ってませんでしたね」
神父さまが、やや歩調をゆっくりにする。
やはり焦っているのかもしれない。
ここまではどこにいくのか、詳しくわからないでいる。
「けっこう遠くなのですね」
「途中に休憩場所も小さくありますが、その先に湖があります」
「湖」
「そこにもしかしたら、さきほどの資料にあった材料がみつかるかもしれません」
「湖の側でないといけないのですか」
「少なくとも、わたしの知識ではここの地域のその場所だけです」
水が関係しているのかは、わからないけれど、そこでみつかるのならば、いってみるほうがよさそうだ。
休憩場所がありそうというのなら、よかった。
神父さまが疲れてしまわないか心配だった。
神父さま一人のときには、いつもこの距離を歩くのかもしれない。
ハッシュリシアスは平気そうだけど、神父さまとハッシュリシアスで話しつつ、また少し早足だ。
ライラリックュスも、まだ無事だ。
「荷物減らしたの正解ね」
「少し持ちましょうか」
「そうはいっても、このカバンともうひとつだから」
ライラリックュスは、意外と探検に慣れているのだろう。
「わたしけっこうタフですよ」
「そうみたいね……わたしが一番ひ弱かも」
見上げる空は、そんなに悪くないけれど、ときどき竜が街に向かう。
たぶんあの竜たちも街で止められるのだろう。
「あの規制は、いつまで続けているのですか」
「あの症状のかたたちが、運ばれる一時ですね。ただ、すぐに連絡がきてしまうため、また規制しています」
「それは神父さまが?」
「提案はわたしからですが、街の代表とシスターたちと決めました」
「そうですか」
この神父さまは、あの街ではけっこうな権力者となるらしい。
ハッシュリシアスがときどき話しかけているのは先にある材料や休憩場所までの体力などだ。
護衛だからと鍛えてはいるようだけど、どこかいつもは頼りないため、神父さまといるときは、頼りにしてみようか。
危険かどうかはわからないけれど、少なくとも神父さまは無事につかないといけない。
「もう少しで休む場所です」
言われて先をみると、まだ遠いけれど、建物がみえてくる。
「神父さまは平気ですか」
「まだ、平気です。みなさんは」
「わたしたちも。けれど、一度よりましょう」
「わかりました」
平気とはいうけれど、まだ先があるのなら、少し体力を保たせたほうがよい。
竜といるときにも、焦って遠くまでは飛び過ぎないようにしている。
ヒロスターニャに言われたこともある。
建物は民家ではないけれど、二階になっていて、一階には簡単にお店がある。
いまは不在らしい。
「ここのお店って、いつ開くのかしら」
「時期のときだけのようです」
そのまま中に入っていき二階に上がると、休憩場所になっている。
神父さまは座るとすぐに荷物から資料を拡げる。
重たそうなカバンの中身は、資料だったらしい。
ハッシュリシアスは体操をしつつ、その様子をみている。
ライラリックュスが窓際に寄るため、わたしもそちらにいく。
「あの竜たちも止められますかね」
「そうでしょう」
「だんだん症状のかたが増えてるってこと」
「そうみたい」
ライラリックュスが窓の外をみている。
言いたいことはわかる。
症状のある者が増えているのだから、なにかしら原因がある。
「わたしたちもってことよね」
ライラリックュスがあまり言わないようにしていることは、わたしたちも原因不明で倒れるってこともある、とそういうことだ。
ハッシュリシアスは、なにか神父さまと話し込む。
「あまりはっきりとはですが」
「でも、そういう可能性も考えなくちゃね」
「冷静ですね」
「飛ぶといろいろあるわ」
外をみたいわけではなかったらしい。
もしかしたら、神父さまにあまり伝わらないようにしたかったのかもしれないとも思う。
「気にかかることもあるんですが」
「なに?」
「もう少し経ってからのほうがいいかも」
「あなたがいいのなら」
ハッシュリシアスが呼ぶため、そちらに向かう。
ライラリックュスは、まだいいらしい。
「これなんだけど」
「なに?」
拡げられた資料を眺める。
「材料を揃えてみる。けれど、調合とかはどうするんだ?」
「どうするって」
「くすりの知識まではないぞ」
「わたしもそこまでは」
神父さまもそれほどには、自信はなさそうだ。
「あ、それなら」
ライラリックュスが手をあげる。
「本当か」
「ウラナイにも使いますし」
「……どんなウラナイで使うんだよ」
「知らないですか。ウラナイって調合するんですよ」
「聞いたことないぞ」
「うん、わたしも」
「ウラナイのセカイにようこそ」
神父さままで笑っている。
ライラリックュスの冗談ではないだろうけれど、和んだのはたしかだ。
「もう少し休憩してからにしましょう」
「そうですね。そうしましょう」
神父さまが賛成してくれる。
神父さまも焦っているのだろう。
けれど、まだはっきりとはしないものなため、無理やり動きまわるのはよくない。
ウラナイがどんなウラナイなのか、さっきのライラリックュスの話しはそれなのだろうか。




