つまれたしりょう
倉庫内にあるアトリエの横の建物で、温かい飲み物をいただく。
三人で座りつつ、神父さまのお話しを聞く。
けれど、神父さまもそれほどには、多く知っているわけではないみたいだ。
バタバタと資料やなにか束を持ってきて、テーブルに並べている。
なにかをずっと調べているようだ。
あまり人が来ないというのは、その通りなのだろう。
休憩室なのかもしれないこの部屋も、物でたくさんだ。
棚にはいくつものよくわからないものが入っていて、床にも積んである。
入ってきた通路には階段もあったけれど、上は寝室になるのだろうか。
ときどきバサッと物を落とす。
拾おうにも、テーブルもどんどんと積まれていく。
「拡げすぎましたね」
落としたのは、また別の場所に積む。
「これみんなご自分で調べているのですか」
「ときどき、さきほどの彼女に手伝ってもらいますが彼女は描く場所だけしか、あまり関心がないのかもですね」
「それじゃここにいるのは」
「シスターや街のひとには、伝えてはいません」
それで、教会で集まっていたらしい。
三人して待ち、神父さまが空いている席に座る。
「たくさんですね」
「おそらく関係ないものも含まれてはいます。でも、ヒントにはなるかも」
パラパラと積まれている資料をみてみる。
病気や怪我についてのもあれば、呪いについて、ほか信仰に近いものもある。
「神父さまは、どこかで詳しいことを聞いたのですか」
いくつもの資料のなかから、探しているものがみつからないようだ。
ひとつ取ると、開きつつ話す。
「はじめに考えていたのは、怪我などによる気絶でしょうか。けれど、外傷のような大きいものは少なく、血もでているかたはあまりいないようです」
「病気は?」
「感染に近いものは感じましたが、それにしては、はじめから触れたわたしやシスターは、そうなってはいません」
「それじゃ、どういうのですか」
「まだ、なんともいえないのです」
そうすると、どうしても街のかたたちの考えと似たものを思い出す。
「呪いですか?」
ライラリックュスが、さっそくたずねる。
「それについて、はっきりとはいえません。ですが、あなたたちがいらっしゃったのは、そのことでしょうか?」
ハッシュリシアスが間に入って言う。
「いえ、違うんです。たしかにそちらも気になりますが、お聞きしたいのは、絵についてです」
「そうそう」
なぜかライラリックュスも同意する。
「絵ですか」
「はい。サインのない絵を探しています。正確には、それをしなかったというか、なくなったというか」
「サインとは、絵に書くサインですね」
「そうです」
「それは名もない絵描きなら、そういうのもありそうですが実物は」
「いいえ。わたしも複製物でみたようなものなんです」
「彼女にたずねたほうが、いいかもしれないですね」
神父さまは、よくはわからないのかもしれない。
「わかりました」
絵については、こちらで聞き終えたあとで、彼女にたずねよう。
「それで呪いでもないなら、わかりそうですか」
「もし、呪いじゃないとしたら調べられそうですか」
「こちらに来られたのですから、お話しを聞いてもらいたいのです」
「はい」
わたしは、聞かれるほうらしい。
「病気でもなく、また、おそらく呪いでもない。けれど、街中でも外に出ている際にも、倒れて戻ってくる人が多くなりつつあります。おそらく今日戻られたという方も、同じ状態であるとそういうことですね」
「そうかと思います」
ハッシュリシアスもライラリックュスも積まれた資料をいくつか手にとる。
「ほかだと、なにかの発作とかでしょうか」
なにか危ないものに触ったり、吸いこんだりしたということだ。
それなら、少しは可能性があるのかもしれない。
「神父さまは、症状のあるかたを触ったりしてもなんともないのですか」
「そうです」
「シスターたちも」
「そうですね」
ハッシュリシアスがなにか安心しているようだ。
「なにかあったの」
「いや、なんでもない。あとで話すよ」
「そう」
「ほかは、なにか考えられることはありますか」
ほかにも複数思うことはあるけれど、あまり考え過ぎるのもよくない気もする。
「そうですね。まずは、その辺りからみるのもいいかもしれないです」
ライラリックュスは、テーブルに並ぶ資料を少し整理しはじめる。
「こちらは、この辺で」
「それ、どういう形なの?」
「形って」
「ジャンルとか」
「さぁ、気持ち分類です」
「気持ち、ね」
そういう割には、なにかありそうだ。
二人とも協力的ではあるものの、様子が少し違う。
たしか、呪いの話しをしているときだ。
「資料は、いろいろ分けるのがいいんですよ」
「そうだな。拡げすぎるとわけわからないし」
「なんだかお手伝いまで、させてしまい申しわけない」
神父さまが、やや遠慮気味に言っている。
けれど、ライラリックュスのいうことはわかる。
これだけテーブルが乱雑だと、手元の以外はなかなか探せない。
少しずつ上が整頓されていく。
ライラリックュスはこういうのが得意らしい。
症状や環境、地方の逸話、教会、内容もわからないものなどに分かれた。
それぞれ手に取りつつ話す。
「シスターや神父さまは、ほかになにか変わった変化はありますか」
「いいえ、わたしは。シスターたちは、また聞かないといけないですね」
ハッシュリシアスは、真剣に調べてはいるけれど、どこか悩んでいるような感じもする。
「なにか探してるのって、関係しているの?」
「関係って」
「あなたが最近ずっと探してるじゃない」
「あぁ……あとで話すかもな」
ここでは、まだ話したくないらしい。
ライラリックュスは、資料のいくつかを興味深くみている。
ウラナイにも役に立つものもあるかもしれない。
少しの間、四人で積まれているものを読み進める。
まだ外では教会で神父さまを待っているのだろうか。
気になるため、たずねてみる。
「一度教会には、戻られないのですか?」
「この時間でしたらシスターが対応していてくれます」
「けれど、神父さまが一言でも、お声かけあれば、ほかのかたは安心なさるのでは」
「そうなのかもしれません。しかし、あなたがたもみかけたのではないでしょうか」
「どういった」
「外から倒れていた町の人がいたのでしょう。つまり、原因がわからない」
「そうでしたね」
原因がわからないままだと、説得しても意味がないのかもとお考えらしい。
ここまで神父さまが思いつめているのも、ほかにあるのかもしれないと思う。
もう少しかかるなら、一度休憩でもしようかと迷うと、入口に誰か来ていた。
「調べものですか?」
「あぁなにか用ができましたか」
さきほどの絵描きだ。
「向こうの部屋からみて、まだこちらにいそうだな、と思いました」
そのまま入ってくる。
慣れているらしい。
「そうですか」
「飲みものお入れします」
みると、みんなの飲みものは、もう空になっている。
「お願いしても」
「いいですよ。そのままどうぞ」
小さいキッチンになる場所で、新しいのを入れてくれている。
絵描きの道具を探していたのだと思っていたけれど、そのままこちらにいたらしい。
「ずいぶんと熱心に探していますね」
「えぇ」
「この前のからのですか」
「そうなります」
「そっか」
そういえば、こちらで手伝っていると言っていた。
「聞いてもいいですか」
「なんですか」
「街のほかの場所では、描くことはしないのですか?」
「あまりみえていない部分には、ありますよ。でも、大きいものはあの場所」
「そうなんですね」
ポットから入れた飲みものを置いてくれる。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
そのまま椅子に、座っている。
「聞いてもいいですか」
ライラリックュスが様子みつつ、話しかけている。
「はい」
「サインのない絵は、どうしてするんです」
「サイン?」
「そうです。どうして書かないのかなって」
「……下書きとか、そうでなかったら、はじめは売り物じゃないのかも」
「はじめ? っていうと」
「みせるために、書かなかった」
「みせない絵」
「そうですね」
わたしが訊ねる前に、聞いてくれている。
そうか。
見せるための絵かと思っていたけれど、みせない絵があるのか。
「みせない絵もあるんですね」
「なにか探しているんですか」
「そうです。でも、いまはこちらのもありますから」
ちらっと神父さまをみると、神父さまは考えごとらしい。
「そうですか。わたしはまた外にでますが、もし、区切りなどつきましたら、声かけてください」
「わかりました」
飲み終えると、すぐに神父さまはまた続きをしている。
ハッシュリシアスがこちらをみているのは、たぶんいま聞かなくてよかったのか、とか言いたそうな感じだ。
「それでは」
飲みものの片付けまでしてくれて、また出ていってしまう。
「よかったのですか」
「いいのです。ここ最近は、いつものことなんですよ」
あの絵描きは街にでるよりも、こちらで道具を補充しながら、生活しているようだ。
また調べものを続ける。
わたしがいま手に取ったのは、ジャンルがよくわからないとされたものだ。
よく読むと、教会の祈りや魔力回復の複雑さ、治療効果の話しなど、回復士たちが勉強するときに使うようなものだ。
教会の祈りによる回復は、わたしはあまり詳しくない。
魔力回復のシステムも、まだ開発段階のものもあるとなっている。
「ライラリックュスこれ」
「なんですか」
「回復とか治癒詳しくない?」
「治癒ですか……貸してもらっても」
「いいわ」
本を交代した。
こちらの本は、ここの地域の教会の特長やいくつかお仕事の紹介も載っている。
ライラリックュスは、ウラナイに関するのを探しつつ、みているのかもしれない。
お仕事の紹介は、通常は職業紹介訓練所に登録するけれど、そのほかに露天の護衛や教会からの紹介もあったりする。
野良紹介と呼ばれる。
「ここ参考になりませんか」
「どこの文章」
ライラリックュスがなにかみつけてくれた。
ハッシュリシアスと神父さまもなにか話しあっている。
「そっちのは、なにかみつけたか」
「もうちょっと調べてみないと」
「こちらのは、興味深いな」
「じゃ神父さまのほうから」
「みつけてくださったのは、だいぶ前にはなりますが、ある地方で似た状態のものがみつかったときのお話しですね」
「ほかの地域でも」
「感染というよりも、ある特定の条件がありそうです」
条件がわからない、倒れたまま回復しない、けれど、そのままの状態であるということだ。
「倒れているかたは、死んでしまうわけじゃないんですね」
「少なくとも、それが原因で亡くなるわけじゃないです」
「こっちのをみてください」
ライラリックュスがみつけたものは、治癒がされないけれど、怪我ではない。
戻しかたがわかれば、また自然に近くなるという症状が紹介されている。
「これ近いかもしれないですね」
「治癒方法までは、書いてないです」
少し休憩にしようとわたしが立ち上がると、ハッシュリシアスも一緒に立ち上がる。
お互いになんとなく一度外にでる。
外でハッシュリシアスをみつつ、声をかける。
「あれは、呪いじゃなかった」
「呪いじゃない。よかった。けれどそれじゃなんだろう」
やはりそうだ。
この彼が探しているもののひとつは、呪いやそれに近いものを探しているのだとわかった。




