めいろのようなまち
梯子から下りてきた。
絵描きは、下にきたあとも上を眺めている。
出来をみているようだ。
「ここにあるの、みんなあなたが描いてるんですか?」
少し反応がおくれてからきた。
「全部ではないです。来る前から描いてあるのも、向こうに」
通路の奥には、まだ数があるらしい。
「そうなんですね」
見たあと、また絵描きをみると、こちらをジッとみてくる。
怪しいだろうか。
「なかなか絵に映えそうな顔してます。モデルとかいいかも」
「え! わたし?」
「そうです。造形? きれい」
顔をみて、造形とははじめて言われた。
「ここの絵きれいです。いつごろから描いてますか?」
「いつ……そうですね。ここのは四ヶ月でまだ半分かも」
「半分ですか」
「もっと大きい場所のは、一年だったかな」
「すごい」
ライラリックュスが驚く。
ハッシュリシアスもうなづいている。
「それで、なんでしたか」
もう少し絵についても聞きたいけれど、まずは、神父さまだ。
「そうね。教会で騒ぎになっているのは、ご存知かしら」
「騒ぎ? よくない噂は聞いたりしますが、教会ですか」
「いってみたのだけど、神父さまがいなくて」
「外からの人ですね。神父さまを探しているのですか」
「そうなの。なにか知ってる?」
「なぜぼくに」
「街のなかで絵描いてるなら、そのうちに神父さまもみかけることはあるでしょ。声かけられるんじゃないかな」
少し警戒しているのかもしれない。
「ひとつお願いをしてもいいですか」
「お願い? なんでしょうか」
こちらをジロジロみている。
「絵の発想が、まだひとつ足りない。あなたの表情借りてもいいですか?」
「表情!?」
「モデルみたいな」
「モデル!?」
ライラリックュスが、にやりとしている。
なぜライラリックュスがそんなに、にやけるのか。
「はい、いいですよ」
「なんで、ライラリックュスが返事したの」
そうはいっても、こういうときは大抵流される。
「神父さまの居場所です」
「そうなんだけど」
「モデルいいですよ」
なんでそんなに、ノリ気なの。
なんだかわけはわからないけれど、引き受けることになるんだろうな。
「それで……」
「神父さまは、よく来られますよ」
「そうなんだ」
なんか神父さま、どうでもよくなってきちゃうな。
いや、そんなことはないか。
「神父さまの案内するのは、いいのですが」
そこでちらっと絵をみている。
そういうことか。
「絵がまだ途中ですよね。少し待ちます」
「いいえ、あなたのイメージだけ先に描かせてもらえると、いいのです」
わたしか。
わたし、なにかするのかな。
モデルは、初めて過ぎる。
そう思ったら、なにもしないでいいらしい。
「これは、なにを」
「少しの間観察させてもらいますね」
「これは」
「いいから」
ハッシュリシアスも心なしか、こちらをみている。
笑っているわけではないけれど、なぜか笑われている気がする。
ライラリックュスは、完全に笑っている。
「あっちいっててよ」
ライラリックュスに言ったのだけど、ハッシュリシアスも止めない。
「絵描きに描かれるなんて、きっといい体験ですよ」
「そうだな」
じっとしてるだけなのだけど、なにか観察されているようで緊張する。
観察されているよう、というかじっとみられている。
絵のモデルって大変だと、いまわかる。
「はい……ほかは、またあとで」
「まだあるんですか!?」
「あ、いやでしたか」
「いやってわけじゃないんですが」
「それじゃ」
「それより、神父さま!」
「そうですよね」
なんだか、お茶目なヒトなのかもしれない。
こちらに来てください、と絵に使うだろう大きめなバックに物をいくつかしまうと、道の先に歩いていく。
「モデルいいなぁ」
「それじゃ交代で」
「いえいえ! モデルはリーダーです」
そのまま歩くと道は狭くなると、そのうち行き止まりだ。
「ここは、先ないですよ」
「いえ」
なにか右にある扉に手をかけて、開けてしまう。
「あなたの家なの?」
「違いますよ」
入っていってしまう。
ハッシュリシアスを見ると、ついていくしかないだろ、という感じで押してくる。
「わかった。いくわ」
扉の先は、家ではなかった。
「通路……ですね」
「どうなってるんだ」
見た目、外からは家にみえた。
けれど、中に入っていくと、先に続く通路で、しかも出ると外でその先の扉に入っていく。
「まだあるのね」
「まるで迷路の街だな」
慣れているようで、どんどん進む。
ときどきこちらを振り向くため、案内にはなっている。
「これもうよくわからないんだけど」
「そうですね。戻れない」
扉と通路、なにかの角を曲がったりしているうちに、よくわからない倉庫のような場所にいる。
「こちらにいるかと想いますよ」
こちらと言われても、ここはどこなんだろう。
「ここなんですか」
「倉庫というか、アトリエです」
なぜアトリエに案内されたのか、よくわからない。
「ここにいるんですか」
絵描きがなにか呼びかけている。
物が雑然としているけれど、その向こうから声がする。
「あれ……なにか用事ですか」
「神父さま、誰か探していらっしゃるみたいですよ」
「そうなんですか。あなたが案内するのは珍しいですね」
そう言いつつ、ゴトゴトと物が動くと、神父の格好をしたほこりだらけのヒトがでてきた。
「また汚れてますよ」
「あぁ、いいです。替えありますから」
「神父さま、いつもこちらに?」
「いいえ。探しものと趣味のものをするときだけ、来ます。あまり案内も頼むことはないんですが、旅のヒト?」
「そうみたいです。壁」
「あぁ壁の絵をみてきたのですね」
「神父さま、竜乗りでここまで来ました」
「そうですか……竜」
眼を細めるも、相変わらずほこりだらけだ。
あまり気にしないらしい。
「とりあえず失礼します」
神父さまの周りを三人でぐるっとして、ほこりや砂汚れをはたく。
「いいですのに」
「よくないですね」
それでも、少しはキレイになった。
「ありがとうございます」
それで、とハッシュリシアスが改めて聞きなおす。
「神父さまは、こちらでなにをなさっているんですか」
ライラリックュスも興味深そうにみている。
「資料を取りにきました。ここ彼女のアトリエなんです。貸しているというか、わたしのを置かせてもらっています」
「彼女って、誰ですか?」
「この子です」
ずっと背の小さい男の子かと思っていたら、女の子らしい。
「そっか……それでここ全て彼女のなんですか?」
「そうですよ。向こうじゃかなり有名なんですが、ここの街ではあまり知られていないんですね」
彼女と紹介された絵描きは、アトリエにあるなにかよくわからないものに頭をつっこみつつ、物を探している。
ここに来たのは、神父さまだけの用じゃなかったらしい。
「そうなんですね。それで神父さま、教会の話しなんです」
「教会……お祈りや回復ですか?」
「違います。呪いというか不明な病があるとか、そういうのです」
「そのことですか。調べものと一緒ですね」
「それじゃ……」
ちらっと彼女をみたあと、こちらにと別の場所に案内される。
絵描きの子は、置いていっていいらしい。
倉庫の扉をでると、すぐ右にある別の建物に入っていく。
「ここは?」
階段があり、その先にテーブルや小さい灯りがついている。
「まぁ調べもの室といった場所です。教会の者には秘密ですよ」
なにかこの神父さまは、抱えているものが多いみたいだ。
「温かいのでいいですね」
キッチンのような小さい場所で、ポットやカップを準備している。
ハッシュリシアスをみるも、三人して座ることになった。
「待とう」
「そうね」
たぶんだけど、なにか事情が複雑なことらしい。
ポットが沸くなかポツリと話す。
「わたしも困っています。頼りにはされているのですが、どうにも不思議で。かといって呪いではありません」




