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REMNANT RECORD~ストーリー未読の世界一位の廃ゲーマーは、倒した敵の物語を知らない~  作者: 霜月ルイ
第三章:技神国再興編

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60/82

60:覇王、時を鍛える。

 二日目の朝を迎えた頃には、工房から「朝」という感覚そのものが消えかけていた。


 窓の外が明るくなったから日付が変わったのだと分かるだけで、炉の火は一度も完全には落としていない。


 職人たちも交代で椅子へ腰を下ろしたり、壁にもたれて目を閉じたりしていたが、まともに眠ったと言える奴は一人もいなかった。


 俺も似たようなものだ。


 途中で一時間ほど横になった記憶はあるものの、その間も頭の中では『ドライ』の魔導回路を組み直していた。


「リンドウ」


 三本の心材を確認していると、背後からジンの声が飛んできた。


「何だ?」


「一応聞くが、今日中に終わるんだよな?」


「ドライだけならな」


「……今、妙な言い方しなかったか?」


「気のせいじゃないか?」


「お前がそう言うときは、大抵ろくなことにならねぇ」


 鋭いなこのおっさん。

 だが、今はまだ言わない。


 作業台には、昨日粗加工を終えた三本の星骸鉄が並んでいる。


 長さも太さもほぼ同じ。


 けれど、本当に難しいのはここからだった。


 三節棍『ドライ』は、三本の棒を繋げるだけの武器じゃない。


 それぞれを単独の短棍として扱え、固定すれば一本の長棍になり、連結部を解放すれば三節棍へ変化する。


 しかも形態に合わせ、内部を流れる魔力経路まで切り替わる。


 星骸鉄による重心移動も同時に成立させなければならない。


「昨日より顔が怖ぇぞ」


「……一番面倒なところだからな」


「昨日も同じこと言ってなかったか?」


「昨日の作業は二番目に面倒だったんだよ」


「先に言えよ」


「言ったら帰ったか?」


「帰るわけねぇだろ」


「なら同じじゃん」


 ジンは舌打ちしたものの、その口元は笑っていた。


「全員、聞け」


 残っている職人へ声を掛ける。

 昨日集まった四十人ほどのうち、まだ二十人以上が工房に残っている。


「これから三本の心材へ魔導回路を焼き付ける。ここで誤差が出ると、完成後の重心移動がずれる」


「ずれたらどうなるんです?」


 ラグが聞いた。


「最悪、振った瞬間に使い手の肩が持っていかれる」


「怖っ!」


「だから失敗しないようにするんだよ」


「昨日は失敗していいって言ったじゃないですか!」


「あれは粗加工の話だ」


「聞いてない!」


 笑いが起こる。


「笑ってる奴も他人事じゃないぞ。三本同時にやるからな」


 一瞬で静かになった。

 三つの金床を並べ、それぞれへ心材を置く。


「俺が中央、ジンが右、ラグが左」


「俺!?」


「昨日、一番お前が伸びたからな」


「嬉しいですけど、素材が怖すぎます!」


「だからやるんだよ」


 希少素材を扱える職人になりたいなら、いつまでも安い素材だけ触っているわけにはいかない。


「魔力量は?」


「0.14から。二打目で0.17くらいだ」


「温度は?」


「千七百八十。誤差五度以内」


「よし。俺に合わせろ」


 三人で槌を構える。


 最初の一打。

 三つの金床から、ほぼ同時に甲高い音が響いた。


「ジン、少し強い。ラグは肩の力抜け!」


「はい!」


「返事してる間に次!」


 二打目。

 星骸鉄の内部へ、細い魔力の道が形成されていく。

 普通の武器なら、魔導回路は加工後に刻めばいい。


 だがドライでは、鍛造と同時に素材内部へ回路を作らなければ精度が足りない。


 三打、四打と続けたところで、ジン側の魔力が僅かに乱れた。


「止めるな!」


「ずれた!」


「戻せる! 次を少し右へ!」


「そんな細かいの分かるか!」


「感覚でやれ!」


「便利な言葉にすんな!」


 文句を言いながらも、ジンの槌は正確な位置へ落ちた。


「そう、それだ」


「……戻った?」


「戻ったぞ」


「先に褒めろよ!」


 横でラグが吹き出し、その瞬間に槌がずれる。


「ラグ!」


「すみません!」


「笑うなら打ってから笑え!」


「無茶苦茶だ!」


 それでも作業は止まらない。

 三人で打つ音が揃うたびに、三本の星骸鉄へ同じ魔力経路が形成されていく。


 俺一人なら、もっと早い。

 精度だって出せる。

 それでも、三人の槌音が綺麗に重なった瞬間――こういうのも悪くないと思った。


 ♢


 昼を過ぎる頃には、三本の心材が完成した。

 次は、それを覆うヒヒイロカネ製の外殻と連結部だ。


「ここ、普通の鎖じゃねぇんだな」


 バルドが部品を覗き込む。


「見た目は鎖だけど、一つ一つが独立した魔導骨格になってる」


「固定時はどうすんだ?」


「全部硬化させて一本の棒と同じ強度まで上げる」


「可動時は?」


「硬度を落として靱性を上げる」


「金属の性質を戦闘中に変えるのか?」


「ああ」


「相変わらず発想が狂ってんな……」


「褒めてんのか?」


「半分だけな」


「じゃあ全部褒め言葉ってことで」


 連結部はバルドへ任せた。

 隣ではラグが魔導線を整え、ジンが外殻を削っている。

 誰かが失敗すれば別の誰かが指摘し、その場で直して、また試す。


 いつの間にか工房全体が、一つの大きな作業台みたいになっていた。


 そして俺は、最後の素材を取り出す。

 黄金色の小さな結晶。


 『武神の魂』。


「いよいよか」


「ああ」


「どう使う?」


「溶かしたり、三つに分けたりはしない」


 三本の節は、それぞれが独立した武器になる。

 それでも、どの形態でも『ドライ』という一つの武器でなければならない。


「三本全部を、一つの魂へ繋ぐ」


「……できるのか?」


「理論上はいけんだよ」


「一番信用ならねぇ言い方だぞ!」


 三つの節を三角形に並べ、中心へ『武神の魂』を置く。


 それぞれの節から中心へ。

 そして中心から再び三つの節へ、循環する魔導陣を描いた。


「禍津武」


 返事はない。


 今も何かが残っているのか、それすら分からない。


「約束どおり、最高の武器にするぞ」


 魔力を流す。

 黄金色の結晶が輝き、三本へ光が伸びた。


「全員離れろ!」


 職人たちが一斉に下がる。

 金色の光がヒヒイロカネと星骸鉄の内部を走り、三つの節が同時に震え始めた。


「っ……!」


 重い。

 単なる素材じゃない。


 禍津武という、一人の男の魂だ。

 無理やり武器へ押し込もうとした瞬間、強い抵抗が返ってきた。


「……違うな」


「リンドウ?」


「押さえつける必要はねぇ……」


 魔力を緩める。

 こちらから用意するのは、道だけでいい。


「好きに行け」


 禍津武は一つの武器へ拘らなかった。

 剣も、槍も、弓も、拳も。

 あらゆる武を求めた。

 だったら、こいつに形を押しつける必要なんてない。


「長棍でも、三節棍でも、三本の短棍でも。好きなの選べ」


 黄金色の光が強くなる。

 次の瞬間、三つの節すべてへ同時に魔力が駆け抜けた。


「……入った」


 ジンが息を呑む。

 中央にあった結晶は消え、代わりに三本の表面へ細い金色の紋様が浮かんでいた。


「成功ですか?」


「まだ」


 三つの節を持ち上げ、連結する。


 まずは一直線へ固定し、長棍へ。


 魔力を流すと、星骸鉄の重心が手元から先端へ滑らかに移った。


「いいね……」


 固定を解き、三節棍へ。


「振るぞ!」


「外行け!」


「昨日工房燃やしたの忘れたのか!」


「……分かったよ」


 ♢


 工房の中庭へ出て、全員が見守る中で『ドライ』を構える。


 最初は長棍。


 重心を手元へ寄せて振り始め、加速が乗った瞬間に先端へ移す。

 振り抜いた衝撃だけで、少し離れた訓練用の石柱が半ばから砕けた。


「……いいね」


 次に連結部を解放する。


 三本の節が繋がった三節棍へ変わり、一振りするたび星骸鉄が最適な位置へ重心を移していく。


 今度は実際に石柱へ叩きつけた。

 轟音とともに、柱が粉々に砕ける。

 さらに三本へ完全分離。


 一本を右手。

 一本を左手。

 三本目を魔力で浮かせる。


「本当に三本同時に使うのか……」


「そのために作ったからな」


 浮遊させた一本を回転させながら、両手の短棍と合わせて三方向から攻撃する。


 最後に三本目を戻し、再連結。

 三節棍から長棍へ固定する。


「――完成だ」


 視界へ情報が浮かんだ。


 『三節棍・ドライ』

 『希少度:EX』

 『主要素材:神鋼・ヒヒイロカネ/星骸鉄メテオライト/武神の魂』

 『形態可変:長棍/三節棍/三分離棍』

 『特殊機構:重心転位/魔力連結/武技追従』


「……世界最高峰の一振りだ」


 アイン――『天地開闢の剣』には届かない。


 あれは今の俺ですら再現できない別格の武器だ。

 それでも、世界最高峰の一つだと胸を張れるものにはなった。


「……できたな」


 ジンが隣へ来る。


「ああ」


「……俺たちの名前も入ってる」


「当然だろ?」


「ほとんどお前が――」


「違う」


 ドライを肩へ担ぐ。


「こいつは、一人で作ってないからな……」


 ジンは何も言わず、後ろにいる職人たちを見た。


「自慢していいぞ?」


「……誰に?」


「全員に。世界最高峰のうちの一振りだぞ?」


 数秒耐えたあと、ジンが笑った。


「違いねぇ」


 同時に、歓声が上がった。

 ラグはその場へ座り込み、バルドも壁へもたれる。


「終わった……」


「もう今日は槌持てん」


「寝る……今日はもう帰る」


「よっしゃ」


 俺は手を叩いた。


「次行くぞ」


 静まり返った。


「……は?」


「もう一個だ」


「何が?」


「武器だよ、武器」


 ラグの顔が青ざめる。


「まだ作るんですか!?」


「強化だけだから、新造より楽だって」


「その言葉もう信用できません!」


 俺は通信魔道具を取り出した。


 ♢


 三十分後。

 工房へ来たザフィラは、入口へ立った瞬間に顔をしかめた。


「……何、この匂い」


 一日以上籠もった職人の汗と煤、それに金属と炉の匂いだ。

 いい匂いなわけがない。


「ご主――」


 周囲の職人へ気づいたザフィラが咳払いした。


「……リンドウ。それで何?」


「今、ご主人って」


「言ってない」


「そう?」


「言ってないわ」


 耳が僅かに寝た。

 これ以上弄るのはやめておこう。


「クロノアを貸せ」


「なんで?」


「強くするからだよ」


「……クロノアを?」


「ああ。素材、ついでに取ってきたんだよ」


 黒い『刻蝕晶核』を取り出す。


「何、それ」


「『時蝕回廊』にいたクロノヴォアの晶核」


「……時蝕回廊?」


「ああ」


「ドライに必要だったものなの?」


「いや?」


「じゃあ、何で行ったの?」


 はぁ……来たよ。

 言い訳してもしょうがねぇよなぁ…。


「……近かったから」


「リンドウ……?」


「国防だ」


「何がよ?」


「クロノアが強くなれば、アルセディアの国防力も上がるだろ」


 背後でジンが吹き出した。


「笑うな!」


「いや、言い訳として無理があるだろ!」


「ちゃんとした理由だろ!」


「ミラさんに同じこと言えんのか?」


「……」


「言えねぇのかよ!」


 ザフィラは呆れた顔をしていたが、その耳はしっかり立っている。


「一か月帰ってこなかったと思ったら、自分の武器だけじゃなくて私の分まで取りに行ってたの?」


「結果的にそうなっただけだ」


「最初から?」


「出来心だ……途中で思いついた」


「……そう」


 ザフィラはクロノアの柄を撫で、それから小さく笑った。


「ありがと……」


「まだ完成してないぞ」


「それでも、嬉しいのよ」


 人前だから、それ以上何かをするわけじゃない。

 それでも尻尾だけは、ゆっくり左右へ揺れていた。


「貸せ」


「えぇ」


 大鎌を受け取る。


「銘は変えないからな」


「当然よ。クロノアはクロノアだから」


「だよな」


 新しい武器を作るんじゃない。

 今までザフィラと戦ってきたこの武器を、そのまま強くする。


 ♢


 クロノアの強化は、その日の夕方から始まった。

 長年使われてきた刃や柄には細かな傷が残っていたが、状態そのものは悪くない。


「丁寧に使ってるな」


「当たり前でしょう。私の武器だもの」


 ヒヒイロカネで刃の根元や柄内部など、負荷の大きい部分だけを補強していく。

 元の素材は可能な限り残す。

 クロノアそのものを別物へ変えるつもりはない。


 そして中心へ『刻蝕晶核』を組み込む。


「ここからは俺がやる」


「見て覚えろじゃないのか?」


 ジンが聞いてくる。


「見てていいぞ」


「触るのは?」


「死にたくなきゃやめとけ」


「最初からそう言え」


 晶核へ魔力を流しながら槌を振るう。

 叩いたはずなのに音がしない。


 数秒遅れて――カン、と金属音が響いた。


「……時間がずれた?」


「ああ」


「それを武器に入れるんですか?」


 ラグが青い顔をする。


「使う奴も怖いから大丈夫だ」


「聞こえてるわよ?」


「褒めてんだよ」


「ならいいわ」


 いいんかい。


「能力は時間停止」


 ザフィラが目を細める。


「最大三秒くらい、格下ならな。同格や格上になるほど短くなるし、ユニーク級なら一瞬しか止められないかもしれない」


「十分よ」


 即答だった。


「お前ならそう言うと思ったわ」


 連続使用はできない。

 時間を巻き戻すことも、死者を戻すこともできない。

 ただ、相手の“今”を僅かな時間だけ止める。


「名前は『零刻』」


「……零刻」


「どう?」


 ザフィラはクロノアを見つめ、静かに頷いた。


「好き」


「決まり」


 ♢


 三日目。

 工房の外で、完成したクロノアをザフィラへ返した。


 見た目はほとんど変わっていない。

 黒い大鎌の刃へ、僅かに赤金色の線が走っている程度だ。


「試してみろ」


 訓練用の標的を用意する。


「『零刻』」


 ザフィラが呟いた瞬間、標的の周囲だけが完全に静止した。


 一秒。

 二秒。

 三秒。


 その間にザフィラが歩み寄り、大鎌を首へ添える。

 三秒が終わり、時間が動き出した瞬間――標的の首が地面へ落ちた。

 職人たちは誰も声を出さない。


「どうだ?」


 ザフィラがクロノアを眺める。


「……すごい。それと、少し怖いわね」


「使ってる本人がそれ言うんか?」


「でも」


 刃へ視線を落とす。


「ちゃんと、クロノアのままね」


「ああ、そりゃそういう風に作ったからな」


「新しい武器みたいになってない」


「そうしたくなかったから」


 ザフィラが俺を見る。


「私が、クロノアを変えたくないって分かってたの?」


「長く使ってる奴を見れば、何となくな」


「……そう」


 少しだけ嬉しそうに笑った。


「ありがと。大事に使うわ」


「壊れないようにはしたけどな」


「そういう意味じゃない」


「ああ」


「絶対分かってない」


「何が?」


「何でもない」


 尻尾がゆっくり揺れていた。


 ♢


「終わった……」


 ラグが床へ座り込む。


「今度こそ本当に終わったよな?」


 ジンが念を押す。


「ああ」


「次はないか?」


「ないって」


 工房中から安堵の息が漏れた。


「寝る……」


「風呂入りたい」


「飯……俺、昨日何食った?」


「食ってないだろ」


「そうだった」


 俺も、さすがに疲れた。


 ドライは完成した。

 クロノアの強化も終わった。

 もう十分だ。


「じゃあ片付け――」


 その瞬間。

 工房の扉が開いた。


「皆様」


 静かな声だった。

 なのに、全員が固まった。


 入口にはミラが立っている。


 笑ってない。

 これはまずい。


「ミラ」


「リンドウ様」


「どうしたの?」


「どうしたの、ではありません」


 ミラは工房へ入り、煤だらけの職人、散乱した工具、火の残る炉を順番に見回した。


「三日間、工房から一歩も出ていないと聞きました」


「製作中だったからな」


 ジンが「お前、それ言うのか」という目で俺を見る。


「なるほど。では、食事は?」


「……忘れてた」


「皆様も?」


 職人たちが一斉に視線を逸らす。


「パンは食いました」


「いつですか?」


「……昨日?」


「では睡眠は?」


「少し……」


「具体的に」


 思い返す。


 一日目に一時間。

 二日目に三十分くらい。

 さっき椅子で少し寝た。


「……合計二時間ちょいくらいか?」


 工房が静まり返った。

 ミラがゆっくり目を閉じ、深く息を吐く。


「リンドウ様」


「はい」


「出発前、私は何と申し上げましたか?」


「無理しない」


「帰還後は?」


「休養する」


「昨日は?」


「休養日にする」


「そして?」


「工房来た」


「理解はしていらっしゃるのですね」


「理解はな」


「実行してください」


「……はい」


 横でジンが小さく笑った。

 ミラの視線がそちらへ動く。


「ジン様」


「はい」


 即答だった。


「あなたも同罪です」


「俺も!?」


「止めましたか?」


「……」


「参加されましたね?」


「……はい」


 ミラは工房にいる全員へ視線を巡らせた。


「皆様。正座してください」


「俺も?」


 バルドが聞く。


「全員です」


「七十だぞ!?」


「三日間徹夜できる足腰がおありなら問題ありません」


「ぐっ……」


 強い。


「ミラ、俺一応この国の――」


「正座」


「はい」


 俺、ジン、ラグ、バルド。

 残っていた職人が、工房の床へずらりと並ぶ。

 ザフィラだけは少し離れた場所でクロノアを抱え、笑いを堪えていた。


「ザフィラ」


「何?」


「助けろ」


「嫌よ」


「即答?」


「私はちゃんと寝てるもの」


「冷たくね?」


「三十二日帰ってこなかった上に、帰った翌日から三日工房へ籠もった人に言われたくないわ」


「……」


 それを言われると弱い。


「まず一時間ほどお説教をしたあと、全員に食事を取っていただきます」


「一時間!?」


「長い!」


「寝かせてくれ!」


「睡眠はその後です」


 工房中から悲鳴が上がった。

 それでも俺は、少しだけ笑っていた。


 腰には完成した『ドライ』。


 少し離れた場所には、新しい力を得たクロノアを抱えるザフィラ。

 周囲には、煤まみれで疲れ切っているのに、どこか満足そうな職人たち。


「リンドウ様」


「はい」


「笑っている場合ですか?」


「はい、すんません」


「ではまず、昨日の昼食を取らなかった理由から説明してください」


「鍛造が楽しくて」


「反省の色がありませんね」


「……あるよ?」


「顔に出してください」


「難しいこと言うな」


「お説教を二時間へ延長します」


「ごめんなさい!」


 今度は、本気で謝った。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ついに――

三節棍『ドライ』が完成しました。


ヒヒイロカネ、星骸鉄、そして禍津武から託された『武神の魂』。

リンドウ一人ではなく、ジンたち職人と共に鍛え上げた、世界最高峰の一振りです。

さらにザフィラの『クロノア』も、『零刻』という新たな力を獲得。

……その代償として、工房には三日間ほぼ寝ていない人間が大量発生しました。

当然、最後に待っていたのはミラのお説教です。

次回は、ようやく本当の休養日。

戦いも鍛冶もない、少しだけ穏やかな一日です。


引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。


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