三日目の朝
翌朝、鉱山の街レイアに着いて三日目となる。
タナトスは寝床が無いために宿屋に泊まり、他のメンバーであるポメラとシャウ、ミズキ、スイセンはポメラの家に泊まることになった。
そして久々のしっかりとした寝床のおかげでタナトスは快適に睡眠をとって目を覚まし、簡単に身支度を整える。
それからメメ親子と挨拶を交しては、宿屋が出す簡素な朝食を取ったらタナトスは宿屋から出て行った。
行く先は決まっている。
ポメラの家だ。
もう行くのが三回目になるおかげか、昨日より早くポメラの家に着くことが叶う。
「失礼するぞ」
今回は朝のため、念の為に軽くノックしてからタナトスは家に入り込んだ。
もし着替え中だったら、王殺しとは別の汚名がついてしまうからだ。
そしてポメラの家に入って最初に目についたのは、リビングの椅子に座っている一人の水色髪の少女だった。
丸い顔で、とろけたような柔らかい目つき、ふにゃっとだらしない口に、脱力した姿勢で一瞬誰だかタナトスには分からなかった。
しかし向こうから話しかけてきて、その声で理解することになる。
「ふへへへ~、タナトス君かぁ…。おっはよ~」
「ん…、おはよう…。って、お前…スイセンか?」
ミズキとスイセンは双子の姉妹だから声は似ているが、明らかな違いがあって声真似されない限り区別がついた。
だから何となくタナトスは、挨拶してきた相手がスイセンだと分かる。
それでもあまりにも昨日と様子が違いすぎるために、確認の言葉を吐いてしまっていた。
「え~、なにそれぇ?っくひひひ、ミズキお姉ちゃんじゃないですよ~。似てはいるけど、スイセンはスイセンちゃんだからぁ」
「その割には性格や雰囲気がまるで別人……、心なしか見た目もとても幼く見える。いや、見た目に関しては気のせいなんだろうが…」
それでもタナトスからしたら、スイセンの姿がまるでデフォルメでもされたのかと思うほどに、顔つきだけでは済まされない変化しているように見えた。
そこに寝癖の酷い水色髪の少女が、リビングにひょっこりと顔を出してくる。
「あ、タナトスさん!もう来ていたんですね!おはようございます」
これはすぐにミズキだと確信もって分かる。
ミズキは丁寧な一礼を入れての挨拶に対して、タナトスは軽く会釈で挨拶を返した。
「あぁ、ミズキおはよう。本当にお前はお前で寝癖が凄いな…、何かの芸術作品みたいだ。それより、何だかスイセンの様子がおかしくないか?少なくとも、こんな感じの人じゃなかったと思うんだが。何というか…、シャウの性格から元気を抜き取って、代わりにのんびりとした性格をぶち込んだような……」
事情が分からなければタナトスの意味不明な言葉を聞き、ミズキは自分の髪を手で直しながらスイセンの方へ視線を移す。
すると見慣れた光景と言わんばかりに、当然といった口調でミズキはあっさりと答えた。
「妹はいつもこんな感じですよ?」
「いやいや、絶対に違うだろ。こんな小動物に近い雰囲気じゃなかったはずだ。むしろ獰猛な野犬に近い雰囲気だったろ」
「っけひひひ、昨日は気が立っていた状態ですからね。何事もなければ、さすがにのんびりとしていますよ。少なくとも、自宅に居る時はいつもこんな可愛い状態でしたよ」
「そう……なのか?」
改めてスイセンを一瞥すると、何だか顔が饅頭にすら見えてきた。
これは最早、のんびりとしていたらなるレベルの話なのか怪しいほどだ。
もうこれ以上、言及するべきことじゃない気がして、タナトスはスイセンの状態に関しては放っておくことにした。
ただ物珍しそうにスイセンを眺めていると、ミズキは思い出したような口調で話してくる。
「そういえばタナトスさん、朝食は済ませましたか?まだなら、ご一緒に…」
「あ、いや悪いな。宿屋で朝食が出たから、そこでメメと一緒に食べてきた」
「あぁ、そうなんですか。メメさんとお父さんは元気そうでしたか?」
その質問を投げかけられて、タナトスは朝食のことを思い出す。
朝食の時にはメメの父親も起きて来て、普通に食事をとっていた。
シャウの治癒のおかげで、ほぼ体調は戻ってる様子だった。
「そうだな、父親もすっかり元気そうだったぜ。メメは、あとでシャウお姉ちゃん達にお礼に行きたいって言ってたな」
「それは元気な姿が見れそうで楽しみです。シャウさんはまだ眠っていますけど…、きっとシャウさんもメメ親子を見たら喜ぶはずです」
「だろうな、何だか無駄に元気に喜ぶ姿が目に浮かぶ。じゃあ、俺は朝食が済むまで外に出て待ってるな。色々済んだら剣を買いにいくぞ」
「はい、分かりました。では、またあとで」
タナトスは朝の挨拶だけ済ませて、ひとまずポメラの家の外へ出てミズキ達の朝食が終わるまで待つことにした。
それまでまた街中を歩いていこうと、ポメラの家から離れていったとき、隣から声をかけられた。
「タナトス君~、どこ行くのぉ?」
「え?なっ、スイセン!?お前、やたら黙っていると思ったらいつの間に…!」
気づいたら、いつの間にか寝ぼけ眼のスイセンがタナトスの隣を歩いていた。
しかもスイセンは特に気にかけている様子はなく、無い胸を少しだけ張って答えてみせる。
「これでも腐っても暗殺者を生業にしていますからねぇ。気配を消すのは一流ですよぉ?」
「な、なんてどうでもいいことに、技能を発揮しているんだお前」
「っくひひ、そんな褒めても照れるだけかな。さてと、一人でぶらついても暇でしょ?どこか適当に一緒に行きましょうよぉ」
「待て待て、確かに守る契約はミズキと交わしているが、お前はまだポメラに疑われている立場なんだぞ?そんな勝手されると、非常に困るんだが」
もしこれで怪しい行動でもされたら、たまったものじゃない。
ただでも無断で外出している状態なんだろうから、すでに怪しいと言われたら否定できない。
ポメラがこのことを知れば、すぐに飛んできて捕縛しに来るだろう。
「うーん、大丈夫じゃないですかねぇ?私、少なくとも今は逃げる気はないし、タナトス君から逃げれる気もしないですからぁ」
まるでシャウが言うような楽観的な言葉。
その言葉にタナトスは気難しい顔をするも、そこまで大事ではないと捉えて仕方なしに了承する。
「……まぁ、俺が目を光らせていれば逃がす心配はないが…。……分かった、少しだけだぞ?本当に少しだけだからな」
「っくひひひひ、いい返事ですぅ。実に好ましい解答ですよタナトス君。じゃあ行きましょうかぁ!ちょっとしたデートだと思ってさ」
こうして半ば強引に、スイセンは突然タナトスに付いて一緒に歩き出すのだった。




