三日目 あくまで余談
これは余談だが、帰り道、俺は居候に電池を買いに行かせられた。
なぜそんなパシリをさせられたかというと、彼は彼でティッシュペーパーを買いに行かなければならなかったらしい。ティッシュペーパーはドラッグストア、乾電池はコンビニだということで、手分けをして買いに行くことになった。その為、彼のマンションへと向かう途中、俺達は別々の道を歩いた。幸い俺の方はといえば、別にコンビニであればどこでもよかったので道に迷う心配も無い。というより、マンションの近くにあるお馴染みのローソンに寄っていけばいいだけの話なのだ。
そして俺は道に迷った。
そもそも俺は、居候のマンションへの行き道すらも分からなかった。
しかし、その時の俺は運が良かったのか、それとも俺には天性の方向感覚があったのか、しばらくのあいだ適当にウロチョロしているとたまたま見覚えのある道へと出てくることが出来た。
あまりの感動に、俺はすかさず居候に電話を掛けた。彼はすぐに電話に出た。
「居候くん!聞いてくれ!すごいぞ!俺はいったん道が分からなくなったが、すぐに元通りになった!信じられるかい? マップなんて何も使ってないぞ⁉ 自力でもとに戻ったんだ!」
俺は半狂乱気味に捲し立てた。そして『どうだ』と言わんばかりに鼻を鳴らした。
「……」
しかし、俺の予想に反して、彼はなぜか黙ったままだった。
いったいどういうことだろう? 彼がなんの反応も示さない事に、俺は疑念を抱いた。
「すーた」
すると、彼はやがて重々しく口を開き始めた。
俺は彼の次の言葉に期待した。やっと驚いてくれるのか、それとも喜んでくれるのか、俺は期待に胸をときめかせながら、彼の次の言葉を待った。
そして、彼は言った。
「いまドラッグストアに清原おる」
返ってきたのは、いろんな意味で予想外の言葉だった。
「清原?」
「おん。清原」
「清原ってのは……あの清原?」
「おん。あの清原」
俺は呆れかえった。
「ウソおっしゃい。清原なんてものが居るものか。人違いだろう。ええ」
「いや、あれは絶対清原やって。右足に刺青入ってるもん」
「刺青だと?」
俺はそもそも清原の右足に刺青が入っていること自体を知らなかった。俺はどうも世間的な事に関しては無知らしい。
「とにかく今すぐ行く。どこのドラッグストアだい?」
そして俺はドラッグストアの場所を念入りに何度も聞き出すと、電話を切った。俺はすぐに進行方向を変えた。
歩く道中、居候からメッセージが来た。
居候:清原 右足 刺青で調べてみ 21:36
俺はすぐにグーグルで調べた。その結果、たしかに彼の言った事は本当だった。そんな清原はいま、ドラッグストアにいるらしい。俺は先を急いだ。
そして、俺は道に迷った。
諦めてどこかのコンビニに入り、乾電池を買おうとしたが、いざ買おうとすると、どの種類のものを選べばいいのか分からなかったので、居候に電話をした。
単四だったらしい。ついでに『清原はまだいるか?』と聞いた。すると彼は呆れたように、『もう清原クルマで帰ったし、しかも俺ももう家ついてる。お前遅い。はよ帰ってこい』と俺に告げた。
携帯画面を見ると、時刻は22時37分だった。
――――
「んじゃ、明日は10時にはここ出るし、早いとこ寝るぞ」
家に着くと、彼は早々に床に入っていた。いや、俺が部屋に入った時には、彼はもうすでに“お決まりのポーズ”でベッドに寝ていた。マッサージ機が動いていた。
俺も歯を磨き、そしてマットレスに横になった。豆電球のみを残して部屋を暗くすると(元来、居候は寝るときは豆電球を付ける派である。ちなみに俺は真っ暗にする派である)、俺達はそれぞれ眠りについた。
だがやはり、なかなか寝付く事が出来なかった。午後にも寝てしまったからだろうか。
そして俺はとうとう眠るのを中断して、例の作業に取り掛かることにした。ちょうど別の案件での仕事が残っていたことを、ついさっき思い出したのだ。
時刻は23時。以前ある中国人クリエイターと交渉して、彼のマンガ作品を買い取ったことがある。彼の中国語作品を日本語翻訳して、その日本語版を俺が売るという“あこぎ”なシノギを始めるためにである。
日本語翻訳はすでにひと通り終えてある。俺は毎月、スキを見てはこのマンガに日本語のセリフを付けて、有料で投稿しているのだ。
しかし、売れ行きはさっぱりだった。そもそも、中国人と日本人とでは、性癖の感性が微妙に違う。その為、中国人の作ったマンガ作品を“日本人に売る用”に販売したところで、売れない事は明らかだったのだ。しかし、始める前の俺はその事に全く気が付かなかった。
しかしこの作品においては、すでにもういくつかを投稿してしまっていた。手を付けてしまった以上は、やり切らなければならない。しかも、買ってくれている人はゼロではないのだ。一人か二人はいる。少なくともお金を出してくれる人が存在する以上は、最後までやり遂げなければならなかった。
結局、その作業が終わった時には、すでに時刻は0時40分に達していた。明日は女の子と遊びに行く。上手く話せるか心配だったが、しかし初日のキャバクラで散々上手く話せたことを思いだすと、なんの心配も起こらなかった。たとえ相手が東京人でも、案外うまく話せるものなのだろう。
この作品は2020年の出来事をもとにしており、居候が清原を目撃したこの日は9月21日です。そのため清原の右足の刺青はまだ健在でした。今はもう刺青を消しているみたいですね。




