あやしいろじてん
職業紹介事務所のリナミィナが、コーヒーを飲む。
こちらの返事を待ってくれているのだろう。
いや、どうしたらいいのだろう。
竜の鳴き声のことなのか。
それとも、わたしには知らない声があるのだろうか。
とりあえずもう一度、たずねてみようか。
「声なんですね」
「不思議でしょ?」
どうやらこちらが不思議に思っているのは、気づいてくれたようだ。
ライラリックュスが、少し話しを聴いてくれる。
「竜にしか聴こえていない音なんですか」
「そうなのかな。わたしたちにもよくわからないの」
お祭りのときにだけ聞こえてくるのかな。
疑問だらけだ。
「声っていうのは、それに竜が返事をするってことなの」
わたしとライラリックュスも飲みものを飲みつつ、もう少しゆっくり話しを聴いてみようと思う。
「空の声からの合言葉。願いの叶う残響。古からの灯り。雨。泣き雨」
これは、歌だろうか。
ライラリックュスの頼んだケーキが運ばれてくる。
「またお祭りの時期ですね」
「そうなんですよね!」
「楽しみです」
店員さんが、にこやかに話してから戻っていく。
「歌なんですか?」
「散詩ですね。竜散詩」
散詩。
どこかで聴いたことがある。
どこだろう。
「美味しそうですね」
「一緒に食べませんか」
「あ、少しもらっていいですか」
「うん」
そういえば、リナミィナは食事はいいのだろうか。
「食事は、頼んでないけど平気なんですか」
「そうね」
話しが先だったらしく、慌ててメニューをみている。
ササッと決める辺り、何度かは来たことがあるようだ。
でも、頼んだあともメニューブックを手に持っている。
口元を隠しながら、こちらに話しかけてくる。
「お祭り……したいなぁ」
この娘、わざとかしら。
そんな可愛らしい表情しても、できること出来ないことあるわよ。
「ですよね! いったりましょ」
ライラリックュスがケーキをハグハグしながら話す。
ライラリックュスが解決してくれるならいいのだけど、こういうときって大抵は。
「依頼受けてくれるんですね!」
依頼受けるのは、わたしよね。
わたしが依頼を受けるとして、声って曖昧すぎませんか。
「お祭り……」
そんな寂し可愛い顔されるとは、思わなかった。
この場合どう流しても、依頼を受けることになるんだろうな。
「わかりました。調べるだけ調べてみます」
「やった!! お祭りですね」
「まだ解決できるとは、言ってません」
「いいえ、こんな難題、誰かできるヒトいないのって思ってまして」
「難題……」
そんなに困っているのに、解決できるヒトもいないらしい。
あまり頼りにされても、すべて解決できるわけじゃないため気が重い。
ライラリックュスがなんだか、じっとみるため、たずねる。
「なに」
「食べますか?」
「なんでよ」
「疲れてるときには、甘いもの」
一応気を使ってくれているらしい。
単に自分だけ食べるのが、いやなのかもしれない。
「じゃ、少し」
「リナミィナはいる?」
「そうですね」
落ち着いたみたいでよかった。
注文したものが届く間は、別の話しをしている。
竜に関わる話しは、多くあるらしい。
なかでも、石碑や像がここにはたくさんあるらしい。
かなり昔にあった出来事に影響されているとかいうが、ちゃんとした話しはあまりわかっていない。
「それじゃ、ここの竜はずっと」
「そうです。住んでるけど、ご飯以外は身を隠してるのか、あまり姿をみかけなくて」
先にリナミィナの頼んだものがきた。
ミニケーキセットだ。
飲みものをおかわりする。
そのあと、わたしのもきた。
おすすめの品物だ。
わいわいと食べていると合間で、ライラリックュスがにこにこする。
「どうしたの」
「ううん。おいしそうでよかったです」
「そうね」
リナミィナがゆっくり食べたあと、休憩時間もおわるからと、戻っていった。
少し片付けをしてもらっているも、こちらをみている。
「どうしたの」
「……断るのかなぁって思ってました」
「そうかなあ」
「少しわかってきました」
ライラリックュスが納得しているなら、いいだろう。
お店をでたあと、ハッシュリシアスとの待ち合わせの時間まで、もう少しある……はず。
ライラリックュスが、もう一ヶ所というのは、買いものではなくて、ウラナイのことらしい。
でも、わたしは詳しくはわからないため、あとをついていくことにする。
どこまでいくのだろう。
ここの街に詳しいわけではなさそうだけど、なにかあるらしい。
「あまりいないけど、どこまでいくの」
「ここの辺り……に、いると思うんですよね」
角を何度か曲がり、行き止まりになりそうな路地で、小さいお店がある。
でも、看板もちょこんとなため知らないと、見逃しそうだ。
「ここ?」
「おそらく」
あまり気にしないで、中に入っていく。
狭……いと思っていたら、なかは案外悪くない。
「いらっしゃ……あれ、ウラナイのじゃないのかな?」
「ええ、同じです」
「あぁ同業のね」
「いいですか」
「隣のは?」
「お客様ではないです。見学? でいいですか」
「わかった」
カウンターのような席と、あとは小さいテントのようなものがかけられていて、その中に入るようになっている。
二人でその中に入っていく。
「同業なら、支払いはいいよ。その代わり妖精の噂聞かせて」
「噂ですね。まずはひとつめ探しもの、ふたつめで声です」
なんのことだろう。
でも、ここは任せることにする。
「探すのは、物? 恋とか」
「物……かも」
「わかった」
ここには、ウラナイにきたようだ。
でも、この二人の会話からすると、お客様としてきたというより、腕試しや戦いにきたという感じだ。
男の子だろうこの占い師は髪は長いし、色が派手だし、服の腰には鎖がついているしブーツだし、イメージの占い師とはまるで違う。
唯一この場所が、なんとなく占い師のいる場所っぽい感じではある。
テーブルにいくつかアイテムを置いている。
何種類か使うようだ。
「右と左、どちら選ぶんだ?」
「左……にするわ」
利用するアイテムも選べるらしい。
左に置かれているのは、小さいビンだ。
四つほどある。
これを使ってウラナイするらしい。
色が違うビンで、カタチも微妙な感じで違う。
「ビンを使うのね」
「いろいろ使うよ」
二人とも始めて会ったようには、思えないけれど、内容は、いま始めて聞く内容らしい。
色違いのビンの四つを並べると、近くの椅子に置いてあったペットボトルから、お水をそこに注ぐ。
均等ではなくて、バラバラの量になった。
わたしはなんだかわからなくて、ボーッとみてしまうけれど、ライラリックュスは観察しているようだ。
「次は……?」
「あとは、この水が教えてくれる。探しものだったな」
少しの間そのビンをみていると、なにも揺れていないはずのテーブルの上で、水が揺れている。
ひたつめ、ふたつめと揺れていき、四つめが揺れると、その頃にはひとつめは収まる。
「四つめが揺れてるね」
「これは?」
「時間はかかるが、探しものはみつかるらしい。そんなに地域は離れていない。ただ色が変化しないな。物……じゃないのがみつかるのかも」
「声は」
「ちょっとまって」
今度は、ビンの下になにか敷物をしている。
ビンもひとつ減らしている。
「三つ」
「そうだな」
ふぅと身体をほぐしてから、今度は三つのビンでするようだ。
今度は、ビンのなかの水がくるくると回る。
小さいけれど、音もする。
「どうなってるの」
「声……か。なかなか見つけにくいものだな。色は変化するから、声なのか。回っている」
「見つかりそう?」
「落としもの……カタチ……いきてる」
「え」
「生きてるな。でも、弱い。あまり良くないらしい」
「どういうの?」
「ここまでだな。あとは代金でもでないと、チカラが入らない」
ふ〜ん、とライラリックュスが満足そうだ。
「生きものなのかしら」
「わからない。けれど、声が目印なんじゃなさそうだ。カタチに戸惑うかもな」
ちゃんとはわからないけれど、わかったこともあった。
テントのような中からでると、占い師の男の子は汗をかいている。
「なにか作っていい?」
「いや、そこまで」
「カウンター借りるわね」
わたしは、すぐにカウンターのなかに入り、サッと辺りをみる。
ポットもカップも揃うから、平気だろう。
二人をみると、こちらを不思議そうにみる。
「ハーブティーは平気そう?」
「よくわかるな。その右端の」
「わかったわ」
ポットからティーカップに、お湯を入れたあと、香りがありそうな葉を選ぶと、軽く包んでから出していく。
「いい香り」
「上手だな」
「いい素材ね。今度教えてね」
ハーブティーで少し雑談をしたあと、片付けはするからと言うため荷物を持って、また通路にでた。
帰りには、なんだか少しこの男の子と馴染んだ気がする。
歩きつつ話す。
「少しおくれてますか」
「そうね。ゆっくりしちゃった」
「ハーブティーが好きって、よくわかりましたね」
閉じている扉を振り返りつつ、また歩いていく。
わたしの特技なのかもしれない。
キッチンの中やポット、その他の特長から、ハーブや香りの強いのが好みなのかもと思った。
「ハッシュリシアスが待ってるかな」
「おくれてくるかもですよ」
そういいつつ、少し急ぎ足だ。
買いものを提げてもいるから、なんとなくのんびりと買いものをしてきたようにみえてしまうかもしれない。
待ち合わせは、セイントクロスの前辺りだ。
教会の建物やその付近、ときには敷地内に建てられている。
クロスといっても、いくつか宗派があるらしいのだけど、わたしはそんなに詳しくない。
目立つ教会の敷地の側に、上からでも目立つクロスがあった。
そこに来るも、まだ誰もいない。
「まだ……来てない」
「そうですね……時間は、少しだけおくれた」
以前のときもだったけれど、ハッシュリシアスは、けっこういそがしいらしい。
建物のなかで、話し合いが長引いたり、情報を聞き逃すことがないように、かなり聞いてまわっている。
荷物を置くと、少し汗をかいていた。
飲みものも買えば、よかった。
「待つかもね。間あきそうなら、どこかドリンク探す」
「そういえば、けっこう走りましたね」
みると、ライラリックュスも少し息をきらしている。
わたしがのんびりしていたからだ。
特に待ち合わせに、間に合わなかったわけではないけれど、もう少し気にしていよう。
「さっきの聴いてもいい?」
「なんですか」
「ウラナイでそんなにわかるもんなの?」
「探しもののことですよね」
「うん」
「妖精の風……」
「え」
「ウラナイをある程度してきた人なら聴いているんですよね。なんていうのかな。もっと具体的にわかっていくみたいな」
「ライラリックュスは、その妖精の風がわかるってこと」
「まだなんです。これからなのかな。でも、さっきのウラナイ師はけっこうチカラあります。ああいう見た目だけじゃないんです」
「見た目は、かなり怪しかった」
「そうですよね」
ライラリックュスが笑っている。
けれど、真剣な態度はあの占い師に対して、伝わっているはずだ。
もしかしたらわたしが想像したのより、もっとウラナイは頼りになるのかもしれない。
もっと知りたくなってきた。
「まだ、みたいだね」
「ハッシュリシアスおそいですね」




