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REMNANT RECORD~ストーリー未読の世界一位の廃ゲーマーは、倒した敵の物語を知らない~  作者: 霜月ルイ
第一章:技神国奪還編

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9:覇王、眠り姫のレベリングをする。

「レベル30、だと?」


 伯爵は怪訝そうな顔で俺を見る。


 そらそうだわな。

 病気を治すのにレベリングだなんて普通に意味わからんし。


「とりあえず、俺とあんたの娘でパーティを組む。それから、経験値の分配方式を『均等分配』に設定する」


「経験値の均等分配……? 何を言っている……?」


 経験値の配分なんて、プレイヤーにしかできないことだ。

 この世界の住人に説明したところでなんのこっちゃかわからんだろう。


「別に理解しろとは言わねぇよ。ローズ嬢と俺がパーティを組み、経験値の共有範囲内にいればいい。寝ていようが起きていようが、俺が倒したモンスターの経験値は半分、ローズ嬢へ入る」


「それで……本当にローズの病気は治るのか……?」


「俺の見立て通りなら間違いなく治る、そこは安心してくれ」


 伯爵の張り詰めていた表情が、ほんの少しだけ緩んだ。


「ただ、パワーレベリングをするにも準備が必要だ。その準備を伯爵に頼みたい」


「準備だと……?何をすればいい」


「まずは鉄製の剣を六本見繕ってくれ。使いつぶすつもりだから、最悪戻ってこなくてもいい安価なものでいい」


「あ、あぁ。分かった。だが、六本も必要なのか?」


「最長で三日間、ゴブリンを斬り続けるんだ。安物なら一本で保つわけないだろ」


 伯爵には言っていないが、今の俺はレベル1だ。

 STR(筋力パラメータ)の要求値を満たせないため、現状では鉄の剣程度しか装備できない。


「それと、月光草は今すぐ薬にしてローズへ飲ませてくれ。体内の魔力を抜いてからが三日間の勝負だ」


「薬師は屋敷に待機させている。すぐに調合させよう」


「次にお宅の娘さんが待機する場所の準備だ。三日間は街の外で野営になるから、従者と護衛、三日分の食料と水を用意してほしい。あと、護衛にはローズ嬢の周囲を守らせてくれ。俺が戦っているモンスターには手を出すな。ただし、俺を抜けてローズ嬢へ向かった個体がいれば、迷わず倒していい。ローズ嬢の安全が最優先だ。それに、パーティ外の人間が攻撃へ加わると、獲得経験値が減る。だから、基本的には俺一人で戦う」


「承知した。……だが、どこでレベルを上げようというんだね?三日でレベル30など聞いたこともない……」


 死んだら終わりのこの世界では、ダンジョン周回なんてやるほうが異常者なんだろう。

 もっとも、この世界でも本当にモンスターがリポップされるのかは、あとでミラに確認する必要があるが……。


 そう考えれば、この世界で「強者」とされるレベルの基準が低いのも納得できる。

 騎士団のなんとか団長で50台なのだから、レベル10~15もあれば一人前扱いなのかもしれない。


「別に危険なところに行こうなんて思ってないぞ?ゴブリンエンペラーの巣を周回しようと思ってる」


「ゴ、ゴブリンエンペラー……だと?」


 あれ、なんか変なこと言ったか?


「ゴブリンエンペラーはAランクのモンスターだぞ!そんな危険な場所に……」


 うっそだろおい。


 ゴブリンエンペラー。

 通称ゴブペンは、『レムオン』初心者が楽にハメてレベリングできるカモなのに……。

 こいつ程度でAランクなら、ほかのマップボスは果たしてどんなことになっているのやら……。


「早速だが、ゴブリン狩りは明日の昼から始めようと――」


 そこで、グゥ~と俺の腹の虫が鳴いた。


「なんだ、腹でも減っているのか?」


 伯爵が聞いてくる。


「あぁ、そういえば昨日から何も食べてないんだった……」


「そういうことなら、今から何か準備させよう。今日は家に泊まっていくといい」


「……いいのか?」


「娘の命の恩人になるかもしれん奴を追い出したりはせん」


 伯爵はクラウスさんを呼び出し、俺に食事と寝床を用意してくれた。

 とりあえず、起きたらミラのところに顔出しにいくか……。


 聞きたいこともあるしな。


 ♢


 翌朝、月光草を調合した薬がローズ嬢へ与えられた。

 身体に溜まっていた魔力が排出されたためか、昨夜よりも瞼がしっかりと開いている。


「ローズ嬢。今から俺がお前へパーティ申請を送る。目の前に表示が出たら、『承認』を押してくれ」


「これでしょうか……?」


 ローズ嬢が何もない空中へ指を伸ばす。


『ローズ・クライブがパーティに参加しました』


 続けて、経験値の分配方式を『均等分配』へ変更する。

 これで、ローズ嬢が経験値共有範囲内にいる限り、俺が得た経験値の半分が彼女へ入る。


 パーティを組み終えた俺は、ミラに確認したいことがあってギルドへ向かった。


「おはよう、ミラ」


「おはようございます、リンドウ様。今日はどういったご用件で?」


「三日間、ゴブリンエンペラーの巣に引きこもるつもりなんだが、確認したいことがあってな」


「……ゴブリンエンペラーの巣へ?」


「ちょっとレベリングしにな」


「リンドウ様、確か現在はレベル1でしたよね?」


「そうだけど。何か問題か?」


「問題しかありません!」


 ミラは眉間を指で押さえながら、口を開いた。


「……何がどうなってそうなったのか聞きたいところではありますが、確認したいこととは?」


「まず一つ目、ゴブリンエンペラーの巣についてだ。これはダンジョン化しているもので間違いないな?」


「はい、仰る通りです」


「次にダンジョンについて。倒した後モンスターはちゃんと()()()()か?」


「そうですね、コアを破壊しない限りは倒しても復活します」


「どのくらいの時間で復活する?」


「早ければ数時間、長いと一日かかりますね」


「ゴブリンエンペラーだとどのくらいで復活する?」


「あそこは魔素が多いので……そうですね、数時間もあれば復活するかと」


「それだけ聞ければ十分だ。こりゃ三日もいらないかもな」


「それはそれとして、私はまだゴブリンエンペラーの巣に行くことについて何も聞いていないのですが……」


 ミラは眠たげな顔で視線を送ってくる。


「伯爵ん所のお嬢様の治療のためだよ」


「ですから、それがどうゴブリンと結びつくのかわからないのですが……」


「まぁ、帰ってきたら説明するから」


 それだけ言い残し、俺はギルドを後にした。


 さっきのミラの話から予想するに、そんなに『レムオン』の時と差異はなさそうだな。

 ゴブリンだけなら10分間隔、ロードやジェネラルなら1時間、エンペラーなら3時間でリポップって感じだろう。

 序盤はゴブリンで経験値を稼ぎつつ、レベル10くらいになったらロードやジェネラル、エンペラーをハメる。


 ローズ嬢との経験値折半のことを加味しても、夕方までにはレベル20前後。

 そこからエンペラーを数周すれば、日が変わる頃にはレベル30へ届く可能性もある。

 三日と宣言したが、ゲーム時代と大きな差がないなら、一日で終わらせられるかもしれない。


 レベリングの計画を立てつつ、伯爵邸に戻ってきた。

 屋敷の外では、すでに準備が進みつつあり、複数の馬車に荷物が積み込まれている最中だった。


 俺に気づいたクラウスさんに呼ばれ、朝食をごちそうになる。

 その後は詳しいブリーフィング。

 お付きの兵士たちにも指示を出していく。


 目的地へ着いたら、ダンジョン入口に仮設拠点を設営すること。

 護衛は常にローズ嬢の周囲へ残ること。

 俺が交戦しているモンスターには手を出さないこと。

 ただし、俺を抜けてローズ嬢へ向かった個体がいれば、経験値のことは気にせず即座に排除すること。


 この四つを説明した。


 昼前には準備が整ったようで、俺も馬車に乗り込む。

 ローズ嬢は使用人に抱えられ、眠ったまま特別大きな馬車へと運び込まれた。

 これから向かうは、初心者育成にちょうどいいダンジョン、緑の巣窟。通称『穴場』だ。


 さぁ、張り切ってレベリングといきますか!


 ♢


 アルセディアを出て馬車で一時間ほど。

 緑の巣窟のある森に着いた。


 ダンジョンの入り口で仮設拠点を設営してもらっている間も時間が惜しい。

 俺は一足先にダンジョンへと足を踏み入れた。


 経験値の共有範囲はかなり広い。

 緑の巣窟程度の広さなら、入口の仮設拠点から最奥まで、ぎりぎり共有範囲内に収まる。


 洞窟へ入ってすぐ、一体のゴブリンが錆びた剣を振り上げた。


 軌道は見えている。

 避ける方向も、反撃を入れる場所も分かっている。


 だが、俺自身のモーションが遅い。


 避けたつもりだった刃が、俺の服の袖を浅く切り裂いた。


「……そういや、今の俺ってレベル1だったわ……」


 世界一位だった頃の感覚で動こうとするから、身体が追いつかない。


 なら、今の身体に合わせればいい。

 大きく避ける必要はない。半歩だけ下がり、剣が落ちきった瞬間に首へ刃を滑らせる。

 ゴブリンの身体が霧となって消えた。


「速度が足りないなら、攻撃の瞬間に合わせりゃいいだけだな。簡単簡単。」


 あっちを見ても緑、こっちを見ても緑。

 一面のクソ緑のゴブリンの群れを、効率よく狩っていく。

 首さえ落とせば身体は霧散し、ドロップ品だけが残る。


 だが、別に今回はドロップ品目当てではないので、俺は無視。

 護衛とは別に、今回は回収係として一人だけ兵士を同行させていた。

 俺が完全に制圧した区画を後ろから進み、ドロップ品だけを拾ってもらっている。

 戦闘には一切参加しないよう、念を押してあった。


 二振りの剣を使い、的確に首だけを落としていく。

 別に双剣が俺のメイン武器ではないのだが、一本でもゴブリン程度なら十分だ。

 二本使うのは、この先にいるロードとジェネラルを完封するためだった。

 あとは奴らと戦う前の肩慣らしだな。


 ダンジョン内のスポーン地点を、シャトルランの要領で行ったり来たりすること三時間あまり。


『レベルが13に上がりました』


 ステータス画面さんに通知が届く。

 続けてパーティ欄を開く。


【リンドウ Lv13】

【ローズ・クライブ Lv13】


 よし。入口にいても、ローズ嬢へ問題なく経験値が入っている。


 俺はAGI(俊敏)に少し多めにポイントを振り、残りを半分ずつSTR(筋力)LUK()へと突っ込む。

 防御に振らないのは、『当たらなければどうということもないだろう』という偉い人の教えに従っているに過ぎない。

 だが、実際そうなのだ。攻撃は当たらなければいいし、LUKが高いとクリティカルが出やすくなる。

 クリティカルは防御無視で相手に二倍のダメージが入るので、敵との相性に関係なくDPS(秒間ダメージ)を稼げる素晴らしい仕様だ。


 そんなことを考えていたら、洞窟の奥から、ロードとジェネラルが同時に姿を現した。

 前衛のロードが剣を振り下ろし、後方のジェネラルが杖を掲げる。


 こいつらは二匹同時に出てくるから厄介なのであって一体ずつならさして強くないモンスターだ。

 近接のロードの攻撃をパリィしてノックバックを誘発、その隙に一気に魔法職のジェネラルのHPを削る。

 ジェネラルは近接攻撃手段を持っていないので、これを繰り返すだけでこいつらは簡単にハメれる。


 俺はロードの斬撃へ右の剣を合わせた。

 金属音と同時にパリィが成立し、ロードの巨体が後方へ弾かれる。


 その隙にジェネラルとの距離を詰め、左の剣を振り下ろす。


 一本では、攻撃後の硬直中に怯みが解ける。

 だが、左右の剣を交互に叩き込めば、次の魔法を使わせる暇はない。


 ジェネラルが杖を振り上げるたび、剣を叩き込んで詠唱を中断させる。

 先にジェネラルを沈め、体勢を立て直したロードの首を落とす。


 二体を倒すまで、5分もかからなかった。


 俺はそのまま、エンペラーのもとへ向かう。


 エンペラーは緑の巣窟の最奥。

 洞窟の中に出現するボスモンスターだ。


 エンペラーの攻略は二パターン存在する。

 一つは火力で押し切ること。もう一つは壁ハメだ。


 今の俺に火力のゴリ押しは無理だ。

 だから今回は、初心者御用達の壁ハメを使う。


 今回使用する壁ハメとは、ノックバックと、壁への叩きつけで無限に怯ませ、相手に一切の行動を許さないという攻略の仕方だ。

 コツさえ掴めれば誰でもできるため、このダンジョンが初心者にうってつけのレベリング場所になっているというわけだ。


 洞窟の最奥で、ゴブリンエンペラーが巨大な剣を持ち上げた。


 ゲーム時代と同じ初動。

 開幕は必ず、正面への振り下ろしだ。


 俺は刃が落ちる寸前に横へ踏み込み、右の剣で手首を打ち上げる。

 攻撃が逸れた瞬間、左の剣を脇腹へ叩き込んだ。


 巨体がよろめき、背中が岩壁へ触れる。

 ここまで押し込めば、あとは俺の時間だ。


 ノックバックが途切れる寸前に、次の一撃を重ねる。

 エンペラーは大剣を持ち上げることすらできず、壁へ叩きつけられ続けた。


「悪いな。お前の攻略法は、120年前に完成してるんだ」


 最後の斬撃が首を捉え、エンペラーの巨体が霧となって消えた。


『レベルが15に上がりました』


 よしよし。

 エンペラー相手に10分切ってるし、上々ではなかろうか。

 もう16時を回ったことだし、ちょっと休憩したらもう一周行きますかね。


 ♢


 俺が二周目のエンペラーを倒して拠点まで戻るころには俺とローズ嬢のレベルは、揃って21まで上がっていた。


「本当に一人でゴブリンエンペラーを……?」


「ああ。後ろでドロップ品を拾っていた俺が、この目で見た」


「ロードもジェネラルも、エンペラーでさえ……何もさせずに倒していた」


 兵士たちのそんな声が聞こえるが、気にせずローズの天幕へと足を向けた。


「ローズ嬢、体調はどうだ?」


「えぇ、薬が効いているおかげかいつもよりかはいいですわ」


「今日でレベルを21まで上げてきた。それなりのステータスポイントが入ってるはずだ、確認してくれ」


 言われるがままローズ嬢はステータスを確認する。


「まぁ……これは」


「全部MGR……魔法耐性に振ってくれ、それでも最低値には届きはせんが、幾分かマシになるはずだ」


「分かりました、リンドウ様」


 ローズ嬢がポイントを割り振った直後、浅かった呼吸が少しだけ深くなった。


 重そうだった瞼も、先ほどよりしっかりと開いている。


「……身体が、少し軽くなりました」


「なら仮説は当たりだ。あと10以上。それじゃあ、俺は飯食って寝るから」


 本当のことを言えば、ローズ嬢は自分のために休めと言い出すだろう。

 だから、今だけは嘘をつかせてもらう。


 魔力耐性はまだ40。

 普通の人間が持つ最低値にすら届いていない。


 あと10以上。

 ここまで来て、明日まで待つ理由はなかった。


 ローズの天幕を出ようとしたその時。


「お待ちになってください」


 彼女に呼び止められた。


「どうして、ここまでしてくださるのですか?」


「別に、大した理由なんてねぇよ」


「なにか事情があるのでしょう?言えないことであれば、詮索は致しませんわ」


 俺が作った国で、民が困っている。

 理由なんて、それだけで十分だった。


 だが、ローズに俺の正体を明かすわけにもいかない。


「……今日は早めに寝ろ。明日には普通の人間と変わらない生活ができるようにしてやるから」


「……ありがとうございます、リンドウ様」


 ローズ嬢の天幕を出た俺は、用意されていた食事を腹へ詰め込んだ。


 そして、ローズ嬢には告げず、護衛隊長にだけ再び潜ることを伝えた。

 二本の剣を持ち、俺は再び緑の巣窟へ足を踏み入れる。


 寝ると言ったな。

 あれは嘘だ。


 ♢


 空が白み始めた頃。


 最後のゴブリンエンペラーが岩壁へ崩れ落ち、その巨体が霧となって消えた。

 ダンジョンを何周したのか、途中から数えるのをやめた。


 静かになった洞窟の中で、待ち望んでいた通知が表示される。


『レベルが30に上がりました』


 すぐにステータス画面を開く。


【リンドウ Lv30】

【ローズ・クライブ Lv30】


 三日どころか、一日もかからなかった。


 あとは、ローズ嬢に残りのポイントを魔力耐性へ振らせるだけだ。


 これで――


 眠り姫を、長い悪夢から目覚めさせられる。


お読みいただきありがとうございます。

ここまで読んで「続きが気になる」と思っていただけましたら、

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