なくいし
少しおくれてきたハッシュリシアスは、なんだか疲れた表情だ。
こちらに近づくと少し柔らかくなったけれど、そういえば、前に待ち合わせていたときにも、なんだか苦労したあとだった。
「待たせた……ごめんなさい」
年齢はまだ若いはずだけど、お姫さまの使いにしては、なにかトラブルばかりらしい。
「いいわ。こちらもショッピングしてきたから、ね」
「そうそう!」
ウラナイをしてきたことは、少し秘密にしておこう。
なんだか、そのほうがいい。
「それで、なに依頼されてきたんだ」
「え」
「街を歩きまわってきたんだ。依頼されてきたとか」
「そうね。今度は、お祭りに必要な空の声よ!」
ハッシュリシアスがあきれている。
「やっぱりそうか。きみは、どこにいっても依頼がついてくるな」
「わたしのこと、なんだと想ってるの?」
「「リーダー」」
そうだった。
竜と合流する前に、簡単にハッシュリシアスに、竜の待っているという声について、話してみた。
やはり聴いたことはないらしい。
「そうか、空から声」
それで、わかったらしい。
「そう、声を待つ」
「どういう意味なんだ」
まったくわかっていない。
「竜がいるのですかね」
「それなら竜の声だってはっきりいいそう」
「でも、お祭りですよね」
お祭りに必要な声というと、少し違う気がする。
「いいえ、お祭りというより、地の竜がそれを待っているっていう話しよ」
ここの地に住む竜は、どこにいるんだろう。
「じゃ、やっぱり声なんじゃないか」
「そういう話しじゃなさそう」
けれど具体的には、まったくわからない。
「残響……泣く雨」
「え……なに」
ライラリックュスが、なにか思い出したらしい。
「待ち合わせしていたときに、なにか歌ってた」
「あ、なんだっけ」
「ほら、リナミィナ」
「お祭りのときに歌うのかな」
「それが竜の声なんじゃないのか」
ハッシュリシアスの言うことが、まだよくわからない。
「竜の声って、地の竜のことなんじゃないの」
「いや泣く雨なら、もしかして鳴いてるんじゃないか」
「どういう意味」
「泣く雨の日、鳴き声を揃えてうたうとか」
「ちょっと調べてみましょうよ」
ライラリックュスのいうことも、たしかにそうだ。
どこがいいだろうか。
職業紹介訓練所以外に、どこかいい情報はないだろうか。
「竜に聴いてみる?」
「知ってるなら、もう話しは聞いたことありそうな気もします」
「そうね」
それでも聴いてみることにはしよう。
竜の声以外に、なにかあるのかもしれない。
セイントクロスの前に、ずっといてもわからない。
「どこかいい」
「街のなかか、あとは外から来たヒト」
「それか」
「教会?」
「開いてないわ」
扉は、まだ開いていない。
お祭りもあるというから、普段とは違うらしい。
とりあえず歩いていくと、たしかにまだ準備してはいるけれど、上に飾りがあったり看板がなにかでていたりする。
「それでハッシュリシアスのは、お姫さまの用なの」
少し表情が暗い。
「そのつもりだったけれど、ほかにもある」
「なんだ、そっちも頼まれてばかりじゃない」
「そちらより、まだ気持ちは軽いよ」
そういうけれど、あまり良くない話しな気がする。
「手伝いますよ」
「いや、まずは探しものの声だろ」
律儀というかハッシュリシアスの頼まれているものは、あまり積極的にではないみたい。
わたしが街なかで聞けそうなのは、と心当たりまでいく。
「素材……?」
「加工品みたいなところだな」
お店のなかには、たくさんのなにかの欠片や破片、使えるかもわからないものまである。
「聞きたいことあるんですけど」
「あ、いらっしゃいませ」
姿が見えないと思ったら、店員はカウンターの裏の部屋で作業していたらしい。
ほかに入ってきたヒトは、いない。
「お祭りあるんですよね」
「そうだね」
「鳴き声って聴いたことないですか?」
あまりにそのまま聞いてしまった。
「鳴き声あぁ! お客さまたちは、探してくれてるんですね」
「はい」
「そうなんですよ。地の竜が困ってるとか。鳴き声は、泣く雨と一緒なんですよ。お祭りに参加すると、みんな聴きますよ」
「それじゃ、いつも雨なんですか」
「晴れても雨だね」
「どういうことですか?」
「上手くいえないけど……そうだ」
なにかカウンターから出してくれる。
置いてくれたのは、お祭りで使ったものだろう。
「なにかの石?」
「竜の欠片と呼ばれている」
「宝石!」
見た目石で、よくみても石だ。
「これどこから」
「お祭りの最期になると、みつかるよ。これでひと儲けできる」
「鳴き声は、それじゃ」
「竜の声とか云われているけれど、その竜が聴く声だろ。遠くから仲間が呼ぶんじゃないかな」
地元でも、はっきりとはわからないということらしい。
「これ毎回なんですか」
「雨からくるから水の石ともいうけど、鑑定しても水じゃないな」
「なんですか」
「まだ調べてるよ。ほかの鑑定士たちも、わからないらしい」
素材やいくつか加工品をハッシュリシアスが購入するも、本当に欲しいわけじゃないだろう。
お店をでたあと、二人が少し加工品を眺めている。
「それなりにいいものだな」
「でも、話しはわからないままですよ」
こちらに渡してくれる。
加工の腕は、よさそうだ。
「ひとつは、竜の欠片がどこからくるのかね」
「もうひとつある」
「なに」
「仲間の声じゃないんだよ。雨や石がでてくるだろ」
「そうね」
「そんな騒がしいなか、水の竜でもなきゃ、声なんて聴こえないだろ」
「たしかに!」
「水の竜は?」
「ここにいるのは、地の竜だ。湖や沼でなら、そう話しでるだろう」
ハッシュリシアスが、なんだかたくましくみえる。
「ハッシュリシアスって、けっこうよく話し聴いてる」
「二人は、もう少しヒトの話しを聞いたほうがいいかもな」
「やっぱりいいや」
「なんだよ」
もう少しほめようかと思ったけれど、ついやめてしまった。
でも、ハッシュリシアスのことで、少しわかった。
意外と頼りにできるのかもしれない。
お姫さまに、いずれ聴いてみたい。
「次は、石ですね」
「え、なに!?」
ライラリックュスがなにかわかったらしい。
「お祭りの石なら、みんな持ってるみたいだから、少し比べるか、ひとつふたつくらいもらいましょう」
「貴重なんじゃ」
「交換すればいいです」
「交換……」
「いきましょう」
なにか二人がとてもやる気だ。
嬉しいけれど、わたしが受けた依頼なため、なんだか少し置いてけぼりな気分だ。
ここからは、ちゃんと調べよう。
「石だと、あとはなんだろ」
思いつくのがあった。
「どこですか」
「加工で、もうひとつ場所があるわ」
加工場がある工房でもいいけれど、もっとよい。
ショップの前にきた。
「アンティークですか」
旧い看板があるけれど、それもおしゃれのひとつだ。
中はちゃんとしていそうだ。
入っていくけれど、二人は疑問らしい。
「なにか買うのか」
「それもいいけれど、まずは、たずねましょう」
カウンターの近くにいくと、いらっしゃいませと声をかけられる。
「少し前に使われていたような竜の石ありますか」
「少し前のだと、どれくらい前でしょうか」
やはり、あるらしい。
「十年とか、もっと前のでもいいわ」
それでしたら、とひとつのショーケースに案内される。
値段は高いけれど、さきほどみた石より、しっかり加工されていてキレイにされている。
「うおぅ」
「キレイですね」
「でしょう。竜の石は、何種類かあるといわれていて、水の石とも泣く石ともいわれているんですよ」
「泣く石?」
「竜の鳴き声に似ているとか、いわれますね」
「石から音がするんですか」
「お試ししますか? なかから出すこともできます」
「お願いします!」
泣く石とは、なんだろう。
けれど、二人ともなにも言わなくなる。
ここの土地は鳴き声のする街なのだろうか。




