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王殺しの冒険録  作者: 鳳仙花
第一章・四人の勇者と剣士・前編
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鉱山の騒動

しばらく歩き続けていると、スイセンとタナトスの二人は鉱山区域の近くで妙な人だかりを見つけた。

明らかに慌ただしい雰囲気で、何か事件でもあったかのような騒がしさだ。


「んー、何かあったみたいですよタナトス君。少しだけ見に行きませんかぁ?」


「野次馬根性が出てるな…。気になるから行くだけ行ってはみるが」


二人は何度も人が往来している険しい道の先へと行ってみると、そこは一つの鉱山口の場所だった。

鉱夫や警備兵が集まっていて、口々に文句やら愚痴を漏らしては、怒声まであげている人すらいる。

道具は散乱しているし、中にはケガ人すらいて仕事の真っ最中というわけではなかった。

だから何事かとタナトスは近くに鉱夫に話かけてみた。


「何かトラブルでもあったのか?」


「トラブルも何も困ったもんだ!鉱山の奥でバエルっていう蜘蛛(くも)の魔物が突然に大量発生してよ!仕事どころか街の危機だって叫ぶ奴までいやがる!」


「大量発生?その突然ってのは…、今まで全く前兆がないほどに唐突な話なのか?」


「あぁ…、昨日は一匹だけいたくらいみたいで気にはかけていなかったんだが、今日の朝になったら急に湧いて出てきやがった。それも一晩で数十匹という頭数で、ゾッとする話だぜ」


その話を聞いて、タナトスの隣にいたスイセンは昨日の時のような冷たい目つきと神妙な顔つきで呟いた。


「ふーん、魔物の突然発生ねぇ…」


それから数秒後、スイセンは冷め切った声でタナトスに提案を持ちかけた。

その様子はさっきまでの腑抜けた少女とは違って、暗殺者に相応しい物腰だ。


「ねぇ、タナトス君。私たちでその魔物を始末しちゃいましょうかぁ。人間に害を与える魔物を放置なんてできないでしょう?」


普通なら正義感が溢れているからこその言葉だ。

しかしスイセンに限っては正義感によるものじゃない。

昨日のスイセンの発言を考えるに、魔物そのものが憎くて仕方ないという負の感情からなるものだ。

タナトスはそのことを分かっていたし、何より二人で勝手な行動ができないために、最もらしい理由をつけて断った。


「駄目だ。相手の魔物は数十匹もいるんだろ?いくらなんでも多勢に無勢だし、何より武器がない」


「なに、武器の心配?武器なら…ほら、ここにあるよ」


そう言って、スイセンはどこからもなく複数本の短剣を服の内側から取り出しては手に持ってみせた。

さすがにこのことにはタナトスも驚きを隠せずにいる。

当たり前だ。

普通に考えて、あの用心深いポメラが武器を没収しているはずだ。


「おいおい、お前ポメラに武器を没収されているんじゃなかったのか?」

 

「ポメラさんは用心深いのではなく、毛深いだけでしたねぇ。それと暗器は乙女のたしなみですよぉ」


「なんだそれは…、初耳にも程がある」


「それと多勢に無勢ってのは酷い嘘ですよねぇ?本当なら貴方一人でも解決できるんじゃないのかなぁ?」


一人で解決できるとまで自信を持って言えはしないが、確かに剣と魔人の力があれば殲滅はできるだろう。

しかしいくら街の手助けとはいえ、もう王の暗殺から四日目になるため目立つ行為は避けるべきだ。

しかも一人で解決したなんて話、あまりにも大きすぎる噂となるのは目に見えている。


「まぁ、別にタナトス君が来たくないならそれでいいですけど…、私は行きますからぁ」


「待て待て!スイセンが単独行動するのはもっと駄目だ!それを許してしまったら後で何を言っても言い訳が効かなくなる!」


「なら、一緒に来ますか?もしこれで私を逃がすことがあれば、間違いなく責任はタナトス君のもの。それか…、まぁ有りえないですけど私が魔物に殺されても、タナトス君のせいになりますよねぇ?」


とても卑屈な理責めだ。

もうこれは何を言っても無駄だと分かるほどに、シャウと同じかそれ以上の強情さが伺える。

きっと姉であるミズキの言うことなら従うのだろう。

これなら早めにポメラの家にへと連れ戻しておくべきだったと、タナトスは遅くながらも後悔する。


「なんでこう俺は余計な面倒事に自ら突っ込むことになるんだ…?あー、分かった分かった。ついていく。元々お前を守る契約もされているからな。その代わり、手早く手短に終わらせるぞ!」


「素晴らしいです、タナトス君。では、行きましょうかぁ。きっと中には入れてくれないでしょうから、隠密に、静寂に、そして素早く侵入です」


「まるで暗殺者だな」


「おおっぴらに口にできませんけど、暗殺者ですからぁ」


スイセンは得意気に言っては、誇らしそうな表情を浮かべた。

そして二人は持ち前の身軽さで一度その場から離れて、大きく迂回して人目がつかないように鉱山への侵入を試みた。

わざわざ人が通らない道を通るわけだから、まさに傾斜の獣道を二人は行く。

しかし二人共、特にスイセンは慣れた動きで山道を掻い潜っていっては、あっという間に問題の鉱山口の真上へと二人はたどり着いた。

それから二人は身を低くして、鉱山口を見下ろしてスイセンが様子を確認した。


「入口に警備兵が四人。魔物が街に出て来ないようにするための人たち何でしょうけど、あれだとほぼ無意味ですねぇ。さてと、では気づかれないようにお邪魔しますかぁ」


事情を言えば通して貰えるかもしれないが、それでは結局、殲滅した後はタナトスが危惧している目立つ行動となってしまう。

望ましいのは、街の人達が知らぬ内に魔物が死んでいた、という状況にすることだ。

だからここはスイセンに任せるしかない。


「どうやって入るつもりなんだ?」


「これを使います」


タナトスの質問に、スイセンは服の内側から白い球を取り出した。

もはや、それは見覚えのある物だ。


「煙玉か。ほとんどの道具はあるんだな」


「さすがに愛用のゴーグルとマフラーはありませんけどねぇ。おかげでいつもより調子が出ません。さて、では早速いきますよ。今回は催涙の効果もあるので、目を瞑って息を止めている間に侵入するように」


「分かった」


タナトスの了承の言葉と同時に、スイセンは複数個の煙玉を鉱山口に投げ込んだ。

すると一人の警備兵が気がついて、なんだ、と声を荒らげたと同時に煙玉は炸裂する。

渇いた炸裂音と共に煙幕は一斉に広がり、咳込む声が聞こえてくる。

すぐにスイセンとタナトスは煙幕を吸い込まないように気をつけて、息を止めて目を瞑って移動をする。

目が見えなくても二人は何の問題なく、華麗に地面に着地しては素早く鉱山の中へと入り込む。

その間、警備兵達は混乱しているだけで、スイセンとタナトスの二人に気がついている素振りは一切無かった。


「よし、大丈夫そうだな」


二人はバレずに侵入できたことを鉱山口を一瞥(いちべつ)してから確認して、すぐに奥の方へと走り出した。

ただ、内心タナトスは心に引っかかることが一つだけあった。

それはポメラには黙ってスイセンと行動していることだ。

きっとバレたら…、いやすでにバレているだろうが、これで本当に何かあったらとんでもない話だ。

早く片付けてしまわないとな、とタナトスは一人焦る気持ちを持ちながら、スイセンと鉱山の中を進んで行くのだった。


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