77.vs夏休みの宿題
私達が温泉旅行から帰って来て、数日が経過した。
8月も半分が過ぎて、後半がスタート。
夏休みって、終わるの早く感じるよね。
もっと休みが長ければいいのに。
「で、夏休みの宿題の進行状況だが……ぶっちゃけどんな感じだ?」
ちなみに今は、ソラちゃんの家に集まっている。
私とココロちゃんとソラちゃんが、大きなテーブルの上に夏休みのドリルとかをそれぞれ出している。
ココロちゃんが今言った通り、各自の夏休みの宿題の進行状況を確認しているところなんだけど……私は、ね……。
「実はほとんどやってないんだよねぇ……ははは」
途中で飽きちゃったから、国語のドリル2ページしかやってない。
勉強って飽きない?
「やってないのか……まぁ、長い付き合いだから分かっていた。その為にこうやって集まったんだからな! 協力して終わらせようぜ!」
「えっ!? でも! 夏休みはまだ半分あるし、大丈夫なんじゃないかな!?」
「いや、半分しかないんだよ。というか、実は私ドリルは終わってるから分からなかったら見てもいいぞ」
「写していいの!?」
「あー……分からなかったらな?」
「やったー!」
私ってツイてる~!
「私は計画的に少しずつ進めています! 後3日で終わります!」
「流石ソラちゃん! 天才ハッカーだから、そういう計画立てるのも得意なんだね!」
私がそう言うと、ココロちゃんが首を傾げた。
「天才ハッカー……? そうなのか?」
「い、いえ、それはルカさんが勘違いしてるだけです」
え!?
「だってソラちゃんパソコン詳しいし、前顔だけ3Dの動物にして配信してたし、天才ハッカーかと思ったんだけど、違うの!?」
画面をハッキングして顔を隠してたんじゃなかった……?
「ええとですね……ただのアプリのようなものを使っただけでして……おまけにそのアプリも私が開発した訳じゃないといいますか……」
「そうなの!? でもパソコン凄い詳しいよね!?」
「そ、そうですか……?」
私にとって、ソラちゃんは天才ハッカーなのだ!
少なくとも昔の私は、本気でそう思ってたからね!
「とりあえず、ソラは心配なさそうだな!」
「はい。ドリルは心配なさそうです」
「ドリル“は”か、私と同じだな。今年はダンジョンばっかりだったからなぁ。反省だ」
他なんかあったかな?
……あっ! 自由研究だ!
「私も自由研究やってない!」
でも!
「題材は今考えたから大丈夫!」
「へぇ、なににしたんだ?」
「同接0人の辛さについて! Vtuberイベントの時、凄くショックだったからね」
「心理的な自由研究だな! 自分の体験だからまとめやすいし、いいと思うぞ!」
「やった! 褒められちゃった!」
ということで、今日やることが決まった。
私はドリル。
ココロちゃんとソラちゃんは自由研究の題材決めだ。
なんか、2人の方が楽しそうじゃないかな!?
まぁ、ドリルやってなかった私が悪いんだけどさ。
☆
数時間が経過した。
「つ、疲れた……」
一応真面目にやった。
けど、ほとんど分からなかった……。
でも分からない所は答えを見る……だけじゃなくて、ココロちゃんとソラちゃんが教えてくれたから、その場はなんとかなった。
後は記憶力だね……。
私記憶力悪いからなぁ。
というか、学校のテストって記憶力悪いと不利だよね。
私は1人でそんなことを考えながら、天井を見上げた。
「よく頑張ったな! 偉いぞ!」
「凄いです! 流石ルカさんです!」
ほ、褒められた!
「そう?」
私はニヤニヤしながら2人にそう言った。
「本当に凄いぞ!」
「本当に凄いです!」
「私は凄い!」
「本当に流石だ!」
「本当に流石です!」
「流石だ私!」
やっぱり私ってやればできる子だったんだ!
今日勉強会に来て本当に良かった!
「と、私達も自由研究のテーマが決まったぞ!」
「なになに!?」
「ずばり、“中学生カップルのお互いのどんな所が好きか調査だ!”」
「どんな所が好きか?」
「ああ! 街中で中学生カップルを10組くらい見つけて、お互いのどんな所が好きかを聞いてそれをまとめるんだ!」
「なるほど!」
ココロちゃんって意外と乙女!?
「ココロちゃんは彼氏いるの?」
「いないけど、ここだけの話……欲しいな」
「わぁ!」
凄く意外!!
私はそんなこと考えたこともなかったよ!
ココロちゃんは大人だなぁ……。
「ココロさんは大人ですね」
ソラちゃんも同じ感想だったみたいだ。
「ちなみにソラちゃんはどんな自由研究にしたの?」
「私は“実際に起こっていることと、脳の認識の違い”についてです!」
「え?」
む、難しくて分からない……。
「どういうこと?」
「おっ! 気になりましたね!」
ソラちゃんは、説明を始める。
「まずはそうですね……これ、なんですか?」
ソラちゃんは、何の変哲もない自分のノートを指さして言った。
「ノートでしょ?」
「では、これをノートだと証明してみてください!」
「証明……? どう見てもノートでしょ」
私にはノート以外の何物にも見えない。
いや、これは商品名を言うべきだったのかな?
「仮に私が”これはリンゴですよ”と言ったらどうしますか?」
「“視力悪いの?”って言っちゃうかも……」
「私も同じことを、ルカさんに返してしまうかもしれませんね。私にとってはどう見たってリンゴなのですから」
どういうこと?
「まぁこれは例え話で実際はノートなんですけど、他人に自分の脳の認識が正しいと証明することはできないんです。
もしかしたら、これは本当にリンゴなのかもしれませんよ?
私達は何者かの催眠術か洗脳かで、ノートだと認識しているだけかもしれません!
更に言いますと、今私がこうして“実際はノートです”って言ったのも、こうして“私がルカさんに話しかけている”のも、ルカさんの脳がそう認識しているだけかもしれませんし!
ほとんどの場合どんな滅茶苦茶な夢でも、夢を見ている最中は現実だと思ってしまうのと同じです!」
えーと……?
「一言でお願いします! 私、分かりません!」
私は手を挙げながらそう言った。
「一言でですか……“各個人が認識している現実と、実際に起こっていることは違うのかもしれません”ってことです、分かりましたか?」
「なんとなーく……分かったかな?」
本当になんとなーくだけどね。
「というか、そんな難しいこと半月でできるの?」
「まぁ自由研究なので、適当に自分の考えを書いて終わらせますよ。でも、本当にこの認識に関しては夢がありますよね!」
「どこが……?」
「例えば人の認識を自由に変更できる技術が開発されてでもみてください! どんな辛いことがあっても、一生楽しく人生を生きられるんですよ! それに、好きなゲームも想像の通り生み出せますし、お菓子だって食べ放題です!」
「おお! 確かにそれはいいね! ……って、想像したらなんかお腹すいた……」
外も暗くなってきたし。
「じゃあ行くか!」
ココロちゃんが言った。
「行くって?」
「夏祭りだ!」
「そういえば、今日がそうだったね!」
「というか、勉強会終わったら行くって言ったような……」
今思い出した。
「楽しみですね! 私、友達と行ったことないので!」
去年はココロちゃんと2人で行ったけど、今日はソラちゃんも一緒だ!
私達は浴衣に着替えず、動きやすい格好で夏祭りに向かった。




