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ヒロイン  作者: 十矢


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16/20

いしき

 明日、朝にもう一度来てとリナミィナに言われた。

 夜にすぐじゃないのは、リナミィナにも準備があるのだろう。


 夜になってからではあるけれど、竜の場所に向かうとお祭りの話しでもしてるのかと思っていたら、竜たちは別の話しをしていたらしい。

 ライラリックュスとハッシュリシアスは、自身の竜と話しこみ泊まる場所を探すことになった。

 時間がかかったのは、お祭りの時期で観光客が来ていたからだ。

 ようやく泊まれることになり、外で竜と分かれる前に、依頼の話しをした。

 笑われた。


「ここの地域のお祭りができるかは、その調査次第なんだな! はははっ……」

「笑わないでよ」

「それで、依頼料はいくらなんだ」

「あ、聴いてないわ」

「お祭りできるといいな!」

「ゼッタイからかってる」


 ようやくみつけた宿で、二つの部屋に分かれる。


 わたしは、ハッシュリシアスと同部屋でもたぶん平気だろうと思うけど、ライラリックュスがあんまり男の子をそういうところで信頼しないほうがいいです、と断った。


「お姫さまもいるし、護衛よ」

「そうはいっても、ウラナイしていても変なやつもいるんですよぅ!」


 部屋では少しずつ、ライラリックュスの愚痴を聞いていることになった。

 シャワーも浴びたいのだけど、当分ムリそうだ。


「手をウラナウなら触るのは仕方ないし、顔だって触るけど、ウヘヘって変な声していたり、ちらちら違うところ見ていたり」

「それは緊張とか」

「なにか言ってきたりとか」

「えぇどんな?」

「……言いません」

「そっか」

「はぁぁぁぁ……わたし能力としてのウラナイはあっても、わたし自身の出逢いは、意味がわからない」

「同業のかたにたずねるのは、いけないの?」

「以前のかたですか。あのヒトはたしかに変わっていても、いいヒトだけど、ほかのかたは、敵対意識っていうか争いのなかっていうか」

「あんまり聞きたくないかも」

「ほかにも、あるんですよ」

「そろそろシャワーとか……」

「そうですよね。わたしの話しって、ウラナイ以外は……」

「そう卑屈にならないでよ」

「あ、じゃ!」

「一緒に入るのは、ちょっと……」

「なんでですかぁ!」


 なんとか逃げて、ようやくシャワーにまで話しが進んだ。

 竜の話しもしたいのだけど、寝る前とかかも。


「じゃ入ってくるから」

「ごゆっくりぃ……」


 わたしまで、ため息だ。

 このままだと深夜までずっと、仕事と関係者の苦労を聞くことになりそうだ。

 それでもシャワーをしたり、乾かすところまでは、追いかけてこなかった。


「そのまま、寝てるとかかも。うん。そのまま寝てる」

「わたしも入りたいぃぃ!」


 寝てなかった。


 先に寝てしまうほうがいいかしら。

 ライラリックュスにシャワー交代してから、少し思いついたことを手帳に書き出す。

 あの倉庫の部屋で、みつけた資料だ。

 今回の石や腕輪には関係していないけれど、花やさらに前のことに、引っかかることがあった。

 竜が影や妖精噂話をするのは珍しいため、印象に残っているものだ。

 花と関係しているだろうか。


 影は、ハッシュリシアスの話しだったかもしれない。


「影……」


 影の噂なら、たしかに聴いたことがあった。

 ハッシュリシアスに言われるまでは、忘れていたのかもしれない。

 でも、だいぶ前の噂話しのはずだ。

 それとも、新しく情報が追加されたのか。

 あれも、大変な時だったと思う。

 もう忘れていよう。


 わたしが手帳に書きこみをしていると、いつの間に戻っていたのか、ライラリックュスが近くにいた。


「影って……調べていたときに、でてきたモノですよね。影の噂」

「そうよ」

「影に裂く……咲く……未……」


 ライラリックュスが、なにか思い出しつつ、話しをしている。

 これは話しなのだろうか。

 ライラリックュスの記憶は、どうなっているのだろう。

 ときどき不思議な記憶でも持っているのか、言語も違う特殊な話しをしているときがみられる。


「あなたが知っている影ってなに?」

「影が裂く、増えていく、あとは……降りる?」

「わたしのと似ているようで、だいぶ違うんだけど」

「そうですよね……なんだろ」

「妖精噂なのね」

「そういえば、竜の噂もけっこうあるんですか」

「そうよ。というかあの集まりはそういうのを集めていく会合にもなっているみたい……と、思っているけどね」

「わたしのは、特に暴れてきたりはないんですけど、ときどき不機嫌なのはわかるんですよね」

「そうなんだ」

「何度か……その、振り落とされそうだったり……驚いたり……若いのかな」

「竜の若さなんて、わかるわけないわ」

「そうですよねぇ……」


 千年竜は、そんなに珍しくないらしい。

 百年でいなくなるやつもいるとは、言っていたけれど、だいぶ前には、それ以上の竜もいるとか聴いた。


「若いって、そう何度もヒトと比べてほしくないわ」

「竜がそうやって話すんですか。仲良いなぁ」

「そうなのかな」


 よくわからない。

 たしかに、ほかのかたにも竜と話すんだと言われる。

 でも、ほかのそういった話しなど、あまり信じてもいない。

 前にも、グループでの噂に巻き込まれたり……した。


 とりあえず、このまま寝られそうだ。

 いまのうちに寝てしまおう。

 明日も早いのだし、そうすべき。


「それで、いいですか!」

「明日も早いし……」

「いいですか」

「起きてると、明日も」


 ライラリックュスはシャワーを浴びてから、ひとまわり眼がぎらついている。

 なにを浴びてきたんだ。


「ウラナイって、竜にも通じるんですよね」

「そうなの?」

「そうなんですよ。いくつかいいですか」


 返事をしてしまった。

 話しを聴きたいと、思われたらしい。


「いいや、やっぱり」

「ハッシュリシアスって、護衛だけじゃないですよね」

「どういうの?」

「ほかの仕事もあるっぽい……です」

「護衛以外にも」

「ちょっと怪しいんですよね……少し探りますか」

「そこだけ頼りにされても」

「ハッシュリシアスにウラナイしたいけど、なかなか向こうもいなくなるし」

「夕方とか声かければ、いいじゃない」

「ねぇリーダー」

「その辺りは、ご自身でやらなくちゃ」


 ライラリックュスが、カバンからなにか出している。

 寝られそうにない。

 手帳がいくつかありそうだけど、そのひとつを出してくる。


「その手帳、ずいぶんと使ってる」

「そうなんです。中身をそろそろちゃんとしないと」

「仕事用具」

「そうです」


 バックのなかには、いくつもウラナイのが入っているのだろうけれど、この手帳はそれらを覚えるためのものかもしれない。

 何度かページを探し、そのたびうなる。

 やっとみつけたらしく、この辺だということらしい。


「それゼンブ竜の」

「そうですよ」

「たくさんあるのね」

「ウラナイに役に立つかどうか、わからなくても、集めますよ。データと分析、それに少しのスパイス」

「まるで料理の話し」

「なにかつくるときは、みんなそう」

「そうかもね」


 少しみていくと、ライラリックュスのウラナイは、なにか違うことがわかる。

 計算や分析だけのものでは、ない。


「これって本当に占いの手帳なの?」


 わたしが聴いてみると、不思議そうにする。


「ウラナイに必要なら、なんでもするのが、ウラナイですよ。砂漠のなかにある宝石みたいな」

「それは、みつからないわ」

「みんなのなかにある砂漠を探してまわるんですよ」

「大変すぎる」

「依頼が難関だと、萌えてくるとかってないですか」

「そういうのは、ないわ。安くてもちゃんとするし、ムズカシイけど、高いのは大変なことが多いし」

「そうなんですね。それで、この辺りまだ少ないんですけど」


 また別のページになる。

 見せてくれるのは、竜に関して調べていることらしい。


「これもウラナイに必要ってこと?」

「竜をウラナイするときもあります。それに、これは別で調べてますね」

「そっか」


 わたしに、なにか役に立てることはあるだろうか。


「この辺り……」


 ひかりとなっている。


「能力とか、明かりのこと?」

「違うんです……いやわかんない」


 ハッシュリシアスは影の話しで、ライラリックュスは、光らしい。

 でも、属性ならわかるけれど、ハッシュリシアスの話しでは、探しているのは、なにかずいぶんと曖昧な話しのように聴いた。


「ひかり……って、空のことなのかな。それとも、明かりそのもの」

「いや、わかんないです。各地調べていますが、いまのところ少しだけしか」


 こちらも曖昧という意味では、そうなのかもしれない。

 ライラリックュスは、手帳を睨んだまま、いくらか眠たそうだ。


「そろそろ寝ましょう。わたしも……」

「もしかして、依頼とかですか」

「い、いえ、そんなことじゃ」

「だめですよ。どんどんと依頼増やしてるから、そのうち街中(まちじゅう)から依頼されちゃいます」

「気をつける」

「竜にも、なにかいわれてますよね」

「聴いていたの!?」

「みていれば、わかりますよ」


 ライラリックュスは職業がそうしているのか、よく観察しているらしい。

 気をつけよう。


 だいぶ深夜になってから、寝ることになった。

 でも、身体が疲れているから、すぐに寝つくだろう。

 暗くした部屋のなか、もう寝たのかと思っていたライラリックュスが、ぼーっとした声で話す。


 いや、わたしに話したわけではなかったのかもしれない。


「ひかり……きえる……ゆうは、はめつに……」



 朝起きたときには、もうライラリックュスが起きて洗面したり、キッチンでなにかしていた。

 わたしより、あとに寝たような気もするけれど、先に寝ていたのだから、わからない。


 そういえば、前に露店で占いしてもらったときには、意外と朝早くからしているのだと教わった。

 その占い師は、朝からお昼くらいまでで、夕方にはもうやめにするらしい。


「おはよ」

「あ、おはようございます」

「早いのね」

「目が覚めてしまいました」



 朝食後、リナミィナと会うと、昨夕よりは表情が柔らかい。

 でも、会ったあと少しの間は、あいさつからのなにか街の世間話や入った喫茶店の話しであり、こちらの本題には、なかなかならない。


「それで、ここのフルーツケーキや紅茶は、よくあうんですよね」

「そうなんだ」

「お昼には、混んでくるんです」

「昨日の話しなんだけど、竜」

「お祭りの話しも、もっとたくさんあるんですよ」

「竜に会うのよね」

「あ! 竜ですよね。そのぉ……」

「なに?」


 ライラリックュスが肩をつついてくるため、なんだろうとみると、何名かのヒトたちが、お祭りの話しをしながら通り過ぎる。


「ここをでたら、案内できますか」


 ここであまり詳しく話したくないらしい。

 ライラリックュスが促すと、少しためらいつつ、うなづくと、また続きの話しになった。


「お祭りに雨があるように、ここの地域は、晴れと雨にいろんな関わりがあるんですよね……」

「そうなんですね」


 お店からでるとめずらしく、竜のヒロスターニャが、ふわりと近くの広い通りに降りるのがみえた。


「竜に会いにいくのか」

「そうよ」

「……これ持っていくといい」


 ふっと小さく上に投げる。

 受け取ると、二つの指輪にみえる。


「これ、ひも」

「作った」

「よくできてるわ」


 ちらりとリナミィナをみてから、すぐに、また上がっていく。

 リナミィナは、驚いているようだ。


「いまのって」

「わたしの契約した竜よ」

「そんなに親しいの?」

「……けっこうそのままなんだと想うわ」


 ハッシュリシアスは、だいぶ慣れてきたらしい。

 わたしの竜にじゃなくて、わたしの態度のことだけど。


「ハッシュリシアスは、一日平気なの」

「まぁ……地の竜は気になるし」

「お祭りには、興味は……」

「護衛対象がいなければ、少しはラクだな」

「それってわたしのこと?」


 苦笑いだ。

 いつからわたしの護衛になったんだ。


「え、わたしの護衛はどこ?」


 ライラリックュスが冗談で言うところが、わたしは慣れてきた。

 リナミィナが案内してくれるというため、しばらく、あとをついていく。

 さきほど喫茶店では、のんびり世間話などをしていたのに、いまは早足で、なんとなく緊張しているのがわかる。


「地の竜って、ムズカシそうな竜なの?」

「けっこう年齢は、長生きなのだと思います。ただ、わたしや一部知っているかた以外は、なかなか会おうとしません」

「でも、飛べるだろ。ときどきいないとか」

「わたしが担当になってからは、あまりでかける姿は、みないですね」


 そう言いつつ、やはり早足なのは、急いでいるからではなさそうだ。

 ライラリックュスが、カバンを抱えなおしている。

 早いため、少し歩きそうだとわかったのだろう。

 どこまでいくのだろう。

 街からは離れるとは思うけど、朝早くにしたのは、歩くかららしい。

 ハッシュリシアスも、少し歩きかたを変えている。


「どのくらいかかりそう」

「そうですね。一時間くらい」


 わたしも、もう少し準備運動すればよかった。

 ここの地域は、そんなに起伏はないのだけど、いつの間にか街はずれになり、森の地帯だ。


「森のなかなのかな」

「いえ、もっと先」


 途中からは、みんな黙ってしまう。

 よくリナミィナの服装を確認すれば、よかった。

 軽装で普段のきちんとした制服ではないし、靴も歩きやすいものだ。

 森は、それなりに整備されている。

 けれど、どこか空が静かなのは、こちらには高いところ以外は竜がいない。


「もっと歩くの?」

「もう着きますね」


 先をみると、森の向こうに湖がみえる。

 でも、来たのは、その側にある崖だ。


 水は、崖の側の洞窟から来ているみたいだ。


「湖?」

(がけ)


 すぐ側にある崖をみる。

 リナミィナが観ているのは、崖の下にある洞窟だ。

 でも、中に入ろうとしない。


「どうしたの?」

「ここ?」


 リナミィナが、首にかけてあるなにかを取り出す。


「竜……笛?」

「これは、普通ので街の詳しいかたに造ってもらいました。声で呼ぶのは大変だから、笛でも持ってきてくれってことで」


 鳴らすと、キィィンという金属のような音がしている。

 高い音だけど、不快なものではない。


「来るのかしら」

「いまは通常とは違う時間だし、わからない」


 リナミィナがもう一度鳴らそうとしたとき、洞窟の暗い部分で、影が動いた気がする。


「風……」


 砂ぼこりが舞うと、入口近くに竜の頭がみえた。

 でも、どこかダルそうにみえる。


 初めてみる竜だけど、わたしは走っていく。

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